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161話 自分を決めるもの

クライマックス!



『全員まとめて消え失せるがいい!』


 ダンタリオンの掛け声と共に魔導要塞から何本もの魔力によって作られた腕が生えてくる。それに加え両脇の装甲が変形し巨大な腕のような形に……まるで巨人の腕だな。

 あの巨大砲を再使用するまでの時間稼ぎというところか。

 どうやら奴も相当焦っているようだな。ディーオが覚醒した今こそ私達の勝機が明確に見えてきたからだろう。


 だからこそ私達も全力で戦う! この国の未来のために!


「皆、ここが正念場だ! 残る力すべてで立ち向かうぞ!(出し惜しみはなしっすよー!)」


 私達の勢力でまだ立ち上がれる者はすでに突撃、魔術を使う者達もありったけの魔力で魔導要塞を攻撃している。

 そして、私達の最高戦力達は……。


「私はヒンドルトンさんを手当てしたらすぐに攻撃に移るから!」


 リィナは負傷者にさらなる被害が及ばないよう動くようだ。

 確かにそれも必要なことだ。多大な犠牲を出しての勝利など虚しいだけだからな。


「全魔道具出力最大! 魔力集中……自分はいつでもいけるぞ!」


 カトレアは魔道具の力を開放した上でさらに体内の魔力を最大限にまで巡らせることで短時間だけだろうが驚異的な戦闘能力を引き出したか。


「へっ、やっといい感じにの雰囲気に好転してきたじゃねぇか。それじゃあ俺も本気でいくぜ! 暴れろ、俺の中の魔力! 『獣深化じゅうしんか』ぁ!」


 カロフの体が光に包まれ、収束する。これが完全に獣深化をマスターしたカロフ……肉体面ではこの犬と合体した姿である私よりもスペックが高いかもしれないな。


『ふん、我が眼前に群がる憂鬱なゴミどもが……まとめて薙ぎ払ってやろう』


 ぐおおっ……と魔導要塞の腕が振り上がり、地上の突撃隊に対してその巨大すぎる腕が振り下ろされようとしていた。

 あれは今のディーオのパワーでは弾けない……なら!


「私がやるしかないだろう!(オッケイっす! 『高速戦闘移動スレイプニィル』)そんでもって、“天の章”"九ノ型"『天狐九打テンコクウダ』!」


 全魔力を脚に集中させ、飛び上がった瞬間に……穿つ!


ガガガガガガガガガン!


『なに……!』


 一度に九発の連撃を撃ち込む天の章の奥義の一つ、その強烈な殴打によって相手の攻撃を防ぐことに成功する。


 流石に破壊するまでには至らなかったが、その攻撃をはじき返して体勢を崩す程度にはいけたか。

 このまま一気に攻めたいところだが……!


『小賢しい!』


 ぐらついたその巨体が倒れるかとも思ったが、その寸前で魔導要塞の背面がまたもや変形し、地面に杭を打ち付けるようにその巨体を支える。

 くそ、どんだけ変形機構を兼ね備えてるんだこれ。


「……! 危ない、もう片方の腕が!」


 遠くからリィナの焦るような叫び声……見れば私がはじき返した腕とは逆の腕が遠心力を利用して再び地上を薙ぎ払うように向かっていた。


「(『高速戦闘移動スレイプニィル』は空中じゃ効力を発揮できないっすよー! どうするんすかー!)だったら……カロフ!」


「わかってっけどよ! ありゃキツイぜ!?」


「“地の章”の六ノ型だ! それならやれるハズだ!」


 獣王流はガロウズがどんな相手にも対応できるよう編み出した亜人最強の戦闘術だ。だからこそ、カロフにもやってやれないわけもない!


「くっそ、六ノ型はまだ練習中だってのに無茶言いやがるぜ!」


 だが、そう言いながらもカロフの顔には笑みが浮かんでいる。

 そうだ、カロフは誰かのために戦う時こそ本気になれる。ディーオが未来へ進む決意を決めた今、カロフもまたそれに応えるために強くなれる!


「っしゃあ! 『雷動ライドウ』……そんでもってぇ、ぶっつけ本番だ! “地の章”"六ノ型"『熊掌剛怒ユウショウゴウド』!」


ゴゥン!


 タックルをかます形で猛スピードで突進しながらその側面の魔力を高めていき、最終的にはすべてを打ち砕く一撃のパワーで突っ込む地の章の奥義の一つ。


 その一撃はまるで隕石でもぶち当たったかのような轟音を響かせながらこの場全体にその衝撃の余韻を感じさせるほど強烈な打撃。

 そのあまりの強烈さにあの魔導要塞の装甲も大きく凹んでしまうほどに。


「ぐおお……獣深化しててもこの反動かよ。こりゃ日に二発はうてねぇぜ」


 流石に無茶させすぎたか……だが、もとより私達は短期決戦での決着を想定して戦っている。もう一度使わなければならない状況になる前に終わらせればすむことだ!


『このままで済むと思うな』


「げっ!」

「むっ!」


 いつの間にか魔導要塞の砲塔が私とカロフに向けて照準を合わせている。

 空中で身動きが取れないところに集中砲火する気か。私達が厄介だと見て早々に消しにかかってきたな。


『消え去れ』


 ダンタリオンの合図と共に魔力の弾丸やレーザーが雨あられのように四方八方から襲い来る。

 無茶をすれば捌ききれないこともない……が、それだけで私とカロフの戦力は大幅に削られるだろう。


 苦しい状況……だが、それでも私達は大丈夫だと信じていた。そう、それは目には見えない信頼による安心感。


ヒュン……スパァン!


 瞬間、私達に向かっていた攻撃がすべて同じタイミングで弾けて消え去る。

 それが何によるものなのか、私達は知っている。


「余の仲間に手出しは……絶対にさせぬぞ!」


 ディーオのステュルヴァノフは今もなお魔導要塞に攻撃を続けながらも私達に向かう魔力弾をすべて弾き飛ばしたのだ。

 もはや私達は言葉を交わさずともお互いを助け合い、一つの目的もの下に立ち向かっているのだと確信できる。


「『怪炎かいえんの剣』出力最大! 焼き尽くしてくれよう!」


 ごうっ……とカトレアの剣がうねりを挙げながらみるみる大きなり、魔導要塞の胴体を包み込むほどに巨大な炎を生み出す。


『ふん、その程度で魔導要塞をやれると思うな!』


 業火に包まれていながらもその巨体は動きを止めることはない。なんとか魔力でできた腕は消すことが出来ているようだが……やはり問題は。


『動力源さえ生きていれば魔導要塞の動きを止めることはできん。貴様らの抵抗もすべて無駄に終わる!』


 やはりか……動力源であるサロマをどうにかしなければ魔導要塞は止まらない。だったら、そのためにやれることは……!


「っ!? やべーぞ! 魔導要塞があんときのでっけー砲撃した時みてーに光はじめやがった!」


 子供にもわかる簡単な説明をありがとうよカロフ!

 残された時間は少ない……その前に終わらせなければ。


「カロフ、カトレア! そのまま魔導要塞を抑えておいてくれ!」


「それはわかってっけどよ! どうするつもりだムゲン!」


「終わらせるのさ! この戦いを生んだ悲しい誤解をな!」


 そして私は走り出す……そうだ、この戦いの本当の始まりに決着をつけるために。

 それは一体何か? 代々の皇帝が悪だったことか? ダンタリオンの言う“呪縛”とやらが失敗したからか? ……違う、この戦いの本当の始まりは……。


『何をしようと無駄だ。この砲撃ですべてが終わる』


「させねぇっつってんだろうが!」

「最後まで押し通す!」


 胴体をカトレアが抑え、覆い切れない部分をカロフがカバーすることによって魔導要塞は動けない。だが、そうしてる間にも巨大砲の充填は進んでいく。


『無駄だと言ってるだろう。エネルギー源さえ……む!?』


 ようやく気付いたようだな。今私がどこにいるのか……そして、私と一緒に誰がいるのかを!


『ディーオだと! 貴様いつの間にコアに!』


 勿論私が超高速で連れてきたのさ! ディーオが移動しようとステュルヴァノフの攻撃がズレるわけでもないからな、移動してようがそれで悟られることはない。

 ついでにカトレアの放つ炎が上手く隠れ蓑になり、こうしてここまで気づかれずに近づくことが出来たわけだ。

 そして……。


「サロマ! 起きるのだ! こんなところで寝ててはいけないのだ!」


 そう、この戦いの始まり……それはディーオとサロマのすれ違いだ。

 お互いがお互いを信じられなくなり、離れていった。だがそれを取り戻そうとするディーオの想いこそが、ダンタリオンとの決別を起こさせたのだ。


《ディーオ……様?》


 どこからかサロマの弱々しい声が聞こえてる。だが目の前のサロマは目を覚ましておらず、口も動いてはいない。


「さ、サロマなのか!? だがこの声は……」


《ここまで……来てしまったのですね》


 それは声というよりは心に直接響いてくるのような不思議な感覚。


《すみません……ディーオ様》


「何を謝ることがある! 悪いのは余だ。余が弱かったから……お主を」


《違うのです……。すべてはわたくしが……ディーオ様を信じられなかったから……》


 サロマの言葉はすべてを悟っているかのように淡々と語りかけてくる。響く声から感じられる……サロマの気持ちが。

 今、この場にいる者達へと後悔の念が伝わってくる。


《わたくしは……気づいておりました。自分の中のサリア様の記憶と意思に。しかしそれをあなたに話せばもうおそばにいられなくなる……それが怖くてたまらなかったのです》


「それは……っ!」


 ディーオもそれは痛いほどわかってるはずだ。実際私やカロフのようにディーオを支える者がいなければ……ディーオは壊れてしまっていたかもしれないのだから。


《いいのです……わたくしの体も心も、初めからすべてはサリア様のためのものだった。ディーオ様がわたくしを助けたいという気持ちも……御母上様を助けたいという気持ちがあるからなのです。だから、これでよかったのです》


「そんな……それでも! 余は……!」


 怒りを込めながらステュルヴァノフを振り上げるディーオ。そのままサロマを閉じ込めているガラスを破壊しようとするが……。


『言い忘れていたが、サロマが魔導要塞とシンクロ状態のまま取り出しのなら……その心は壊れて消えるぞ』


「……っ!」


 ダンタリオンの言葉を聞き慌てて手を止めるディーオ。おそらく、これも計算の内だろう……。

 強制的なリンク解除による魔力のフィードバックといったところだろか。これで迂闊に手出しはできなくなってしまった。


「くっ……ここまできて」


《……ディーオ様、コアを……破壊してください》


 それは残酷な願い。自身の運命を悟った一人の女性の悲しい決断だった。


「なっ、何を言うのだ! それではサロマが!」


《今この魔導要塞を動かしているのはわたくしの中のサリア様の暴走した意識です。わたくしとサリア様の繋がりこそが動力源……。だから、終わらせてください……あなたの手で》


「や、やめろ! そんなことを言うでない! 何か……何か方法があるハズなのだ」


 確かにディーオは力を手に入れた。だがそれは大切なものを守れるまでには至らなかった。

 それでも諦めず、悩み、苦悩する。


『あと数分で充填は完了する。それで……終わりだ』


《ディーオ様! 早くなさってください。わたくしがサリア様であり、サリア様がわたくしである限りこの装置は止まらないのです!》


「できぬ! 余にお前を殺せというのか!」


 自分の手で愛する者を……自分の母の生まれ変わりを殺す。その選択はあまりにも無慈悲であり、しかし今の状況を打破するのにもっとも確実な方法。


《違います、所詮わたくしは元々死んでいた人間。それが元の鞘に収まる……それだけのことです》


 元々死んでいた人間……か。私にはなんとなくサロマの気持ちがわかる。

 だがそれでも……。


《それに、わたくしが生きていればまたディーオ様を苦しめてしまいます。わたくしはサリア様……ディーオ様の母親と同じ人間なのですから》


 それでも、自分は他の誰でもない……自分自身の心のままに生きるべきだと私は思っている。


 サロマがディーオの想いに応えられないのは自身のすべてが母親の代用品だということが枷になっているからだ。


「……なぁ、私は先ほどサロマが生み出された研究所を見つけたと言ったよな」


「ぬ! そ、それがどうしたのだ!」


「そこで見つけたんだ、サロマの培養に使ったデータのすべてを」


 あの地下で見つけたものは私の知る人工の受精により人間を生み出すそれによく似ていた。

 ダンタリオンの“呪縛”による意識と記憶の継承に関してはよくわからなかったが、それでもデータを見ればわかるものはある。


「そこでディーオの母親の遺伝子情報と魔力構成の詳細なデータも見つけたんだが……これを発見した時に疑問が起きてな、さらに細かく調べてみたんだ」


『……貴様、何が言いたい』


 この話には流石にダンタリオンも食いついてくるか。当然だろう、サロマの設計を研究者に任せていたせいで不備・・があったなんて知らないだろうからな。


「サロマの成長過程は……途中までは順調に同じにできている。が、途中に不必要な要素が足されてそこから少しづつズレが生じてるんだ」


「ズレ?」


「ああ、それは研究者達にも覚えのない僅かな誤差だったらしい。ある日研究所に出向いた時にはすでに入ってたんだと。そして誰にも心当たりはない。……ただ、気になったのはその日に見た小さな足跡だけだったそうだ」


 それはまるで子供の足跡のようで、あの研究所には子供が近づけるようなものではないからと無視したらしいが、きっとその時に何かがあったのだろう。


《それ……は、なぜでしょう……何か覚えがあるような》


「余も……その話を聞いた途端に何か……」


 ふむ、どうやら二人には心当たりがあるようだが、私にはそれはわからない。

 だからそろそろ、事実を話すとしますかね。


「その"何か"のせいでサロマはディーオの母とはまったく違う遺伝子情報を持つこととなった」


『馬鹿……な』


「ぬ? ぬ? つまりどういうことなのだーっ!?」


 これだけ言ってもわからんのか……やっぱりアホ皇子。いや、それでこそディーオというところかね。


「つまり、サロマはディーオの母親なんかじゃない。そうだな、血縁的に言えばはとこか……それ以上に遠い存在といってもいい」


『……そうか、サロマ生まれて何故すぐ“呪縛”の力が働かなかったか。体と心が合わない状態だったためか!』


 呪縛……それがなんなのかはわからないが、この戦いが終わったらじっくり聞かせてもらおうじゃないか。

 だからこそ、もう終わりにしようぜ……この誤解だらけの愛憎劇をな!


《そんな……では、わたくしは?》


「決まっておる! サロマはサロマなのだ!」


 そうだ、先ほどサロマは言った……サロマがサリアであり、サリアがサロマである限りこのシンクロは解除できないと。

 つまり、サロマ自身に認識させてやればいい!


「ああ! あんたは皇子さんの付き人のサロマのねーちゃんだ!」

「私達は知ってます、あなたがサロマさんっていう一人の人間だということを!」

「自分達は見てきました。サロマ殿が王宮で殿下を支える姿を!」


 人は自分自身と誰かの認識によってその人格が成り立つ。

 今までサロマは「自分はサリアの生まれ変わり」という主観認識を持っていた。だが、それが失われた今サロマという人間の人格を構成するものはなんなのか。


《わたくしは……いいのでしょうか? サロマという一人の人間であっても?》


 その答えは……すぐ側にある。今までずっとずっと近くにいたのに掴めなかったその手の先に……。



「そうだ! お主は余の母上ではない! この世で余が愛するただ一人の女性……サロマなのだ!」


「《……!? ディーオ様!》」



 ディーオの強い想いにサロマの意識が覚醒する。心の叫びと共にその口から彼女が世界で一番に想う人物の名を発しながら。

 そのままサロマは手を伸ばす、目の前にいるディーオに助けを求めるように。


 だが、まだ二人の間にはそれを遮る壁がある。


『ありえん! シンクロが解除されただと!?』


 ダンタリオンの驚愕の言動に、これでサロマは完全に自らの意識を確立しディーオの母親の意識から抜け出したのだと確信した。

 だがそれはダンタリオンも同じはず。だったら次に奴が出る行動は……!


『コアの破壊は絶対にさせんぞ!』


 言うが早いか、巨大砲のエネルギーをすべて私達の近くに回し魔力の腕を出現させてくる。

 だが……。


「それは私のセリフだ!」


 私は残るすべての力を振り絞ってディーオとサロマに向かう腕を蹴散らす。

 皇子様がお姫様を助け出す感動的なシーンに横やりなんて入れさせるかってんだよ!


「ディーオォ! やれぇ!」


「うおおおおお! ステュルヴァノフよ、今こそ余に……すべてを守れる力を貸してくれ!」


ヒュゴウッ!


 それはディーオの想いに応えるように動き、まるで二人を隔てる心の壁をも打ち砕くかのように最後の一撃を振り下ろされた。


 その一撃を受けると、ガラスでできたその球体は勢いよくはじける。

 そしてその中から手を伸ばしていたサロマの手をとうとうディーオが掴み……。


「ディーオ様……ただいま戻りました! あなたの下に……」


「うむ、おかえりなのだ! サロマ!」


 初めて見せる目一杯の笑顔と共に、ディーオの腕の中に飛び込んでいくのだった。




次回!6章本編最終話です!


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