30話 いきなり死にそうです…
2章スタートです
どうも皆さんこんにちは。皆の心の主人公、魔導師ムゲンこと無神限でっす。
そんな私が第三大陸『トリニ』を離れてから早一週間。無事第二大陸『トルウェ』に降り立ち元の世界へ帰る方法を探しながらの生活を送っていた私は今……。
ぐぅぅぅぅぅぅぅううう……
飢えて死にかけていた。何故だ、いったい何処で選択をミスったというんだ。
「腹が……減ったな……」
「クゥ~ン……(一昨日からずっと空きっぱなしっすよご主人……)」
現在、私と使い魔である犬はこの大陸で最初に降り立った港町、その路地裏でげっそりしながら倒れていた。
ああ、空腹で一歩も動けない。せめて……せめて金さえあれば。
「ワウワウ(そもそも、ご主人が考えもナシに二人からもらった金を豪遊するからいけないんすよ)」
「うっ……い、一応考えはあったんだ。ただちょーっとだけ私の予想と外れる展開になってしまっただけで」
第三大陸から出発するあの日、リィナとカロフの二人から船の代金と数日分の生活費を受け取っていた、この世界でもの私の全財産だった1280ルード……。
ルードはこの世界の通過だ。紙幣ではなく硬貨のみで、金貨、銀貨、銅貨とかそういうの。
んでもって、肝心のここまでの旅路に使った費用だが。
まず船の代金が500ルード、船旅での三日間は船内で朝、晩の二食が無料で提供されていたので食費はかからなかった。だから残金は580ルード。
船を降りて、朝昼晩の食事を一番安い物にすれば約100ルード、宿と一緒なら一日約120ルード程度で済む。なので普通ならこの町でも四、五日は不自由ない生活を遅れるはず……だった。
「ワフワフ(新大陸記念だとか言っていきなり高いご飯を食べて高い宿に泊まって、さらにはいらない買い物までして)」
「べ、別にいらなくはないだろう」
そう、港町に着いて最初に地図帳を買ったのだ。まぁ450ルードとちょっとばかし値が張ったが、今の世界を知るためには丁度いいだろうということで即購入。
……その後、いきなり一日300ルードもする宿に泊ったのは流石に反省はしているが。
くそ、これでは某ギャンブル漫画の主人公のことを笑いながら読んでいた私が馬鹿みたいじゃないか。
「てか犬、お前だってめっちゃ嬉しそうに飯食ってたろ。お前も同罪だ同罪」
「ワウ(あの時はご主人がお金を稼ぐいい方法があるって言うからそれに乗ったまでっす)」
こいつ……私の使い魔のくせに生意気な。
だがその通りであることは事実。確かにあの時の私には「明日になれば金を稼ぎにいくさ!」という軽いノリだった……しかし。
「まさか、今の世に冒険者という職業が存在しないとは思わなかったんだよ」
そう、この世界には冒険者というものが無い。いや、個人が勝手に世界を巡り冒険をするのは別に構わないが冒険者という職業は認められていない。
つまり、こういった異世界トリップものの定番『冒険者ギルド』というものがこの世界には無いのだ。前世では似たような『何でも屋』の集まりもあったので大丈夫だろうと高をくくっていたのに。
それを知ったのは高い宿に泊まった次の日にそこら辺の人に「冒険者ギルドはどこかにないか?」と尋ねたら「そんなギルドはこの世に存在しないよ」と言われた。
その驚愕の事実に背筋が寒くなった私はさらにその人からいろんな話を聞いたみたわけだ。
んで、どうやらこの世界で安定した収入を得るには一般的な職や家業の他にはこの世界に存在する四つのギルドに入り、そこで仕事を請け負うことで賃金を得ることができるらしい。
「ワン(もうどれでもいいから無理にでもギルドに入っちゃえばよかったんじゃないっすか? そしたらこんな目には……)」
確かに今の私が手っ取り早く金を得るにはどこかのギルドに所属するのが一番いいだろう。
だが……。
「どれも私に合わないものや条件が面倒くさいものだったからなぁ」
私だって最初はギルドに入ろうとは思ったさ。
この世界に存在する四つのギルド……まずは『戦闘・討伐ギルド』通称戦討ギルド、これは世界中に数多くの部署が存在する一番有名なギルドだ。
仕事は主に人に危害を与える魔物の討伐や護衛など、人によっては傭兵のような仕事を請け負っている者もいるらしい。
一番冒険者っぽい仕事だと思ったのはここだ、だがこのギルドは荒っぽい仕事以外は日本でいう警察のような役割が主流のようで、勤務先や行動に制限があり自由に動けないのだ。
「だからまずここはなし」
次に『商人ギルド』、商売を道を志す者なら絶対に所属したいギルドだ。
冒険者ギルドが無いとわかって最初に考えたことは、何か物を作って売り捌けばいいのでは? と思ったんだが……この世界ではギルドに所属しない者が行商をすることはおススメされない。
その理由は"安全性が不安視される"かららしい。
商人ギルドに所属している商人の店の品にはギルドを通して安全、安心、高品質と認められた証がついているのだ。これは中央の大国達も認めている制度で、これさえあれば村の個人営業の店よりも少し高く金額を設定してもこちらを買う人のほうが多いんだと。逆にこの証がない怪しい行商人なんかの店では安くても売れないといったこともままあることなんだとさ。
以上に加えて、この証とやらにはランクがあるらしく高ランクの商人ほどよく売れる。ランクを上げるためにはギルドへの貢献度で変わるシステムらしい。
「で、商売の才能が無い私にはこのギルドは向いていないのでここもなし」
お次は『建設・製作ギルド』通称建製ギルド、ここはそこまで有名なギルドではないが様々な国で活躍する組織だ。
このギルドは国や他のギルドからの要請を受けて建物の建設から武器の製作などを請け負う仕事をしている。魔物の被害や戦争の被害を受けた国や村の復興には彼らがすぐに出動するわけだな。
人々が利用する街道の整備なんかもほとんどがこのギルドの仕事らしい、まさに縁の下の力持ちと言ったところだ。思えばアレス王国の城で派手にやったのに数日後には元通りになっていたのはこのギルドのおかげだったんだろう。
もう一つ特徴を上げると、このギルドはほぼ人族のみで構成されてるとのこと。お国の意向やらなんやらで複雑な事情があるらしいがその辺のことはよぐわがんね。ドワーフ族とかこのギルドはうってつけと思うのにな。
「ま、汗臭い仕事は趣味じゃないしここもなし」
そして最後、『魔導師ギルド』……名前の通り魔導師達のために存在するギルドだ。
魔術を扱える者が減少していく中、一人の魔導師が考案して誕生した一番新しいギルドで、設立してから数多くの魔導師を世に生み出してきたまさに魔導師の聖地とも言える場所だ。
ここでは魔導師の育成、そして魔導師と認められた者は新たな魔術の研究や魔道具の製作、戦討ギルドの支援に国の重役や古代文明の調査など様々な分野で活躍してるという。
ここだ、ここしかない! このギルドの話を聞いている時私の胸は高鳴りを抑えられなかった。前世の私と同じような、多くの者に"魔"の技術を教えようという考えを持つ者が私が死んだ後に現れていたという事実に興奮を隠しきれなかった。
私が入るべきギルドはここしかない! と、思っていたのだが……。
「はぁ……なんやねん入会金1万ルード、月額4500ルードって。んな金がどこにあるっちゅーねん」
そう、なんとこのギルドお金を取るんです!
おかしくね? お金が欲しいからギルドに入って稼ごうとしてるんじゃん。……と、思ったんだが、どうやら現在の魔導師とは魔導師ギルドである程度の教養を得たのち、承認試験を合格し認められることで初めて仕事を斡旋してもらえる立場になれるらしい。まぁ学校みたいなもので卒業できたらそのまま就職できる場所といったとこか。
それと、このギルドがお金がを要求してくるのにはそれなりの理由がある。魔導師ギルド以外の三つのギルドはそれぞれバックに大きな国の後ろ盾があり、そこから経営のための資金が出ているらしい……まぁ親会社みたいだもんだな。
しかし、魔導師ギルドは個人が勝手に作り出した言わば独立した会社だ。有名になったはいいが規模も人手も足りなくなりそれでも魔術を少しでもかじった半端者が仕事をヨコセヨとやってくる。
これではまともな技術を持たないにわか魔導師がどんどん出来上がってしまう。そう考えた創立者は自ら魔導師を育てその見返りに金をもらう、認められた者は正式にギルドの一員になれるといったシステムを作り上げたわけだ。
金を取るギルドとして悪評が立とうがちゃんとした魔導師を世に送りたいという創立者の意志だ、感動的だな。だが、予想に反して入会者は続々と増えていく、それもほとんどがまだ年端もいかない子供ばかりが。
幼い頃から自分の子に魔術の教育を施し、優秀な魔導師になれば泊がつくと思った金持ちの親が金に糸目を付けず入会させてきたのだ。
「まったく、どうして大人ってのはこういやらしいことを考える奴が多いんだろうな」
「ワウン(精神年齢2000歳超えてるご主人がそれを言うんすか……)」
うるさい。肉体はまだピチピチの15歳だ。
まぁ、そんなこんなで今の私にギルドへ入るための金など持っているわけもなく、こうして野垂れ死んでいたわけですよ。
ちなみに、魔導師ギルドの授業に耐えられなかったり、何度も試験を受けては落ちている者がギルドを抜けるといった例も珍しくないらしい。
そういった者や魔術は使えるがギルドに属していない者が勝手に魔導師を名乗る事がある。
人は彼らを“はぐれ魔導師”と呼ぶ。
つまり……。
「はぁ、はぐれ魔導師か……。私は今のこの世界では認められない存在なんだな」
「ワウ(なんか経験値多そうっすね)」
どこぞのメタリックなスライムと一緒にすな……。
入会しなければ実力を見せることもできない……せめて金があればなぁ。
しかし今の状況は本当マズイ、水は魔術でどうにかできていたが、流石に何か腹に入れないと精神的にも摩耗して魔術すら使えなくなってしまう。
前世では長寿の術がそのまま絶食状態でも生きられるものだったからなぁ……。今世では使わないと決めていたが一回ぐらいなら。
「いや、いかんいかん。一回使えばそれだけで100年は寿命が伸びる。元の世界に帰った後どうするつもりだ」
しかし、ああ……だめだ、世界が霞んでいく。
「ワウワウ!(ご主人! しっかりしてください……ごしゅじーーーん!)」
「まぁまだ大丈夫だがな」
「ワグッ!(ガクッ!)」
冗談はこれぐらいにして、どうにかして金を手に入れないとな。
こうなったら強盗でもするしか……。
「すみません、そこのお方……」
と、私がそんな悪いことを考えていると突然に、誰かが後ろから声を掛けられ振り返る。
それが、これからこの大陸で始まる新しい物語の幕開けとなるとはまだ知らずに……。




