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330話 事象修正 -雷狼神ノ章- 後編


 その姿は、これまでのただ神器の力を解放しただけのものではない。

 私が真の事象の管理者として覚醒した際に神器所有者全員に分け与えた力……神域の力の一端だ。


「さぁ、いくぜうねうねヤロウ」


「ギャッ……!?」


 一瞬……カロフが消えたと認識する間もなく雷鳴がテンシのいくつもの腕を走り抜け、切り裂いていく。


「ヴァヴァヴァヴァヴァ!?」


 テンシもなにをされたのか分からず困惑しているようだな。電撃を逃がす粘液を纏っているのになぜ攻撃が自分に通るのかと。

 答えは単純、あの雷鳴はカロフの斬激によって発生した余波であり、雷自体がテンシの腕を切り落としたわけではない。


「どこ見てやがる。俺はここを一歩も動いてないぜ」


 そして、消えたと思ったカロフの姿は依然として最初の位置から動いてはいなかった。

 すでにカロフの斬激は光よりも速く、それゆえに斬られた側はその瞬間時が停止したような錯覚に襲われ、その中で稲光と化したカロフを認識できなくなっているのだ。


 テンシがどれだけ対応させることができるといっても、認識できないものに対応させることはできない。


「グググ……グオオオオオン!」


「っと、またそれかよ」


 激情に身を任せたのか、テンシは再び背中の光輪にエネルギーを集中させると、あの光の槍を広範囲に撃ち出していく。


「なるほどな、このままだと全部集落に落ちるってか」


 これは……直接カロフを攻撃するのではなく、その背後にある集落を巻き込んできたのか。この程度カロフだけなら簡単に避けられるが、守るべき集落はそうもいかない。

 動きを守ることに集中させようといういやらしい手だ。


「ワリィが、そいつはもう意味ねぇぜ。『騎士ノ盾プロテクション・キングダム』」


ギン! ガガガガ……!


 撃ち出された光の槍が集落に届くことはなかった。カロフのかざした左手から放たれた事象力は瞬時に広がっていき、それが防壁となってテンシの攻撃を防いだのだ。

 あれこそが神器とは別に発現したカロフの神としての力。彼を守りたいと願う彼女達と、その想いを受け取ったカロフが"守りたい"と願った想いが具現化した騎士の盾。


「もうテメェにゃ手出しさせねぇよ。さぁ、このまま終わらせるぜ」


 そして、後ろを気にする必要さえなくなれば……もうカロフを止めることはできない。


「グ……ゴゴ……」


「まだ勝ち誇ってるみてーだがよ。今光ってた輪っかだろ、テメェの弱点? 急に見えるようになったけどよ」


「ヴォ!?」


 やはり、あの輪は今までのカロフ達には見えていなかったんだな。それが神の力を得て事象の外側に干渉できるようになったことで輪を知覚が可能になった。

 これで、テンシ側の優位は完全になくなった。


「驚いてるところ申し訳ねーが……もう攻撃させてもらったぜ。第二節『鳴神(ナルカミ)』!」


「ヴ……? ヴィギャアアア!?」


 もはやテンシはなす術もなく切り刻まれ、背中の光輪も真っ二つにされてしまった……ように見えたのだが。


「これで終わ……んなっ!?」


 なんと斬られたはずの光輪が元通りになっており、その中から無数腕が伸びてカロフへと襲いかかっていくのだった。


「チッ、そんな簡単にゃいかねーってか!」


 迫りくる腕を次々と切り落としていくが、そんな中でテンシはいつの間にか再生した体を起こしてその場から逃げ出そうとしていた。


「んなろ……! 逃がすかよ! 第三節『万雷(バンライ)』!」


 そんな逃走を図るテンシよりも先に上空に稲妻を走らせると、そこから無数の剣が降り注ぎ檻のように周囲を囲んでいく。

 それでもまだテンシは逃げ出そうと剣の檻に突撃していくが。


「こん中にいる限り、すべてが俺の攻撃範囲だぜ」


「ギャッ!? バァ!」


「はっ、効かねぇよ。そらっ!」


 剣から剣へと意識を飛ばして目の前に現れるカロフに驚きつつも、テンシはいくつも増えた顔から毒液を吐き出すが、これもカロフの左手から放たれる防壁によって阻まれる。

 そしてそのまま、檻の剣による一閃を受け再びその肉体を背後の光輪ごと切り裂いていく。


「こいつで今度こそ……」


「カロフ、後ろ!」


「なっ!? んなろ、いつの間に……」


 リィナの声に振り向くと、そこには再度真っ二つになったはずの光輪がそこに浮いており、中心の穴からさらに異形と化したテンシを生み出している。


「おいおいどうなってんだこりゃ。あの輪っかが弱点のはずじゃ……いや、ちょっと待てよ」


 カロフのやつ、どうやら気づいたようだな。私も今さっき気づいたのだが、あの光輪……カロフに斬られる度に翼の数が減っている。


「残り五枚か……。なら、全部なくなるまでぶった斬りゃいいだけってこった!」


 光輪は斬られる毎に位置を変え、その度に生み出されるテンシも強力で禍々しいものへと変わっていくが……そんなのカロフにとっちゃ脅威でもなんでもない。

 どれだけ相手が強くなろうと、常にその上を目指し続けるのがカロフ・カエストスという男だからだ。


「オブロロロロロ……」


「もうなに言おうとしてんのかもわかんねーよ! 全部切り裂け! 第四節『襲雷(シュウライ)』!」


 眼前を覆い尽くすほどの無数の獣の腕がカロフへと迫るが、檻の剣をすべて同時に振るうように斬り抜いていく。

 もちろんそれだけでは済まない。その背後の光輪さえもこま切れにされ消滅させられてしまう。


 そして三度の再生、最初に現れたように上空にその姿を再び現すと、その翼は三枚にまで減っていた。

 あの翼……どうやら受けた事象力の強さのダメージに比例して消滅していくみたいだな。

 つまり……。


「こいつで……終わりだ! 第五節『万雷一閃(バンライイッセン)』!!」


 すべての雷の剣が一つとなった巨大な一閃、カロフの最大の一撃によって光輪の事象はその存在を維持できなくなる。

 これで勝負あった、カロフの勝利でこの場は……。


「あ? なんだぁ、この感覚は……」


 終わったはず……だというのに、消滅していく光輪の中に見えていたあの無限に吸い込まれそうな暗い空間だけは変わらずその場に残されている。

 いや、それだけではない! それは徐々に形を変えていき……。


「テメェ……なにもんだ……っ!?」


 人型となったそれは、同じく暗い空間でできた巨大な剣のようなもので、カロフへと斬りかかっていくのだった。


 その姿に私は驚愕していた。見間違うはずもない、あれは……私がゼロ達と共に戦った……あのテンシの姿に他ならなかったのだから。


「くっ……なんなんだよ、こいつ!」


 目の前の存在を前にカロフは距離をとろうとするが、どれだけ動いても常に距離が変わらず、カロフへと迫っていく。

 攻撃もすべてすり抜けるように通り抜けてしまい、まったくダメージも与えられない。


「チクショウ! 斬られ……!」


 だがその事実を目の当たりにすることで私はこの時理解するのだった。あれは、カロフの事象とまったく同質のものである……と。


「やられ……あ?」


 テンシは……カロフに接触するとその身を霧散させ消えていく。まるで、この世界へと溶けていくように。

 あれは、いったいなんだったのか。なぜ光輪の中から現れたのか、カロフと同質の事象力を持っていたのか。そうなると私が戦っていたあれは……。




「カロフ、大丈夫!?」


「ん、ああ、まぁなんともねーみてぇだ」


 と、まだまだ謎は尽きないが、とにかく今度こそ本当に決着がついたといえるだろう。カロフが集落へと戻ってくるとリィナ達がその身を心配して駆け寄ってくる。


「まぁ俺の体のことより集落は大丈夫なのかよ」


 カロフが覚醒してからはその力によって守られはしたが、それ以前の被害でかなりボロボロにされてしまった。

 破壊された建物の中には食料庫もあり、限られた食料で生活していたここの住人にとってはまさに生命線を経たれたようなものだ。

 そんな中でこの不毛な世界でこんな廃墟と化した場所で暮らしていくというのも難しい話だが。


「その事で話があるの、こっちに来て」


「あ、どういうこった?」


 そのままリィナの後をついていくと、そこには目を疑う光景が広がっていた。


「なんじゃこりゃ……なんでこんな、大自然が広がってんだよ」


 そこには今まで枯れた大地だった場所を覆い尽くすかのように緑が地平線の先まで続いており、山の上からは水源から水が流れ川を形成している。

 作物が埋まっている地面もあれば様々な果実の成る樹木も並び、今すぐでも食べられるほどに熟している。

 そしてそれを食べようと多くの動物も集まると、まるで楽園のような世界がそこには存在していたのだった。


「なんでかわかんないけど、いつの間にかこうなってたの」


「誰に聞いても詳細はわからないとのことだ。自分も救助活動で住民をこちら側に避難させていたというのにまったく気づかなかったぞ」


 そもそもこんな豊かな環境がこの世界に存在していたことすら私にとっても驚くべきことだ。

 こんな……まるでアステリムの自然を一部まるごと持ってきたような……。


「『その地、英雄の剣によって切り開かれ、豊かな繁栄と共に愛を知る』」


「あ! あなたは、もう動いて大丈夫なんですか。それに今の言葉は……?」


 そこに現れたのは、この集落で最初に出会ったあの男性だった。

 ただ、今の言葉は彼自身の内から出たものではないような感じだが。


「今のは、つい先ほど記憶の石に刻まれた一文です。その瞬間私は理解しました、これからはこの地で自ら生きる糧を得て生活していくべきなのだと。私の……愛する者と共に」


 そう言うと奥から現れた一人の女性が男性の隣へと進み立つ。

 彼女の姿にも見覚えがある。


「あなた、目を覚ましたんですのね。もう歩いて大丈夫なんですの?」


「はい、あれから意識は朦朧としていましたが、何が起こったかは理解してました。私を呼び起こそうとする彼の声や、危険を承知で倒壊する建物から救ってくれたことも。そのぬくもりを私は感じて……」


 そう語る彼女の顔はどこか赤く、少しうつむいて体をもじもじさせていた。いや、よく見れば隣の男性もどこか恥ずかしそうに視線を逸らしている。

 むむ? これはもしや……?


「あ? どしたよおめぇら、急にそわそわしやがってよ」


「カロフのおバカ! ちょっとこっち来て」


「お、おう」


「お二人は少々お待ちくださいませ」


 と、リィナとアリステルが状況がよくわかってないカロフを連れて少々離れた場所で話し合いをはじめ。


「で、なんでこんな離れて話さなきゃなんねぇんだよ」


「もう、見てわからないんですの。あの二人、お互いに互いのことが好きだという自分の気持ちに気づいて、それをどう相手に伝えるべきか悩んでるのですわ」


「いやでもよ、女の方はともかく男の方はさっきハッキリと「彼女を愛してる」っつてたじゃねーか。今さら言い淀むことかよ」


「ふーん、私への告白をあんなに焦らしたカロフがそんなこと言うんだ」


「ぐっ! あ……いや……それはだな」


 これはカロフも痛いとこを突かれたもんだ。確かにこいつは『後で告白するから待ってろよ』みたいなこと言っといて数日も待たせた挙げ句、私の協力でやっとのことリィナに告白した過去があるからな。


「それにあの二人は、自分達がお互いのことを好きだって感情に初めて気づいたんだから、気持ちを整理する時間が必要なのよ」


「その通りですわ。本当に人を愛する感情を知ることは、きっと自分の中のすべてが一変するものですのよ」


「だぁー! わあったよ、だったら俺が一発かましてきてやる!」


「あ! ちょっとカロフ!」


 二人の意見に何を思ったのか、カロフは意を決したように先ほどの恥じらう二人の前へと向かっていく。

 そして男性の目の前に立つとずいっと顔を近づけて。


「おいテメェ」


「な、なんでしょうか……」


「伝えてぇもんは恥じらわずにしっかり伝えやがれ! じゃねぇと本当に欲しいもんは一生手に入んねぇぞ! 男なら! もっと欲張りに生きてみやがれ!」


 それこそ、カロフがこれまでの経験で手に入れた教訓であり信念でもあるんだろう。

 いや、それにこれはカロフ自身のことだけじゃなく……。


「それが、俺が自分の人生で学んだことと、俺の師匠からの教訓だ。だからよ、おめぇも逃げるんじゃねぇ」


「……そう、ですね、その通りです。私ももう、この気持ちから逃げたくありません」


 カロフの言葉によって、男性の瞳は強い意思が宿ったように燃え上がり、顔つきからは先ほどまでの恥じらいは消えていた。

 そして、女性の方へと真っ直ぐ向き直ると。


「私はあなたを愛しています。ただ、私は愛の意味をまだ真に理解はできていない……。だからこそ、あなたと共に見つけていきたいのです、この地で」


 そうハッキリと自分の意思を伝えるのだった。その言葉を受けて女性も顔を赤らめながらも真っ直ぐ視線を合わせ。


「はい、私もあなたと……一緒に見つけたいです。きっとこの感情が、愛だと確信できるように」


 これはもしかしたら、この世界に初めて生まれた"愛"という感情なのかもしれない。

 たとえあの二人が理解しておらずともその想いは本物で、その想いがきっとこの地を繁栄させていくことだろう。


「おめでとうございます! わたくしもお二人を応援いたしますわ!」


「カロフが突然発破かけた時はちょっとハラハラしたけど、気持ちが伝わって本当によかった」


「へっ、こういうときはうじうじせずにドンとぶち当たるのがいいんだよ。ま、それはそれとしてよ」


 二人への祝福も止まぬ中、再びカロフがずいっと前に出てくると。


「おめぇらこれからどうするかって具体案はあんのか?」


「それは……そうなんですよね。私達は今まで記憶の石の中に記されていたこと意外何も知りません。ですので、この豊かな地をどう活用していいものかと……」


 それもそうか、ここの人間達はただ用意されたもので漠然に生きるという行為だけを行ってきた。

 突然こんな多すぎる情報量をぶつけられても何からはじめればいいかもわからないだろう。


「うっし、そんじゃここは俺が一肌脱ぐとすっか。農業や家畜の扱いならさんざんやってきたからな、手伝ってやるぜ」


「ほ、本当ですか!? それはありがたい……」


 そういやカロフも騎士になる前はバリバリ農民だったからな。

 確かにカロフがここに残って手解きすれば安心だろうが。


「でもカロフ、私達ははぐれた仲間を捜さないと。それにこの世界に来た目的だってあるし」


「まぁあいつらなら大丈夫だろ。それによ、ここにこんな目立つ場所がありゃあいつらの方から見つけてくれるんじゃねぇか? ムゲンあたりならサクッと飛んできそうだしよ」


 まぁすでに私はここにいて今までの過程も見てきたんだが。それを伝える手段がないのがもどかしいところだ。


「ま、とにかくそれまではこいつら……えーっと、そういや名前知らねぇままだったな。なんつー名なんだ?」


「私の名はルキフクスといいます、そして彼女は」


「サフキエルです。この度は何から何まで本当にありがとうございます」


「いいってことよ。それより、住む家がぶっ壊れちまったのはどうすっか。そっちに関しちゃ俺は専門外だからよ」


「それならば任せろカロフよ、自分はヴォリンレクスの一級建築士の資格も持ち合わせている。そちらの指揮は自分が受け持とう」


「マジかよ」


 というかそんな資格あったのかよ、私も初めて聞いたわ。


「ふっ、どうだカロフよ、これでまた自分に惚れ直しただろう。遠慮せず貴様も自分に愛の言葉を伝えてもいいんだぞ」


「はいはいわあったよ、愛してるよカトレア。これでいいか」


「うむ、満足だ」


 なんだかなげやりな気もするがそれでもカトレアは満足そうだ。これはこれで一つの愛の形なんだろうかね。


「か、カトレア! そのやり方は少々強引ですわ! カロフ、わたくしも! わたくしのことも愛してますわよね!」


「アリステルさんも十分強引だよ!? でも……カロフ、私にも……ちゃんと言って欲しいな」


「だぁー! わあってるよ! お嬢さんも愛してるしリィナだってもちろん愛してるっての!」


 ったく、困ってるようでまんざらでもない顔しやがってこのハーレム狼は。


「とにかく! 早速作業すっぞ作業! おいルキフクス、元気な男連中集めてこい、いろいろ教えてやっから!」


「りょ、了解です!」


「それじゃあサフキエルさん、私達は怪我人の治療と、さっさと作業にいっちゃった人達のために美味しいものを作りましょうか」


「は、はい! 頑張ります」


 こうして苦難を乗り越えた集落は新たな形でスタートを始めた。

 愛を知ったこの場所はカロフ達の助けもあってきっと大きく発展していくだろう。


 この世界にこんな場所があるなら私も探しやすくなるはずだ。

 とりあえずもう少しついていって様子を見……。


ザザ────


あれ


ザザ────ザ────


なんだ 急に 意識が 遠のいて


ザ──ザ──ザ────────


世界が  暗 く  なって  消 えてい  く











────プツン


事象ノ修正-雷狼神ノ章-ガ完了シマシタ



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