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337話 協力関係不備?


 集合したのは私達にあてがわれた客室で、戦士達の拠点として使われている建物の一室だ。


「それで、ゼロ? お前はフェリットの話を聞いてどう思った?」


 ここに着くまでもゼロはずっと黙ったままだった。きっとその間もずっとこれまで聞いてきたこの町の人達の声を自分の中で整理していたんだろう。

 はたして、ゼロが導きだした答えは……。


「多分、答えなんてないんだよな。誰も、自分の感情に正直な気持ちで動いてるだけなんだ」


「だな。世の中に絶対なんてものはない。ただ互いに納得できないからぶつかり合って、傷つけ合ってしまうだけだ」


 一人の男が欲望のままに行動した結果、そこから次から次へと欲望は連鎖するように形を変えて増え続けていった。

 独占、羨み、嫉妬、復讐、執着……想いは様々だがそのどれもが今の戦いの原動力となっている。

 町はバラバラに分けられているが、誰もが欲望に忠実であるというのがこの町の特徴だ。


「この町には秩序がない。だから誰も止まらないし、止められないんだ」


「秩序? それがあれば、この町は救われるのか?」


 やはり、この世界には秩序という概念すらなかったか。

 そりゃ前の町のような争いも起こさないあんな人間ばかりならそんなものも必要ないだろうしな。


 だが、そんな世界で人々の私欲の肥大と争いが起こってしまったからには、それを統制する"仕組み"が必要になってくる。


「どうするにせよ、ただこのトゥーレが勝つだけじゃ終わらないだろうし、困ったもんだ」


 仮にトゥーレが戦いに勝利し上に立ったとしても、このままではまた新たな反乱の火種が生まれるだけだ。


「……おれ、火の男……ディライグってやつと会ってみたい。会って、話してみたいんだ。フェリットさんがまだあんたのことを愛していることについて、どう感じているのかを」


 それは、ゼロにとってとても辛い結果が待っているものかもしれない。

 だがそれでも、それを知ることがこの町の未来へと繋がるのなら、やってみるべきだろう。


「ゼロのやりたいこと、わたしは応援する。ディライグに近づくことは、この町で暗躍する“転史(てんし)”それに“鍵”にも近づくことに繋がることになるかもしれないから」


 そういえば、テンシもまだ姿を見せていないな。本当にこの町にいるのだとすれば、ティーカの言う通り未だ私達が出会ったことのないディライグの後ろにいる可能性は大いにある。

 それに“鍵”だ。ゼロ達が鍵を手に入れていくことで世界が救われていくのなら、この戦いも終わらせることができるんじゃないだろうか。


(ただ鍵によって救われた場合、また著しい世界の改変が起きるんじゃないかという懸念もあるが……)


 それもこの世界が良い方向に向かっていくのなら必ずしも悪いことではないとは思うが。

 この世界の向かう先か……。


「皆さん、少々よろしいでしょうか?」


 と、ちょうど話の区切りもいいところで扉越しにフェリットから呼び掛けられる。

 断る理由もないのでそのまま招き入れると、先ほどの気まずさもあるもののフェリットは事務的に伝達事項を伝え始めていく。


「これから次の戦いに向けての会議がこれから行われるのですが、皆さんも参加していただきたいのです」


 次の戦いか……。まだ傷も癒えていない者も少なくないだろうにご苦労なこった。


「じゃあせっかくだしお邪魔させてもらうとするか」


 そのまま私達は同じ建物の別室へと案内されると、そこにはすでに数名の女性の戦士が集められていた。


「なんだ、アンタ達も来たの」


 そこには当然とばかりにブラムの姿もある。

 ……なるほど、よく観察してみればここにいる全員それなりの高魔力を有してる者ばかりだ。おそらくトゥーレの中でも実力者ばかり集められたのだろう。


「へぇ、こいつらがウチらが留守にしてる間に町を守ってくれたって奴ら? 男だったりガキだったりで、とてもそんな風には見えないけどねぇ」


「ナヴェル、失礼ですよ。今私達を守ってくれてる風の壁も彼らが作り出してくれたものなんですから」


 ナヴェルと呼ばれた高身長で服の上からでも分かるようななかなか鍛え上げられた筋肉を持つ女性は、どうやら私達を疑ってるようだ。

 というよりも……。


「一見して素晴らしい肉体のお姉さんだが、どちらさん? 一度見たら君のように魅力的な女性なら覚えているはずなんだが……これがはじめましてだよな」


 トゥーレを助けた時から町中を回る際に一人ひとりの顔はだいたい把握したが、それでも彼女を見るのはこれがはじめてだ。


「なんだい、随分と口が達者じゃないか。いかにも、ウチとあんたらはここで会うのがはじめてだよ」


「ナヴェルは別動隊だったんです。先の戦いでは他の任で別動隊を指揮していて、つい先頃戻ったばかりなんですよ」


「ナヴェ姐がいなくてもミドランの尖兵くらいならアタシ達でも余裕だったのに……そこに見計らったようにワウンスの奴らが攻めてきたから!」


 この間の戦いを思い出したのか、ブラムは壁にドンと拳を叩きつけて怒りを露にする。おそらく、個人的な恨みも込められてるんだろうな。


「ブラム落ち着いて。これからナヴェルの情報をもとに私達の……いえ、このすべての町を変えるかもしれない最後の戦いについての話し合いを始めるんだから」


 最後だって?

 今までも戦いを続けてきたというのに突然最後というのはどうにも穏やかじゃなさそうだ。


「それは、戦いを終わらせる算段でもあるというのか?」


「ああそうだよ。ウチらの手で……ディライグを討つ」


 それはなんとも衝撃な宣言だ。それができなかったからこそこれまで戦いが続いていたというのに、いきなり敵の大将を討つなどと勝算もなしに言えることではない。


「なにか方法がある。そういうことだな」


「はい、先の戦いの裏でナヴェルはミドランに気づかれずディライグのいる拠点……フォルシスへ繋がる隠し通路を発見しました。そこへ少数精鋭を送り込み、彼を……討ちます」


「……! フェリットさん、それは……」


 かつて愛した人を討つ、それはきっと言葉にするだけでも相当な覚悟が必要だっただろう。

 それが本当はまだ愛している相手なら……なおさらだ。


「どうしてこんな急に……」


「隠し通路も見つかり、あなた方のような協力者も加わった。さらに今はミドランもワウンスも風の壁を超えることに注力し、他に気を回す余裕もない。今が……一番良いタイミングなんです」


 なるほど、これまでは隠し通路さえ見つかればいつでも攻め込めるタイミングを伺えると考えていたのだろう。

 ただそこへ私達という存在が現れてしまったことで決定的なタイミングが生まれてしまったというわけだ。


「でも! ディライグはフェリットさんの……!」


「アンタ、また愛がどうとかくだらないこと言うつもり? これはフェリットさん自らが発案した決断なんだから、本来部外者であるアンタが口出しする権利なんてないのよ!」


「フェリットさんが自分で……ほ、本当なのかよ」


「ああ、ウチは情報を持ち帰っただけさ。それでフェリットがやると決めたんだ。ま、ウチはやるっていうんならそれに従うよ」


 彼女達にとってはこの千載一遇のチャンスを逃す手はない。

 つまり、ここに集められた者達は。


「もちろん、あなた達にも参加してほしい。ただし無理にとは言わない。あくまでもあなた達の意思は尊重するつもりですから」


 ここで私達が参加しなかったとしても、彼女達は止まらないだろう。

 ならば……。


「おれ達も……行くさ。行って確かめてみたいんだ。そのディライグってやつの意思を」


「ゼロさん……ありがとうございます」


 ゼロのやつ、私が考えてる間に即決か。フェリットの意志がそこまで固いというのなら、ここで無駄に口論するよりも一緒に行って隣で見極める方がいい。

 まぁゼロはそんなこと考えるより先に言葉が出たみたいだけどな。


「やっぱり……アタシは認めない! アンタみたいな甘いやつがこの重要な作戦に参加するなんて!」


 おっと、話がスムーズに進むかと思えば、ブラムは私達……というよりもゼロが戦いに参加することに反対のようだ。

 このまま拗れた関係のまま失敗が許されないような作戦に赴くのは不安が残るが、どうする……。


「だったら、どうすればおれを認めてくれるんだ」


「そうね、アンタがアタシより強いって証明できたら認めてあげてもいいわよ」


 強さを証明する、それはつまり……。


「表に出てアタシと一騎討ち。アンタに挑む覚悟はある?」


「ブラム! いくらなんでもそこまでする必要はないでしょう!」


「ごめんなさい……でも、こればっかりはフェリットさんに止められても無理。アタシの気持ちは揺るがない」


 これはもう誰がなんと言おうとブラムの意思は変わらなそうだな。


「わかった、その一騎討ちでおれが戦えることを示せばいいんだな」


「ゼロさん!? そんな……こんなことする必要なんて」


「いいんだフェリットさん。ブラムがそれで納得してくれるなら、おれはそれに応えたい。おれが本気だってこと、わからせたいんだ」


 ゼロの返答は早かった。迷いに答えを出した時点で、ゼロにはもう引くという選択肢はないようだ。


「それじゃあ外の修練場でやりましょ。アタシも準備してくるから、アンタにも後悔する時間くらいはあげるわ」


 そう言ってブラムは部屋の外へと出ていった。

 ……さて、こうなってしまったからにはゼロに一人で戦ってもらうしかないのだが。


「ゼロ、大丈夫? こういうことはあまり言いたくないけど、今のあなたじゃ彼女の実力には……」


「うっ……し、心配すんなって! やってみれば、きっとなんとかなるさ! ハハ……」


 やっぱなんの勝算もなく勢いでオッケーしちゃった感じか。後先考えないのは良いことなのか悪いことなのか……。

 ま、しょうがない。ここはひとつ、私が手助けしてやるとしますか。




次週はちょっとお休みします

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