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112話 地方ギルドにて

オラにやる気を分けてくれ



 私が魔導師ギルドを出発して数日。

 かなり急な旅立ちではあったが、流石世界に顔が利く魔導師ギルドだ、カード一つで大抵のことはまかり通る。

 第一大陸へと向かう船は以前第二大陸からやって来た船着き場とはまた別の場所、もっと北側の港町から出ている船でしか行けない。

 それから船に揺られて数日、私達はとうとう第一大陸『エーカム』へと降り立った。


「ふむ、流石に大陸の最端とはいえ、じっとり暑さを感じられる気候は変わらずだな」


「ワウウ……(ぼ、ぼくはもう暑いっす。それはもう毛を全部毟りたいくらいに……)」


 この世界は各地で気候が異なり、ざっくり言えば暑い方角と寒い方角に分かれている。

 地図上で見れば、北東へ行けば行くほどその暑さは増し、逆に南西に行くほどに寒さは増していく。

 その中間の南東から北西にかけての一直線上は、大きな気候の変化もない穏やかな気候が保たれている。


 第一大陸は地図上で見れば最北東の大陸だ。

 大陸の端とはいえその暑さは日本での真夏日に相当する気温だ。

 今までの第三、第二、中央、第四……これらの私達が通ってきた大陸は、どれも気温が安定している先程説明した直線状に位置する場所がほとんど。

 第二大陸も北側へは行かなかったからこの暑さはこの世界に帰ってきて初だ、犬がこんな状態になるのも無理はない。


「とりあえず、地方ギルドのある町まで向かわないとな。そんじゃ犬……は無理だよな、こんな状態じゃ」


「ワウ~……(すでにダウン状態っすよ~……)」


 入り口ですでにこんな状態だと、今回の旅では犬の活躍は期待できんなこりゃ。

 この大陸は奥へ行けば行くほど砂漠や火山地帯が広がっており、環境が過酷になっていくのだ。

 ま、そんな中に希少鉱石なんかが取れる鉱山も多く点在しているから、私としては早くそちらに向かいたいものだが。


「まずは形だけでも任務をこなさないとギルドでの地位が危ういからな……」


 私がこうして好き放題やれているのはすべて魔導師ギルドのゴールドランク魔導師という名目あってこそだ。

 だからササッと任務を終わらせて、サボリと思われない程度まで自由期間をここで過ごしたら帰還させてもらおう。


「そんなわけで[map]起動っと。お、このあたりは交通の便はそれなりみたいだな。少し歩けば馬車の停留所があるぞ」


 このアプリ……最早今の私にとって必需品である。

 地形はおろか各町や村の情報、各地の生態系から特産物の情報……はてには最近の情勢さえこれを見れば一発だ。

 言うなればアステリムのニュースアプリ。


 まぁ発信源不明の奇妙な機能をずっと使い続けてるのは少々恐怖を覚える場面もあるが、最近少しづつわかり始めてきた。

 とはいってもすべて私の中での推論にすぎないので、あーだこーだと決めつけて語ることも今はできないが……。


「ま、使えるものは使わせてもらうさ。そんじゃ行くぞ犬。暑いのはわかるが気張って歩け」


「ワウ~ン(了解っす~)」






 ま、そんなこんなで道中何事もなく進み、こうしてギルド支部のある町へ到着だ。


「こういう何の変哲もない道中ってさ、思いもよらないイベントが起こるのがテンプレってもんだと思わない?」


「ワウ。ワウン(知らねっすよ。あとそういうのは第二大陸や第四大陸でやったじゃないっすか)」


 それもそうか。

 毎回突然何かのいざこざに巻き込まれるのは物語の中の主人公だけってもんだ。

 ……大丈夫、そんな状況を何回か経験している私は主人公……オーケー?


「とまぁそんな話は置いといて、今はギルド支部だ。町で一番大きな酒場と共営してるらしいが……」


 流石に魔導師ギルドも支部を置くだけあってこの町は広い。

 大陸内部に差し掛かり暑さも強くなり若干砂漠地帯ではあるが、それをも吹き飛ばすかのような人の賑わい。

 ここは第一大陸でも特に各地から人が行き交う中心の町でもあるようで、商人や工匠はてには傭兵など多種多様な人々が集まっている。


 この町にはじめて来た私では。案内もなしでは当然道に迷いそうではある……が。


「え~……"現在地"、"魔導師ギルド支部"、"ルート"」


ピポッ!


 はい検索完了。

 第四大陸で勝手に追加させてもらった音声認識機能でこの通りらくらく検索だ。

 他人から見れば意味不明な光景だろうが、こちとら今や生命線ともいえる大事な貴重品だ。


「そんなわけでついに到着だ。結構な門構え……それに外からでも感じるこの冷気、密閉された窓……。やはり……喜べ犬! この施設は冷房が効いてるぞ!」


「ワウ!?(マジすか、早く入るっす!?)」


 中へ入ると涼しい空気が肌に触れるのを感じる。

 天井を見れば、冷気を発する魔石と風を起こす魔石が重なりこの冷気を生み出しているようだ。

 本来魔石は使い切れば効力を失うものが多く、これらもその類いだろうが、それでも一つにそれなりの値段はつく。

 それをこうして惜しみなく使用できるところは流石魔導師ギルド、魔術を使ったサービスは妥協しない所が良いな。


「あ゛あ゛~……涼じい~」


「ワウ~ン(極楽っすぅ)」


 さて、改めて店内を見回すと、そこはいつも通りムサいおっさんどものたまり場……ってわけでもないぞ今回。

 おっさんだけじゃなく若い青年やそこらのパーティー内にはちらほら女性の影も見える。

 残念ながら『なぜか都合よく余っている美人』のような人物はいないな。


 そんな感じで店内を見回しながらカウンターへ着席。

 お一人様は私だけのようで、このカウンター席付近だけ妙にガラガラだ。

 席に着くと、どこか渋めの雰囲気を醸し出すマスターが目の前にやって来た。


「ご注文は」


「ミルク、思いっきり冷たくしてくれ」


 ん? なんだ? またいきなり酒でも頼むんじゃないかとでも思ったのか?

 残念、私だって学習するし自制もできる。

 この身体で最初の飲酒は、ゲート完成の暁に最高級のもので乾杯すると心に決めているのだ。

 できればその場に、私と苦楽を共に歩んでくれるような素敵な彼女がいることを信じて……。


「ワウン。ワウ(しかしあれっすね、ご主人はホント運命的な出会いみたいなものがないっすよね。セフィラさん以外は)」


「なんだその最後に取って付けたような言い回しは……。そりゃあ私だってもうちょっと性格が合えばドストライクの美少女だとは思ってたさ。けど話がいつまでも平行線だと口説く暇もありゃしないってもんだ……」


「ワウ(あ、でもご主人も脈はあったんすね)」


 まぁ初対面の印象が最悪だったのが大きなマイナスだが、それはあいつが何も知らない子供のまま何百年と過ごしてしまったからだということが、今回の件でなんとなくわかった。

 "勇者"を手に入れ、新魔族を倒さないといけないと豪語するあいつのいつもの表情は、どこか使命感じみていて冷たい印象を受けた。

 けれど、食堂で働いていたときや寮にいた時のあいつの無邪気な笑顔は普通に歳相応の……まるで止まっていた時が動き出したかのように輝いていた……ように見えたかもしれない。


 だからといってそれで心がガツンと揺らぐわけでもなく、「こいつもいろいろ苦労してんだな」程度の感情しか湧かないが。


(……本能的には恋がしたいなんて考えてるクセに、相手がどんな人間か深掘りして自分から逃げ出してるようなものだよなぁ)


 選り好みできる立場でもないってのに、この頭は一度他人と向き合うといきなり冷静になって相手の分析をしてしまう。

 こんなことなら前世の記憶など無い方が良かったともチラッと考えるが、それ以上にメリットが大きいお陰でそこまで嫌にならないのも性分だな。


 とまぁ、いつまでもこんな話をグチグチ考えてもどうにもならない。

 今は今で、やるべきことをやっていこうじゃないか。


「ごちそうさま。代金はここに請求してくれ。……あと、これの受付カウンターってどこ?」


 そう言って私はカウンターに置いたギルドカードに魔力を込めて身分を証明する。

 ゴールドランクのカードに一瞬驚いた顔をしたマスターだが、すぐ先程までの顔に戻り、ちらりと目線で受付を指し示してくれた。


「ワウ(プロっすね、ここのマスター)」


 ゴールドランクの魔導師というだけで騒ぐやつがゴマンといるからな。

 今回ばかりは余計な面倒事に巻き込まれずに魔力石の回収へさっさと進みたいので、一般の魔導師としてちゃちゃっと済ますつもりだ。


 さて、それはともかく受付受付。

 カウンターにはお姉さんが一人、暇そうに頬杖をついてため息をついていた。


(まぁこの大陸は気候故に好んでやって来る奴はほとんどいないだろうし、辺境の魔導師を相手にするのも気を使うんだろ……)


「あー……あんのクソ上司めぇ。ちょっーと仕事早めに抜け出して合コン行ったくらいで左遷とか酷すぎでしょまったく。そりゃ帳簿ちょこっといじってお金は持ち出したけど、あとでキッチリ返すつもりだったての……。あーあ、こんな田舎大陸じゃイイ男なんて見つかりゃしないわよ。こっちは結婚適齢期ギリギリだってのにもう。はぁ~……アタシ好みの地位も財力も持ち合わせたイケメンショタっ子が偶然アタシに一目惚れしてこんなクソみたいな職場から颯爽と攫ってくれないかな~」


 うわ、擁護できない程のダメ人間だったよ。

 凄まじい愚痴っぷりだなおい……ってか私としてはコイツをギルドからとっとと追い出して紛争地域の飯炊き女にでも堕とした方がよっぽど世の中のためになると思うのだが。


 てかカウンター前にいるのに私の存在に気付いてないって……。


「仕方がないから今度の長期休みに中央大陸で合コン開いてもらうか~。実年齢は伏せて二歳……いや三歳くらい鯖読んでも……って、きゃあ!? あ、あなたいつからそこに」


「いやずっと立っていたんだが……」


 これで大丈夫なのか魔導師ギルド地方支部……。

 ま、なにはともあれこちらはやるべきことをやるだけだ。


「中央の本部より依頼を受けた者だ。話は通っているはずなんだが」


「え? あーそういえばそんな知らせが数日前に届いたような……どこやったっけな~。あ、あったあったこれこれ。まさかこんな詳細不明の依頼受ける人がいるなんて思わなかったから失念してたわ。えー、そちらの要望としては『極力正体を公にしないでただの一般魔導師として依頼を進めたい』って書いてあるけど」


「ああ、たとえ依頼者から尋ねられてもそこらのブロンズ魔導師と同じような紹介で通して貰いたい」


「ふーん、よく思うけど魔導師さん達って考えてることがよくわからないのよね~。……だから恋愛対象としては外すようにしてるんだけど」


 最後にぼやきを入れるな、こっそり言っても聞こえてるからな。

 あとこの人ホントになんでこの職場選んだんだよ、男狙うならもっと別の場所でいいだろ。


「えーっと、それじゃあ最後にギルドカードの提示をお願いします」


「ほいよ」


 カードをカウンターに置いて魔力を込める。

 やっぱりこの動作一つで身分からクエスト受注まで一発で行えるのはありがた……。


「はい確認完りょ……ってえええええ!? うそ! あなたみたいな子供がゴー……」


「『音遮の風カーム』」


「ルドランクの魔導師様なの!? ……あっ!」


 危ない……この女あろうことか数分もしないうちにこちらの要望をぶち壊そうとしてきたぞ。

 しかも私のランクを知った上で大声で口にしてしまったことの重大さに気づいて青ざめながらこちらを見てガクガクしてるし。


「もしもしお姉さ~ん。こんな事もあろうかと魔術でこの辺りの声は漏れないようにしといたんで安心ですよ~」


「え、ま、魔術……あ」


 私の言葉に周囲見渡し、誰も先程の驚きに見向きもしていない様子を確認して、ようやく我に返ったようだ。


「は、はい……以上で確認は完了です。後は依頼主より詳細を伺ってください。場所はここより北東20キロ先の村になります……」


 なんだ、ここに依頼主がいるわけじゃないのか。

 面倒だけど犬は外の暑さにはダウンしてしまうし、またどこかで馬車を見つけるしかないなこりゃ。


「そ、それで魔導師様。今日はこれからどうなさいます。どうやらお疲れのようですし今の時間から街を出るにはもう遅いので、今晩はここに泊まられては? そ、それで、夜になったらそこの酒場で一杯いかがでしょうか。旅立つ魔導師様へ祝の一杯を奢らせていただけませんか」


 凄く魅力的な提案だが……下心丸出しで私に取り入ろうという魂胆見え見えなのが……。

 てかちょっと目が血走っててこえーよ。


「ワウ(やったっすねご主人。ようやくご主人に惚れてくれる人が見つかったじゃないっすか)」


 まぁ私というより私の"ゴールドランクの魔導師"というステータスに惚れてるだけだがな。


「ど、どうですか……どうなんですか!」


 あとこの人がっつきすぎてちょっと引くわ……。


(私はもうちょっとおとなしめの人が好きだ……とまぁこんなこと考えてないで、どうにかして言いくるめてさっさと出発……)



「ふざけてんじゃねぇぞ小娘ぇ! しらばっくれるのもいい加減にしやがれ!」

「だ、だから誤解です! 私本当に知らないんです!」



 おや? なんだか酒場の方でなにやらイベントの匂いが。


 見れば戦士風の男二人が女の子に向かって苛立ちを含めた顔で詰め寄ってる。

 女の子の方は紫髪を小さなツーテールに纏めた可愛らしい容姿で、男達とは打って変わって軽装備。

 なんというか、RPGゲームに出てくる盗賊風の装備とでも言うのだろうか。


「てめぇ……これ以上しらを切るってんならこっちにも考えがあるんだぜ」


 そう言うと男の一人が拳をパキポキと鳴らしながら女の子にさらに詰め寄る。


「や、やめてください。私……本当に知らないんです!」


 うーむ、ケント的に言うなればこれは『可愛い女の子がピンチなのに周囲の人間は何故か傍観しているテンプレ展開!』ってとこだな。

 いつものパターンならここらで私以外の誰かが先に割って入って出番なし! ……ってかんじだが。

 今日に限って何故かそれはない。

 ま、受付のお姉さんから逃げ出したかったし丁度いい、今回は私がテンプレ展開を頂かせてもらおうじゃないか。


「おいおいあんたら、何をそんなに揉めてるんだ」


「あ、なんだガキ。てめぇにゃあ関係ねぇだろうが!」


「いやいや、酒場でそんな大声で叫ばれちゃ皆怯えて旨い酒も不味くなるというものだ。ここは一つ、あんたらの問題を穏便に解決して酒場をあるべき形に戻したいと思ってね」


 私の言葉に静まり返っていた酒場の人達も私に賛同するように雰囲気の流れを誘導する。

 大衆を味方につければ少しでも冷静さが残っている相手ならば自分達に向けられた非難の視線に当てられて少しは落ち着くだろう。


「チッ、わあったよ」


 男のその言葉に周囲もこちらで問題解決すると理解してくれたようで、少しばかり酒場もいつもの雰囲気を取り戻したようだ。


「さて、では何があったのか話してもらおうか」


「ああ……俺達は荷馬車護衛のためにパーティーを組んだ仲なんだが。仕事が終わって報酬もゲット、でもってその報酬でパァーッと打ち上げしてたんだけどよ……」


「会計を済ませようと思ったら今日の報酬が全部消えてやがんだよ。俺が肌身離さず持ってたはずなのによ!」


 それでこの子を疑っていたわけか。

 だがそれだけでは理由としては不十分な気がする、彼女を疑う理由がまだあるはずだ。


「どうして彼女が盗んだと?」


「俺とこいつは同じ戦討ギルドの一員で関係も深い、けどそいつはぽっと出で入って来た赤の他人だ。ことが済めばはいさよならで二度と会うかもわからねぇ関係だ」


「それに打ち上げしようって言ったのもこいつだ。自分は酒を一滴も飲んでねぇくせによぉ」


「だから誤解です! 打ち上げしようって言ったのも本当に任務完了のお祝いをしたかっただけですし。それに私はお酒そんなに強くないので遠慮してただけなんです、信じてください」


 つまり双方の言い分としては。

 男達的には、自分達が酔った隙をついて彼女が金を盗み逃走を図ろうとしていた。

 女の子としては、ただお祝いをしていただけなのに男達の不注意で無くした報酬金を盗んだ犯人にされているって感じか。


「お金はあとでキチンと山分けするって話だったのに盗むなんてことしません。それに報酬は結構な量で私にはそれを隠せる場所もないです。持ってるのはこのポーチだけで……ほら、入ってません」


 彼女が腰に下げていたポーチを開けて見せると、そこには僅かな旅の道具が入っているだけで金銭の類は見当たらない。

 その他にも彼女の軽装備では隠せるところなどないだろう。


(まぁ彼女が豊満ならあるいは! とも思えたが。生憎貧相とまではいかないがあのサイズでは無理だな)


「ワウワウ(ご主人、そういう考えが女の子に嫌われるんすよ)」


 心を読むな。

 しかしこうなると外部犯の線が強いのか? どちらにせよブツがここにないんじゃ誰が盗ったとかいう問題じゃ……ん?


「魔導師さん、犯人は私じゃありません信じてください」


「でもよ兄ちゃん、俺らの近くを通ったやつもあまりいなかったし、状況的にはこいつがやったとしかよぉ!」


 なかなか結論が出ない協議に男達も再び苛立ちを隠せなくなってきたな。

 ……どうするか。

 このままでは彼らがいくら話し合っても結論はでなさそうだし、ここは正直に……。


「おい、やっぱりてめぇが盗んだんだ……!」



「君達、もうそのくらいでやめないか!」



 男がまたヒートアップし立ち上がって大声を上げると、すぐにそれに対抗するかのように後ろから声が発せられていた。


「彼女は知らないと言っているじゃないか! それなのに証拠もなく彼女を追い詰めるような言動……あなた達、男として恥ずかしくないのかい」


 ……ん!? なんかその言い方私も含まれてない?


「で、でもよ……状況的に考えて……」


「証拠もないのに人を泥棒呼ばわりするなんて……あなた達は人として恥ずかしくないのか。それ以上根拠のない言いがかりをつけるというのなら、僕が相手になる」


 と、言い放ち少年は剣を抜く。

 おや、なかなかよい素材で作られた剣だな……でわなく。


(公共の場でそんなもん振り回そうとするほうが常識的におかしいとは思わんのかねぇ……)


 仮にも人が集まる場所なんだし、そっちのほうが人に迷惑を翔けるような気がしないでもない。

 だが……


「「「きゃー! エリオットくんカッコイイー!」」」


「ちょ、ちょっと皆茶化さないでよ」


 なんというか……ケントの時とデジャヴを感じる光景だな。

 ……いや、どちらかと言うと今回のほうがたちが悪そうだ。


「コホン……さて、どうしても退かないというのなら、僕の"竜殺しの剣ドラゴンスレイヤー"が黙っていないよ」


「ド、"竜殺しの剣ドラゴンスレイヤー"!? こいつ、最近噂でよく聞く"竜狩り"か!?」


 誰じゃそら。


「おいおい、ここいら周辺の竜型魔物をことごとく打ち倒したっていうあの!? まだこんなガキだってのにか!? ……くっ、こりゃあ割に合わねぇ。金のことはもういいから俺は逃げさせてもらうぜ」


「あ、待てよ! くっ! 覚えてやがれ!」


 なんともまぁ丁寧な説明をしてくれた男二人は不利と見るや否や一目散に逃げ出してしまった。

 それでいいのかあんたら……。


 だがまぁ今はそんなことよりこちらの"竜狩り"くんとやらだな。


「えっと……僕ってそんな有名なの」


「もう、エリオットくんってば。謙遜するところもカッコイイ!」


 まったく、取り巻きの女子共がまた騒ぎ出してちょっとした営業妨害だぞ。

 その中心人物は輪の真ん中でヘラヘラと鼻の下を伸ばしてるだけだしな。


「ワウン(これはぼくもわかるっす。ご主人が無意識に嫌悪するタイプっすね)」


 ま、こういう奴は傍から見てれば面白いんだけど、いざ絡むとなると途端にウザく感じるタイプだな私にとっては。


 しかしまぁ、ともあれこれで問題はひとまず解決したってことでよろしいんかね。


「あ、あの……ありがとうございました。私ヘヴィアっていいます。なにかお礼ができれば……」


「ま、待ってよ。まだ問題は解決してないでしょ」


 ん、そうか? まぁ肝心の消えた金の問題についてはまだどこにあるか明らかには……。


「君、一人だけ逃げなかった勇気は認める。だけど逃げない理由は知りたいな」


 え? ああ……そういうこと。

 つまりこの"竜狩り"くんの中では私とあの男達はワンセットなわけで、どうしてまだここに居座ってるのか疑問に思ってるってことね。

 ……え、なにこの面倒くさい奴?

 やっぱり絡まれると厄介なタイプだったなぁ。


 まぁ私が逃げない理由と言われましても……


「逃げるも何も……元は無関係な人間だったしなぁ?」



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