88話 逃げた先から再スタート
さて、そんなこんなで私達は現在“女神政権”から放たれた追っ手も振り切り、ゆったりと海の上で船旅を楽しんでいる。
乗船時に魔導師ギルドのゴールドカードを見せると、すぐさまこの一番眺めのいい個室に案内された。
聞こえるのは波の音と鳥の囀りだけ、最高だな。
「ワフゥ(いやー、先日までの騒動が嘘のような静かさっすね)」
先日あのポンコツ女神との話を終えた私達はすぐさま街を出た。だが、シント王国を出た瞬間に仮面をつけた集団が追いかけてきた時は流石に驚いたな。
だってあいつら全員あの仮面姿で全力疾走してくるんだぞ……。
「とにかくだ。もとの世界に帰る方法は見つからなかったんだ、もうあんなところに用はない」
まぁ前世の私が死んでからの2000年間に何が起こったのか聞けたことだけはよしとしよう。
だがあの女神……セフィラフィリスとかいうロリ巨乳はダメだ。自分から動こうとせず、都合のいいことばかりを汲んで、挙句の果てに自分の頼みを聞けときたもんだ。
さらには、自分の組織がどんな行動をしているのかも把握しようともしないあの無責任女神と話してるとなんだかイラッとくるZE!
「ワウン(でも可愛かったじゃないっすか。恋人として狙ってみる気はないんすか)」
「あ・り・え・ん・な!」
だがまぁ確かにセフィラは可愛かった、幼い容姿ながらも時折見える色香に脳まで響くような透き通った声。
たとえ厳粛なSAMURAIであっても振り向かずにはいられないほど可愛かった。
私の出会ったことのある女の子の中でも三本の指に入る可愛さと言えなくもない……が、しかし。
「あんな思いやりのない奴なんざこっちから願い下げだ」
残念だが可愛ければ誰でもいいというわけじゃないからな。私はそれなりに守備範囲が広い方だと自負しているが、それでも相性の悪い人間はいる。
「ワウン(まぁいくらご主人の守備範囲が広くても、そこに飛び込んでくる女性がいない限り意味無いっすよね)」
「犬、それは言わないお約束だろ……」
その言葉は私によく効く……。
「皆さーん、そろそろ『チャトゥヴァル』に到着します! お荷物をまとめて降りる準備をしてくださーい!」
と、話している内に陸地が見えてきたようだ。
「よし、それじゃあ私達も仕度するか」
「ワウッ!(了解っす!)」
こうして私達は新しい大陸へと降り立つこととなるのだった。
ここは第四大陸の最南東の港町。市場の賑わいや漁師達の意気のいい声が聞こえてくるな。
「ワウワウ?(それで、今回の目的地はどこなんすか?)」
「目的地は二つあるが、一つは近くもう一つは遠い。最初は近い方に行くが、それでも歩きなら数日では済まないな」
「ワウ(あ、その地図帳久々に見たっすね)」
そう、久々登場のアステリムの地図帳|(450ルード)だ。
スマホのアプリ[instant magical ver1.00]の[map]を入手してからというもの、その存在価値が無くなりかけていた代物。だが! この地図帳にはアプリではわからないちょっとした情報が書かれている! そう、私は決して無駄な買い物をしたわけではないのだ! なによりこれは第三大陸のリュート村の皆からの選別で貰ったお金で購入したもの、思い出深い品だ。
だからもう一度言わせてもらおう……私は決して無駄な買い物をしたのでは……!
ピロリン!
チクショウ嫌な予感しかしねぇぞこの更新! 恐る恐るスマホの画面を覗くと……。
以下のアプリのアップデートが完了しました
[instant magical ver1.5]
更新内容
・魔力貯蔵量が200%にアップ!
・[map]が更新された!
・新しい魔術が追加された!
なんか大幅に更新されたな、バージョンまで上がってるし。
さて、私が今一番気になるのは言わずもなが『[map]の更新』だ。
「ほれポチッとな」
[map]新機能:画面上のタップした場所の『最新』の詳細が見れるようになったぞ! 危険地の情報もこれ一つでお手軽に検索けんさくぅ!
「くそう……どこまで私をバカにすれば気が済むんだ……」
確かに地図帳ではイチイチ開いて調べるのも手間だし、更新頻度も低い。これだって作られたのは数年前だろう、土地によっては変わっている場所もあるはずだ。
しかも、地図帳には危険地の情報は断片的にしか記されていないのに……。
「うわ、動植物の生態系や生息する魔物の情報まで……」
「ワウン……(相変わらず凄いっすねぇ……)」
あとは新しいアプリだが……まぁ後でいいか。
とりあえずは今は移動手段の確保だな。[map]には何か載って……うわ、ルート検索機能までついてやがる、グーグ○マップかよ……。
「なになに、35分後に出発の馬車を使うと一本、護衛依頼も募集しているのでオススメ、現在定員4/5……」
異様に詳しいな。だが好都合だ、今の私は以前|(第2章)と違い正式な魔導師。ギルドカードさえ見せればたとえ定員オーバーであろうと「ヨロコンデー!」と、馬車に乗せてくれるだろう。
「とにかく、馬車の発車は35分後だ、急いで見つけるぞ」
と、いうわけで馬車発見!
どうやら護衛主は商人ギルドの者らしいな。ランクもそこまで高くなく、特に怪しいものを運んでいる様子もないから安心だろ。
護衛するから載せてほしいと護衛主に見せると、ギョッとした顔で「ゴールドランクの魔導師様を雇うお金なんて持っていませんよ!」と逆に困らせてしまったようだ。
まぁこちらとしては乗せてもらえるだけで金はどうでもいいからな、強引に承諾させてやったぜ。
「ワフワフ(ご主人はいつも強引っすよね)」
「怖気づいてちゃなにもできないからな」
だが時には冷静判断することも忘れないことも重要だ。
まぁこの前はちょっと熱くなりすぎてしまったがな、反省反省。
「さて、そろそろ出発の時間だし馬車の中に入るか」
他の護衛者さん達にも挨拶しないとな。
「ワウ……ワウワウ(ご主人の考えてることがわかるっす……今回もそんな女性はいないだろうから安心するっす)」
「なぜわかる……」
いや、確かに今回も可愛い女性剣士とかいないかなーとは思ったけどさ。
私は諦めない、きっとこの先には運命の出会いが私を待っているはず!
「いざ!」
思い切って中に入るとそこには……。
「あ、やっと最後の人が来た! はじめまして、あたしはサラっていいます」
よっしゃあああああ! 美少女キター! 軽鎧に身を包んだショートボブヘアの女の子だ!私と歳も近そうだしこれはイけるか!?
「はじめましてお嬢さん、私は魔導師ムゲン。困ったことがあれば何でも言ってくれ、力になるよ(キラッ」
これでもかというぐらいの満点の爽やかスマイル、これで彼女は落ちたも同然……。
「ワウウ……(いや、気持ち悪いっすご主人……)」
おいこら。
「あ、ありがとうございます……」
ちょっと引かれてる……。だ、だが大丈夫、これから親睦を深めていけばきっと……。
「ほら、向こうが丁寧に挨拶してくれたんだから、カイルもこっち来て挨拶しよ」
「え?」
私が困惑していると、サラの後ろから同年代の男の子が顔を出してきた。
「どうも……ぼ、僕はカイルっていいます。は、はじめまして魔導師様」
「……ああ、うん、はじめまして」
カイル君と握手を交わす。
「ワウ(ま、予定調和っすね)」
まぁいいさ、こんな状況にはもう慣れっこだ。
気を取り直して他の護衛者とも挨拶するか。
「さて、私達の他にまだ二人いるはずだが……」
定員は5名ですでに4名は集まっていると書かれていたからな。
「あとのお二人ならそちら……なんですけど」
「ん?」
サラが指差す方向には、ぼろ布に包まれた大小二つの荷物が……ってちげぇ!? これどっちも人だ!
「ふぁ……あんたら、話すのはいいがあんまりうるさくしないでもらえるか? こっちは長いこと歩いていたうえに予想外の戦闘があったせいで久しぶりの休息なんだ」
うわ! ぼろ布がシャァベッタアアアァァ! ……まぁ人間なんだから当然か。
声の感じからして男だな、その隣からはスースーと小さな吐息が聞こえてくる。
「そうか、寝ているところすまなかった。とりあえず自己紹介だけさせてくれ。私はムゲン、魔導師だ。こっちは相棒の犬」
「ワウ(よろしくっす)」
「柴犬……いや雑種か? どちらにしろ犬なんてのも久しぶりに見たな……」
なんだ? なんかぶつぶつ呟いてるが聞こえないな。
……っと考え事をしていたら横からサラとカイルの二人がずいっと出てきた。どうやら二人も挨拶しに来たようだ。
「はじめまして、サラです。それでこっちが……」
「か、カイルです……」
カイル君物腰が低いなー、なんだか初期の頃のレオンみたいだ。
「お休み中すみません。でもこれから数日間は一緒なんですし、お名前だけでも教えてくれませんか?」
「オレの名前なんて聞く価値もない……。どうせ数日、この仕事の間だけの関係だ、知らなくても特に問題ない」
そう言ってぼろ布を深く被りお休みモードに入ってしまった。
つれない奴だな、まぁ疲れてるみたいだし話すのはまた後でだな。
「うーん、旅人さんだって聞いてたからいろんな話が聞けると思って期待してたんですけどね」
「旅の話が聞きたいのか?」
「は、はい。僕達いろんな場所を旅するのに憧れてて、大人になったからサラが村長の許しを得て一ヶ月前に村を出てきたんです……僕のことを半ば強引に連れ出して」
「カイルは決断力がないから私が連れ出してあげたんでしょ。いつか村を出るために剣の腕だって磨いてたのに……ずっと村にいたんじゃもったいないってことで」
なるほど、この二人の関係がなんとなく読めてきたな。つまり二人は幼馴染で、明るいサラが内気なカイルを引っ張っていく関係か。
……いいなぁ、私にも迷っていたら引っ張ってくれる明るい女の子が現れて一緒に旅したいよ。
「ワウン(引っ張られてるご主人とか想像できないっすけどね)」
私だって時には誰かに頼りたい時だってある……と思うぞ。
「では出発しますよー」
雇い主の出発の合図がかかり、馬車が動き出す。目指すは第四大陸最大の街と言われている王都だ。
「ってなことがあったんだ」
「凄い……」
「まさに大冒険ですね」
出発して数時間、休憩地点で食事をしていたらサラに旅の話が聞きたいとせがまれたので、私のこれまでのサクセスストーリーを語っていたところだ。勿論伏せるべきところは伏せてな。
ちなみにぼろ布の二人はまだ馬車の中でお休み中のようだ。
「特に最初の離れ離れになっていた幼馴染が仲を取り戻す場面は凄くよかったです!」
ちょっと興奮気味のサラ。"幼馴染"が恋人同士になったという点を自分に重ねているんだろう。
「僕も最初のお話の……亜人さんのように強くなりたいな」
そう言いながら自分の剣を見つめるカイル。カロフか、今頃どうしてるかな。
しかし、こうしていろんなことを経験して成長していく少年少女を見ていると前世を思い出すな……。まぁ二人は大人になったというから現在の私よりも年上なんだろうが。
「カイルの得物はそれ一本ってことは、剣士を目指しているのか?」
「は、はい。まだまだ未熟者ですけど……」
「カイルの夢は旅で鍛えた剣術を活かして村に道場を開くことなんですよ」
「い、いや、サラ……それはできたらいいなってちょこっと思ってるだけで……」
なんだかこの二人を見ているとほっこりするな。今まで出会った奴らは大体辛い出来事や重い過去なんかがある奴が多かったからな。
普通の夢溢れる若者って感じだ。
「それで、サラの方の得物は……」
「ナイフと、あとこれです」
そう言って鞄から取り出したのは魔導銃だった。
「なるほど、後方支援か。ん? この魔導銃……」
「あ、気づきました? 流石魔導師様ですね。実はそれ私が作ったんです」
本当だ、これ手作りだ。既製品と比べると若干無骨だが、いろいろといじってるみたいだな。
「既存のものよりもサイズを大きくして射出可能な魔術の幅を広げている。しかもその反動を抑えられるように二重の対衝撃機構を取り入れているな。グリップもオリジナル。装填速度は?」
「0.5秒です」
凄いな、よく出来ている。見たところサラからは魔力を感じられないが、自身で魔術を扱わないのにこの技術は流石と言わざるを得ない。
「特別な素材も使わず良くここまでのものを仕上げたな……」
「サラは魔導銃の技師を目指してるんです」
「魔導銃ってすっごく面白いんです! いじればいじるほどいろんな道が見えて……あ、ごめんなさい、ちょっと興奮しちゃって」
そんなに好きなのか。てことは旅の目的には様々な街の魔導銃技師の見学も兼ねてるってとこか。
「いやいや、別に気にしなくてもいいって。むしろ私も興味ある方だしな」
それを聞いた途端、サラの顔が明るくなり。
「本当ですか! ありがとうございます。村じゃ魔導銃に興味持ってる人なんていませんでしたから。旅に出て本当によかったです!」
「よし、それじゃあ魔導銃談義といきますか」
こうして二人との話も弾み、休憩時間もあと僅かとなったところで。
「そろそろ出発だな。ちょっと向こうで用を足してくる」
ちょっとヒーコー飲み過ぎたな。お、丁度人が一人隠れられそうな茂みを発見!
……よしオッケイ!
「ワウン(今回の旅は順調っすねー。普通の護衛仕事に気のいい仲間、言うことなしっすよ)」
「そうだな、それもこれも魔導師ギルドの恩恵がでかい」
ギルドの待遇がなければ、こんな安全な護衛任務を見つけるどころか大陸を移動することさえ困難だった。
魔導師ギルドに入ったことで私の行動範囲は格段に広まったのは事実だろう。
「ワウ(可愛い女の子もいるっすからね……男付っすけど)」
ぐう……だが私はくじけない。たとえ恋仲になれる可能性がゼロでも彼女達は今回の旅の仲間だ、仲良くしていかなければ。
「ワンワン(馬車にいる二人はよくわからんすけどね)」
余程疲れているのか、ぼろ布の二人はまだお休み中だ。見た目だけで言えば怪しさ満点だが、別に危険な輩ではないだろう……と考えているといつも痛い目に会うので常に注意はしてるけどな。
「ワウワウ(ご主人って表面上は仲良さそうなのに心の中では凄く警戒してることって多いっすよね)」
「ま、こればっかりは前世から頭の中にがっちりと染み付いてるもんだから仕方ない」
私の中の相手を信頼するハードルはかなり高い。
前世ではそれこそスパイ、裏切り、暗殺者などいろいろあったからな。心から信頼できると感じた人間はそれこそ数少ない。
今回だったら『実は新魔族でした!』とかいうパターンも有り得そうだしな。
どちらにしろ気を抜くつもりは一ミリもない。
「ワン(ま、ちょっと暗い話は置いといて、二人のところに戻るっす)」
「そうだな、戻ってまたサラと魔導銃談義でもするか」
「ワウン(女の子なのに魔導銃が好きって変わってるっすよね)」
しかも独学であの技術だからな、腕の良い職人から学べばもっと良くなるだろう。将来が楽しみな逸材だ。
「だからコイツを見せるかどうか迷うな……」
私は自分の腰に装着している物を見る。これを見せることで彼女は自信をへし折られるか、興奮するかのどちらかになるとは思うんだが……。
「ワウワウ?(実はずっと気になってたっす。ご主人ギルドから出た時にはもう装備が変わってたっすよね。なんすかその左腕のヘンテコな鎧と腰のブツは?)」
犬の言う通り、私の体にはギルドから出発する前とそうでない時と若干装備に違いがある。
左腕には少々形が独特な籠手のような鎧と、腰にはよくわからない形のケースのような物を下げている。
「まぁ言ってしまえばこれは二つとも私がギルドで作った新兵……」
「きゃあああああ!」
ッ! なんだ!? 悲鳴……先程の休憩地点からだ。
つまり今の叫び声はサラのもの……マズい、何か異常事態か!
「行くぞ犬! 二人が危ないかもしれない!」
「ワウ!(了解っす!)」
やっぱり今回も、のんびりとした旅にはならないってことか!
修正しました(10章時点)
 




