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49話 逃走


 サティが私達の救出に来たことで脱出の可能性が飛躍的に上昇したと言っていいだろう。まさか単騎でこんなところに乗り込んでくるとは思わなかったが。


「この馬鹿野郎! 勝手にいなくなりやがって。どれだけ探したと思ってるんだ」


 よほど心配してくれたんだろう、目に涙を浮かべながら力いっぱい私達を抱きしめてくれている。

 ん? 力いっぱい……って!


「あがあああ! ちょ、サティタンマ!? 骨、骨ががg」


 怪我がまったく完治していない状態でサティの強力で締め付けられると……後はわかるな?


「ぶくぶく」


 おわー! あまりの激痛にレイが泡吹いて気絶したぞー!?


「ああ!? 大丈夫かレイ? しっかりしろ! くそ、あいつら……こんなになるまで痛めつけるなんて」


 いやトドメ刺したのあんただよ! とにかくレイを起こして早く脱出しなければ。仕方ないが残り少ない魔力でレイを起こして……ん?

 なにか違和感を感じると思えば、先程までとは違い周囲のマナが活発になってきている。


「これは……魔力が回復している?」


 ふむ、推測だがサティが暴れまわったことで結界魔術の一部となるようなものが破壊され、そのおかげでその効力も少しだが失われたといったところか。

 なら話は早い。


「術式展開『範囲回復シェアヒーリング』、そして第二術式展開、追加属性 《雷》、対象をレイに固定『目覚まし電流(モーニングショック)』」


「あばばばば!? ……な、なんだ今のは!? というか俺は一体……それに、体が軽い」


 よし、これでレイも戦線復帰だな。


「……しかし、なぜこんな危険を冒してまで俺達を助けに来たんだ。お前も、ムゲンも……勝手に消えた俺のことなんて放っておけばよかっただろう……」


「このアホ!」


「ぬおばっ!?」

バチーン!


 サティのビンタがレイに炸裂! もう治さんぞ。

 てかさり気にレイが私の名前を呼んでくれるようになったことが少し嬉しい。


「お前達は団に入った時点でアタシの家族同然だ! アタシは家族を絶対に見捨てない。だからもう俺なんてって言うな……お前はもうアタシにとって大切な家族の一人なんだから」


 そう言って今度は優しくレイを包み込む。

 レイは突然のことに固まってしまっている、大丈夫か?


「それにしてもサティ、よくこの場所がわかったな」


 私達がいなくなってから数時間は経ってはいるが外のマナを遮断しているこの屋敷にいると特定するのは簡単ではない。


「この屋敷はアタシらが以前から目をつけていたとこなんだ。それに今日もアタシとお前達以外の奴はここを探る予定だったしね」


 ああ、そういえば出発の時そんなこと話してたな。


「それで、お前達を探している時にそいつらから屋敷で何かあったらしいって話を聞いてもしやと思ったんだ。後は……」


「ワンワゥ~ン!(うわぁ~ん! ごしゅじ~ん、心配したっすよ~!)」


 おお、犬!

 あいつが私達の匂いを嗅ぎ分けてサティをここまで導いてくれたのか。


「そいつが先行して道案内してくれなかったらアタシはここには辿りつけなかったな」


「そうか、よくやったぞ犬」


 流石私の使い魔、やる時はやってくれる。

 褒美に頭を撫でてやろう。


「クゥ~ン、ワフワフ(いや~使い魔として当然のことをしたまでっすよ。あ、そういえばご主人達の荷物もあっちに置いてあるっすよ)」


 よかった、中身はそれほど入ってはいないがあの鞄は日本から持ってきたものだしスマホなんかも入っている。

 いつかこれを持って日本に帰るのだから大事にしないとな。


 ん、なんでスマホ持ってるのかって? まぁあれだ、なんかいつも持ち歩いてないと落ち着かないんだよ。

 ちなみに充電が無くなりそうになったら雷魔法でちょくちょく充電している。


「む、どうやらまた上の方が騒がしくなってきたね」


 っと、こんな所でゆっくりしてる場合じゃなかった。結界の一部が破壊され魔力が回復してきているので雑兵程度なら余裕で捌ける。

 だがもし奴と……“七皇凶魔”リヴィアサン、リヴィと鉢合わせてしまうのはマズい。今の私達では奴には勝てない、だったら今はさっさと逃げるに限る。


「サティ、このまま正規ルートで上に行くのはマズい。私達が入ってきた裏ルートを使おう」


「わかった、そうしよう」


 そうと決まれば善は急げだ。

 私達は荷物を持って出口へと一気に駆け出そうとする……が。


「おい、ちょっと待て!」


 静止する声、それは私の後ろにいるレイから発された言葉だった。


「ここにいる奴らはどうする!? まさか、置いていくのか」


 ここにいる奴ら……閉じ込められている違法奴隷達のことだろう。皆を助けたい、レイから感じられるその強い思いは立派だ。

 だけど……。


「レイ、残念だが今彼らを救うことはできない。魔力は回復してきているとはいえ戦力はまだ向こうの方が上だ。そんな私達が衰弱した大勢の人間を守りながら逃げ切ることは不可能だ」


「グッ!」


 俯き怒りを噛み殺したような表情をするレイ。本当は今すぐにでも怒り叫び出したいんだろう。だがリヴィに為す術もなくやられたことを思い出し言い返せないでいる。


「でも、俺はあんな奴らのせいで苦しんでいく人達を見捨てたくない……なのに!」


 なんて声を掛けるべきか。出しきれない怒りと何もできない悔しさ、大人になる決意はあってもやはりまだ子供だ。

 今の私から言えることは何も……。


「なぁレイ、怒ってるのは……お前だけじゃないんだ」


 私が走りだそうとするとこんどはサティが後ろを向いたまま話し始める。


「サティ?」


「正直、アタシもここを見た時は腸が煮えくり返るぐらいの怒りが湧いたよ。でも、今はその時じゃない」


 後ろを向いているサティからはその表情は読めない。だが、わかる……その顔はとても怒っているだろう、先程私達を助ける前に見せていたあの表情。

 サティがこちらを向かないのはその顔を見せたくないからなのか……。


「その怒りは、その時 までとっておくんだ。いつか来るその時まで……静かに怒るんだ」


 その言葉にどれだけの思いが詰まっているのかはわからない。

 サティにも昔何かあったのかもしれない。


「静かに怒る……か。わかった、今は引く。だが彼らは絶対に助ける、必ず助ける……」


 その通りだ。いつか必ず助ける、だから……今は逃げるしかない。最後に奴隷達の方を見て、誓う。

 そして、私達はこの屋敷から脱出することに成功するのだった。






「ありゃま、ボクが上で休んでる間に凄いことになってるね」


 屋敷内はボロボロ、そこら中から火の手が上がっている。

 兵士達も鎮火作業に大忙しだ。


「ボクが魔術使えば一発で鎮火できるけど……面倒臭いからいいや。それよりも」


 結界魔術が壊されている……。

 侵入者が暴れた過程でたまたま壊れたのか、あるいは意図的に壊したか(・・・・・・・・)……。

 どちらにせよ地下からはもうあの二人の魔力は感じられない。魔術が使えるようになったのだから当然逃げたんだろう。


「ま、捜索隊も出てるみたいだしボクの出番はないかな~。……おや?」


 つまらなくなり戻ろうとした時、ふと違和感を感じた。

 侵入者がまき散らした炎、そこから感じる魔力に思わず笑みがこぼれた。


「なるほど、これはおもしろくなりそうだ……」


 パチンと指を鳴らす。

 すると、室内なのに急に土砂降りのような雨が降り出す。


「明日予定されてた『エルフ族狩り』はこの様子じゃ延期だろうし、こっちはこっちでいい暇つぶしができた……」


 そう呟き、リヴィは屋敷を後にした。






 屋敷から脱出後『影潜み(インビジブルシャドウ)』を使って街から脱出。

 だが、そんな私達を放っておくはずもなく、外にいる兵士に追われていた。


「追手は!」


「後ろから三人来てる、このままじゃ危ないね」


 こうして逃げている間にも辺りでは私達を逃さない為の包囲網が形成されつつある。


「くそ、この周辺は奴らのホームグラウンド、こっちの動きは読まれている訳か」


 この辺りは開拓された道が多い、ここらへんの兵士達もその開拓業に参加していたようだ。その為奴らはここの地理をよく把握している。

 それに比べこちらはついこの間東領に着いた新参者……どんどん逃げ道を塞がれていく。


「ッ! あっちにもう兵士がいる。仕方がない、進路変更だ」


 これで先回りされたのは何回目だろうか。いくら『影潜み(インビジブルシャドウ)』を使用してるからといって完全に隠し通せる訳ではない。

 上手く物陰に隠れられればいいが、開けた場所では効果は半減……。しかも複数人に使用すればその分精度が落ちる。三人と一匹じゃせいぜい遠くから見たらぼやける程度だ。


 しかし、まるで詰将棋の盤の上にいるようだな、心臓に悪い。

 レイもサティも先程より若干顔色が悪い……このままでは体力より先に精神が参ってしまう。


「はぁ……はぁ……そうだサティ、結局調査に来た団員はどうなったんだ?」


 少しでも話しをして気を紛らわす。

 サティも私の意図を察したのか問いかけに応じてくれる。


「あいつらなら大丈夫だよ。アタシが突撃する前に馬車と一緒に帰らせた。アタシらの仲間だとはバレてないはずだよ」


 そいつは良かった。私達のせいで彼らまで危険にさらしてしまったら寝覚めが悪いってもんだ。


「しっかし、進めば進むほどアジトまでのルートから遠ざかってく気がするな……」


「ムゲン、気のせいじゃないよ。このまま進めば先にあるのは断崖絶壁か第二大陸最悪の未開拓地『幻影の森』だ」


 『幻影の森』……確か地図帳に書いてあった内容では《この大陸において最も開拓困難な場所である》と書かれていたな。


「『幻影の森』か、俺も父から聞いたことがある。エルフも、精霊であっても絶対に近寄ってはならない場所だと……」


 その場所が何故そこまで危険視されているのか。

 その森は遠くから見れば一見特に変わったところのない静かな深い森らしい。昼間でも薄暗いことを除けば普通の森のように聞こえるが、この森が真に恐れられるのには別の理由がある。

 幻影の森には一切の生物が存在しない。人も動物も虫も、更には魔物でさえその場所には存在しない。いや、誰もが知らないだけで本当はいるのかもしれない、だがそれを確かめることは誰もできない。

 なぜなら、幻影の森に入った生き物は二度とそこから出てくることは無いからだ……。


「と、地図帳にはここまでしか書いてないんだが」


 どうも肝心な部分が抜けているようだ。


「なぜ出てこれないんだ? その謎は永遠に謎のままなのか?」


「俺もそれは知らないな」


 期待を込めてちらっとサティの方を向くと、何やら俯いて考え事をしているようだ。

 一体どうしたんだ?


「よし、『幻影の森』を目指そう」


「え?」

「は?」


 サティのいきなりの言動に思わず私とレイは口がぽかんとなる。

 いや、サティのこういったことは初めてじゃないけど、やっぱりこっちには理解が追いつかない。


「え、えーと……説明してもらっていいか?」


「おう、奴らはアタシらを絶壁に追い込もうとしている。これはいいか?」


 そんなことは言われなくてもわかっている、今まさに絶壁に向かって進行中だからな。


「絶壁に行かないように逃げると、後はもう幻影の森へ進むルートしかなくなる。けどあいつらも流石にアタシらがあそこに入るとは思っていないだろう」


 なるほど、その裏をかき、あえて幻影の森に入ろうという寸法か。


「なかなかいい案かもな」


「だろぉ~」


 サティがむん、と胸を張る。

 相変わらずけしからん胸だ……なぁレイ。


(あれ?)


 帰ってこない心のツッコミを期待してレイの方を向くとなぜだか顔を真赤にしていた。

 え、あれ、これは……。


「でなムゲン」


「ん、あ、ああ? なんだ」


「大丈夫か? なんかレイも固まってるし。まぁいいや、これからなんであの森から出られないのか、なんでアタシが入ろうと思ったのか説明するぞ」


 ああ、そっちか。

 ちょっと他のことが気になってしまったせいで完全に頭から抜け落ちていた。


「わかった、説明してくれ」


「あの森にはある一つの生物、いや生物かどうかもわからないあるモノ(・・・・)によってその存在を絶たれているからって噂だ」


「噂かよ」


「最後までちゃんと聞けって。本番はこれからなんだぞ」


 どうやらまだ何かあるらしい。


「しかしありんこ一匹の存在すら許さないソイツは一体何なんだ」


「それは、この第二大陸で最も恐れられる存在……“七神王”の一角“幻影神げんえいしん”さ」


「なに!?」


 “七神王”……確かリィナから聞いた話だと現在この世界の各大陸にいる最も強い力を持つと言われる七体の神の如き存在。

 ドラゴスも今はその一角に数えられているんだっけか。


「あくまで噂だけどな、誰も見たことないし。でもこれは昔から語り継がれてきたことなんだ」


 “幻影神げんえいしん”……その存在がいるかどうかさえわからない神。

 ドラゴスと同等、あるいはそれ以上かもしれない力を持つ者の場所に行くのか。


「ムゲン、お前は七神王と接触したことがある。そして生きている。だから今回も生き残れる……そういう賭けだ」


 たったそれだけの理由で。でも、サティの目は本気だ……。

 正直、今回はドラゴスの時とは訳が違う……だが、可能性があるなら。


「それに……賭けてみるか」


「正気か、二人共。あそこに入って出てきた奴はいないんだぞ!」


「だけど、このままだと私達は捕まるしかない。そうすれば地下にいた彼らも救うことは出来なくなる」


「ぬっ!」


 私の言葉にレイも観念したようで。


「ふっ、しょうがない。俺もその賭けに乗らせてもらおう」


 僅かな望みを賭け私達は進路を変更する。

 きっとなんとかなる! 今までだってそうだった、これからもきっと大丈夫だ!


 だが、私はそこで新たなる恐怖に立ち向かう事となるとは思ってもいなかった……。






 そこは……『幻影の森』と呼ばれる場所、何もない、ただただ暗く、どこまでも深い闇の森……。

 暗い森の中、私達は追手がこちらまで来ていないことを確認し安心する。


 だがなんだろう……この胸のざわめきは。


 先の見えない森の中、"命"の鼓動が全くしない静寂の空間。


 自分という存在が本当にここに存在しているのか不安になってくる。


 そう、全ては幻影なんじゃないかと疑いたくなるような感覚。


 ふと、奥に何か見えた気がした、不思議とそこへ向かいたくなる。


 私の他には何もない(・・・・・・・・・)この場所で温かく迎え入れてくれる、そんな空間に見える優しい何か。


 その存在に向かって歩き出そう……そう、思ったその時だった。


ヴー……ヴー……ヴー……


 鞄が……正確には鞄の中にあるものが震えた。


 それを手に取った瞬間、私の意識は凍りついた。


 それはこの世界では決してありえないことだったから……。


 私は手の中にあるスマホをもう一度確認した、その画面に写っていたのは……。







        メールヲ一件 受信シマシタ







修正しました(10章時点)


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