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41話 エルフの姉弟


 リアの弟からの突然の襲撃から数時間後、私達は無事新アジトにたどり着いていた。

 荷馬車は一台おじゃんになってしまったが、中に入っていたものは盗品の財宝がほとんどだったので全員で持てるだけ持って残りはその場に放置して来た。

 あれだけ派手に暴れたから人が集まってくるだろうということでそそくさと退散せざるをえなかった。一番にあそこに駆け付けた人はラッキーだな。


 しっかし、今回の戦いはアリスティウス以降の久しぶりのまともな魔導戦だったな。

 前回は私の魔力や魔力回路がきちんと整っていないままの戦闘だったので多くの助けを得てなんとか勝利を得られたが、今はこの体用に調節した魔力回路を組み立てているのでただ魔力量に頼るだけではないスマートな魔術を使えたな。


 しかし相手も強かった……魔術が衰退し始めている今の世で中央大陸以外の住人がここまでの魔術を使うとは。

 まぁ私にから見たらまだまだおぼつかない魔力回路のようだったが。

 そして、その襲撃者の弟くんは今私達の隣でぐっすりと眠っている。


「……だからレイは私や、他の攫われた皆の復讐のためにあんなことをやっていたんだと思うの」


 おっと、先程からリアが色々と説明してくれてたんだったな。そのため私とサティはリアから事情を聞くために弟くんを寝かせている場所に集まっていた。

 ミミも疲れてしまったようなので近くで寝かせてやっている、ちなみに他の皆は新アジトの掃除や荷物の整理をしてるとこだ。


 さて、リアの話しの内容をまとめると……五年前二人の住むエルフの集落が人族に襲われ、捕らえられてしまったリア達を見捨てることでエルフ達は難を逃れた。だから弟くんは復讐のために人族を襲い続けていたのかもしれないとのこと。

 しかし、一度しか使えないとはいえ一集落を丸ごと転移させるほどの術をエルフ達が使ったのには驚いたな。

 時空属性の術は私が魔法神時代に編み出した最強の力であり、世界でも数人しか扱うことのできない超魔法だった。

 "古の時代から受け継がれてきた禁術"……か、一体誰の仕業なのか。


「しかしこいつの気持ちもわからんでもない。姉を救えなかった後悔と理不尽な人族達への怒り、そして娘を見捨てた父への絶望……」


 まだ成人もしていない子供には辛すぎる出来事だ、心が壊れたとしてもおかしくない状況だ。


「お父様のことは、私はしょうがないって思ってる。族長の娘として成人した時に父から転移術のことは聞かされてきたから。それに、集落が襲われたのは私のせいでもあるし」


「どういうことだ?」


「それは」


「うぐっ……」


 おっ、どうやらリアの話の途中で弟くんの意識が戻ったみたいだ。

 私達は彼の近くに駆け寄って容態を確認した。


「……ここは、はっ! 姉さん! ――ッ!?」


「まだ動いちゃだめ! 魔術で傷は直したけど痛みは残るんだから。安静にしてて」


 まぁトドメを刺したのはリアだが。どうやら姉の無事な姿を見て弟くんはほっとしたようだ……。

 だが、それも後ろにいる私とサティの姿を見てすぐさま強張った顔に変わっていく。


「グッ! 貴様ら……!」


「レイ、この人達は敵じゃない! 私の仲間なの。ここにいる皆は私達のことを差別もしないし襲ってくることもない、だから安心して!」


「……無理だよ姉さん。俺にはこいつらを、人族共を信用することなんてできない! だってあの日あいつらが姉さんを! 俺の力が足りなかったばっかりに……」


 あの日……二人の住んでいた集落が襲われた日のことだろうな。


「レイ……それは違うの、あの日あの人族達が結界の中に入ってきてしまったのは全部私のせいなの」


「姉さん、何を言って……」


 リアの顔が暗く沈む、『私のせい』 多分先程の話の続きだろう。

 唇を震わせ体を強ばらせるリア。彼女は話すのを躊躇っている、その言葉を口にすれば目の前の人物から嫌われるかもしれないから。


「あの日、私は人族の本を取ってくるために集落の結界の外に出ていたの。いいえ、あの日だけじゃない……私は昔からある場所に放置されていた本を少しづつ取ってきてはお父様に見つからないように隠してきた」


 つまり、リアは昔から里の掟を破り結界の外へ出ることで本を取ってくることで外の知識と興味を持ったんだろう。

 しかし、この世界では結構値段がする本をそんなポンポンと持っていける場所なんてあるのか?


「そこはね……盗賊のアジトだったの。その盗賊達はとっくの昔に遠く離れた場所で討伐されてて、巧妙に隠されていたアジトには盗んだ品物だけが残されていた」


 なるほど、森の近くの隠されていた盗賊のアジトなら外の人間に見つかることなく人族の品物を手に入れることができる。

 まぁそれも盗品だったんだろうが。


「でもあの日、私は森の結界から出る所を奴らに見られてしまったの。彼らはどこから入手したのか近くにエルフが住んでいるという情報を掴んでいて、対結界用の魔道具まで用意していた……」


「だがリア、こう言ってしまうのもあれだが……最初からそんなものを用意していた奴らなら遅かれ早かれ集落は見つかっていたかもしれないだろ」


 だからリアのせいじゃない、そう続けて言おうと思っていたがリアは首を振り私の言葉を遮った。


「彼らが使っていたのは結界を抜けるための道具だけ。あの結界は近づく者を遠ざける精霊の加護があった。でも私が見つかったことでその効果が薄れてしまった……だから私のせいなの」


「姉さん……」


「あの後私達は散り散りにされて地方の違法奴隷商人の元へ。そして私はここの皆……サティに助けられたの。集落の皆を危険に晒した私はもう戻ることなんてできない。だから同じように違法奴隷にされている人達を助けるためにここの手伝いをしようと思ったの……」


 もしかしたらリアは自分のせいで同胞が違法奴隷になってしまったことに罪の意識を感じていたのかもしれない。

 リアがサティ達の盗賊団で活動するのはその罪滅ぼしのためか、はたまたどこに連れて行かれたかわからない同胞を見つけるためか。


「ふむふむ、なるほどわかった! それで、リアはこいつをどうしたいんだ?」


 リアの話が終わるまで静かに座っていたサティが腰を上げて問いかける。

 てかサティは今の話を本当にわかってるのか?


「私はこの子、レイを“紅の盗賊団”に入れたいと思っているの」


「な、何言ってるんだ姉さん!? なんで人族共の世話になんて……むぐっ!」


 弟くんが抗議するがリアは問答無用といった感じで手で口を塞いでしまった。

 そして、もごもごともがく弟くんを気にせずに話を進めていく。


「私達姉弟はもう集落に戻ることなんてできない。でも、いつまでもレイ一人であんな無茶なことさせたくない。だから……」


「よしオッケーだ!」


「軽っ!?」


 いやなんかめちゃくちゃ必死になってるリアに比べて軽すぎないか? いや私は下っ端だからどうこう言える立場じゃないんだがな。

 あと弟くんがすごく苦しそうだ、大丈夫か?


「アタシは団員の皆を家族のように思っている。その家族の弟ならアタシの弟も同然だ!」


「ありがとうサティ! ほらレイ、ちゃんとお礼言いなさい!」


「もがー! もがー!」


 リアも変わり身早っ! 一瞬で笑顔になった。

 てか弟くんそれじゃ喋れないよ! ああ、どんどん顔色が悪く……!


「リア、そろそろ手を離してやったほうがいいと思うんだが」


 気がついたときにはもう真っ青な顔でこめかみがピクピクしていた。


「あっ! ごめんレイ」


「ぷはあっ! ぜぇー……ぜぇー」


 やっと地獄から開放された弟くんだがこちらを見る目はまだ険しいな。


「ね、姉さん、別にこんな人族共なんかに頼まなくたって俺がなんとか……」


ゴンッ!


 またもや抗議しようとする弟くんに今度はサティが大剣の腹でゴツンと一発、結構痛いぞあれ。

 うーん、流石のシスコン具合にサティも怒ったのか?


「いってぇ! 何しやがるこの筋肉女!」


「暴れまわることしかできないガキが生意気言うな! それに、この間まで森の中に引きこもってた奴がいきなり外で生活できるとも思えないしね」


「暴れまわるだけなのはサティも同じなんじゃ……」


「何か言ったかムゲン」


「イイエ、ナニモ」


 いかんいかん口が滑っってしまった。私の姉もそうだったが、人は笑顔で静か~に怒ってる時が一番怖いんだよな。


「とにかく、お前はもうアタシ達の盗賊団の一員だ。頭であるアタシの言うことは聞いてもらう」


「なっ、ふざけるな! 貴様ら今ここで吹き飛ばして……」


「う~ん、うるしゃい」


 今まで気持ちよさそうに寝ていたミミが起きてしまった。まぁあれだけ騒いでいたら当然か。


「ごめんねミミちゃん、うるさかったよね。もう少し向こうの方で寝ようね」


 リアがミミを連れて部屋の片隅に移動する。

 弟くんも若干冷静になったのか拳を下ろし顔をうつむかせていた。


「……お前がどんなにつらい思いをしたかなんてアタシらにはわからないけど、少なくともここの連中はお前を……お前達姉弟を蔑む奴はいない。良くも悪くも似たような境遇の奴ばっかだからな」


「……」


 ここの団員達は違法奴隷だった奴や住む場所を失った人がほとんどだ。だが、皆はそんな過去などもう忘れたといった感じでいつも楽しそうに過ごしている。


「まぁすぐアタシらのことを信用してくれなんて言わない。少しの間だけでもここで過ごしてみてくれ」


「ふん、わかった、ここに所属させてもらう。だが勘違いするな! 姉さんが頼んだから入るんだからな!」


 ツンデレ発言いただきましたー。いや、本心から言ってるんだろうけど私にはテンプレな言い訳にしか聞こえないぞ。

 ま、これから一緒に過ごす訳だしこちらからフレンドリーに接していこう!


「入団おめでとう! 新参者同士これから一緒に頑張っていこうぜレイ! あ、私のことはムゲンと呼んでくれ」


 肩を組んで名前で呼び合う、うーんフレンドリーだな。


「ッ! 馴れ馴れしくするなガキが!」


 振りほどかれてしまった。


「いやガキって、私とあまり歳離れてないだろ」


「俺は45歳だ、短命な人族と一緒にするな」


 そういやエルフだったな。エルフは人の三倍近い寿命を持つからな……ってチョイ待て、それに比例して心身の成長も三倍遅い訳だから。


「やっぱ私と同じぐらいじゃないか!」


「そ、それでも実際に人生経験は俺の方が上だ!」


「引き籠ってた奴が人生経験語ってんじゃねーよ!」


「なっ!」


 それに実際の人生経験なら私の方が断然多いしな!

 45歳引きこもりなんて私にとっては赤子に等しいんだ参ったかこのやろーめ!

 転生してからは若干昔のような覇気が無くなって子供っぽさが増した気もするが……。


「ハハハ! お前ら仲いいな。よし、ムゲンは今日からこいつの教育係だ」


 おおう、入団してから数日しか経っていないのにもう後輩ができてしまった。

 できれば後輩キャラというものは「先輩先輩(はぁと)」って言いながら尻尾をぶんぶん振っている子犬系女子がよかったんだが……頭の命令だから仕方ないな。


「わかりやしたぜボス!」


 軍隊の人も褒め称えるようなビシッっとした敬礼で了承だ!


「おい、貴様ら勝手に決めるな! 俺はこんな奴の下に就くつもりは……」


ゴンッ!


「ここではアタシの命令は絶対だ! 下っ端が生意気言わないようにな、レイ」


 本日二度目のサティのお仕置きが炸裂。

 こぶができてる……あ、レイがちょっと涙目になってる。


「ということで二人にはこれからバリバリ働いてもらうからな、覚悟しとけよ!」


「サーイエッサー!」

「……はい」


「ムゲンのよくわからん返事はいいとして、レイ! 声が小さい!」


「は、はい!」


 サティがまた剣を構えている、なんとかお仕置きされずに済んだようだな。


 これで“紅の盗賊団”は私を入れて総勢41名か、私も金を稼ぐためにもっと頑張らんとな。




修正しました(10章時点)


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