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31話 割のいい仕事


 おいおい誰だい、こんな死にかけの私に声を掛けてくれるのは。

 これは空腹で死にそうな主人公にヒロインとなる心優しい美少女が助けてくれてそのままお家へゴーのパターンなんじゃないか!


「この私に何か用かな?」


 焦らずクールに振り向くと、そこには! 初老で細身の男が立っていた……。


「ワウ(ご主人……夢見すぎっす)」


 うるさい、今の私は夢見る10代なんだ、少しぐらい期待したっていいだろう。

 まぁ振り向く前から声からして男っぽいとは感じていたけどな。


「はぁ……で、何の用だおっさん?」


「えっ、あ、ああ……はい」


 あからさまに態度が変わった私に戸惑いつつも男は私に要件を伝える。


「失礼、私はルーベンス商会というものの使いでして。昨日ちらっとあなたの風貌を見た時から思ったのですが、もしかして魔導師様ではないのですか?」


 ほう、こいつ見る目があるな。

 そう! 私こそ現代に蘇った最強の魔導師ムゲンだ! ……と言いたいところだが、私は今この世界では公に魔導師とは呼べない。


「残念ながら私は魔導師ではない、魔導師ギルドに所属していないからな。まぁそれでも魔術は扱えるから、正確にははぐれ魔導師といったところだ」


 ここで本当に私が魔導師と呼べる存在ならこの男は喜んで頼み事でも何でも言うだろう。しかしはぐれ魔導師の私では不安になりそそくさと申し訳なさそうに帰って行くんだろうな……。

 昨日何か仕事を探したが、はぐれ魔導師では信用できないと言われどこもかしこも門前払いだったからな。


「はぐれ魔導師……いえ、それでも別にかまいませんよ!」


 おや、突っぱねられると思ったら意外と好印象。


「いいのか?」


「ええ、現在私共は一人でも多くの人材を欲していて。はぐれ魔導師だろうが流れの傭兵だろうがお構いなしですよ」


 若干不信感を感じるものの私にとっては明日へ生き延びるチャンス、とにかく話を聞こう。


「昨日のあなたを少し見ていたら、どうやらお金に困っている様子でしたね。そこで、あなたのような方々に割のいい仕事をもってきたのですよ」


 おっ、きたきた! 今の私には願ってもない話だ。

 だがここでがっついてはいけない、あくまでクールに対応するんだ、足元を見られるからな。


「仕事か……内容と報酬は?」


「はい、仕事の内容は我々が扱う商隊の荷馬車を護衛してもらうことです。報酬は……そうですね、1万ルードは出させてもらいます」


「いちまんルード!」


 ファッ! え、なにその大金、ただの護衛任務でそんなにもらっちゃっていいの!?

 いや、それよりも……。


「1万ルードあれば魔導師ギルドに入ることができる……」


 入会金さえ払えれば私の実力なら一か月もしない内に魔導師と認められることも不可能ではないかもしれない。

 ギルドに入ることさえできれば元の世界に帰る方法を研究しながら仕事で金を稼ぎ、世界中をギルドのお墨付きで巡ることができるようになる。


「ワウワウ(ご主人、この仕事受けるんすか? 僕はなんか胡散臭く感じますけど)」


「おわっ! びっくりしました。なんと、魔獣使いでもありましたか……」


 おっさんが犬にビビってる、なんかシュール。

 そうだな、ここは私のことを強く宣伝しておくか。


「ふふふ、こいつは私が倒した新種の魔獣の子で幼いうちから育てているという訳なのさ。本来はとても凶暴だが今はこうして従えている」


「ワウ!?(え! なんすかその設定!?)」


「いいからノリに合わせておけ(ボソボソ)」


「ワフ……が、がるるぐおー(わかったっすよ……。た、たべちゃうぞーこわいぞー)」


「おお、お若いのになんとも頼もしい」


 私には全然怖くない犬の叫びだったがおっさんは怖がってるな。とにかく、この仕事さえこなせば魔導師ギルドだ!

 これは腕が鳴るな……。


「それでは私についてきてください、依頼主や他の護衛者さんももう酒場に集まっている頃でしょうか……」


ぐぅぅぅぅぅぅぅううう……


 ついでに腹も鳴ったな……。


「酒場に向かう前に何か少しお口に入れますか」


「お願いします……」


 酒場へ向かう途中、おっさんからパンとスープを買ってもらい少し腹に入れた。

 だが、足りない、圧倒的に足りない。


 耐えろ! 耐えるんだ私! この仕事さえ終えることができれば待っているのは充実した異世界魔導師ライフ!


「ワフゥ(ほんとに大丈夫っすかねぇ……)」




ぐぅぅぅぅぅぅぅううう……


「ああ、腹減ったなぁ……」


 おっさんに仕事を紹介され酒場に向かってる中、私の腹はしつこく鳴っていた。


「ワン、ワワン(ご主人、我慢してくださいよ、さっきパンとスープを御馳走になったじゃないっすか)」


 あれでは全然腹は満たされん。

 なにせ二日はまともに食事をしてないんだ、あれっぽっちじゃ逆に腹が減ってくる……。


「大分お腹が空いてるようですね。でも大丈夫ですよ、護衛中は朝晩ちゃんと護衛者全員分の食事が出ますから」


 それはいいことを聞いた。

 食事の問題も解決し護衛料で魔導師ギルドにも入れる……いいぞ、ここにきて運気が一気に向いてきた。


「なぁおっさん、今回の仕事について詳しく聞きたいんだが」


「はいはい、何でしょう? 私が答えられることならなんでも答えますよ」


「今回の護衛の規模だ。どのぐらいの大きさの馬車が幾つかとか、護衛の人数はどれぐらいなのか、とか」


 なにせ報酬が1万ルード。

 しかも私のようなはぐれ魔導師でも雇用するくらいだ、そうとう大がかりな仕事だろう。


「そうですね……荷馬車は大型一台と中型のものが三台ほど、護衛人数は残念ながら酒場に着いてみないとわかりません。なにせこうして人材を集めている者は私以外にも何人かおりますので」


「そうか、わかった」


 意外だな、これだけ大がかりなのに荷馬車は大型一つと中型三つのみ、それなのに護衛人数はありったけ集めようとする。

 多額な護衛料に食事も出しては赤字になるんじゃないか?

 あるいは、そんなリスクなんてものともしない重要な商売道具なのか……はたまたほかに何か意味があるのか。


「ワウゥ(やっぱりこの仕事やめたほうがいいんじゃないっすか……。今からでも遅くないっすよ)」


「いまさら何を言う。それに、私達には今のところこれしか手段はないんだ」


 何かあったらその時は仕方がないと思うさ。

 まぁ何が起きても私の魔術でなんとかしてみせる。


「到着いたしました、どうぞこの酒場でお待ちください。まもなく私達の商会の会長が御見えになります。では私はこれで……」


 そう言っておっさんは酒場の裏へ消えてしまった。

 それにしても……酒場か、これはもう飲むしか!


「ワウワウン!(だめっすよ、ドラゴス先輩から「あいつが未成年のうちは酒を飲ませないように」ってきつく言われてるんすから!)」


 ドラゴスめ、余計な事を! てか先輩って……お前らいつの間にそんな仲になったんだよ。


「ワフ(あと僕達お金ないじゃないっすか)」


「そういえばそうだった」


 ぐぬぬ……仕方ない、今日のところは諦めてやろう。とりあえず中に入るか、さてさてどんな奴らが集められたのかな?

 こういうのってむさいおっさん達に紛れて一人だけ気の強い女剣士がいるパターンとかもあるよな!


ギィィ……


 そう、この扉は言わば希望の扉と言ったところ。さぁ麗しい女剣士さんはいるかな。


「おらぁ! てめぇ調子ぶっこいてんじゃねぞ!」

「あぁん!? そっちが先にいちゃもんつけてきたんじゃねぇか!」

「うるせぇぞクソ共が! やるなら外でやりやがれ!」


「……」


「ワウ(ご主人、さっきも言ったけど夢の見すぎっす)」


 店内には男、男、男……女性の影など微塵も感じられなかった。しかもどいつもこいつもムキムキマッチョの臭そうな奴ばかり、よくもまぁこれだけ集まったもんだ。

 しかし真昼間から元気だねあんたら、酒の匂いもすごいし。

 とりあえずカウンター席へ移動するか。


「あん!? なんだ貴様、ここはガキの来るところじゃあねぇぜ!」


「はっ! ママとの待ち合わせ場所を間違えちゃったかな。ガキは早く帰ってママのおっぱいでも吸ってな! ぎゃはははは!」


 座って早々いちゃもんをつけられる。

 なんで酒場ってのはこう下品な奴が多いんだろうな……まったく。


「そうだな……じゃあミルクでも貰おうか」


「舐めてんのかこのガキャあ!」


 突っかかってきた男は私の態度に腹を立てたのかいきなり殴りかかってきた。


「『防御膜シルドローブ』」


ゴッ!


「……ッ! 痛ぇ!」


 男の拳は的確に私の頭を捉えたが痛がっているのは男の方だった。

 『防御膜シルドローブ』は無属性のバリアのようなものだ、アレス王国の戦いでアリスティウスもこの膜を張っていたから完全に倒すことができなかったんだよな。


「クッ! てめぇ、魔導師か!?」


ざわ……ざわ……


 魔導師という言葉に店内がざわつきだす、見たところ他に魔導師はいないみたいだし物珍しさもあるからな。私のようなのは特に目立つだろう。


「ああ、私は魔導師だ。"はぐれ"が付くがな……。で、どうする? まだやるか」


「ぐぅ」


 男が尻込みをする。

 まぁそうなるわな、今の世では魔導師一人で並の兵士百人分の戦力になると言われているほどだ。

 ま、それでもまだやるっていうなら私も……。


「静まれぇい!」


「うおっ! なんだ!?」


 入口のほうから大きな声がするのでそちらを向く。そこには先ほど私を連れてきたおっさんと同じような格好をした人が数人。

 そしてその人達の中心に先ほど声を発したであろう身なりのいい小さいおっさんが偉そうに立っていた。


「おい、まさか」

「ああ、本当に彼が来るなんてな……」


 先ほどとはうって変わって静かになった店内で数人がひそひそと会話し始める。

 なになに気になる。


「なぁなぁ、あのおっさんそんなに有名なの?」


 先ほど私に殴りかかってきた男に酒場に入ってきた小さいおっさんについて尋ねる。


「お前知らねぇのか? 奴はここ数年で商人ギルドに多大な貢献をして“大商人”の称号を得たルドルフ・ルーベンスっていう商人だよ。俺達をここに集めたのも奴だ……って何で俺がテメェにこんなこと教えなくちゃいけねぇんだよ!」


 説明してから怒るなよ。

 しかし、あいつが今回の仕事の依頼人か、宝石やらなんやらをじゃらじゃら付けて。なるほど、羽振りがよさそうなこって。


「ひぃ……ふぅ……ざっと30人ってとこか。まぁいい、金が欲しい者は私についてこい。すぐに出発する」


 おいおいもう出発か、早いな。

 私としては景気づけとして出発前に皆にごちそうをふるまうとかやってもいいんじゃない? と、思っているのだが。

 てか腹が減って減って……。


「おい! ちょっと待ってくれ! この護衛が終了したら1万ルード本当に貰えるんだろうな! 人数が多いからって報酬を減らされたらたまったもんじゃねぇぞ!」


 どうせだったら飯を要求してくれ。

 しかし、そこは私も気になるな……いくら羽振りがよさそうだからといってこれだけの人数、一人1万ルードとして30人だから30万ルード! 本当にそんな大金払うのか?


「ふん……安心しろ、人数が多いからといって報酬を下げる気はありゃせんよ。むしろ良い働きをした者には追加で報酬をやろう」


「まじかよ……」

「追加報酬……」

「お、俺はやるぜ!」


ざわ……ざわ……


 また店内がざわつき始める。

 金持ちの考えることはよくわからんな。だがこれでほとんどの者はこの護衛から降りることはなくなったといってもいい。


「金に糸目はつけんよ……さぁ! わかったならとっととついてこい!」


 追加報酬と聞いて皆やる気が出たのか、次々とちびおっさんの後ろについて行く。


ドンッ!


 おっと誰かぶつかってきやがった……ってさっき殴りかかってきた奴か。


「おっと、てめぇか。へへ、追加報酬は俺のもんだ魔導師小僧。俺の名はガレイ・ナックル……戦闘じゃせいぜい俺の間合いに入らないように気をつけるんだな」


「おう、私はムゲンだ。よろしくなカレー」


「ガレイだ!」


 カレーは怒りながらずかずかと行ってしまった。ん、ガレイだったか? まぁ腹が減ってるからおいしそうな名前に聞こえてもしょうがない。


「ワウ(おいしそうな名前の奴でしたね、嫌われそうな性格してるっすけど)」


「まぁこれから護衛で毎日顔を合わせ共に戦うんだ。むさい奴らでも仲良くしないとな。さて、さっさと行かないと置いてかれるぞ犬!」


 気になることは色々あるが、金|(と飯)を手に入れるためにこの護衛任務、張り切っていきますか!


ぐぅぅぅぅぅぅぅううう……


 でも、やっぱり腹は減ったままなんだよなぁ……。



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