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40話 小さき復讐者


「大丈夫かサティ!」


 私が駆け付けた時、襲撃者は今まさにサティに突撃するといった状況だった。

 とっさに『岩石壁クエイクウォール』を出せて良かった。あのままでは確実に串刺しだっただろう。間に合ってよかった。


「ワウワウ(なんか前にもこんな感じの状況あったっすよね。あの時は土の壁だったっすけど)」


「私だってあれから何もしてない訳じゃなかったからな」


 少しでも前世の状態に近付くために毎日の魔力回路の調整は怠らなかったぞ。

 しかし、いつか魔術を使う相手と戦うことがあるだろうとは思っていたが、こんなに早く出会うとは。


「でもまぁ、これで奴も戦闘不能だろう……ん、いやこれは?」


 目の前の岩の壁からギュルギュル音がする……。

 しかも、これは、魔力反応が消えてない!?


「ムゲン、危ないっ!」


 いきなりサティに突き飛ばされ、それと同時に岩の壁に穴が開き奴が回転しながら飛び出してきた!


「ちょ、マジ!? そんなんアリかよ!」


 岩の壁を貫通するとか……奴の魔術はそれほどの威力なのかよ!


「ん? てかこいつ……」


 いつの間にか顔を覆っていた物が消えている、焼け焦げた後から見るにサティがやったんだろう。

 それよりも目に留まるのはその特徴的な耳だ。


「ああ! そいつはエルフ族だ。よくわかんないけど、なんでも仲間が攫われた復讐とかなんとかな理由でこんな襲撃事件を起こしてるらしいよ」


 なるほど、つまりは違法奴隷なんかのために攫われた仲間達の復讐ってとこか。

 って考えてる場合じゃねぇ! こっち来た!


「ちょ! 待てってお前。別に私達は人攫いでも奴隷商人でもない!」


 盗賊ではあるけどな、てかむしろ私達はそういった奴らをつぶしてる方だし。


「知るか! 俺にとって人族はすべて敵だ! 仲間を……姉さんを返せ!」


「いやいや! お前の姉さんとか知らんし!」


「うるさい、死ね! 『烈風拳ウィンドストライク』!」


 またそれか!

 クソッ! 少しは人の話聞けよ!


「やられっぱなしは性に合わん! 応戦させてもらうぞ! 第二術式展開、追加属性 《生命》、来い『岩石生命体ストーンゴーレム』!」


「なっ!」


 岩の壁から手が伸び『烈風拳ウィンドストライク』を防ぐ。

 そしてみるみる内に岩の壁は形を変え二体の動く石造と化す。


「やれ! 岩石生命体ストーンゴーレム!」


 岩石生命体ストーンゴーレムがエルフの少年に向かってパンチを繰り出す……どうだ。


「ッ! 食らうか! 『風翔浮遊エアロレビテイト』!」


 飛翔魔術か、しかもかなり自在に空を飛んでいるぞ! あの歳でここまでの調節が行えるって、天才かあいつ!?

 私も飛翔魔術は使えるが、機動力はあちらが上かもしれない……なら!


「こちらは地上の機動力を上げるぞ! 第三術式展開、追加属性 《風》、『風式最適造形エアロアート』」


 風の刃が岩石生命体ストーンゴーレム達を切り裂くと、そこには先程までの無骨な石造の姿ではなく某ロボットアニメに出てくるモビ○スーツような造形になっていた。

 こんな形になったのは私が日本に感化されすぎてるからなんだろうな。


「ワウ……(ご主人、これって……)」


「細かいことは気にしない! サティ、そっちのガン○ムの上に乗ってくれ私はこっちのザ○に乗る」


「えっと、ガン○ムってこっちのやつか?」


 よし、サティも搭乗完了だ、別にロボットというわけじゃないからコックピットとかはないし本物と比べると一回り小さいが。


「さて、ここでもう一つ追加だ! 第四術式展開、『身体強化ブースト』」


 本来無機物に『身体強化ブースト』をかけることはできないが、生命属性の加わっている岩石生命体ストーンゴーレムならば術式を組み込むことが可能だ。

 これで一気に追い込む!


「こんなもの、どうせこけおどしだ! 風よ、我が腕に集まりて敵を貫く矛となれ! 『竜巻突槍トルネードランス』!」


 岩の壁をも貫いた風の槍をまた出現させた! ん? つまり持続はできないのか、呪文詠唱もしてたし。


「今はそんなこと考えてる余裕は無い! 回避だザ○!」


「なっ!? 馬鹿な、早い!」


 私の命令でザ○(岩石生命体ストーンゴーレム)はその巨体からは考えられないほどの速さで後ろに回り込む。

 向こうもそうとう驚いてるみたいだ、だが私は情け無用の男! このまま一気にいかせてもらう!


「今だ、やれっ!」


 ザ○のパンチが迸る! 今度のはさっきとは比較にならないぐらい速いぜ、どうするよ。


「え、『風翔浮遊エアロレビテイト』!」


 む、おしい、奴の肩をかすっただけか!

 だが! そうやって飛んで逃げるのはすでに想定済みだ!


「別術式を展開、『炸裂突風ガストバースト』!」


「さらに別の魔術だと!? ぐっ、そんな、風が乱される!?」


 奴の風魔術に合わせこちらも突風を起こす、これで奴の優位性である高度を潰した。

 後は……。


「サティ、頼む!」


「オッケイ、まかせな!」


 ガン○ムがサティを投げ、バランスを失ったエルフの少年へと飛びかかる。


「食らえ『爆炎斬バクエンザン』!」


「クソォ! 『空気盾エアシールド』!」


ゴオオオオオオオオオオン!!!


 ぶつかり合う剣と盾、サティの放った『爆炎斬』は『空気盾エアシールド』にぶつかった瞬間に超爆発を起こした。

 まともに食らえば命はなかっただろう……襲ってくるなら子供でも容赦しないといったところだ。

 サティは敵だと恐ろしいが味方だと頼もしいな、まったく。


「……って! 大丈夫かよあいつ!」


 襲ってきたとはいえ相手は私と変わらない位の子供だ、いやエルフだから歳は結構いってるのか。

 それより状態の確認だ、丸こげになってたりしないよな。


 私はあたりを注意しながらそ~っと近づく。

 ……って魔力反応!


「『烈風拳ウィンドストライク』!」


「うおおお! 危な!」


 間一髪で風の拳を避ける、おいおいまだ無事なのk…。

 いや、よく見ると犯人がもうボロボロだ、『空気盾エアシールド』で若干軌道をずらし致命傷は避けたのか…とっさの判断でそこまでの魔力操作、やっぱ天才かこいつ?


「そんなになってまで、まだ戦い続けるのか」


「あたり……ゴフッ……! まえだ……。皆を、ガハッ……姉さんを助けるまでは!」


 まだ立てるのか、もはや半身は動かないだろうというのに。


「すげぇ執念だ、指一本でも残しておいたらそれだけでも立ち向かってきそう。やっぱり、ここで消しといたほうがいいかもね!」


 そう言ってサティはまた戦闘態勢になってしまった、ってかエルフの方もやる気満々で構えてるし。


「ちょちょ! なにもそこまでやんなくてもいいだろ! お前も、とにかくまずは話し合おう! 平和的にいこうぜ平和的に」


「ムゲン、こういう輩は己の欲求が満たされるまで同じことを繰り返す! 今放っておいたらまた襲ってくるだろう。そんな奴を野放しにしておくほどアタシらは甘い組織じゃないんだよ」


「だが、私にはこいつがそんなに悪い奴には思えないんだ。ちゃんと話せばきっと分かり合える!」


 昔の私にとっては襲ってきた相手を擁護するなんてことはなかった……むしろ進んで殺ってたくらいだ。立ち塞がる者は踏み倒して進むしかない……と。

 だが私は多くの戦いを通して知った、信念を持つ者……自らを高めようとする者……誰かのために戦う者……そんな思いを持つ者達ならいつかきっと分かり合うことが出来ると。

 こいつからも、そんな強き思いを感じ取れたんだ……。


「ったく、わかったよ。ムゲンの目を見たら殺る気が失せちまった。今回は新入りの意見を聞いてやることにするよ。……ってなわけでもう戦いはやめにしないかい襲撃者!」


 良かった、どうやらサティはわかってくれたみたいだ。

 あとは……。


「戯言を、貴様ら人族と分かり合えることなどない! 話し合ったところで姉さんが……俺の姉さんが帰ってくることはないんだ!」


 問題はこっちだ、どうやって説得すればいいやら。

 とりあえずその痛々しい傷を回復してやりたいんだが、直したら絶対また襲い掛かってくるよなぁ。


「サティー! ムゲンくーん! 無事ー?」

「お兄ちゃ~ん! 大丈夫~?」


 どうしようかと悩んでいたらリアがやって来た、あの様子だと怪我人の治療は済んだみたいだな。

 戦闘音が止んだので様子を見に来たんだろう、ミミもついてきてる。


 そうだ! 二人はエルフ族だ、ミミはまだ幼いから無理だとしてもリアなら同族ということであいつも話を聞いてくれるかもしれない。


「リア、ちょっと来てくれ、頼みたいことがあるんだ」


「なに? ムゲン君、というか襲撃犯……は」


「ああ、今まさにその襲撃犯のことで……ってどうしたリア?」


 心ここにあらずといった感じで放心してしまっている、どうしたんだ!?

 あ、襲撃犯が同族だから驚いてるのかな? この涙だばだばの襲撃犯に……って、涙だばだば!?


 振り返ると先ほどまで物凄い怒りの形相だった襲撃犯の顔からは涙がボロボロこぼれていた。


「姉さん……良かった、生きていたんだね!」


「あなた、レイ……なの? あなた、どうしてこんな所に」


 え、は? ちょっと!? つまりどういうことだってばよ?


「姉さん、やっぱり人族に捕らえられていたんだね。この五年間ずっと辛い思いをしてきたんだよな?さぁ一緒に里へ帰ろう。邪魔者はいるが絶対に俺が守ってみせるから!」


「そ、そんなことよりレイ、あなたが襲撃犯なの!? それにその傷」


「ああ、姉さんを守るためならこんな傷くらい大丈夫さ。早く戻って二人でまた暮らそう」


「え、ちょっと!?」


 襲撃犯はリアの手を取りながらズルズルと歩き出す。いや、その傷で動き回るのは流石に無理があるんじゃないか。

 てかこいつ完全に自分の世界に入っちまってる、とりあえず止めないと。


「おーい、舞い上がるのはいいが私達の話も聞いて……」


「おのれ卑劣な人族め! まだウロチョロしていたか! だがもう二度と姉さんはわたさんぞ!」


 駄目だ、聞く耳持ってない、なんて理不尽な野郎なんだ。

 おや? なんだかリアの表情がさっきと変わって笑顔だ、だがどこか恐ろしくもある、なんだこの悪寒は。


「レ~イ~……」


「はい! なんでしょう姉さ……」


「いい加減にしなさい!」


コォン!


 リアが持っていたオタマで思いっきり頭を叩くと襲撃犯はその場に気絶してしまった、まぁ相当ダメージ入ってたしな。


「えーっと……で、リア、こいつは一体なんなんだ?」


「こいつはリアのことを姉さんと読んでいたが」


 リアは はぁ と溜息をつくと申し訳無さそうに目を開いた。


「サティにも初めて言うけど、私のフルネームはリア・アンブラルっていうの。そしてこの子はレイ……レイ・アンブラル、私の実の弟よ」



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