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104話 精霊神はお知り合い


「はじめまして皆さん、我が名はルファラ・ディーヴァ。大樹ユグドラシルの精霊にして、この大陸にて“精霊神”と呼ばれし存在……」


 皆がゴクリとつばを飲む。

 なにせこの大陸中の人間にとって幻やら伝説やらと謳われる存在が目の前に今、存在しているのだから。


「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいんですよ皆さん。どうかあたしのことは"この大陸の七神王"ではなく"フローラの母親"という風に接してください」


「は……はぁ、そう言われましても……」


 精霊神……ファラはお構い無くといった感じだが、皆はやはりそう簡単には受け入れられはしないか。

 星夜の後ろで隠れている一人を除いて。


「さて、フローラ? どうしてあなたが結界の外でこんなことをしているのかしら?」


「うう……」


「まったく、あなたはいつもいつも……。一体誰に似たんだか……」


 あの様子から察するに、フローラは勝手に結界の外へ出て遊んでいたんだろう。

 それも、多分これが初めてじゃないな。


「そ、そんなことより! なんでママこそ結界の外に出てるの!? しかもなんかゲンちゃんと仲良さそうだし」


「こらフローラ、話をそらさな……」


「まぁ待ってくださいフローラのお母さん。この状況に疑問を持っているのは我々も同じです。なぜあなたが協力をしてくれたか……限との関係を含めて教えていただきたい」


 このままでは長くなりそうだと判断したのだろう、星夜が二人の間に入って話を中断させる。


 まぁこのまま誰も動かなかったら私が止めていたが、やはり星夜は状況の対応が早い。あとはリネリカと……ケントも少し落ち着いてきたか。

 他の皆はまだ精霊神という肩書に放心しているみたいだな。


「オホン……そうですね、少々取り乱しました」


 ファラも落ち着いて、やっと説明に入れそうだ。


「星夜ありがとー、大好きー!」


「礼を言うのはいいが、母親とは後でキチンと話はつけろ、いいな」


「ええ~……」


 ほどなくして気を失っているラフィナ以外の全員が落ち着きを取り戻したところで私とファラによる今までの経緯を説明するのだった。






 時はメレスの策略により星夜達と分断された後のこと。


「さあ、全速力で飛ばせ犬!」


「ガウン!(よっしゃー! 砦まで超特急っす!)」


「……と言いたいところだがそっちじゃない」


 犬の首根っこを掴んでぐいっと引っ張り動きを止める。


「ガググ……(ぐえ、ご主人何するんすか……)」


「スマンな犬。だがこのまま砦へと向かえばそれこそ敵の思う壺だ」


 私はこの騒動の黒幕がおそらくメレスだと考えている。

 以前、偶然にも奴がケルケイオンに触れた時に解析された情報……そこから得た魔力回路の構造は明らかに他の者とは異質だった。

 ラフィナに組み込まれている呪術型の魔術を操るための回路もバッチリそこに組み込まれていやがったしな。


「ガウ!? ガウ!(なら全部あの人が犯人ってことっすか!? 許せねっす、今すぐぶちのめしに戻りましょうご主人!)」


「落ち着け犬。おそらく砦に向かっている魔物というのもまんざらハッタリでもない。それにたとえ奴をぶっ飛ばせてもこの無尽蔵に湧き出る魔物を止めないかぎりは勝利とは言えない」


 この戦いの勝利条件は四つ、"現在発生している魔物の殲滅"、"魔物の追加の阻止"、"ラフィナの呪いの解除"、そして"メレスの戦意喪失・又は抹殺"だ。

 ラフィナの呪いは先手を打っている、メレスの撃破も全員でかかればおそらくなんとかなる。


「ガウウ……(問題は魔物っすか……)」


「ああ、これはかなり手が込んでいる」


 おそらくメレスが5年間の間にこの地域全体でずっと準備してきたのだろう……時間と範囲というアドバンテージはやはりデカい。


「が、希望はないわけじゃない」


「ガウン(さっすがご主人、一発逆転の手があるんすね)」


 そう、どんな絶望的な状況でもこの私の知恵があればクルッとひっくり返る……かどうかはまだわからないんだよなぁ。


「正直言ってこれは賭けだ。八割方確信は持っているんだが……いかんせんこれは会ってみないとわからない」


 もしかしたらこのまま砦の魔物を倒しに行って全速力で戻ってきた方が良かったと言うハメになる可能性もある。


「ガウ、ガガウ!(でも、そんなの行ってみないとわかんねーっす。だからぼくはご主人を信じるっす!)」


「サンキュー犬。そうだな、皆も待ってるだろうし、サッサと話つけにいくか! 犬、反転してまっすぐ進め!」


「ガウーン! ……ガウ?(了解っすー! ……でもこっちは行き止まりっすよ?)」


 私達の向く方向にはとても越えられそうにない岩壁がそびえ立っていた。


「いや大丈夫だ、迷わず突っ切れ。疑問などいらない、この道は通れる」


 目の前に餌をぶら下げれば、必死にそこへたどり着こうと堅い守りを崩そうとする。

 しかし実は幻覚それこそがフェイク。本人は安全な場所で次のフェイクの準備を悠々と進めている、あいつが得意としていた方法。

 ついでに香りで少しでも思考を鈍らせれば魔物程度では必ずたどり着けない。


「よし……犬、ここでストップだ」


 そして、たとえフェイクを見破ったとしても最後の魔力壁を突破しなければならない……それも最速で。

 時間をかければかけるほどまた次の対策を講じられるなんともいやらしい鉄壁の守りだ。


「ワン?(いけるんすかご主人?)」


 もはやスピードは必要ないので犬には元の姿に戻ってもらい力を温存させておく。


「いけるさ……なにせこの形の守り方を考案したのは他ならぬ私だからな」


 多少アレンジされているが、この魔力構成から読み取れる製作の跡にとても懐かしい感覚を思い出す。

 複雑なパズルのようなプロテクトは皆で考えて拠点の防壁に使っていたっけか……。


「多少の改変はケルケイオンのサポートがあれば……よし、いけた!」


 私がプロテクトを解錠すると、何もない空間に突然扉が開くように人がひとり通れるほどの小さな四角い穴が開いた。

 私達は迷いなくその扉をくぐり、目的の場所へと向かう……そう、『世界樹ユグドラシル』の下へ。



「まさか、あの守りを突破できる者がいるとは思いませんでした」



 世界樹へと向かう私達の耳に突然聞こえてきた、透き通るように綺麗な女性の声。

 声の方向へ振り向くと、そこには神々しい光を身にまとった一人の精霊がそこに浮かんでいた。


「しかしこの場所まで潜り込まれてしまったのなら仕方ありませんね……」


 私が誰だか確認もしないで淡々と話しを進める精霊神……いや、私は精霊神という肩書以前に彼女が誰だか知っている。


「なぁ、ファ……」


「いいでしょう! この“精霊神”自身が正々堂々相手をして差し上げましょう!」


 人の話を聞かないところも昔とそのままのようだ……。


「いきます、術式展開! 『桜花の(フレグランス)……」


「いや、そういうのいいからキチンと向き合って話そうぜ、ファラ」


 目の前の発動しかけの魔術を無視して後ろを振り向きケルケイオンを突き立てる。

 すると……。


「ほえ……なんであたしの名前を……? というかここにいるのがバレてるの!? え、何で何で?」


 お前が正々堂々勝負してるところなんて見たこと無いからな私は。


「あなたいったい何者……」


 しかしまったくこいつは……そろそろ気づいてもいいと思うんだがな。

 ドラゴスは私が元・魔法神インフィニティだということにすぐ気がついたというのに。


「精霊神とか呼ばれるようになっても、そういうドジなところは変わってないんだな。ファラ……ルファラ・ディーヴァ」


 こうして私は、ドラゴスに次いでかつての仲間との再会を果たすのだった。




「ねぇ、もう一度聞くけど……ホントに、ホント~にインくんなの? あたしを騙しているとかじゃなくて?」


「先ほどからそう何度も言ってるだろ。私は正真正銘、魔法神インフィニティ……その生まれ変わりだと」


 ようやく話を聞いてくれるようになったファラだが、どうやらまだ私のことを疑っているようだ。


「……ドラゴスはあっさりと私のことを認めてくれたのになぁ」


「む……あ、あたしはモチロン最初からインくんだってわかってたよ! ちょっとからかってただけ」


「最初思いっきり攻撃しようとしてたがな……」


 まぁなにわともあれ、これで話を進められるだろう。

 ファラは昔からドラゴスを引き合いに出すと対抗心を燃やしていたからな。


「さて……ファラ、状況は先程説明した通りだ。頼めるか?」


「任せて。本当ならあたしはこの件には関与せず、行く末を見守っているつもりだったけど……インくんの頼みなら協力しないわけにはいかないでしょ」


 行く末を見守る……か。

 以前のファラならすぐにでも首を突っ込んで行きそうな事態だが、やはり皆昔のままというわけじゃないんだな……。


「それに……どうも娘が迷惑かけてるみたいだしね……」


 ファラの娘……そう、フローラことフローリアン・ディーヴァ。どこか昔のファラを思わせる精霊神の娘。

 あいつがいたからこそ私は精霊神がファラなのではないか? という考えがほぼ確信に変わったと言ってもいい。


(しかし、娘か……そうなると当然父親がいるわけで……)


 チラッと横目にファラを見るとキョトンとした顔でこちらを満ち目返し。


「ん? どしたのインくん?」


 フローラは父親を知らないと言った。その時はこうして精霊神がファラであるとこの目で確かめたわけではなかったので深く考えはしなかった。

 だが今となっては話は別だ。いくら精霊族とはいえ子を成すためにはやることやらんといかんので……つまりファラも誰かと、というわけだ。


(こいつがその辺の男とやるような尻軽ではないとは思うが……)


 しかし2000年経ってファラもいろいろと変わっただろうし……うーむ。


「というかインくん急がなくていいの? あたしはもう作業を始めてるからいいんだけど」


 どうやらファラはすでに私が支持した位置の魔物の動きを止め、発生源の封鎖にも取り掛かっているようだ。

 私も急がなければ。


「おっと、そうだな。それじゃあ後でまた会おう。行くぞ犬!」


「ワウ(わかったっす)」


 考えるのは後だな。

 とにかく今はメレスの計画を止めてあいつらを助けるのが先決だ。






 と、いうわけで現在の場面に戻るというハナシ。私の狙い通りファラは魔物の動きを止め、増殖を防いでくれたわけだ。


「だがつまり、言い換えればオレ達はそこまで追い込まれていたということか」


 そう、星夜の言う通り今回はかなりギリギリだった。

 今回の新魔族、メフィストフェレスは力こそ七皇には及ばないが、それを補って有り余るほどの用意の周到さだった。

 最後の方も少々想定外の事態だったからな。


「アタシ達だけなら絶対に対抗できなかった……。力の無さを痛感したよ」


「はい、特に最後の自爆にはどうしようもありませんでしたから」


「一瞬でも止まってよかったよね~」


 そういえば……アレのことを忘れていたな。

 メレスの最終手段である自爆はこちらの想定を上回る規模だった。あの時謎の魔力さえ抑えこむ重力が発生しなかったら……止めることはできなかっただろう。


「ねぇねぇママ、あの大っきな浮いてる島について何か知ってる?」


「ええ、あれは“天空神”」


 その言葉に全員が驚く。まさかあの時さらに七神王の一柱がいたなど思いもしなかっただろうからな。

 私も驚きだ、確か“天空神”は第五大陸の上空を飛び回っているとしか聞いたことがなかったので、あれほど大きな島が浮いてるとは思いもしなかった。


「いつもは第五大陸の遥か上空を飛んでいるのだけれど、数十年に一回この近くにやって来るの。強い重力場を発生させながらね」


 ファラにもそれ以上のことはわからないらしい。

 だがあれだけのものを常に浮かせるということは普通に考えて不可能だ。


 だが、ファラには……いや、私達にはその()に心当たりがあった。それを言葉に出さないのは確信が全くなく、それを扱う人物にも心当たりがないからだ。


「ま、なにわともあれ、これでこの大陸に暗躍していた黒い影は摘みとったんだ」


「そうだな、俺達は勝ったんだ。いろいろと、複雑だけどよ……」


「帰りましょう皆さん。お姉様も……休ませてあげなくてはなりませんし……」


 今回の戦い、すべてが大援団で終了……というわけにはいかない。

 5年間この国に影響を与えてきたメレスという人物は、その側で過ごしてきたすべての者の心に深いしこりを残して消えた。


 それをどう受け止め、進んでいくかは彼ら次第。

 無責任かも知れないが、これ以上私がこの問題に関与することはないだろう。




 戦いは終わった。今は皆傷を癒しつつ、それぞれ帰り支度を開始している。

 私は特に荷物もないので、昔の仲間のファラと今の仲間のフローラの親子とつもる話をしていた。


「それじゃあゲンちゃんはママと昔からの知り合いってこと? なんか不思議~」


「こらフローラ。この方はとても偉大なお方だったのよ、そんな軽口で話さない」


 まったく、娘の前だからって何カッコつけようとしてんだか。


「お前が言うな。ファラだって私に対してしゃべる時はフローラとそう変わらんだろ」


「そうだそうだ~。ママが軽口なんだから、あたしもそれでオッケー」


「この子は……まったく誰に似たんだか」


 どう考えてもお前だお前。

 ……そういえば、ここは気になっていたことを聞くチャンスだな。


「なぁファラ……フローラの父親は誰なんだ?」


「ぶっ……!」


 うお汚ぇ! いきなり噴くなよ。


「ゲホッゲホッ……イ、インくん、なんでいきなろそんなこと聞くの」


「いや、ただ気になったから聞いただけだが」


 というのは建前で、前世では私はファラの保護者のような立ち位置だったからな、気にならないわけがない。


「べ、別に誰でもいいじゃない……インくんには関係ないでしょ」


「ママってば、またはぐらかしてる……」


 フローラの反応からして、父親の事を聞く時はいつもこのような状態なんだろうな。


「しかしフローラも子供とはいえもういい歳だ、父親の近況ぐらい知ってても悪いことじゃないだろう」


「そんなの関係ありません。この子の父親がどこで何をしていようとあたしは何も知りませんし知る必要もありません」


 お、かかったな。今の言い方は父親がどこかで生きてはいるが何をしているかまでは知らないという口ぶりだ。

 ファラは強引に聞き出そうとしても絶対にはぐらかすからな、少々カマをかけさせてもらった。


(しかしそうなると本当に相手は誰だ? 昔の知り合いはほとんどいないだろうし……ん?)


 その時私はあることを思い出した。何時の夢だったか、確かガロウズの奴が……。


ドラゴスとファラの馬鹿二人をどうにかしてやれ。お前得意だろそういうの


 うん、確かにそう言ってたはずだ。

 となると……。


「まさか相手はドラゴスか……?」


「ぶーーー!!」


 うおお! 一気に噴き出すんじゃねぇ!


「ど、どうしてあのアホトカゲの名前が出てくるのかな!?」


「いや、今この世界で生きてる知り合いを考えたらそうかなと……」


 でもまぁ実際私もあの夢のガロウズの話を聞いていなかったらその可能性は考えていなかったかもな。

 昔の二人はいつも私の後ろを並んでついてきて、まるで兄妹のように親しい存在だったからな。


 こいつらがそんな恋愛事に関わっているとは思いもしなかった。ドラゴスからもそんな雰囲気は感じなかったし。


「べ、別にあんな奴のことなんて知らないし、どうでもいいんだから関係ない関係ない! ほら、グレーデンに帰るんでしょ。あたしもついていくから速く出発する!」


 そう言ってそそくさと逃げるように準備をはじめるファラ。しかし動揺しすぎだろ……バレバレだぞ。

 てかついてくるんだな、王都の人間になんか話でもあるんかね?


チョンチョン


「ん? なんだ?」


 横からフローラにツンツン突かれる。


「ねぇねぇゲンちゃん。もしかしてそのドラゴスって人があたしのパパなの?」


「んー……まぁその可能性はあるな」


「……どんな人なの?」


「そうだな……第三大陸に住む龍族で、そこでは“龍神”と呼ばれる七神王の一角だ」


 私の話をフローラはとても嬉しそうに聞いている。そんなに父親の事が知りたいのだろうか?


「ねぇ、パパって強い? あの辺の大岩とかドカーンってふっ飛ばせちゃう?」


「? まぁそうだな、あんな岩どころか山だって一撃で吹き飛ばせると思うぞ」


「そうなんだ~……」


 目をこんなにキラキラ輝かせて……そんなに楽しいのだろうか。


「会ってみたいなぁ……」


 その言葉には、とても強い期待と憧れのようなものが含まれている、そんな気がした。




修正しました(10章時点)


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