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325話 消滅の回避手段



「それで、世界を救うなどというなかなかだいそれた目標を掲げるのはいいとして。具体的にはどうすれば救われるんだ?」


 未知の世界に降り立った今の私にとって、その情報のみがこの先の判断を決めるための材料になるに違いない。

 そしてそんな大きな目的を持つ少年少女の同行者、ゼロとティーカの二人の存在。


(まさかこの世界に人間が生まれているなんてな)


 ここは間違いなく私があの終極神……私達の宿敵たる事象の管理者の中に無理やり構築させた世界だ。

 自身の世界を持つことを拒んでいた終極神はてっきり生まれる世界を否定し抗っているものだとばかり考えていたのだが……。


「おい、ちゃんと聞く気あんのかよ」


「おっと、スマンスマン。急な考え事は私の癖なものでな」


 しっかし、こんな感覚も久しぶりだな。

 事象の管理者となった日から私にとってアステリムはもはや体の一部のようなもので、どこに行っても新鮮味がなかったせいかこのように考察に知恵を巡らせる癖が出てしまった。


 とにかく、今は話をちゃんと聞いておかないとな。


「いいか、おれ達がこの世界を救うためには、まず“鍵”が必要なんだ」


「“鍵"”か……確か先ほどもそんなことを言っていたな」


 おそらくそれこそが今回の旅における重要なワードになるのだろう。よし、だったらじっくりと聞かせてもらうじゃないか。


「そいつが世界のどっかに散らばってるらしいから、全部集めればなんとかなるってことだ」


「なるほどなるほど……それで?」


「え……? あーっと……だから集めるんだよ!」


「いやそれだけかい!」


 そういう収集系の冒険にはもっとこう……なんかあるだろう! 人を寄せ付けない過酷な環境に向かうだとか、未知のモンスターが根城にしているとか。

 しかもただ集めるだけで救われるというのも具体性がなさすぎて何が起きるのかもまったく想像がつかん。


「そもそもの話、この世界を何から救うというんだ?」


 まずどのような問題に直面しているのかというところから私は知識を持たない。その辺も教えてもらえれば差し支えないのだが。


「……あんたに、そこまで教える義理はねぇ」


 それを話してくれるほど心を開いてはくれてないか。

 最初はゼロがただ説明下手なだけかとも思ったが、この反応からして何か言いたくない事情がありそうだ。


 ここは出会ったばかりで信頼不足ということで諦め……。


「ゼロ、話した方がいいと……思う」


 ようと思ったのだが、思わぬところから助け舟がやってきた。自主的に喋るような子だとは思ってなかったのでちょっと意外だな。


「本当にいいのかよ? まだおれ達を騙してるって可能性もあるんだぜ」


「大丈夫、そんな……気がするから」


「まぁティーカのそういう勘はなんかあるからな。仕方ないから教えてやる」


 ゼロもそれで納得するのか。ティーカの言葉にはそれほど信頼に値する何かがあるということか。

 この二人の関係も気になるところではあるがまずは。


「なぁ、あんたは“砂嵐”って現象、知ってるか?」


「砂嵐? というと砂が勢いよく舞うあれを想像するが……現象という言い方をするということはきっと違うんだろう?」


「ああ、そうじゃねえ。おれの言う“砂嵐”っていうのは……突然周囲の物質、いや"存在そのもの"が小さな粒みたいにバラバラになって、小さく大きくどんどんブレて……最後には消滅しちまうんだ。物や自然、それに人間だって……例外なくだ」


 この言い方……ただパッと消えるのではなく、まず粒子的な分解が発生して、それから液晶の画面がバグを起こしたように荒れて消えるということか。

 確かにその消え方は普通じゃない。しかもそれで人間まで突然消えてしまうのなら恐怖以外のなにものでもないだろう。


「そのせいで、おれの住んでいた場所も……消えちまったんだ!」


 言葉の中に段々と感情がこもっていく。そうか、それがゼロを世界救済へと突き動かす原動力なんだな。


 この世界が直面している危機はなんとなく理解できた。とにかく、なんらかの理由かはわからないが徐々に世界が消滅してしまっているということだ。

 となれば残る疑問は……。


「どうして“鍵”があれば世界を救える。その“砂嵐”を抑える力がある、ということか?」


「それは……おれもよくわかんねえ。詳しいことは、多分ティーカしか……」


「……」


 二人で彼女の方を見るが、相変わらずのだんまりで何かを答えてくれる様子はない。

 これまでの彼女とのコミュニケーション方法はあちらからの一方的なものだけだ。


「なぁ、そういや二人はどうやって出会ったんだ? 昔からの馴染みにも見えないが」


「ああ、ティーカとは……“砂嵐”の後に出会ったんだ。おれの住んでいた場所が消え去った……その直後にさ」


「思い出すのが辛いなら話さなくていいぞ」


「うっせ、余計な気遣いなんていらねえよ。ここまで話したら、もう全部言っちまった方が気が晴れる」


 そこまで言うなら私は黙って聞いていよう。


「おれの住んでいた場所は結構発展してたんだ。この世界じゃ“砂嵐”は当たり前で、記録上ここまで大きな発展を遂げた場所もなかったから、みんな希望にあふれながら生きていたよ」


 場所……先ほどから村や町などの単語が出てこず、他にも言い方に気になる部分があるが、やはりこの世界は私の知る世界とはどこか異なるのだろうか。


「だけどやっぱり“砂嵐”は起きた。みんながこれまで積み上げてきたものが一斉に、一瞬にしてバラバラになって消えたんだ……おれだけを残して」


 それは……想像もできない辛さだろうな。

 私だってこれまでアステリムで積み上げてきた大切なものを守るためにずっと抗い、戦い続けてきた。そんな私の気持ちと、ゼロの想いはきっと同じなはずだ。


「だが、なぜゼロだけは“砂嵐”に巻き込まれても消滅せずに済んでいたんだ?」


 口をはさむつもりはなかったのだが、その部分だけはどうしても気になってしまった。

 これまでの話だと、“砂嵐”はすべてを例外なく消滅させるものだとばかり考えていたが。


「それは……」


「それはゼロが……世界を救う“運命”をもって生まれていたから」


 私の疑問に答えるように口を開いたのはまたしてもティーカだった。ゼロの生い立ちについてはなんとなく理解はできたが、この少女の方は未だに一切が謎に包まれている。


 それに……。


「“運命”?」


 その単語も“鍵”と一緒に聞いたものだ。その言葉には様々な意味があるだろうが、今、この場においてそれは何を意味しているのか。


「ああ、そこでティーカが現れておれに言ったんだ、「あなたは“運命”に選ばれた人間。わたしと一緒にこの世界を救ってほしい」ってな」


「それで今まで一緒に旅を?」


「まぁ最初はわけわかんなかったけどな。どこ行ってもずっとおれの後ついてきてさ、その途中で助けたり助けられたり、ティーカが真剣なこともわかった」


 なるほどな、“運命”だのティーカの真意だのまだまだ分からないことだらけではあるが。


「ふむふむ、ゼロ的には一緒にいることで好感度が上がっちゃったわけね。まさかもう、うら若き少年少女の淡い恋物語に発展したりしちゃってたり?」


「は? なんだそりゃ。なにわけわかんねーこと言ってんだよ」


 おっと? ゼロのようなツンツンした性格ならこうしてちょっと茶化せば顔を赤くして否定するかなとも思ったのだが、予想が外れたか。ティーカもなんの反応もないし。

 うーむ、そもそも二人はまだそういった年ごろではないのか? それならここはひとつ、人生の先輩として恋心というものについての享受を……。


「……ッ! ゼロ……くる!」


 と、そんなお茶目をしようとした矢先、ティーカが突然声を挙げ今まで進んでいた道の先をじっと見つめ続けていた。


「クソッ、こんな開けた場所でかよ!」


「おいゼロ、そんなに動揺していったい何がくるというんだ」


「……喜べよ、あんたが興味津々だった“砂嵐”さ」


「なに……!?」


ザ――ザザザ――――ザザ―――――


 本当に、それは突然訪れた。

 私達の目の前の岩や草……いや、大地や空気までもといった"空間"そのものがまるで電子のノイズのように乱れ、原形を保てなくなったように乖離していく。


「これは……道が崩壊しているのか!?」


 まるで大地に穴が開いたかのように“砂嵐”によってノイズとなった空間が消え去り、目の前の世界が消滅していく。


「今回はこのパターンかよ!」


「……こっち!」


 崩壊する世界の中、急にティーカが声を挙げ走り出す。どうやらまだノイズ化が進んでいない場所のようだ。

 とりあえず、私とゼロはそのあとを追うように走り出すが。


「本当にこっちで合っているのか」


「黙ってティーカについてけ! あいつはこういう時は本当に頼りになるんだ!」


 その声からは迷いの一切ない、とても強い信頼が感じられる。きっと二人はこういう場面に何度も遭遇してはこうして危機を乗り越えてきたんだろう。


「ふぅー……ようやく収まったみたいだぜ」


「逃げきれたのはいいが、なんだか先ほどの場所とは雰囲気が違うな」


 危機は去ったようだが、私達の立っている場所は明らかに先ほどとは地面の感覚や岩肌の質感が変わっていた。

 草木はなくなり、なんだかゴツゴツとした道や遠くの方にはなんだか規則的に積み上げられた岩の建造物のようなものまで見える。


「こんな場所、おれも見たこと……もしかして! なぁティーカ!」


 ゼロが奥に見える建造物を見た途端、歓喜の声を上げてティーカの側まで走り出していく。


「あそこが“鍵”のある場所なんじゃねえか!?」


「うん……そうだよ」


「よっしゃあ! ずっと旅してきたけどそれらしい場所なんて一向に見つからないから一時はどうかることかと思ったけど、ようやく見つけたぜ!」


 あそこが……ゼロ達が探しているという“鍵”の眠る場所なのか。

 私としては案外あっさり見つかった感があるのだが、ゼロのこの喜びようから見るに本当に苦労して探してたんだな。


「何はともあれ良かったじゃないか」


「ああ! まさかあんたと出会ってこんなすぐ最初の“鍵”が見つかるなんてな。幸運でも引き寄せてるのかよあんた」


 私は別に何もしてないのだがな。

 ……ただ私もこの世界に降り立ってから二人に出会うまであるき続けていたが、こんな急に景色が変わることもなかった。

 となると、もしや先ほどの“砂嵐”になにかあるのか?


「まぁとにかくようやく見つけたんだ。早速向かおう……って、どうしたティーカ?」


「ダメ……逃げなきゃ……」


 どうもティーカの様子が落ち着かない。先ほど逃げてきた方向を見てはひどく怯えているようで……。


ザザ――――


「これは……また“砂嵐”か?」


 ティーカの視線の先、そこに目を向けると再びノイズのように空間がぶれ出しはじめていた。

 だが規模は先ほどのものと比べると全然小規模、それこそ人間一人分くらいの……。


「くっそ! ティーカが怯えてんのはそういうことかよ。まさかこいつまで出てくるなんて」


「どういうことだゼロ。あれがいったい……!?」


 それは、とても不可思議な現象だった。目の前に見えていた“砂嵐”のノイズが徐々に人型の輪郭を成したと思った瞬間、その内側が暗く塗りつぶされるように姿を表したのだ。

 それはもはや"色"という概念では表せないような、どこまでも深い宇宙のようなものがノイズによって形を保たれているような。


(人でも魔物でもない……だが奇妙な事象力は感じる)


 私でさえあれの正体を見極められない。あれはいったい……。


「あいつが、あいつこそがこの世界を破壊する……おれ達の"敵"だ!」



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