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29.5話 その後の二人

2章開始前にちょっと閑話を挟みます


-カロフのその後-


 ムゲンが意味深な言葉を残してこの大陸を去って五日が過ぎた。

 あいつは……もうとっくに第二大陸に着いてる頃だろう。


「あいつは自分自信の力で道を切り開くと言った、なら俺だってやってやるさ!」






 ムゲンを見送った後、俺はリィナと共にアレス王国へ帰還した。

 そのままリュート村へ帰ってもよかったんだが、王様が「どのような結果でも、二人共一度ここへ戻って来なさい」と言われたからそのまま王宮へ直行だ。


 そこで待っていたのは泣きながら激昂してる姫さんとそれをなだめる王様だった。この国はこんなんでいいのかちと不安になる光景だったぜ。

 んでもって、姫さんを三人で何とか落ち着かせたあと、王様から俺に驚くべき言葉が!


「新魔族の思惑だったとはいえキミの父親への最終的な判決を下してしまったのは私だ……本当にすまない!」


「お、王様!? 一国の王であるあなたが頭を下げるなど!」


 俺に向かって頭を下げる王様とそれを必死に止めるリィナを前に俺はびっくりしすぎて何も言えずにただ放心しちまった。

 そして……。


「償いと言えるかどうかは分からないが、君は騎士になりたいそうだね。しかもそこにいるエイプル騎士隊長と恋仲とも聞いた。そこで君に我が国の騎士隊長の一角となってもらう……という案を考えているのだが、どうだね?」


「……え? は? ふぇ!?」


 もはや思考が追い付かないで訳の分からねえ言葉の羅列しか出てこなくなっちまった。

 俺の足りねえ脳ミソじゃ一体全体何が起きてるのか理解がまったく追い付いてなかったからな。


「か、カロフが騎士隊長に!? し、しかし陛下、それはあまりにも強引なのでは……」


「なに、今この国の貴族達は亜人保護派の者が大半じゃし。彼は亡きカエストス元副隊長の息子だ。それに私の命を救ってくれた英雄の一人でもある! 実績は十分……それでも多少強引ではあるがな」


 俺が放心してる間にどんどん話が出来上がっていく。こっちは突然のことで頭が回らずどうしていいかわかんねえんだよ。


「そうじゃな、なんなら貴族の地位も与えようか。大々的なお家取り潰しのせいで貴族が大分減ったしのう……それに」


「ちょちょちょ! ちょっと待ってくれ! あ、いや…待ってください!」


「おお、すまないな。少し興奮してしまった。で、どうかね」


「え? あ、いやその……俺は、じゃなくて自分は……」


 テンパり過ぎだ。てか俺が騎士隊長!? いやいや俺ごときがいきなりなっていいもんじゃないだろ普通! ……だが、このチャンスを逃したら。

 てかなに王様にタメ口聞こうとしてんだよ! ムゲンじゃあるまいし。


 ……そうだ、ムゲンだ! 俺はあいつのおかげで、自分のこれからを決めたんだ!

 だから落ち着け、落ち着いて伝えるんだ……俺の決意を!


「……王のご行為は大変光栄に思う……です。しかし、自分は一介の農民に過ぎねぇ……です。そんな奴がいきなり騎士隊長になんてなったら混乱を招く恐れもあるだろうし……。そこでお願いがある……です! 騎士隊長じゃな……ではなくただの一般騎士……いや見習いでもいい! とにかく一から自分を騎士団に入隊させてもらいたいんだ!」


「なぜだ、お主にとってはまたと無いチャンスであろう? この機を逃せばこれほどの優遇はもう無いかもしれないのだぞ」


「確かにその通りだ……だが親父の息子であることや今回の事件、それらはすべて俺の力で成し得たことじゃねぇ……です」


 そうだ……五年前から俺は親父に背を向けて生きていき、今回の事件だってムゲンに言われなきゃついていかなかった根性なしだったんだ。

 アリスティウスとの戦いだって結局は自分の力で『獣深化ジュウシンカ』できず、ただ流されるままで……。


「だから、だから今度こそ! 自分の力で自分の道を切り開いていくんだ、あいつのように!」


 そうだろ……ムゲン。


「うむ、わかった、君がそこまで言うのなら仕方ない。カロフ・カエストス! そなたをこれより騎士見習いとして騎士団への入隊を認める! その身の一滴までこの国に仕えよ!」


「はっ!」


 下っ端でも何でもやってやる! 俺の騎士人生はここから始まるんだ!


「それと、カエストス騎士見習いに男爵の爵位も授けるぞ」


「へ?」


 え、ちょ! それは丁重にお断りしたはずだろ!


「これは熱い意気込みを見せてくれた君へのプレゼントだ。本当は最初エイプル騎士隊長に近い爵位でも授けようかと思っていたが、のし上がろうというキミの想いから貴族としての爵位で一番低い爵位を与えたんじゃ」


 いやいや、一番低いっつっても貴族は貴族だろ。てか俺が貴族!? またもや何がどうなってるのかわからず俺の頭は混乱しっぱなしだ。


「おめでとうカロフ! この国で初めての亜人貴族よ! リュート村の皆にも報告しなきゃ」


「あ、ああ……ありがとよリィナ」


 こうして、俺の騎士見習いであり貴族でもある新しい生活が今始まった。

 いや、全然実感は湧かねえんだけどよ。






「でもなぁ、大体貴族って何やりゃいいんだよ」


 今のところ、俺は王都にあるリィナの屋敷に厄介になっている。前の貴族の家での人事なんかがごたついてるせいで俺の家がまだ用意できてないんだと。

 てか俺の家って……。


 リィナは姫さんの世話で忙しいみたいだし、俺も貴族のマナーやらなんやらをリィナの家の奴らから教わってるしで結構合う時間が無ねえんだよな。


「せめてこういった自由時間は己を高めるために有効活用するか」


 思い立ったが吉日……だったか? とにかく、最近日課になっている魔力の制御と素振りをやるか。

 王宮内にある騎士の訓練場へ行こう。


「獣深化の力を自在に操れるようにならねぇとな」


 最近では動きながらでも魔力の制御が出来るようになってきた。

 これなら……いけるか?


「ふぅ、はぁあああああ!」


 体から魔力が溢れてくる! いけるか!?

 ん、い、いやこれは!


ボォオン!


 失敗したな、魔力が霧散していくのがわかる。こうなったら全身から力が抜いて、体と魔力を休めねぇとな。


「また失敗か、でも俺は諦めないぜ。いつか必ず……ん?」


 何だ? 上から何か振って……っておい! ありゃ人じゃねぇのか!?

 ちょっと待て、なんで空から女の子が……!


「なにいいいいい!?」


「きゃあああああ!」


ドォオオオオオン!






-リィナのその後-


 ムゲン君を見送ってから五日。

 あれから混乱していた街は落ち着きを取り戻し、なんとカロフが貴族で騎士見習いになっちゃいました!


「ムゲン君が知ったら驚くだろうな……」


 あの戦いのあと、私の任務は無事終了して通常の業務の日々に戻る……かと思いきや、姫様が私の部隊を直属の親衛隊にしたいというお話が舞い込んできちゃったの。

 でも本当はムゲン君を連れ戻せなかった私をこき使ってやるって話らしくて……。


「おかげで最近全然カロフに会えないなぁ……」


 カロフは現在私の屋敷に住んで貴族としてのマナーや騎士としての心構えを勉強中。

 二人共忙しくて忙しくて、そのせいで最近ご無沙汰なんだよね……。


「って何考えてるの私!?」


 今は仕事中なんだからそういう妄想はなし! ……けど、カロフったら騎士見習いになってからというものの、ますますカッコよさに磨きがかかったみたいな気がして……。


「リィナー、お茶まだー?」


「あ、はいただいま!」


 ……逆に私は騎士なのになんでこんな召使みたいなことやらされてるんだろ。




「ってなわけでねリィナ、やっぱり運命っていうのは存在すると思うの!」


「そ、その通りですね、流石姫様」


 現在は城内のバルコニーで姫様とティータイム。

 最初は姫様の後ろに立ち、剣の代わりにポットを持って待機していたんだけど、姫様が「つまらないから話し相手になりなさい!」ということで一緒にお茶を頂いています。


 最初は戸惑ったが女性同士ということもあってそれなりに話は合った。けど……その、姫様はなんというか……少し妄想癖をお持ちの方で。

 今も……。


「はぁ、勇者様……。何故わたくしを置いていってしまわれたのですか……。ミレアはあなたと一緒なら身分など捨ててどこまでもついて行きますのに……」


 重症でした。正直これに付き合わされるのが一番のお仕置きのような気がしなくも……。


 そんなことを考えてる内に姫様のアクションがどんどんオーバーに。

 立ち上がってくるくると回り出しちゃうし……。


「ああ! あなたのためならこの命だって!」


 いやいや、流石にそれは大げさ……って!


「姫様危ない!」


「へ?」


 いつの間にか姫様は手すりの近くまで移動していた。

 あれでバランスを崩したら大変なことに!


「あら危な……って、目が、目が回ってバランスが……あっ」


 回っていたせいでバランスを失っていた姫様は躓いてバルコニーから落ちてしまう。

 そんな、私のせいで姫様が……!


「姫様ー!」


「きゃあああああ!!」


 この高さから落ちたらただの怪我じゃすまない!


 私は急いで下へ降りると、そこには無事な姫様とその下敷きにされて気を失ってるカロフの姿が。え、一体どうなってるの?

 と、とりあえず……。


「姫様! お怪我は」


「ふええ、怖かったですわ。グスッ、でもこの方が身を挺して私を助けて……はっ! まさか」


 あれ、なんだか姫様の顔がほんのり赤くなって……情熱的な瞳でカロフを見つめているような……。

 嫌な予感……。


「そんな、もしかしてこの人が……私の運命の人……きゃ!」


「そ、それは駄目えええええ!!」


 こうして、私達の新しい日常は過ぎていく。

 ムゲン君がいなくても、なんだかドタバタした毎日だけどね。



~to be continued~



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