44.5話 嫌な予感……
今回はリア視点のお話です
サティ達が街へ向かった後、私はアジトでいつもの家事をしていた。
「よし、洗濯終わり」
流石に40人以上の衣類を洗濯するのは女性皆でやっても結構骨が折ちゃうのよね。
次は夕飯の支度をしなくちゃ、こっちもいつも大変なんだし。あ、でも今日は大飯ぐらいがいないからいつもより量は少なめで大丈夫かな。節約できるとこはちゃんとしないとね、うん。
そう考えてると、ふとレティスへ向かった三人の事が頭をよぎる。
「皆ちゃんと街に着けるかな。着いたとしてもその後も心配だし」
まぁあの辺りの道は特に危険な魔物も出ないし盗賊などもあまり出ないらしい……自分達以外には。
それに、あの三人ならばよほどのことがない限り負けることはないでしょ。
むしろ心配なのは自分の愚弟が何か問題を起こしてるんじゃないか、というところね。
「やっぱり私もついて行ったほうが良かったかな……」
でも私がアジトを離れたら指示する人がいなくなっちゃうし。うん……大丈夫、レイだって最近は丸くなってきたし大きな街で暴れたりはしないと思う。
サティは保護者としてちょっと頼りないけど、ムゲン君は歳の割にはしっかりとしてるからきっとレイを止めてくれる。
そういえば集落にいた頃レイには同年代の友達っていなかったな。だからいつも私の後ろをずっとついてきていた。レイが私に固執するのはそういった影響もあるんだろうな。
だからムゲン君には感謝している、これをきっかけにもっと新しいことに興味を持ってもらいたい。
「例えば……恋とか?」
言ってて少し虚しくなってきた。
恋愛なんてまともにしたことがない自分が何を口走っているんだか。
いや、むしろこれは自分の願望なのかもしれない。集落にいた頃は人族が書いた恋愛小説のような大恋愛に憧れていた時期もあったが盗賊団に入ってからは生きることとサティの世話に必死だったから。
でも団員の皆は恋愛対象として見れないんだよね、皆とは長い時間一緒にいたせいで"家族"って感情のほうが強くなっちゃってるし。
「じゃあ……ムゲン君とか?」
ないなぁ。ムゲン君もやっぱり家族、もう一人の弟って感じかな。
はぁ、こんなんじゃ私の恋もまだまだ先かな。
「さてと、気を取り直してご飯作らなきゃ」
「リアおねえちゃ~ん」
台所に立つと近くにいたミミちゃんが近寄ってきた。
「ミミもお手伝いする。お兄ちゃんが帰ってきた時においしいお料理作れるように練習してよろこんでほしいの」
ミミちゃんは本当にムゲン君のことが好きなんだなぁ。この前も「大きくなったらお兄ちゃんと結婚する!」とか言ってたし。
ムゲン君は子供の言うことだって言ってたけど多分ミミちゃんは成長したらものすごい美人になると思う。
これは私の我儘だけど二人にはいつまでもここに残ってもらいたい、『家族』と離れ離れになるのはもう嫌だったから。
でもムゲン君は元の世界に帰りたがってる。そのためにお金を貯めていつか魔導師ギルドへ入ろうとしている。なんだか昔の自分を見ているみたいだ、外の世界に憧れていたあの頃の私に……。
でも私はそのせいで集落の皆を危険に晒してしまった、レイもあんな風になってしまったし。私とムゲン君は違うとわかっていてもつい考えてしまう、このまま忙しくも穏やかな生活が続けばいいと。
(なんだかお父様と考えが似てきちゃったかな)
変化を望んでいた昔、変化を恐れる現在……。
どっちが本当の自分なんだろう
(ま、今は深く考えなくていいか)
今が穏やかならばそれでいい、サティがいて、レイがいて、ムゲン君やミミちゃん、団員の皆と一緒にこの日々を過ごせれば。
「……うーん」
ふと横を見るとミミちゃんが野菜を千切る手を止めて俯いていた。
「どうしたのミミちゃん? 具合悪い?」
「違うの、お兄ちゃんのこと考えてたらなんか嫌な予感がしたの」
なんだろう、ミミちゃんは時々不思議なことを言う。晴れた日に買い物に行こうとしたら「今日は雨が降るよ」って言ったらその後本当に雨が降ったり、探し物をすぐ見つけだしたり……。
ムゲン君は魔力の波長がどーのこーの言ってたけど私にはよくわからなかった。
「嫌な予感?」
「うん……なんかね、目を閉じてお兄ちゃんのこと考えるの。そしたら黒いもやもやがお兄ちゃんに近づいてくるの」
はっきりとしない言い方だがミミちゃんにはそれがとても恐ろしいものに見えるのだろう、僅かに体が震えている。
「だ、大丈夫よ。今回はただのお買い物だし、ムゲン君は強いんだから余程のことでもない限り……」
「違うの、それだけじゃないの。レイくんと、サティお姉ちゃんも……」
それだけじゃない。サティ、そしてレイの名前が出た時、私にもミミちゃんほどではないが胸に少しズキリと来る嫌な予感があった。
「レイくんは、なんかどこかに行っちゃいそうな勢いで走ってるの。サティお姉ちゃんは……なんか怖い、すごく怒ってるみたい……ぐすっ」
「ミミちゃん、大丈夫!」
そこまで言い終えるとミミちゃんは泣き出してしまった。
どこかへ行ってしまうレイといつも大おおらかなサティがミミちゃんが泣き出すほど怒るサティ。
湧き上がる不安から今すぐにでもレディスへ向かいたい、だが今自分がアジトを離れるわけにもいかない。
(レイ、サティ、ムゲン君……)
私にできることはただ皆の無事を願うことだけ。
大丈夫、あの三人が揃えば怖いものなんてない、そう考えるようにはしていても胸に残る嫌な予感は消えることはなかった……。




