36話 お引っ越し
荷造りは意外と早く済んだ
聞けばこの引っ越しは以前から計画されていたことらしいし、この人数なら当然か。
荷物の量は中型馬車二台分、意外と少ない……と思ったら馬車が二台しかないだけで残りの荷物は男衆が担いでくらしい。
「担いでく荷物は大体が金品だな、これ全部でいくらぐらいになるんだ?」
「んと……えーと?」
隣で大剣を背負ったサティに聞いてみたが悩みすぎて反り返っちゃったよ、こりゃ聞く人間を間違えたか。
しかし初めて見た時から思ってたがでかいな……大剣の話だぞ。
「サティ、準備できた? って何やってるの?」
このシュールな光景を見たらそうなるよな。
リアが来たということは馬車の準備が整ったんだろう、もう洞穴の中はもぬけの殻だ。
「よっと! このアジトともお別れか、今回は結構長く住んでいたな……一年位か?」
「いや、まだ三ヶ月程度だから。もう、エルフの私より時間の感覚がおかしいってどうなのよ」
まったくだ、私の中でサティはもうアホの子のレッテルを貼ってあるぞ。
ほんと最初の凛々しい姿からのギャップが激しすぎるな。
「でも、この場所には本当に世話になったね」
「ああ、皆で飲んで騒いでもバレない最高のアジトだったよ」
二人は名残惜しいのかしばらくその場で佇んでいた。
私も前世では長らく住み着いていた場所を離れる時に感慨深くなったことがある。多分ここには戻ってこない、そう考えているのだろう。
たとえ戻ってきたとしてもそこには他の盗賊が住み着くかはたまたモンスターの巣にでもなっているか……。
「私は……一日しかここで過ごさなかったが、そのことは絶対に忘れないぞ」
「ムゲン?」
おっと、無駄にシリアスになってしまった。
前世は私よりも先に消えるものが多すぎたから、絶対にどんな思い出も忘れないようにしてたからなぁ。
ま、勿論今世でも忘れる気はないがな。
「……よし! もういいだろ。そろそろ引っ越し開始だ」
どうやら二人共満足したみたいだな。
こうして、私達は新しいアジトへの出発を開始した。
出発から数時間、現在私達紅の盗賊団は商業車の振りをしながら東の方の領地に進んでいた。隣の領地と言ってもそれなりに距離があるので一日二日では辿りつけない、リアの話では新アジトまで五日は歩き続けるとのこと。
アレス王国の時は移動するのにもそこまで期間がかからなかったはずなのに……と思ったがそもそも第二大陸と第三大陸では面積が大分違うんだな。
450ルードもした(←重要)地図帳によると第二大陸は第三大陸の約三倍の大きさもあると書かれている。
そういえば、前世で飛び回っていた時は目測で適当な地図を描いたこともあったが私には絵の才能がなかったのか皆からは不評だった。
当時はこんなもんだろと思っていたが…こうしてちゃんと作られたものを見ると私が描いた地図は子供の落書き程度だと思い知らされるな。
「流石450ルード……その他にも色々な情報が乗っている」
例えば今私のいる第二大陸は一つの国がどんどん未開地を開拓していき現在では大陸の2/3を誇る巨大国だそうだ。残りの1/3は人が通れない荒れ地や強力な魔物の住処になっているなどで近づけないとこもあるとかなんとか。
それにしてもこの国はデカい、中央大陸にある大国に匹敵するのではないかと言われてる程だ。その分領地も巨大だ、大きく分けて四つに分かれており、その中でも更に小さな領地に分けられてる。
ヘタしたら大領地一つでアレス王国と同じ大きさ位なんじゃないか……。
さて…そろそろ話を戻そう、現在私達が歩いている場所が南領、そこから東領へ向かって進行中。
聞いた場所は地図で見ると……この辺りか。だが地図の説明によると《東領は未開地と隣接しており、まだ少し不安の残る地域である》と書かれているぞ。
盗賊団としては同じ場所に長く留まり続けるのが危険なのはわかる、だがそんな場所へわざわざ行く必要があるのか?
「ムゲン、何読んでんだ? おっ、そりゃ地図帳か、いいもん持ってんな」
隣にいたサティがズイッと覗きこんできた、顔が近くて一瞬ドキッとしてしまった。
ちなみにリアとミミは私のやや後ろの方にいる。戦えない女子供達を中心にして前に金品などを乗せた馬車、後ろに食料等を乗せた馬車。
私も最初は中心に配置されそうだったが、ここ最近はずっとダメダメだったのでここらでいっちょいいとこ見せてやるぜ! ということで半ば無理矢理前衛へ。
ミミが「お兄ちゃんと一緒がいいー!」と泣きついてきたが、リアがなんとか説得してくれた。
「むうう、何が書いてあるのかさっぱり理解できない……」
いつの間にかサティが私の地図帳をひったくっていた。いや、わからないなら取るなよ。
まぁ丁度いい、今の内に気になっていたことを幾つか聞いておくか。
「なぁサティ、その地図帳によると東領は他と比べて少々危険だそうだが、なぜそっちへ移動するんだ?」
「あ、そっか。ムゲンは入ったばっかだからアタシらの仕事の方針について何も知らないんだったね。よし! ここはいっちょ団長であるアタシが直々に教えてやろうじゃないか」
ふふんと任せろと言わんばかりに胸を張る。
……デカい(確信)
「ワン……(ご主人……鼻の下伸びてるっすよ)」
おっと、私としたことが。
ブンブン頭を振って雑念を払う、折角説明してくれるんだからちゃんと聞いておかないとな。
「変な奴だな、ちゃんと聞けよな。いいかムゲン、まずアタシ達は盗賊だ、そして盗賊と言や盗んでなんぼ襲ってなんぼだ」
まぁそうだろうな、むしろ襲わないのは盗賊とは言えないと思うしな。
私はまだ盗賊らしい仕事をやってはいないが、この前実際に襲われたしやることはやってるんだろう。
「でもアタシ達はある特定の団体からしか盗まないし襲いもしない。それは何だと思う」
特定の団体、この前襲われたことから考えればなんとなく想像はつく気もするが……確信はないな。
「うーん……金持ちの商人、とかか?」
「おしい、金持ちであることは違わないんだけどな。正解は奴隷を扱ってる商人、特に違法奴隷を扱ってる奴らを片っ端から潰してる」
なるほど、だからこの前襲われたのか。
「特に違法奴隷を扱ってる奴らはクズばっかだ、秘密裏に攫われた亜人や借金のかたにと無理矢理連れて行かれた子供なんかもいる……。だけど世間にはそのことを知る者は誰も居ない、だからアタシ達がぶっ潰してやってるんだよ」
違法奴隷はバレさえしなければ莫大な利益を生むが国にバレれば信用はガタ落ち、下手をすれば商人としてやっていくのはもう無理かもしれない。
ルーベンスとかいう商人も違法奴隷のお陰であんなに羽振りが良かったんだろうが大勢にバレた今ではどうなっているやら……。
「そういえばこの盗賊団には女子供がやけに多いと思ったが……そういうことか」
通常の奴隷は金のない人間が剣闘士などになりそれでも稼げなかった者がなることが多い、そしてそのほとんどは屈強な男や亜人で肉体的な労働に使われるらしい。
対して違法奴隷はそういった趣味をお持ちのエラ~い貴族様方のために女性や子供を扱ってる者が多いらしい。
この盗賊団は私を含まないで総勢39名、その中でも半数近くが女子供。
サティを含まなければ20名だ、違法奴隷商人をどれだけ潰してきたかがよくわかるな。
「そうさ、あいつらは全員違法奴隷として連れ去られた奴らばかりなのさ。リアもその一人、アタシが助けた最初の違法奴隷だったよ……」
「そうだったのか。リアにとってサティは命の恩人なんだな。大勢の護衛がいる中汚名を被ってまで罪のない人々を助ける……かっこいいな」
「よ、よせって、別にそんなんじゃねーし。最初に襲ったのだって金品を奪うためで、助けたのはついでだったし……。そしたらあいつらが勝手についてきただけだし」
照れながら言っても説得力がないな。
それに勝手についてきただけならこんなに沢山の人が来るとは思えないし。
私が盗賊団に入ったのだってサティが色々提案してきてくれたからだというのに。
「そ、それにアタシの方があいつらに助けられてばっかだしな。飯や洗濯、金の勘定なんかできねぇ。アタシにはこの腕っ節しかないのさ、はっはっはっ!」
「ワフゥ……(それしかないのに慕ってくれるっていうのが信頼の証だと思うんすけどねぇ……)」
「ま、本人がいいならそれでいいだろ」
サティのような助ける者は絶望の闇に囚われてる者をそこから引っ張りだす強い力がある、その力は弱者に分け隔てなく使用される。
そして助けられた者はその人の強い光を求め、自らもその光に近づくため強くなっていく。
あいつらも、そうだった……。
そしてこの私も……。
「とにかく! この話は一旦ストップ。次は引っ越しの訳話してやるから」
髪の毛の色と相まって全身真っ赤になったようなサティ、面白いな。
これ以上からかうのは流石に可哀想なので大人しく話を聞くとするか。
「わかったわかった。で、なんでまだ危険が残る東領に引っ越すんだ?」
「おう! それはアタシ達のノルマが後は東領だけになったからなんだ」
ノルマ? なんだろうな、稼いだ金額か? いや、でもそれだとわざわざ東領まで行く必要なんて無い。
危険な領地よりは安全な領地の方が商人も多いだろうし。
うーん……わからん。
「ノルマとはなんだ?」
「ノルマってのはアタシ達の目的というか方針みたいなものだ。アタシらが狙うのは奴隷を扱ってる金持ちの商人だけ、急に羽振りが良くなった奴なんかはよくチェックしてる」
こう聞くと盗賊ってか義賊だな。
しかし急に羽振りが良くなった商人……なるほどな、ルーベンスもそういった商人の一人だと聞いたことあった。
つまりルーベンスが護衛をありったけ用意してたのはそろそろ自分が狙われるだろうということがわかっていたからなんだな。まぁサティが予想外に強かったので結局無駄だったが。
「で、この南地方の目星を点けた商人はこの前のルーベンス商会で最後だったってことだ。ちなみに北と西はもう行ったことがある」
「なら次に行く東領で最後なのか。ふむ……一つ聞きたいんだが、そこのでの仕事が終了したら盗賊団は解散なのか? それとも別の大陸へ行くとかか?」
「んー……あんま考えてないけど、多分またこの大陸を転々と移動しながら新しい標的を探すさ」
まぁこういった犯罪はいつかまた再発するだろう、ってか私達がやってることも犯罪だけどな。
しかしこの分だと私が魔導師ギルドに入れるようになる頃には団員は一体どれくらいになってしまうんだろう……100人位いくんじゃないか?
「失礼なことを聞くかもしれないが……サティはいつから盗賊を始めたんだ、しかも今までの話からすると最初は一人だったみたいだし」
「えっと、盗賊始めたのは五年くらい前だったかな? 始めた理由は……もう覚えてないね。ま、金や食料が欲しかったからとかその辺だよきっと」
覚えてないのかよ、でもなんとなくサティらしいと思うのは慣れてきた証かな。
しかし五年前か……この世界に帰ってきてからその年に縁のある人物とよく合うな。
「ってかさっきからアタシのことばっか話してるのはなんか不公平だね、あんたのことも教えなよ」
「わ、私のことか……」
うーんどうしよう、別に私が異世界人であることを話しても構わないような気もするが……。
「そんなに考えこむんなら別に教えなくてもいいよ。この盗賊団にいる奴は人に言えない人生を送ってきた奴なんて沢山いるからね」
ったく、そういうおおらかな所に皆惹かれたんだろうな。
大丈夫だ。サティなら信頼できる、その彼女が率いる盗賊団もきっと……。
「いや、言うよ。でもリアやミミにも言っておきたいから夕食の時にでもどうだ」
「おう、いいぞ」
サティと話し終えた時には、すでにもう日が落ち始めていた。




