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120話 龍帝と花嫁と盟友と?


「悪……竜? なんだそれは?」


 今巷で最もホットな話題の中心人物であるあなたのことなんだが……やはり本人の耳にはまるで届いていなかったようだ。


「いや、わからないならいいんだ」


 下手に誤解を生んでこじらせるのも面倒なので、ここはあえてスルーして話を進めさせてもらおう。

 この龍族……アポロには色々と聞きたいこともある。


「まぁともかく、まずはどうして女性……つまり自分との婚姻相手を要求したのかを知りたい」


「ん? おかしな話だな。理由など各村々に最初に話した通りであろう? それに要求とは人聞きの悪い、我はただ候補者を募っただけだ」


 そこなんだよ。

 どうもアポロの性格や話し方を見ている限りでは、それこそ巷で噂される"悪竜"のイメージとは程遠い。

 なにかしら情報に齟齬があるとは思うのだが……。


「その時村人達にはどう説明を……?」


「どういうも何も……村人には、「聞けい! 我はこの度、栄誉ある『龍皇帝国』の再建をここに宣言する! そこで、我と共に歩む伴侶を募りたい。この苦難の道を共にする一番強き勇士を持つ女性は我の下へ!」とな。まぁ何分初めての経験なのでかなり緊張はしたが上手く話せたはずだ」


 説明……できてないよなぁ。

 そんなこといきなり言われてもその威圧感のせいで恐怖の感情しか湧き出てこない村人達の気持ちもわかる。

 しかし、言うなればこれは『龍族さんのはじめての婚活』ってとこか。


「そもそもどうして嫁募集なんてしたのか、わたしにはサッパリ理解できないのだけれど……」


「何を言うか花嫁よ。帝国の再建とは言っても王一人では成り立たん。国があり民があり王がいて国は作られる。しかし王は次代に続いていなかければならない。だからこそ我が世継ぎを生んでくれる者が必要であろう。なぁ花嫁よ」


「世継……! てか花嫁って呼ぶな! わたしはそんなものになる気なんてまったくない!」


「ん? ならばなぜここまで来たのだ?」


「それは悪竜のあんたを討ば……」


「あっー! ストップストップ!? なんでもない、なんでもないですよー」


 再び熱の入りかけたミネルヴァを慌てて止めに入る。


 うーむ、このアポロのグイグイいく姿勢は私も見習いたいところがあるな。

 ただ、先ほどから何度もアポロが口にしている"帝国再建"という言葉……もしかしたら。


「それに、いきなりよくわかんない帝国の再建だとかその王の嫁だとか言われてもこっちは誰一人として理解できない話ばかりだし」


「……なん、だと?」


 ミネルヴァの何気ない一言にアポロはとんでもない事実を聞いたかのような驚愕の表情に変わる。


「は、花嫁よ……今、なんと言った……?」


「だ、だから……そんな誰も知らないような国名だされても誰もその凄さなんてわからないって言ってるの。あと花嫁って呼ばないで」


「……馬鹿……な。龍皇帝国の存在を……誰も知らない……だと……」


 思いもよらない驚愕の事実を聞いたアポロはその場に崩れ落ちるようにヘナヘナと座り込む。

 その姿はもはや先ほどの大立ち回りをしていた気迫溢れる龍と同一人物とは思えないほど真っ白に燃え尽きていた。


(しかし龍皇帝国か……)


 確かに今の時代……歴史の始まりが二千年前からのものである現在の知識ではその存在を知ることなど普通はない。

 だが、実は私にはそこそこ馴染みのある名前のため、これはちょっと無視できないところがある。


「なぁアポロよ、他にも幾つか聞いてもいいか?」


「ハハ……今更我に何を聞きたいというのだ……。龍皇帝国の知名度の現状も知らずに一人で舞い上がっていた世間知らずが教えられることなど……」


 感情の浮き沈み激しすぎだろ。

 まぁ龍族は今も昔も閉鎖的な種族のようだし、時間の感覚も短命な人族とは大きくズレていいるところがあるからな。

 つまり、今この場にアポロと身のある話をできる人物は一人だけということだ。


「アポロ、お前の姓はギャラクシアだったな。龍皇帝国の正当な王族はエンパイア一族のはずだ。それなのになぜお前は自分を龍帝の末裔だと?」


「!? お主、なぜそれを!」


 この件について、もしかしたら私はアポロよりも詳しい可能性がある。

 その根拠は先ほど私が話した龍皇帝国の正当な一族……エンパイア。

 つまりドラゴスとの深い関わりが関係しており……当時、次期龍帝であった幼いドラゴスと私の出会いにも起因するからだ。


 ん? ドラゴスの本名なんて覚えてねーよ! だって?

 だったら第一章の登場人物紹介を見てくるんだ、ちゃんと載ってるから。


「それに、龍皇帝国は三千年以上前に滅んだ中央大陸の帝国の名だ。長命な龍族にしてもこの年月は長い。それが何故、今、この大陸で再建しなおそうと考えたのか……」


「……うむ、そうだな。我としてもお主に質問し返したいところではあるが、先に我が答えよう」


 私の問いかけで気力を取り戻したアポロはそのまま立ち上がり、遠い目をしながら語り始めた。


「まず、お主の言う通り龍皇帝国の正当な王族はエンパイア一族だ。しかし我がギャラクシア一族は帝国建国以前に分かれた同じ血を持つ遠い親戚なのだ」


 建国以前……か。

 龍皇帝国は私が前世で生まれる前からの歴史ある帝国だったと聞いている。

 幼龍だったドラゴスすら知らなかったとしても無理はない。


「我は曾祖父ひいじい様より龍皇帝国のことをよく聞かされていた……。強く、巨大な国ではあったが、他を受け入れない傲慢な国でもあったと……」


 そう、それ故に龍皇帝国は他国すべての怒りと反感を買い、各国の強力な魔法使い達から報復され……滅んだ。

 帝国内で唯一生き残ったのは幼いドラゴスのみであり、帝国に属していなかった他の龍族達はこれ以上他種族と大きな戦いを起こさないため歴史上から姿を消した。

 つまり、アポロ達ギャラクシア一族は最初からの穏健派であり、今の龍族の在り方を担ったということか。


「その愚かさを教わった……だが我は同時にその栄光にとても強い興味を持った。そして独自に里内を調べつくしたのだ。そして知った、かつては龍族も他種族と同じように世界を歩き回っていたことを、帝国が滅んだ後も他種族と共に歩んだ龍族がいたことも」


 後者はドラゴスのことか。

 確かに、前世で私が生きていた時代にも龍族だけは表に出てこようとはしなかった。

 たとえドラゴスが呼びかけたとしても"傲慢な国の王の子"というレッテルから説得は難しかった。


「だからこそ幼かった我は思った……我ら龍族はこのまま永遠に誰の目にも留まらない世界の陰で暮らしていくのか……とな」


「でも、それと国の再建に何の繋がりがあるっていうの」


「国の再建はきっかけに過ぎない。龍皇帝国の栄光は確かに存在した、滅んだのは道を間違えてしまっただけだからだ。他種族を分け隔てなく受け入れ、協力しあう正しき龍帝の統べる龍皇帝国を作り上げさえすれば、他の龍族の者も集まり手を取り合うこともできる。龍皇帝国復興はその第一歩なのだ」


 先ほどまで燃え尽きていたアポロの龍鱗がその熱意と共に再び赤く燃え上がってく。

 本当に、感情の浮き沈みが激しいな……だが、逆に言えば裏表のない好感が持てる性格だ。


「そういえばアポロ、歳は幾つなんだ?」


「ん? そうだな、ざっと五百と数十年というところか。まだまだ若輩の身、だが想いは誰にも負けておらぬつもりだ」


「五百って……わたしよりも長いのにそれで若輩なの……」


 若いな、龍族はざっと二千年は生きるからまだまだ十分若いと言ってもいいだろう。

 ドラゴスはすでに三千年以上生きているが、あれは長寿の術による延命によるものだからな。


 しかしこの若さということは本当に龍皇帝国のことは人聞きで知識を得ただけなんだろうな。

 だというのにこのまっずぐな熱意、この件に関して私が抑制する必要性はどこにもない。

 ただ、いくつか伝えておかなければいけなさそうなことはあるにはあるが……。


「さて、そちらの聞きたいことはどうやら済んだようだな。……次は、我の質問に答えてもらいたい。まず、お主は何者だ……最初はただの護衛だと思っていたが、そこまで龍族の内情に精通しているとなると話は別だ」


 きたな……しかしこれも必要なこと。

 未だアポロは完全に私に心を許してはいない、できることならいがみ合う関係になりたくはない。

 そのために私が話せることは素直に話していくのが得策と言えるだろう。


「私の名はムゲン。かつて龍族王家最後の生き残り、ドラゴニクス・アウロラ・エンパイアの友であり、共に世界を巡った偉大なる魔の探究者……その生まれ変わりだ」


「……なに!?」


 これまでも驚愕の連続だったが、その中でも今日一番の驚きを見せるアポロ。

 それもそのはず、龍族にとってこの名はとても有名だ。

 引きこもっていた龍族達にもあいつの生き様が伝えられていることは前世で知っているからな。


「こいつが昔の人間の生まれ変わりというのは聞いたけど……。そんなに驚くこと?」


「……ドラゴニクス・アウロラ・エンパイア、その名を知らぬ龍族はおらぬ。我ら龍族の中においても一目置かれる存在だ。中には龍帝復活と支持する声もあったが、いつしか姿を消しその存在は語り継がれるだけとなった……」


「どうもあいつは人の上に立つのを面倒くさがってるようだからな。この前会った時もひっそりと暮らしたいとか言ってたし」


「……! 生きておられるのか、かの者は!?」


「ああ、数か月前に会ってきた。たぶん今も変わらずそこにいるはずだ」


 まぁすっかり歳もとって隠居するじじいみたいな態度になっていたが。

 そういやあいつにはもう一度会って言いたいことがいろいろあるんだよなぁ……ファラフローラのことについては特に。


「まぁだからというわけじゃないが、アポロとも悪い関係にはなりたくな……」


「うおおおおお! 感動したぞおおおおお!」


 穏便に話を進めようとしたらいきなり号泣しオンオン唸りだしてしまった。

 ほんと浮き沈みが激しすぎてついていけんぞ。


「うう……ぐす……。ああ、今日はなんと素晴らしい日だ。ついに花嫁が見つかったと思った矢先に龍皇帝国のことをここまで理解している者に出会えるとは! 我は、今、猛烈に感動しているっ! 同士……いや我が盟友ムゲンよ!」


「盟友……」


「だから花嫁じゃ……」


 未だ花嫁認定に異を唱えるミネルヴァは、人の話を聞かないアポロに対しまた徐々にイラついてきたみたいだ。


「まぁまぁ、今は我慢しろって。このままいけば村の悪竜問題は解決するんだから」


「それってわたしの意思は無視なわけ……」


 どこか納得のいかない表情のミネルヴァと未だ感動し続けているアポロ。

 この大陸には何の毛無しに訪れたはずなのに、ここまで私の過去から繋がる人物と出会うとは。

 『永遠に終えぬ終焉トゥルーバッドエンド』に『龍皇帝国』……どちらも見捨てれば寝覚めの悪い内容ばかりだ。


「うむ! 花嫁に盟友よ、我らが出会えたこの良き日を共に祝おうでわないか! さぁさぁ、今日は我の寝床で存分に寛いでくれ。祝の食事も用意せねばな! ハッハッハ!」


「……あーもう! わたしにはそんなことしている暇はないの! 花嫁なんかにされて目的を遂げることだけは、誰にだって止めさせない!」


 痺れを切らしたミネルヴァが大声で怒鳴り散らす。

 ミネルヴァの目的、自分を不死の肉体にした狂人に対する復讐……。

 こればかりはいかに行く手を阻む相手が強大な力を持っていようと揺らぐことはないか。


 強い意思で睨むその瞳に、アポロは考える姿勢をとる。

 そして少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。


「ふむ……花嫁には何か成し得なければならないことがあるのか?」


「そうよ、だから残念だけどあんたの花嫁には……」


「それを終えた後にもまだやることはあるのか?」


「え?」


 アポロの問いかけに意表を突かれたように呆けた顔になるミネルヴァ。

 確かにミネルヴァの望みは復讐と身体をどうにかすることばかりだった。

 問題が解決した後……か。


「それは……まだ決めてない……けど」


「ならば話は早い! その問題さえ解決すれば花嫁を縛るものは何もないということだ。なれば我もその問題に尽力しよう! なに、未来の妻のために一肌脱ぐというのも良き夫としての勤めとも言えよう!」


「え、ちょっと……」


 またもや強引に話を進めるアポロ。

 その態度に観念したのか、先ほどの憤慨した気持ちも冷めた様子で肩を落としている。


「ワウン?(つまりどういうことなんすかね?)」


「アポロが仲間に加わった……ってことだ」






 さて、ここまで波乱万丈な展開に様々な問題や驚きの連続で何から手を付ければいいか困惑気味だったが、ようやく道筋が見えてきたようだな。


「うむ、では早速花嫁の問題事の解決と行こうではないか」


 そう言いながらズンズンと進んでいくアポロ。


「ちょっと、何も知らないあなたがどうして先に進むの……」


「おお、そうであった。なに、問題が迅速に解決しさえすれば我らの婚姻も早められると思い気持ちが逸ってしまった」


 このやる気のある豪快な性格は悪くはないんだが、いかんせん先走りすぎなのが玉に瑕だな。

 しかし、こうしてアポロがついてくるとなるとミネルヴァの問題よりも先に解決しないといけない問題がある。


「とにかく、まずは村に戻って悪竜問題は解決したことを伝えないといけないな」


「その解決っていうのがわたしがこいつと結婚することになったからっていうのはまだ納得してないから……」


 まぁもうアポロは結婚する気マンマンだけどな。

 しかしどういう結果になろうと村へ事態を報告しなければあの村はいつまでも居もしない悪竜に脅えながらあの危険な道を往復させることになってしまう。


「ふむ、我としたことが失念していた。協力してくれた村々の者達にも礼をせねばならないな。なにせ彼らも将来の龍皇帝国の国民なのだからな」


「そういえば、どうしてこの大陸で龍皇帝国を再建しようと思っているんだ? 元々は中央に存在していた国だろう?」


 前世の私が中央に初めて渡った時に一番驚かされたのがその巨大さだ。

 中央大陸のほぼ四分の一を占めるその国土はまさに"大陸の支配者"と主張してるほどだった。


「その巨大さを考えたら第一大陸では狭すぎる。人が住めない場所も他の大陸よりも多い」


「盟友よ、なにも我は以前と同じものを作り上げようと考えているわけではないのだ。我が作りたいのは龍皇帝国という在り方を宿した新たな国なのだ。そもそも我は以前の龍皇帝国を知らぬ」


 それもそうか、アポロは龍皇帝国のことを人づてにしか知らないのだから同じものを作るなど無理な話だ。


「まぁこの大陸が我の生まれ育った地だからということもあるが。……そもそもこの大陸には国というものが存在しないことを知っているか?」


「え、そうなのか?」


 初耳だな。

 現代の第一大陸については私が必要としている鉱物などの資源が豊富だということしか知らん。

 急いでいたせいでロクに下調べできなかったからな……。

 あれ? でもそれなら今までの街や村はどこが管理しているんだ?


「元々この大陸は人の住めない場所が入り組んでるから伸展されなかったの。それでも昔一つ大きな国はあった……数百年前に滅んだけどね」


 私がスマホで検索する前に、以外な方向から説明が飛んできた。

 その表情はどこか浮かない……。


「だから今ある街や村は各ギルドが協力して成り立っているの。ま、どこもこの大陸に眠る豊富な資源目当てだけどね」


 なるほど、街でやたらとギルド関係の人間を見かけるのはそういうことだったのか。

 つまり各ギルドの資源の奪い合いが水面下で起きている……と。


「うむ、その通りだ。流石我が花嫁、博識であるな」


「ただ聞いたことがあるだけだから。……色んなとこ歩いてると、嫌でも情報は入ってくるから……」


 数百年もこの大陸をさまよい続けて、その変化も見てきたんだろう。

 もしかしたらミネルヴァ自身が何かに関わっていた可能性もあるのかもしれない。


「大体は花嫁が語った通りだ。しかしそれは表向きの話、その裏では他種族が集落を作り暮らしているのだ。主に人族が近づかない場所にな」


「人族の寄り付かない場所か……」


「うむ……なんでも今の世には他種族を目の敵にしている人族の集まりのようなものがあるそうなのでな」


 人族主義の連中か……。

 私の中で思い浮かぶのはそのトップに君臨する人物の顔だ……まぁ実質お飾りみたいな奴だからその下にいる連中がどんな活動をしているかは深く知ることはないが。


「今、この大陸の心はバラバラだ……。多くの者が存在していながら隣人の手を取ることさえしようとしない……。だからこそ我が変えるのだ! すべての者が分け隔てなく手を取り合い住みよい大陸へと変える新しい龍皇帝国へと!」


 熱い熱い、話に熱がこもると実際に体まで熱くなるからなアポロは。

 しかし本当にまっすぐな男だ……私もここまで純粋な心の龍族と出会ったのは今までの人生で初めてだな。


「しかしこの大陸には国家が存在しないのか」


 一番小さな第三大陸でも二つの国があるほどだったから、今では第六大陸以外では様々な国家が繁栄してるとも思っていたのだが。


「元々五百年近く前までは国と呼べるものは存在していたらしいが……理由は知らんが滅んだようだ。その国もどうやら人族主義とやらが根付いた……」


「はいはい、大体のことは話したんだから無駄話してないでさっさと村に戻るわよ」


 ……なんだか強引に話を終わらされた気がしないでもないが、まあいいか。

 兎にも角にもまずは村へ現状の報告、そしてミネルヴァの問題というとこだな。


「うむ、村へ報告だな! 待っていろ、今我がひとっ飛び……」


「ちょっと待てい!」

「待ちなさい」


 私とミネルヴァは同時にアポロを静止させる。

 危ない危ない……悪竜問題解決の報告に行くというのに、その悪竜当人が行くのは非常にマズいだろ。


「ていうかあんたがついてきちゃ駄目でしょう」


「む、なぜだ? 婚姻の報告へ行くというのに新郎不在というのは礼節に欠けるであろう」


「あーもう……今回の報告はあんたをとうば……」


「ま、ま、ま、ちょっと待てミネルヴァ……あくまでアポロには悪竜の件は伝えない方向で」


「じゃあどうしろっての」


 そこは私に考えがある。

 現代の龍族に伝わっているか不安だが……。


「アポロ、お前人化はできるか?」


 人化、これは大昔の龍族が編み出した秘術。

 龍族と他種族ではその姿に大きな違いがあるが、もとを正せば同じマナから始まった存在のため、魔力のコントロール次第では人の形をとることも可能なのだ。

 ドラゴスも一人だけ巨体では不便な場面も多かったため、よく人の姿になっていた。


「おお、そういえば忘れていた! 他の種族の者達と同じ目線となるため会得したのだった。では早速……ふん!」


 言うが早いか、アポロは人化のために体内の魔力を駆け巡らせる。

 その瞬間体は光り輝き、やがてその光がどんどん収縮していくと、それは一人の人の姿を形どっていった。

 そして光が収まると、そこにいたのは……。


「うむ、こんなものだろう」


 そこに立っていたのは身長ニメートル程の筋骨隆々の男だった。

 頭部は真紅の髪に覆われ、まるでメッシュが入っているかのように黒い角が二本立っている。

 背中と腰の間辺りからはちょこんと尻尾のようなものが生えているが……まぁこの程度なら亜人と間違えられる程度で済むだろう。

 それよりも問題なのは……。


「よし、これで何も問題はないな! いざ村へ行かん!」


「問題大アリよ! せめてなんか羽織りなさい!」


 そう、すっぽんぽんなのである。


「ん? ああそうか、人は服を着るものだな。花嫁よ、何か持ち合わせてはいないか?」


「ちょっと! なんでこっちに来るのよ!」


 まったく、こんな調子でやっていけるのかねぇ……。



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