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90話 変わり者の二人


「しかし、出会って早々人を異世界人かと問い詰めるとは、お前も相当な変わり者のようだな」


 まぁ確かにいきなり初対面の人間に「お前宇宙人だな」とか言ってるようなものだからな。確信がなければ確実に変人だ。

 私の場合は確信があったからだが。


「悪かった悪かった。ともかく、お互い異世界人同士ってことでこれからはフレンドリーにいこう。今後お前のことは星夜って呼ばさせてもらうぜ」


「一応オレの方が年上だと思うんだが?」


「細かいことは気にしない。私のことも気軽にムゲンと呼んでくれ」


「いや、オレはあえて“げん”と呼ばせてもらう。5年ぶりに日本人と会話していると実感できるからな」


「そうか、じゃあそれでいいや」


 別に呼ばれ方に拘ってるわけでもないしな。日本でもいろんな呼ばれ方があったから全然気にはならないぞ。


 兎にも角にも私達はこうして分かり合い、今は酒場への帰り道がてらの世間話中ってとこだ。貴重な他の異世界人との会話だし、聞いておきたいことも山程あるからな。


「そういや、5年前に二人の異世界人が現れたと聞いているが、その内の一人が星夜なんだよな」


「ああ、オレは当時16歳。日本じゃまだ成人もしてないガキだったが、何かに縛られることが嫌いだったオレはシントから逃げ出し、以降奴らが諦めるまでずっと逃亡生活の毎日だ」


 まぁ、よっぽど正義感の強い奴でもなきゃ理不尽な異世界召喚で命を賭けて戦え、なんて受け入れられないだろう。

 そう考えると500年前の"勇者"ってのは女神達にとって都合のいい人材だったんだな……。


「それにしてもよく逃げれたよな。いきなり訳も分からない異世界に放り出されたってのに。あれか? 召喚された日本人お決まりの『こんな設定、漫画や小説で見た!』ってとこか」


 私の場合は違う意味で見たことある世界だったから別段驚きは薄かったが、星夜はよく冷静に、かつ女神政権の連中を出し抜いて逃げきれたものだ。


「いや、オレはそういった知識はまるでなかったからな、はじめは戸惑ったさ」


「にしては随分と思い切った行動だな、自分がどんな状況下に置かれてるかもわからなかったんだろう?」


 流石に魔術や魔物の飛び交う中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を予備知識もなく動き回るなんて無茶だと思うが……。


「それに関しては詳しい奴がいたからな」


「ん? そんなに丁寧に説明してくれる奴がいたのか。どんな奴なんだ?」


「ああ、オレともう一人召喚された日本人。そいつがこういった世界観設定に詳しかったんだ。召喚された夜、オレに自慢するように説明してたよ、異世界召喚のテンプレというものを」


 なるほど、星夜と違ってもう一人の方はバリバリのオタクだったか。

 そういえば以前聞いたことのある記述でも『ハーレム作ってうはうはだぜー!』とか言ってたらしいからなぁ……死んだらしいけど。


「その翌日、神殿ではそいつが郊外で死んでいるということでかなり慌ただしかった。オレは好機だと思い、その混乱に乗じてシントから逃げ出したんだ」


「逃げ出したもう一人が死んでるっていうのに、よく街の外に出ようなんて考えたな」


「元々オレの家は結構特殊でな、どんな状況でも生き延びる術は心得てるつもりだった。その上でここがどんな世界か理解できたのなら、多少無茶でも問題ないと判断した」


 いや普通できねぇよ。しかも特殊な家で生き延びる術を知ってるってなんやねん……。

 でもラノベの主人公とかの設定でそういうのってよくあるよな……『彼は至って普通の高校生……けど彼の家にはちょっとした秘密があるのだ』っていうの。それぜんぜん普通じゃないんだよなぁ……。

 っと話が脱線したな。


「それからサバイバルな生活を送る内、気づいた。オレの体が普通の人間ではありえないほど強靭になっていることを」


「強靭……どういうことだ?」


「女神が与えたという力の影響だ。得られる能力とは別に肉体にも補正がかかるらしい。まぁ、女神のやつはそれでも力が足りないとかぶつぶつ言ってたがな」


 肉体への補正……もしかしたらそれも異世界人がセフィラの力を得たことによる追加要素の一つかもしれない。セフィラの力は戦闘系は多くないと言っていたが、別世界で"人"が負けた理由はそれだけではないと思う。

 セフィラの世界にいた"人"がこちらの人族とほぼ同じだというなら、人族と新魔族の基礎能力の大きな違いも同じということだ。……うん、そりゃ勝てんわな。

 だがそれが補える……いや、むしろ圧倒できる程の基礎能力、それに強化された戦闘系の力が加われば?


 なるほど、そりゃ異世界から呼び出したくなるよな……まぁそれでも私はあのポンコツの考えに賛同する気はないがな。


「星夜の特殊能力ってどんなのなんだ? たしか七大罪の逆、七美徳がモチーフだよな」


 でも日本じゃ七大罪はいろんなところで見かけるが七美徳ってあんま使われないよな、結構曖昧だし。


「らしいな、オレのは“救恤きゅうじゅつ”だ。覚醒した瞬間頭の中に使い方を叩き込まれるような感覚だった……。限はまだ経験してないのか?」


 あー、そういえば説明するの忘れたな。


「実はな星夜……」


 キョトンとする星夜に、私が普通の異世界人でないことを伝える。




「なるほど、実際に召喚されたのはそこにいる犬で、限はただ巻き込まれたおまけ……ということか。まったく、面白いことになったものだな」


 人の不幸を楽しそうに納得するなっての。まぁ私自身他人から見れば面白い状況だとは自覚してるが。


「なら能力を持ってるのもその犬というわけだな」


「ワン(まだ覚醒してないっすけどね)」


 しかし、最近の犬を見てるとその兆候はある気がする……。いくら私の使い魔とはいえ、こいつはどう考えても"犬"としての思考と運動性能の枠を超えてる気がするし。


「いいだろう、ならオレの能力も教えておこう……よし、あれでいいな」


 そう言うと、星夜はそこら辺に落ちていた鉄くずと木の板を拾い上げた。そして、それらを一緒に地面に置き、その上に手をかざすと。


「見ていろ……『ハッ!』」


 星夜が掛け声を放つと、その手から放たれた光が木と鉄を包み込んだ。

 光がぐにぐにと形を成していく、ちょっと気持ち悪い。


「これは……」


 やがて光が収まると、木と鉄は消え、代わりに一本の剣が落ちていた。

 拾い上げ、叩いたり振ったりしてみたが、そこらへんの剣と変わらず普通に使える剣だ。


「これがオレの能力、無機物を素材から過程をすっ飛ばして物品を製作できる能力だ」


 たしかにこれは凄いな。私がこれを魔術で似たようなことをするとなれば、少々複雑な術式を取り込み幾つかの工程を踏まなければならないだろう。


「ただ、オレにはなぜこれが“救恤”の力なのか疑問に思うところはあるがな」


 救恤……たしか困っている人に恵みを与えて救うことだっけか?

 素材しか持たない者に力を使って必要な物を作ってあげる……ってとこか? わからんな。


「しかし……オレ自身この力に頼ることはほとんどないが」


「それまた何でだ? 素材さえあれば何でも作れるなんて私にとっては夢の様な能力だと思うぞ」


 ま、セフィラにしてみればきっとこれは"戦いは向かない、使えない能力"と認定されるかもしれないな。

 まったく、能力ってのは力がすべてじゃないだろうに。


「いや、この能力には欠点がある」


「欠点?」


「ああ、それは……オレが作りたい物の構造を大雑把でも理論的に把握しておく必要がある……という点だ」


 あー、なるほどね。つまり例えるなら、料理作る際に食材を渡して料理名を上げて作ってくれと言っても、どんなものかわからないから作りようがないって感じかね。

 だとしたら、相当なミリオタでもない限り戦車などの近代兵器は作れないか。


「でもこの感じどこかで見たような……はっ! 星夜、ちょっと私の言う通りにポーズを取ってもう一回力を使ってみてくれ」


 私が思いついたことを星夜に耳打ちで指示すると、嫌そうな顔をしながら了承してくれた。


「一回だけだぞ……」


パンッ!


「……『ハッ!』」


 手を一回体の前で叩くような動作後、先程の剣に両手を翳すとみるみる内に小さな銅像に生まれ変わった。


「やはりどう見ても鋼の〇金じゅ……」


「それ以上は言わせん」


 流石日本人、やっぱり指示した内容だけで気づいていたな。しかし、やっぱりネタがわかるということは星夜も私と近い時代から召喚されたということだ。

 500年前の勇者といい日本との時間軸がどうなってるのかわかりにくいな。


 さて、酒場も見えてきたし今日はここまでかね……。あとは明日の移動中にでもゆっくりと……おや? 酒場の方から誰か走ってくるな。


「せや……さま……! ぶじ……ですか……!」


 あれは、星夜の連れの小さい方のぼろ布だ。

 背中にはパイルバンカーを背負ってる、重くないのか?


「すまないミーコ、つい話し込みすぎた」


 ミーコと呼ばれたぼろ布が顔を上げると、その布がパサりと脱げて可愛らしい女の子が現れた。


「限、紹介する。オレの旅の連れのミーコだ」


 ふむ、丸い顔にくりっとした藍色の瞳が保護欲を掻き立てる。

 そこまで長くない鉛色の髪を後ろで束ね上げているが、全部纏めきれず少しほつれているのもまた可愛い。


 そして見た目からは分かり辛いがこの子は……。


「ドワーフ族か」


「そうだ、ミーコはドワーフ族だ。しかしよくわかったな限。オレは教えてもらわないとわからなかった」


 ドワーフ族……見た目からは人族とそう差異は無いように感じられる容姿だが、その平均身長は成人しても130センチ前後までしか伸びないという小さい種族。


「いや、なんとなくな。種族独特の雰囲気というか……」


 そのちょっと丸っこい顔とか。

 後は重そうな荷物を軽々持ち上げてるとこだな。ドワーフ族はその小さい体のどこにそんな筋力があるんだってぐらい力持ちだ。

 まぁそんな生態も私が前世で研究した結果によれば……っと、これ以上は話が脱線するな。


「せや……さま! どして……ひとり……で!」


 と、なにやらミーコが、なんか怒ってるような雰囲気で星夜に訴えかけているみたいだ。


「というか、この子……」


「ああ、ミーコは上手く喋ることができないんだ。昔ショックな事故に合ったらしくてな。奴隷として売られていたところをオレが買ったんだ」


 ワケあり少女奴隷を安値で買う……それなんてラノベ?

 しかしショックな事故ねぇ……今の世界の情勢を見てるとどんなことがあったのか多少想像できるのが嫌だな。


「そと……でとき、いしょて!」


「本当にすまなかった。この通り何も問題ない。だからそんなに心配するな」


 ポコポコと星夜を優しく殴るミーコ。それに答える星夜にはどことなく意思疎通ができてるような雰囲気が醸し出されている。


「この子の言っていること、星夜は理解できているのか?」


「いや、正確にはわからないが言わんとしてることは大体わかる。長い付き合いだからな」


 いわゆるツーカーってやつですな。

 でも星夜、どうやらミーコはまだ不満があるようでムスっとしてるぞ。


「そんなに怒るな……。たしかに動揺して武器も持たずに出て行ったからな、お前が心配するのも無理ないか……」


「なにか……あたら、わたし……」


「わかっている、だからそう涙目にならないでくれ……。今度からはお前に心配はさせない」


 私にはミーコの言葉は理解できないが、どうやら仲直りできたみたいだな。

 どうやら二人の間には深い信頼関係があるようだ。


「うし、お二人さんが仲直りしたところで自己紹介させてもらおうか。無神限ことムゲンだ、よろしくなミーコ」


「えと……」


 さわやか笑顔でこれから仲良くしたい感を出してみたが、まだ私を警戒しているようだ。


「大丈夫だミーコ。限はオレと同郷の人間だ、それに悪いやつじゃない」


「どうきょ?」


 星夜の言葉にキョトンとした顔になるミーコ。なんだか珍しいものを見たような……そんな顔だ。

 なんていうか、面白い二人組だな。


「それよりミーコ、そいつを持ってきたってことは整備が終わったんだな。いつもすまない」


「いつも……ことです」


 ミーコは「当然のことをしたまでです」といった風な笑顔で背中のパイルバンカーを星夜に渡す。

 そういえばそれについても聞きたいことがあるんだよな。


「なぁ星夜、そのパイルバンカーは星夜の能力で作ったのか? よく作れたな」


 先ほど星夜は「作りたい物の構造を大雑把でも理論的に把握しておく必要がある」と言っていたからな。


「なんと言ったらいいか……。あれはオレが力を使えるようになってからのことだ。これはオレの想像力でどこまでのものが作れるか試していたところ、たまたま偶然上手にできた代物だ」


 ……いやいやいや。これが偶然の産物だって言うのか?


「それにしては杭を打ち出す技術などには魔術的な要素が見受けられるんだが?」


「それも偶然だ。ちょうどその前に魔術や魔導具を見る機会があってな、それも意識したらできてしまった」


 おいおい、なんなんだよその力は、条件が厳しいのかゆるいのかよくわからんぞ。

 まぁあのポンコツ女神の力だからいい加減なのも妙に納得できるが……。


「ちなみにさっき整備がどうのって言ってたが」


「ああ、制作し使用するまではよかったんだが。しかしどうにも劣化が早くてな、整備したいが偶然できたものを直せるほどオレは器用じゃない。そんな時奴隷商人に出会い、ミーコを紹介された」


 そして星夜はミーコを見る。そうか、ドワーフ族は手先が器用なことで有名だ、制建ギルドでも多く活躍してる者もいるらしいしな。


「それからというもの、日銭を稼ぎながら自由気ままな二人旅。ミーコがいなかったらどうなっていたかわからない。本当に感謝している」


「とでも……なです! わたし……こそ、いつも……めわく……を」


 ぶんぶんと首を振ってとても恐縮そうだ。

 どうやらミーコは奴隷として接してるようだが星夜は違うようだな。ま、5間過ごしたとはいっても星夜は日本人だからな。

 それにミーコは喋れないし、その辺の感覚の違いが生まれるのは仕方ないだろう。


「さて、明日も早いからそろそろ宿に戻りたいが……。限、最後にオレからも一つ質問をしていいか?」


「いいぞ、じゃんじゃん聞いてくれ」


 こっちばっかり聞きっぱなしってのはフェアじゃないしな。


「お前は数ヶ月前に巻き込まれてこの世界にやってきた」


「ああ」


「しかも、本来召喚されたのはその犬だったためお前には女神の力は宿っていない」


「その通りだ」


 まぁあいつの力なんて頼まれたっていらないけどな。

 っと、私の質問の答えに星夜の顔が少し険しいものになっていくな。


「5年間この世界を歩いたオレにはわかる。何の力も持たない一般人には、この世界を一人で生き抜く力はない」


「そりゃそうだ、普通なら魔物に食われるか、金を稼げないで飢え死にするかってとこだろうな」


「ならばお前のその力はなんだ。並の魔導師より格段に強い魔術、オレのような力もないのに一般のものに比べて圧倒的に強い力を持つ武装も携えている。それに、ミーコの種族を言い当てたことも気になるしな」


「……」


 これがこの世界の人間だったのなら、『異世界人補正でチート持ってます!』で片付けられるだろう。

 しかし相手は同じ日本からの来訪者、この世界のことも大分理解しているようだし下手なことは言えないな。


「ワウン……(どうするんすかご主人……)」


 無言で私の答えを待ち続ける星夜を前に、私は決断した。


「私がこの世界で生き延びれたことは全部が偶然じゃない。なぜなら、私には知識があったからだ」


「知識……?」


「ああ、私は紛れもない日本人だ。だが、同時にこの世界の転生者でもあるんだなこれが」




修正しました(10章時点)


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