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346話 未だ未知の世界で


 これが、この場所における“記憶の石”か。私にとっては大きな戦いと悲しみが詰め込まれた場所だが、そのことは一切記録されていない……か。


「とりあえず、まずは見てみて……見せてもらえるのかあれ?」


 なんだかとても大事なものっぽく収められてるからな。教会の人や参拝者も普通にいる中でずかずか見に行くのも失礼な気がするが。


「んじゃちょっくら聞いてくるぜ」


 と、私が悩んでいるとゼロが積極的に飛び出していってしまった。教会の人と人見知りせず話しているな。

 なんというか、最初の敵対心バリバリだった頃に比べるとものすごい変わりようだ。いや、ゼロとしてはその記憶はないんだろうが。


「ゼロのこと……変わったと思ってる?」


「ん? あー……まぁ、私はな」


 突然ティーカに話しかけられてちょっと驚いたが、これはこれでティーカの意見を聞くいい機会でもある。


「そういうティーカはどうなんだ? ゼロは昔と変わったって思うか?」


「わたしも……ゼロは変わったと思うわ。でもこうなることは当然だからわたしは気にしてない。……そう、これでいいの……だから」


 そこまで言葉にして、ティーカは再び口を噤んでしまった。

 やはり私の予想通りティーカはここまでの事象改変の影響に左右されず、これまでのことを覚えているのは確かなようだが……。


(ティーカはなにか悩んでいるのか?)


 おそらくティーカはゼロを導くべく生み出された事象の一部なのだろうとは思うが、最後の反応が少し気になる。


「おーい、見てもいいってよー!」


 いまだに問題に答えが出ないうちに、ゼロの方の交渉が終わったようだ。

 というか他に参拝者もいるんだからそんな大声で呼ぶなっての。


「さてさて、そんじゃ読ませてもらうとするか」


 気になる記憶の石の内容は……やはり前回同様、一部は私が見た夢の光景と一致しているな。


「テンシの影響によって生まれた二つの種族が対立していたが、その地に降り立った妖魔神がこれを諌め、和平を成立させる……これが約500記録前の出来事であると」


 カロフの頃から100記録ほど時間が進んでいるな。

 つまり、一定の間隔でこの世界に私の仲間達が活躍した原因系の事象が差し込まれ、だからこそ結果系である今の世界がここまで変わったというところだろう。

 ただ、なぜそんなことが起きているのかが謎のままなことに変わりはない。


(そういえば……)


 記憶の石の内容を読んで、私は夢で見た"異種体"と"転人"のことを思い出す。

 この事象ではあの夢の出来事は本当にあったことのはずだ。だというのに、ここまで街中を進んでいた際にそれらの特徴を持つ種族を一人も見かけなかった。

 気になるな……もう少し記憶の石を読み進めてみるか


「なになに……その後、転人の王ラエルとモフモフ族の代表ヴェルゼが主導で場所を復興、いや結局その名称になったんかい。んで、二人は婚姻しやがて場所は"国"となった……国って、そういえば」


 そうだ、起きてからここまでに感じていた違和感の正体はこれだ。


「ん? どうしたムゲン、おれの方をじろじろ見てよぉ」


「ゼロ、お前さっき自分が育ったのはこことは違う"国"だって言ったよな」


「んあ? いやさっきってのがいつのこと言ってんのかわかんねぇけど、まぁおれはこことは別の国で生まれ育ったぜ。それがどうしたんだよ」


 もともとこの世界には"国"という概念が存在しなかった。となると、その概念が生まれるには外からの影響がないと成り立たない。

 おそらくレイ達がその概念を教えた影響で、世界中に広がったと考えていいな。


「ふふ、楽しみね。この子は私とあなたどっちに魔力が似るかしら」

「どっちでも構わないさ、この子が幸せならそれでね」


 おや? 考え事の途中だがなにやら気になる会話が背後から聞こえてきたぞ。

 なにやら長椅子に座っている参拝者の男女が幸せそうに見つめ合って話してるようだが。


「失礼、そこのお二人さんちょっといいかな」


「え、私達ですか?」


「おいおいムゲン、いきなりちょっと失礼すぎじゃねぇかそれは」


 気になったなら即行動が私のモットーなんでな。こういうときは遠慮なくいかせてもらうぞ。


「そう、あなた達だ。なにやら嬉しそうに話していたが、なにか良いことでもあったのかなと思ってな」


「ああそういうことでしたか。いえね、そろそろ妻の出産の日が近づいてましてね。最近はずっとその事ばかり気にしてしまってるんですよ」


 確かに、隣の奥さんをよく見るとお腹がぽっこりと膨らんでいる。

 この世界でそういう話を聞くのは初めてだな。


「それはまぁおめでとうなんだが、どちらの魔力に似る、というのはどういうことなんだ?」


「ああそのことですか。私達はどちらも魔力持ちなので、私の火の魔力か妻の風の魔力、どちらを受け継ぐかという話をしていたんですよ」


 これはどういうことだ? 確かにこの二人からは魔力を感じるし、属性に関しても得意属性も見えるのでそれも嘘ではない。

 しかしこの世界の人が魔力を有するのは事象が変化する前のテンシによる策略の影響だったはずだ。


「その、魔力というのは誰でも持っているものなのか?」


「え? ……ああ、もしかして他の国からこちらへ?」


「ん? まぁそうではあるか。旅人みたいなもんだしな」


「なら知らなくても無理はありませんね。我々はかつてこの国を立ち上げた二種族の血を受け継いでいるんです」


「祖先はその能力が身体の変化に表れていたようですが、記録が進むに連れてその影響がだんだん内側に表れるようになって、今では私達のように魔力に変わっていったとか。記憶の石にもそう記されてますよ」


「なに、そうなのか。よしちょっと確認してくる」


 と、一旦記憶の石へと戻り速攻で読み進めると……確かにその記述を発見した。

 ふむふむ『記録が進むに連れ、モフモフ族の特徴も、転人の特徴も人々の身体に見られなくなっていた』これだな。


「確認してきた。本当にそんなことがあったんだな。しかし、どうして魔力という名前になったんだろうな?」


 転人もモフモフ族のどちらからもそういった名称に繋がる要素はなさそうだが。


「それはかつてこの地をお救いになった妖魔神様が扱ったとされる力にあやかって付けられた、と聞いたことがあります」


 そうか、レイ達が当時使っていた魔術に関する情報が後世にまで伝えられていたのなら、そこに繋げることは確かに不自然じゃない。


「妖魔神様は本当に素晴らしい神だ。かつてこの地をお救いになっただけでなく、人々に"家族"の素晴らしさを説いたことで、今こうして私と妻に家族の喜びを与えてくださっているのだから」


「あなた、喜びは私達だけじゃなくこの子もですよ」


「おっと、そうだったね。私達の"愛"の先に生まれたこの子と、皆で素晴らしい記録を残していこうじゃないか」


「ええ、ずっと幸せに暮らしましょうね」


「なぁムゲン……なんかおれ達お邪魔みたいだからそろそろいかねぇか?」


「ああ、私もそう思っていたところだ……」


 なんだかすでに二人の世界に入っちゃってそうだからな。私も聞きたいことは聞けたのでそろそろお暇させてもらうとしよう。


「いろいろ話を聞かせてもらって助かった。お幸せにな」


「ありがとう。君達も良い旅を」




 こうして私達は教会を後にし、再び人々が賑わう街の中心へと戻ることとなった。

 記憶の石からは様々な情報と私の見た夢の裏付けを得ることができたが。


(一つの謎が解けて、いろんな謎が増えたってとこか)


 “鍵”が一つ手に入るごとに私は仲間が行った新たな事象の夢を見て、それがこの世界に反映される。だがそれが何を意味するのかはまるでわからず、どうしてそんなことが起きるのかもわかっていない。

 それに、結果系の事象が変わったといっても、夢を見る以前の事象の影響もなにかしらの形でこの世界に残り続けるという点も気になる。


(それもゼロはすべて忘れているんだよな)


 ティーカはどうやら覚えていそうだが、ならばなぜ事象変化の影響を受けてしまうゼロと共に行動しているのか。


(そもそもゼロは何者なんだ?)


 事象変化の影響を受けていないことから、ティーカはテンシとはまた違う事象関連の存在だと予想できる。しかし、だとするとゼロはなんなんだ?

 ティーカいわく世界を救うとのことだが。それもゼロの進む先にその答えがあるというのか……。


「愛する人と、幸せな家族か……。おれも世界を救う旅が終わったら叶えられっかな」


「おやおや、恋に悩める青少年や。付き合う前からもう結婚後のことまで考えるとは、気が早いのう」


「どわっ!? いきなり背後から小声で話しかけんなよビックリすんだろ」


 恋に悩むゼロはなんかついからかいたくなってしまうんだよな。

 それに小声で話しかけたのだってティーカに聞こえないよう配慮してやってるだけだ。


「まぁティーカも一見そっけないように見えるが常にお前のことを思ってくれてるんだ。完全に脈なしってこともないだろ、私は応援してるぞ」


「そう……なのかな。時々思うんだよな、ティーカはただ義務的におれに付き添ってくれてるだけなんじゃないかってさ……」


 おやぁ? なんだかゼロがティーカとの恋路に対してとても自信なさげだぞ?


「おいおいどうした? 以前はあんなにルンルンだったじゃないか。子供の頃から一緒だったお前達なら少しのきっかけさえあればいけるって」


「いやいや、そんときのおれはまだガキだったから立場ってもんがわかってなかったんだよ。幼馴染みといってもティーカは一国の姫巫女で、おれはただ偶然選ばれただけの凡人……身分が釣り合ってねぇからさ」


 んんん? なんだかまったく聞いたことのない内容の話をされたぞ。


「おいゼロ、ティーカが姫巫女ってなんだ?」


「あ? 前に話したろ、ティーカはおれの生まれた国のお姫様で、神託を受ける巫女。で、おれはたまたま選ばれてちょくちょく会う機会があった一般の人間だって」


 知らん知らん。おそらくこれは……また事象が改変されたことで二人の立場にも変化があったとみていいな。

 ……しかしティーカが姫巫女ねぇ、どうしてそうなったんだか。


「とにかく、王様んとこ行かねーとな。だいぶ待たせちまったし」


「ああ……って王様?」


 突然ゼロの口から聞きなれない言葉が出てきたので驚いてしまったが、そうか……国という概念が存在するんだから当然そこの統治者もいるか。


「でもどうして王様になんか会いにいくんだ?」


「そりゃあ……」


「ちょっとどいてどいてー!」


「え……?」


 そんな私がゼロと会話に集中していたら、突然道の先からものすごい速度で一人の少女が突っ込んできて……。


「どわああああああ!?」

「きゃああああああ!?」


 完全に油断しきっていたゼロとそのまま盛大にぶつかってしまうのだった。




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