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92話 職人の時間


 さて、私達は未だ目的地に到着せずに王都までの道を進んでいるわけだ。流石に魔物に襲われてからの休息と安全なルートを考慮したためによる時間のロスが大きいな。

 第四大陸は広い、しかしルートさえ定まっていれば町から町へ移動することはそう長い日数はかからない。ジオとイレーヌが行って帰ってきたようにな。


「でもこの分なら明日には到着できそうだな」


カチャカチャ


「はい、いろいろありましたけどやっと辿り着けそうですね。けど旅に出ていきなりあんな目に合うなんて思いもしませんでした。皆さんがいなければどうなっていたか……」


カチャカチャ


 セラもカイルも災難だったな。私や星夜がいたからよかったものの、並の護衛ではあの数の魔物を相手では保たなかっただろう。


「でも最初にこんな体験しておけば大抵のことには動じなくなれるんじゃないか」


「キケン……なれとく……いい」


カチャカチャ


 小さいが旅の先輩でもあるミーコもうんうんと頷いている。

 星夜のあの主人公体質だとなにかと厄介事に巻き込まれてそうだからな~、ミーコも苦労してるんだろう。


「そうですね、あれからカイルももっと頑張ってるし、私も頑張らなきゃ」


カチャカチャ


 あれからカイルは傷は完全に治ったのはいいが、自分の情けなさにしばらく落ち込んでいた。

 今だって……。


「てい!」


「踏み込みが足りないな」


 私達とは少し離れた場所で星夜がカイルと訓練している姿が見える。正確にはカイルが戦闘中の星夜の動きに惚れ、稽古をつけて欲しいと頼み込んだのだ。

 あまりのしつこさに星夜も折れ、この護衛中だけ付き合ってあげているわけだ。

 星夜は「稽古と言ってもオレは剣を扱うことはできないから基本的な体の動かし方だけだぞ」と言っていたが、それだけでも十分に強くなれるだろう。


「しかし星夜の動きには無駄がないよな、どこで覚えたんだか……。ミーコは何か知ってるか?」


カチャカチャ


「あ……それは……」


 どこか遠慮しがちな様子のミーコ。聞いちゃいけない話題だったか?


「ミーコ、別に気にすることはない。それに隠しているわけでもないからな、オレから話す。つまらない話だと思うがな……」


 どうやら二人は稽古を終えて戻ってきたようだ。

 深く詮索はしないつもりだったが、本人が教えてくれるというなら聞いておこう。


「そんなに面白い話でもない。オレの父親はとある国のエージェントで、その後を継ぐために様々な訓練を受けていた。それがこの世界で実戦経験を積むことで精錬されただけた」


「ふーん、そうか……って納得するかアホォ! なんじゃその特殊な生い立ちは!」


 ビックリだよ! そういうのってマンガやゲームだけの話としか考えてなかったからな。


「いや、お前なら納得すると思ったが……。それに生い立ちで言えば限はオレより特殊だと思うが?」


「あー……まぁそれもそうか……」


 なにせ別世界の転生者だからな、しかも2000年生きた記憶あり……星夜とは規模が違った。

 『もしかしたらいるかもしれない度』で言えば星夜より私の方が現代的にもありえないだろうし……。


「でも星夜だって普通なら相当ありえない設定だからな!」


「まぁ、そうだろうな。こちらに来てからはそこまで意識してなかったが……」


「えーっと、お二人は何を話してるんですか?」


カチャカチャ


 おっと、驚いていたせいでセラ達をないがしろにしてた。


「……ところでずっと気になっていたんだが、さっきからお前らはカチャカチャと何をやっているんだ?」


「ああ、せっかく職人がこうして三人も集まっているからな。意見交換をしつつ装備の調整をしていたんだ」


「三人?」


 一人は魔導銃に恋する見習い技師、セラ。二人目は細かい工具から大きなハンマーまで何でもござれのドワーフ族、ミーコ。そして最後は、魔導に関してはどんと来い、その知識を活かして魔道具だってお手の物、言わずと知れた『まじゅつのかみさま』……私ことムゲンだ!

 ともかく、セラも魔導銃の製作には光るものがあるし、ミーコもドワーフ族というのを抜きにしても、長年武器の整備をしてきたからか凄く手際が良い。

 だからこうして二人と楽しい趣味の時間を過ごしている。


「職人だなんて……お二人に比べたら私なんてまだ未熟者ですよ」


「いやいや、これだけの技術があるなら立派に技術者を名乗ってもいいって。数年もすればきっと有名な技師になれるさ。な、ミーコ」


「う……セラちゃ……すご」


 ふふふ、こうして女の子と楽しくお喋りできるのも役得だぜ! ……まぁどっちも男付だからこれが恋愛に発展することはまず無いだろうけどな!


「というかお前らちょっと待て、そのさっきから弄くってるのはまさか……」


 星夜が身を乗り出して私達の目の前の物品に目を向ける。

 流石に気づくか……持ち主だしな。


「ああ、星夜のパイルバンカーだ」


「いや「ああ」じゃないだろ、バラバラじゃないか! というかミーコまでなんで一緒になって……」


「あう……これ……は」


「まぁ落ち着け星夜、これはミーコの了承も得て行ってることだ。ただ分解してるわけじゃない」


 このパイルバンカーがどんな構造か知りたかったから分解したってのもあるけど、それだけじゃ私の探究心はとどまらない。


「とにかく見ていろ。これをこうしてあれをああして……完成!」


 私は手元のパーツをちゃちゃっと組み立てパイルバンカーを完成させる。

 フッフッフッ、この私にかかれば初めて見る魔道具も数時間でこの通りだ。

 さらに今回はいつも整備を行っているミーコの協力もあり、仕組みは完璧に把握済みだ。


「ほれ、星夜」


 星夜にパイルバンカーを返すと、すぐに装着して異常がないか確かめはじめる。


「つけ心地は以前と変わらないか……。見た目にもそこまで違いは……ん、なんだこの穴は?」


「お、早速それに気づいたな。手元のグリップにトリガーが付いているだろう、それを押してみてくれ。あ、くれぐれもこっちを向いて押すんじゃないぞ」


 そんなお約束なギャグは現実じゃ恐ろしいだけだからな。


「これか……予想はつくが……」


カチッ パァン!


 星夜が木の上の鳥に向かって構え引き金を引くと、その穴から魔力で生成された弾丸が的確にその翼を捕らえた。

 マジか……。


「なるほど、なかなか便利だな。しかし少し疑問が……どうした?」


「いや……見事なものだと思ってな」


「せや……さま、すご……です」


 なんの問題もなく新しくなったパイルバンカーを使いこなしている星夜とは裏腹に、技術者サイドの私達は素直に驚いていた。


「凄いですねセイヤさん! 私達はその武器に魔導銃の構造を組み込んでみたのはいいんですけれど。全員正確に撃てたことはなかったんですよ」


 セラの言う通り、改造したはいいものの正確性に少々難ありという代物になってしまった。

 それを補うために、私のアルマデスのように威力は多少落ちるが乱射が可能なガトリングモードにのみ移行できる構造も組み込んでおいたんだが……どうやら通常でも十分のようだな。


「それも特殊な環境で育った恩恵だったり?」


「銃の扱いはアフリカの方で数年……最近銃器に触れていないのとはじめて扱う特殊な形の銃だから少々狙いは外れたがな」


 あれで納得いってないのかよ……。

 しかし銃の扱いまで完璧なんてお前どこのゲームから出てきたの? と言いたくなる。


「しかし耐久性はどうなんだ。空洞がある分防御には向かなそうだが? 実践ではこいつで攻撃を受け止めることも少なくはない上、劣化のスピードも以前より早くなりそうだ」


 もう将来的な実践を想定した話か、経験豊富なだけあって話が早い。まぁこちらとしても余計な説明なしに話が進むのは願ったり叶ったりだけどな。


「その点に関しては心配ない。元々そのパイルバンカーには無駄な部分が多かったからな、そこをチョチョイと改造しただけだ。逆に私の持っていた素材を使って装甲は更に強化されたはずだ」


「昨日オレに創らせていた変なパーツはこれのためだったのか……」


 そう、ミーコからちょくちょくパイルバンカーを見せてもらっていた私はかねてよりこの改造計画を立てていた。

 しかし部品を作ろうにもここにはそのための設備がない。そこで考えたのが星夜の能力を利用することだ。


(だが口頭で伝えただけで用途もわからない部品をポンポン作り出せるとは思えないな……)


 ならば話は簡単だ、要はわかりやすくすればいいだけのことだからな。

 私は紙とペンを取り出しささっと部品の図面を描きあげ、早速星夜に試してもらったところこれが大当たり。設備もないのにたった一晩で必要な部品が全部揃ってしまった。

 あと、いつまでもこの能力に呼び名がないのは不便なので、勝手に『鋳造キャスト』と命名させてもらった。

 星夜は別にどうでも良さそうな顔で了承したが、やはり力を使う時に『ハァ!』はダサいだろう。


 そんなこんなで部品も出来、技名を決まり万々歳だったわけだ。


「まぁ確かに便利にはなった、礼を言う。しかしこうなるとミーコの負担が大きくなるのが少し心配だ……」


「でも今回の改造に一番乗り気だったのは他でもないミーコなんだぞ」


「なに?」


 私がパイルバンカーを調べている時、ミーコはじっとこちらを見つめ何かを訴えているようだった。

 話をしてみると、どうやら私がパイルバンカーの改造に興味を示していること対しての協力案だった。

 まともに喋ることのできない彼女だったが、その熱意は私の心に響いた。


「ミーコはもっとお前の役に立ちたいんだよ」


「いや、今でも十分に助かっているが……」


「星夜はそうでもミーコの中ではそれだけじゃ納得してないんだよ。もっと乙女心ってやつを理解してみようZE!」


「ワウ(盛大なブーメランっすね)」


 だまらっしゃい。

 犬め……自分が戦えるようになったからってちょっと調子づいてきてないか?やはり一回とっちめて……そうだ、いいこと思いついた!


「ワウウ……(なんすかご主人、そのニヤけ顔は……)」


「なぁに、星夜のNEWパイルバンカーの試運転も兼ねておまえと模擬戦をやらせてみようと思ってな」


 一度調子づいた自信は後に慢心を生み出す種となり得る、こういう認識を改めさせるのは早い方がいい。


「ワウ……『ワウン』!(今の僕を舐めない方がいいっすよ……『戦闘形態ブレイブフォーム』!)」


 犬が力を解放するとその体は光に包まれた後、がっしりとした巨大な獣に変化する。

 ちなみに『戦闘形態ブレイブフォーム』というネーミングも私が考えた。


「よし、ミーコ、セラ、後ろに下がるぞ。星夜、この通り犬はやる気みたいだぞー」


 ここにいるメンバー全員には予め犬のことは伝えてある。事情を知らない者に女神の力を説明するのは面倒だから私の魔術によるものということにしてあるがな。


「しょうがないな……」


 星夜もオッケーのようだな。


「では中心に火の玉を投げ込むから、それがハジケたら戦闘開始だ」


 そういえば何気にこれ異世界人の力を持った者同士の戦いだよな。そう考えるとなかなかいい戦いになりそうだ。


「いくぞ……そら!」


 緊張した空気が張り詰める中に小さな火球を投入する。

 そして、火球が地面に衝突しハジケると同時に……。


パン!


「『鋳造キャスト』!」

「『ガウ』!(『高速戦闘移動スレイプニィル』!)」


バギャ!


 一瞬の出来事だった。ミーコもセラも何が起こったのかわからないという風にポカンとしてしまっている。

 今の一瞬で何が起きたのかというと……。犬が以前見せたあの高速移動術を駆使して星夜へと突進をかましたのだ。しかし星夜は初っ端から対策を考えていたらしく、自分の開始位置を焚き火とそれを燃やすための木材がある場所へ移動していた。それを『鋳造キャスト』により壁へと作り変え、犬がそれにぶつかることで一瞬の隙が生まれ回避に成功した……という攻防が繰り広げられたいたわけだ。


「ガウウ……(むむ、やるっすね……でもぼくだってこの前と同じじゃないっすよ)」


 犬は以前の暴走から私と何度も力の使い方を研究した結果、暴走することはなくなり大分小回りも利くようになった。


「ぬ……」


 別の角度から襲い来る犬を今度はパイルバンカーで受け流す星夜。犬の突進は一直線かつ攻撃後のブレーキで大きな隙もできる。しかし星夜が攻撃に向かう前に次の攻撃体制が整いまたそれを受け流す……という攻防が続く。


(この調子だとどちらかの体力が尽きるかの持久戦になるか? ……いや、これは)


 犬は私が考えたように持久戦に持ち込み、一瞬の隙を撃ち抜こうという腹づもりだろう。

 だがそれとは裏腹に、星夜の方は若干空気が変わった……先ほどとは構えが違う。


「ガウガウ!(そろそろ諦めるっす!)」


「ぐう……」


 む、今まで両手で攻撃を受け流していた星夜がいきなり片方だけで犬の攻撃を流した。

 先ほどの犬の声に焦りが生まれたことを読んで仕掛けにいくか!


「そこだ!」


パァン


「ガウッ!?(危ねえっす!?)」


 犬がブレーキをかける隙をついて受け流さなかった側のパイルバンカーから魔力弾を発射された。だが、瞬時に反応した犬は飛び退けて難を逃れることに成功する。


「ガウン……(驚いたっすけど今のぼくなら避けられない程じゃ……)」


「いや、犬よ、もう終わってるからな」


「ガウ?(へ?)」


 残念だったな、一つの隙はキチンと対処できなければまた新たな隙を生むことになる。


「一撃、入れさせてもらうぞ」


「……ガウ(……あ、はいっす)」


ズドンッ!


 犬が弾丸に気を取られている内に星夜は瞬時に接近し攻撃体制を整えていた。

 星夜の戦略勝ちだな、やはり戦闘経験の差……戦いに対する心構えが違う。


「犬、これでわかったろ、お前はまだまだだって」


「クゥ~ン……(身にしみたっす……)」


 すでに犬の体は元のワンコに戻っており、服従の姿勢でその場に転がっていた。


 しかし模擬戦とはいえやはり戦いのレベルが高かったな。あの犬の戦闘能力はまだまだ伸びしろが十分にありえるだろうし、星夜だってまだまだ本気じゃなかった。

 やはり女神の力というのは今までの私の常識とはまったく別のものになるようだ。


「やはり一度犬を解剖して調べてみるか……?」


「ワウ!?(ちょ、何物騒なこと言ってんすか!?)」


「冗談だ」


 そんなこと私が本気でするわけ……ないだろう?


「みなさーん! そろそろ出発ですよー!」


 馬車の方からカイルが手を振って出発を知らせる。どうやらいろいろとちょうど良かったみたいだな。


「そら行くぞー犬」


「ワウーン(もうちょっと丁寧に運んでほしいっす)」


 ダウンした犬を引きずりながら私達は馬車へと向かう。

 [map]を確認すると王都までの道のりはあと僅か。この調子なら明日には目的地に到着だな。




修正しました(10章時点)


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