28.5話 新たな目標
「あー、頭痛ぇ。くらくらする……」
「もう、飲み過ぎだよ。そんなにお酒強くないくせにあんなに飲むんだもの」
ムゲンと別れたリィナとカロフは王宮の廊下を歩いていた。
酔いつぶれたカロフを抱えながら、それでもどこか嬉しそうな表情のリィナ。
「今日は……飲みてぇ気分だったんだよ。何もかもスッパリ忘れてな」
「そうだね、ここ数日間でいろんなことがあったもんね……」
それは、まさしく自分達の転機とも呼べる壮大な戦いと陰謀の連続。
加えてその最中に二人の関係性も……大きく変わったのだから。
「ほら、着いたよ。姫様が今夜はこの城に泊まっていいって言ってくれたから、ゆっくりと休んで。私はもう行くから」
「……いや、ちょっと待ってくれリィナ」
カロフをベットに寝かせ、そのまま部屋を去ろうとしたリィナの腕をカロフが掴む。
「なに、カロ……きゃあ!?」
そしてそのままリィナをベットへと押し倒していく。暗い部屋の中には二人の息遣いだけが静かにこだましている。
今、この瞬間に二人を邪魔するものは誰もいない……。
「お前にもさ……色々と話したいことがあるんだ。俺のお前への気持ちはあの時に話したよな。そして、お前はそれに答えてくれた……」
「……うん」
「あの日、親父が死んでお前が村からいなくなった時から俺にはもう何もないんだって……ずっとそう思って暮らしてきた。いつだって、あの時に戻れたらって考えるばかりで……」
自分の無力を嘆いてすべてを諦めた少し前の自分……。こうしてリィナと結ばれた今でもそれは後悔としてずっと胸に残っていた。
それを証明するように、リィナの腕をつかむカロフの手が小刻みに震える。
「カロフ……」
「でも、あいつ……ムゲンの野郎がやって来て何もないと思っていた俺の人生は一転した。あいつは俺に前を向く勇気をくれた。今回の一件のお陰でもう過去のことをグチグチと気にするのは……やめだ」
そう言うとカロフは起き上がり、月明かりの射す窓辺に立つとリィナの方へ向き語り始める。
「リィナ、俺……騎士になる。あの日捨てたと思ったはずの夢がもう一度俺の中で蘇ってきたんだ! それに、お前に釣り合うぐらいの男にならねぇといけねぇしな。……っとと」
まだ酔いが覚めていないのか、少し興奮気味になったカロフはふらりとよろめいて前のめりに倒れ掛かる。
が、それを察したリィナは即座に立ち上がり、倒れ掛かるカロフを包み込むように抱きしめるのだった。
「危ないよ、もう。私としては、別にカロフは今のままでも十分釣り合ってると思うんだけどな。むしろ私の方がもっと強くならなきゃ。……でも、カロフが騎士になるっていうなら私は応援するよ」
場の雰囲気のせいもあるのか、リィナも不思議なくらい自然な言葉で素直な言葉が溢れてくる。
そんな二人の顔はすでに茹でたタコのように真っ赤に染まっており、お互いに恥ずかしくて目を合わせられないでいるようだ。
「リィナ、その……明日にでも俺は騎士に志願しようと思う。でもよ……まだ少しだけ怖いんだ。だから……んっ!?」
カロフがセリフを言い終える前に、その唇がリィナの唇によって塞がれる。
普段おとなしいリィナがここまで大胆な行動に出るとはカロフも思ってなかったらしく、顔を真っ赤にしながら目を見開いて驚いている。
「……んっ……はぁ、別にその先は言わないでもいいよ。カロフはいつも強気だけど、本当は少し臆病だってこともちゃんとわかってるんだから……」
「リィナ……あんがとよ」
そして、そのまま二人は身を寄せ合いながらベットの中に沈んでいく。
そんな二人の様子を……月明かりだけが見ているのであった。
チュンチュン
そして……夜が明けた。時間はまだ早朝と呼べる時間帯……だが、何やら城内で騒ぎが起きているらしく、その騒音はカロフ達の部屋まで響いていた。
「ん……ふぁ~。なんだ、なんかうるせ……」
「大変ですわあああああ!」
どうやら騒ぎの主はミレアのようで、城のあちこちを回ってはで叫んでいるようだがその詳細まではここからではわからない。
だがその騒音は徐々にカロフ達の部屋に近づいてきており……そして二人が眠っている部屋に着くと、突如勢い良くその扉が開け放なたれる。
バァン!
「お二人共何をのんきに寝ているのですか! 大変で……って、きゃあ!?」
爆走状態だったミレアだったが、部屋に入るなり突然飛び上がってその場から視線を背ける。
なぜならその目に映っていたのは……。
「お……お二人共なんてはしたない恰好で……」
扉を開けたミレアの目に映ったものは、裸で抱き合いながら寝ているリィナとカロフの姿だったから。
「う~ん、一体なにごと……って姫様!? す、すみません! すぐに着替えますから! ほらカロフも早く!」
「うおおう!? ちょ、ちょと待てって!」
「わ、わたくしは外で待ってますから、早く身支度を整えてきなさい!」
突然の事態に混乱する三人ではあったが、とにかくカロフ達は着替えを済ませ、ささっとミレアの待つ場所へと向かうのだった。
「さ、昨晩は随分とお楽しみでしたのね……ってそれどころじゃないですわ!」
「落ち着いてください姫様。一体どうしたというのですか」
身支度を整え、きっちりと騎士の仕事モードになったリィナはさっきまでの恥じらいは何処へいったのかというほど冷静にミレアをなだめていく。
「我が国の勇者様が……昨夜からいなくなったのですわー!」
その言葉に二人は少しの間考えるように首をかしげるが、すぐにその言葉の意味を理解する。ミレアの言う勇者とは当然ムゲンのことだ。
そしてミレアの言うことが本当のことならば……。
「な、なにぃ!?」
「む、ムゲン君が!?」
ミレアがムゲンの部屋へ朝這いをしに行ったらベッドの中はもぬけの殻になっていたらしい。
そして、代わりに一言だけ書き置きが置かれていた。
『自分の道は自分で切り開く! 今まで世話になった byムゲン』




