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95話 各々の事情




「皆さん、お話はもうよろしいのですか?」


「うん、もう大丈夫だぜメレスさん」


 異世界人の話し合いからケントの正体バラしを終えた私達は、外で待機していたメレスと合流しそのまま国王への報告に向かうこととなった。


 あの話し合いの後、ケントは自分のハーレム衆に自分の正体が異世界人であることを告げた。

 結果は、ケントが抱えていた恐れなどあっさり吹き飛ばすように全員受け入れていた……というか皆妙に納得していた。

 ケントは泣きながら皆に感謝し、その後またいつのも調子に戻り、「これもまたテンプレ展開だな!」と笑い飛ばしていた。


「しかし、いきなり王やその他の重役の方々へ重大な話があるとは一体……?」


「まぁまぁ、それは着いてのお楽しみ」


 そして、ケントはどうやらいろいろと吹っ切れた様子で王様達を信頼して自分が異世界人であることを公表するらしい。


「なぁなぁ……」


「おや、なんだい魔導師様」


 私はケント軍団の一人である女剣士のリネリカ・ナーランダに小声で声をかける。

 なぜ彼女かと言うと、三人の中では一番大人な雰囲気を出しており話しやすそうだったからだ。

 お姫様はケントにベッタリだし、もう一人の子はおそらくエルフで年齢的には一番だろうが……私の経験上ああいうタイプは相談事には向いていない。


「ケントは自分が異世界人であることをあっさりと公表しようとしているが、大丈夫なのか?」


 私はまだこの国のことを全然知らないからな、そんな大事な情報を大勢の人間に知られてもいいのだろうか不安になる。

 どこからか情報が漏れ、女神政権と問題が起きたり、新魔族がその命を狙い攻めてくることはないか……などなど。


「そうだね……アタシもちょっといきなりすぎるかなって思ったけど、今回呼んだ人達は良識的な人ばかりだし、王様だって温厚なお方だ。まぁ魔導師様の不安もわからないでもないけどね」


 ふむ、あくまでも伝える人間は信頼する者達に限っていると。

 しかし、それでも絶対安全ではないか……まぁリネリカのようにに全員が全員楽観視しているわけではないから、そこは彼女らに任せるしかないだろう。


「ありがとうリネリカ。あと私のことはムゲンでいい、そんなに偉い立場でもないからな」


「ゴールドランクの魔導師は結構な身分だと思うけど……そうだね、ケントの友人として呼ばせてもらうよ、ムゲン」


 ケントの友人として……ね。結構クールな彼女でも、やっぱり基準はケントなんだな。

 異世界人であることをあっさり受け入れたことといい、テンプレハーレムと言ってもやはりそれなりの絆は築き上げているってことか。


 さて、どうやら話していた内にこの国の国王の待つ玉座の間へ着いたようだ。

 段の上には国王と思わしき偉そうな人物とこれまた美しい女性が並んで座っており、その横にもう一人美しいくどこか儚げな女性が立っていた。

 二人の女性にはどことなくクレアと似ているな。


「ムゲン、あの玉座に座っているのが国王のアレキサンダー・レイル・クラムシェルⅢ世様。隣に座っているのが王妃のクラウディア様だ」


 私の意図を察してくれたのかリネリカが丁寧に説明してくれる、ありがたい。


「じゃあ、あの横にいる人は?」


「彼女はラフィナール・クラムシェル、この国の第一王女様でクレアの姉だよ」


 やはりか。

 しっかしラノベでもよくあるが王族ってのは誰も彼も容姿端麗だよな、羨ましい。


「しかし彼女、あまり顔色がよくないな……」


「ああ……ラフィナは生まれつき体が弱くてな、最近はそれも酷くなってるみたいで、結構無理してるように見える……」


「リネリカは彼女とは親しいのか?」


「うむ、ケントと出会う前からの友人だ。だから彼女のことは昔からずっと心配してるよ。でも、近々やっとメレスとの婚姻が決まったようだからな、これでラフィナも少しは元気になってくれるといいな」


 ……なんか聞いてない情報までバンバン出てくる。第一王女と婚姻ってことは、るまりあの宰相のメレスってのがこの国の新しい国王になるのかね。

 ただのヒョロメガネかと思っていたけど、結構な重要人物なんだな。


「おお、勇者ケントよ。此度の魔物討伐の件、大変ご苦労であった。長旅疲れたであろう、今日はゆっくり休むがよい」


 おっと、いろいろと考えている内に話が始まってしまった。

 まぁ私は今回はただの客人であり、主役ではないから喋る必要は全く無いけどな。


「そうしたいのは山々なんですが……王様、俺は今この場を借りて告白したいことがあります!」


「告白? 一体何を?」


「皆さん、今まで黙っていましたが……俺はこの世界の人間じゃありません! 別の世界、地球と呼ばれる場所から“特異点”を通りやってきた異世界人なんです!」


 ケントの告白に場が騒がしくなり始める。疑問、不安、混乱……果たしてこの状況において"異世界人であるケント"を受け入れてくれる者がどれだけいるか。

 その重要なカギを握るのはやはり、次の王の言葉にかかっている。


「皆の者、静まれ。……ケントよ、その話が本当だとしてなぜ今この場で話した?」


 王の言葉によってざわつきは収まり、場を静寂が支配する。そして、皆の注目が再びケントに集まる。


「いや、ただ気付かされただけなんですよ。ここにはただ単に勇者である俺じゃなくて、本当の俺……高橋剣斗っていう存在を見てくれる人がいるってことに」


 ケントちらっとこちらに目配せをしてまた王へ向き直る。

 単純でシンプルだが、その答えには嘘偽りの無いケントの想いのこもった言葉だった。


「だから皆さん、この5年間嘘をついていてすみませんでした!」


 ケントの謝罪によって会場が再びざわめきだす。だがそれをまたしても王が手を上げ要請し、さらにケントへの質問を続けた。


「ケントよ、お主のその気持ちを私は信じよう。しかし、お主にその気持ちを気づかせた要因とやらはちと気になるな。なにせ5年間隠し通した秘密だ、それなりのことがあったのだろう?」


「いやぁ、それも単純ですよ。ただこの二人、同郷の異世界人と出会って自分のルーツを思い出したっていうとこです」


 ……うん、スッパリとバラすねお前。おかげでざわつく人達の視線が一斉に私と星夜に向けられる。


 あまり女神政権に居場所を特定されたくないので、あまり広まるのは勘弁して欲しかったが……まぁなってしまったものはしょうがない、なるようになるさ。

 ここはひとつ、私が前に出て説得を試みさせてもらいますかね。


「ということは……そなたらも?」


「ええ、そうですクラムシェル王。私は数カ月前に召喚されました、そして訳あって魔導師ギルドに身を置いております。こちらの星夜は旅人として勇者ケントと同じく5年前に召喚された者です」


「なんと、この場に異世界人が三人も……」


 異世界人は普通、特異点から召喚された時点でそれこそ世界中にその事実は広まるもののはず。

 しかし、私達三人はのれが公になる前にそれぞれが違う形で世間から避けていた。それが偶然にもこの場に揃ったのだからそれは驚きものだろう。


「ですが私としてはこのことはなるべく公にしないようお願いしたいのです」


「ふむ……理由を聞こうか」


「我々が異世界人であると世に広まると、それを利用しようと動く者がいないとも限りません。それに、この国としても勇者を手放すことになるかもしれないのは不利益ではないでしょうか?」


 正確には女神政権にしつこく迫られるのが嫌なだけだが、念には念を入れて先手を打たせてもらう。

 情報が広まる事によるこの国の不利益をほのめかすことで説得力を上げてみたが……どうだ。


「なるほどな、確かにお主の話はもっともだ。だがな魔導師殿、そなたは一つ勘違いをしているようだ」


「勘違い?」


「私は元からこの情報をいずれかへ流すつもりはまるでない。ケントは5年間我らとともに過ごした、すでにこの国の一員だ。今更異世界人であると言われたとしても今まで通り変わらず接してゆく。皆もそうだな」


 そう言うと王は笑顔で周りを見渡す。

 すると全員がそれに納得したようにうなずく。


「皆……ありがとう!」


「よかったですね、ケント様……」


 どうやらこれでケントの胸のつっかえは取れたみたいだな。


「限、先ほどの要求と質問、お前はこうなることがわかっていてあえてしたものか?」


「どうだろうね」


 こういった展開はやっぱお約束でしょ。まぁ私がちょっと悪役ヒールっぽいのは複雑だが。




 さてさて、ケントの告白が終わったところでそろそろ私の用事の本題に入らせてもらいたい。


「では魔導師殿はすぐにでも異世界の品々を見たいと?」


「ええ、早いに越したことはないので」


「そなたらも長旅だったのであろう? 部屋を用意させるのでそこでゆっくりしてからでも良いのではないか?」


「偶然とはいえ祭り期間前に到着してしまったので、今日中に確認を済ませ明日からはそちらに参加させていただこうかと。それにもう一つの任務もありますし」


 確かにここに来るまでいろいろあった。しかし、今までの問題に比べればこの程度のわけもない、むしろ知的好奇心の方が疲れよりも数倍上だ。


「ならお父様、魔導師様の案内はラフィナがさせていただいてもよろしいでしょうか。あの場所なら何度も訪れたことがありますから」


 おや、今までだんまりだった第一王女がいきなり私の案内を買って出たぞ。

 しかし、それを心配そうに見つめる彼女の親達。


「しかしラフィナ、お前は体が……」


「大丈夫ですお母様。今日はいつもより調子がよいのです」


 なんだなんだ? 王女様は私に興味津々か?

 照れるぜ……あれ、でもこの人婚約者がいるんじゃ……。


「では王様、王妃様、ラフィナ王女と共に私も同行いたします。それでどうでしょうか?」


 そうそうこの人、宰相のメレスだ。


「うむ、お前がついていくのなら心配ないか。ではラフィナを頼むぞ」


「……お父様もメレスも心配性ですね」


「キミの気持ちと体のことをわかっているからするのだよ」


「わかっております、いつもありがとうメレス」


 ……いやさ、そりゃ婚約者同士だしこんな甘い空間が形成されるのは仕方ないとはわかっているよ私だって。

 けど議題の中心人物をほっぽらかしにしないでほしいんだ……うん。


「限、どうやらオレとミーコにも部屋が用意されたようだ。なのでこのまま休ませてもらう」


「そうか、星夜は私の護衛ということになっているが自由に行動してくれて構わない。何かあったら私の名前を出してもいいからな」


「すまない、この借りはいずれ返す」


 返せる日がくればいいけどな。この世界に残ると決めた星夜と帰りたい私では進む道が違う。一度別れれば次に合うことはもう無いかもしれない……。


「そんじゃムゲン、俺達も部屋に戻るわ。お前達のおかげで今日の夜は気分よく過ごせそうだ」


 偽りの自分を脱ぎ捨てて初めて"高橋剣斗"として夜の戦闘に挑むというのか……。

 てかそんな話をここでするなよ。


「もう、ケント様ってば……それでは失礼します。お姉様、あまり無理はなさらないでくださいね」


「もう、クレアまで」


 こうして玉座の間から各々それぞれの部屋や持ち場に戻り、残ったのは私とラフィナさんとメレスの三人。


「ワウ(急に寂しくなったっすねぇ)」


 と、犬が一匹だ。


「さて、では行きましょう。倉庫までの間、今の魔導師ギルドについていろいろと教えてくださいませ、魔導師様」


「やっぱりね、キミのことだからそんな考えだと思ったよ」


 病弱で城から出ることのできないお姫様、だから外の世界の話を様々な人から聞きたい……ってとこか。

 なんだかな……この大陸に着いてからこういったテンプレ設定や展開が多くないか? ま、それでもヒロインのような女性達は私に振り向くことは無いんだけどな……。


「それくらいならお安いご用。それじゃ、行きましょうか」


 こうして、私が魔導師ギルドに入会してからの経緯を話しながら歩いた数分後……。


「ということで、魔導師ギルドは無事平穏な日々を取り戻したとさ」


「凄いお方ですね、復讐のために世界を敵にまわすなんて。わたくしには考えられません……」


 話したのはリオウが起こしたあの事件について。

 私がギルドで一番印象に残った出来事と言えばあれだからな。


「でも……そんな方とも一度会ってお話してみたい気もします」


 おやおや、私の武勇伝のように語っていたのだがどうやら彼女はリオウの方に興味を持ったようだ。


「またかいラフィナ、誰にでも興味を持つのはいいがその好奇心でいつ危ない目に合うか私はいつもハラハラしてるのですよ」


「ごめんなさいメレス。でもわたくしは知りたいのです、わたくし以外の人がどのような考えをし、どのような世界を見てきたのか……」


 自分では知ることが、見ることができないからこその考え。いつの時代も、そんな人間がいるんだな……。


「あの、魔導師様?」


 おっと、つい昔を懐かしんでボーッとしてしまった。


「すみません王女様。あと自分のことはムゲンと呼んでもらって構わないですよ」


「わかりました、ではムゲン様と代わりにわたくしのこともラフィナとお呼びください。……それでムゲン様、他には何かお話は無いのですか?」


 結構興奮気味に聞いてくるな。どうやら先ほどの話で火が点いたか。

 では次は何を話すかな……以前の二つの出来事か、それとも前世の武勇伝でも話すか? 少し歪曲すれば時代なんてわからんだろうし……。


「あ、魔導師殿、足元にお気をつけて!」


「ん? おおう!?」


カラン


 メレスの声にハッとなったが時すでに遅し。どうやら段差があったらしく、考えながら歩いていたら引っかってしまった。

 おかげでケルケイオンまで落としたようだ。


「大丈夫ですかムゲン様!? あ、杖をお落としに……わたくしが拾います」


「いやラフィナ、ここは私が」


 私の落としたケルケイオンを拾おうとラフィナとメレスの二人が同時に手を伸ばすと……。


「「あ」」


 当然のように手が触れ合う。そして二人は顔を赤くしながらお互いに顔を背け……。


「ご、ごめんなさいメレス……」


「こちらこそ、すまないラフィナ」


 そのまま二人はモジモジしながら顔をチラチラ見合い、目が合うとまた顔を背ける。

 ……いやさ、まぁいいよそうなっちゃうのは、最近婚約が決まったんだしこれから夫婦になるっていう二人がそうなっちゃうのはいいんだよ別に。


「……すまないがそろそろ杖を返してもらえないだろうか」


「「あ、す、すみません!?」」


 ハモらんでいい。

 私は落としたケルケイオンに異常がないか確かめ、それからまた歩き出す。が、前を歩く二人がなんというか……あま~い空気を醸し出しているのがなんとも言えない。


「あの、お二人は婚約者同士で、以前からの知り合いなんすよね?」


「え、ええ、実は私はラフィナがまだ外に出られる頃に拾ってもらった身でして……」


「拾ってもらった?」


 なんだか話が見えてこんな。


「5年近く前です。わたくしがクレアと共に隣国へ出向いてる時偶然出会いまして」


「あの時私の村は突然現れた新魔族に襲われていたのです、両親もそこで亡くして……そんな時偶然通りかかったラフィナの馬車で、護衛していた者達が応戦してくれたおかげで私だけ生き延びることができたのです」


「でも、メレスはあの乱戦の中見ず知らずのわたくしを庇ってくれましたよね……」


「あの時は……無我夢中で」


 おーい、またラブラブ空間が発生しようとしてるぞー。

 しかしおいおい、ちょいと気になる単語が出てきましたよ。


「コホン……それで、護衛が新魔族を追い払ったのか?」


 七皇凶魔で無くとも新魔族はかなりの強敵だ。それをただの国の兵士が応戦したのは少々無理がないか?


「いえ、実際に彼らを倒したのはケント殿なんです」


「ケントが? あれ、でも5年近く前ってことは……」


 星夜とケントがこの世界に召喚されたのも大体5年前だ。

 ということは……。


「多分考えてる通りだと思いますよ。強力な新魔族に護衛が倒され、クレア様が襲われるその時に現れたのがケント殿です」


 なるほど、つまり四人は5年来の付き合いなわけか。それで結構仲良さそうだったんだな。

 しかし5年前、なにかと事が起きるのがこの時期だな。偶然か? それとも、何か神の見えざる手が……なんてな。


「それからというもの、ケント殿は勇者として。私はこの顔立ちが良かったのか、ラフィナの声もあって貴族の養子として今までこうして国に仕えているのです」


 なるほどね、だから最初会った時、自分は贔屓されているって言ったのか。


「お話はここまでにしましょう。もう倉庫に着いてしまいましたから」


 どうやら先ほどのやり取りの最中に目的地に到着したようだ。


「残念です、もう少しお話を聞かせて頂きたかったのに」


 寂しい顔をしてうつむくラフィナ。 そんなに外の話が聞きたかったのか。


「ならまた今度話しますよ。ここにいる間ならまだ機会はあるでしょうし」


「本当ですか!」


 打って変わって表情がぱあっと明るくなる。分かりやすいなこの王女様は。


「ラフィナのためにありがとうございます魔導師殿。では、扉の解錠が済みましたのでどうぞ中へ」


「どうも」


 ここからは個人的に調べたいので二人には戻ってもらう。

 流石に中の物の持ち出しは厳禁なので入り口に見張りは置かれるが。


 さて、そんじゃいっちょ調査開始といきますか。




修正しました(10章時点)


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