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第九話

 兜から解き放たれた銀髪が踊る。

 艶のある髪の表面を、光の波が泳いだ。

「ふぅ」

 髪を張り仰ぎながら、舞台を降りたのは『勇者』九条だ。

「よぅ、お疲れさん」そして、その九条を教官が捕まえた。そして、一言「どうだった?」と問を立てた。

「どうって」

 そう言うと、兜を小脇に抱え九条が今降りた舞台を振り返る。

 視線の先には、すでに次の舞台に備える漆黒のローブを纏った『魔王』の姿があった。

「僕の目に狂いはなかった、みたいな」

 九条は教官を向き直る。屈託の無い笑顔がそこには浮かんでいる。

 能見(のうみ)に『魔王』としての可能性を見出したのは、実は他ならぬ九条だった。

 台詞を口にすることが出来ず、舞台を台無しにした前回の実習。能見は気づくことのなかったその場に『勇者』九条は居た。

『勇者』の正義を掲げて(つるぎ)を取ることに躊躇した様子に、九条は幾ばくかの違和感を感じていたのだ。 

「ふん、よく言うな。『勇者』でないにしろ、『魔王』に向いてるかどうかは賭けだったろうに」

 面白くなさそうに答えた教官の顔には、しかし、言葉に反して笑みがこぼれている。

「そんなことないですよ。まぁ、多少はそう言うところもありましたけど。でも、なんでしょう。意思というか、想いというか、そう言った強い魂みたいのは感じましたから。なのに、なんで、あの台詞に躊躇を覚えるのかなぁ、って。で、彼の担任と教官が話をしたって聞いて」

「強い魂、か」 

 教官の脳裏には、『魔王』として舞台に構えている能見との会話が思い起こされていた。呼びつけ、『魔王』役を命じた時の態度。不遜に張った胸を引くこともなく、見定める自分の目を強く見つめ返してきた様子。

「確かに、鼻っ柱は強いと感じた事は確かだがな。にしても」

 兜を舞台袖の棚に戻した九条は腕甲を外しながら、教官の言葉を引き継いだ。

「いやー、でも、まさか、一度の舞台であそこまで化けるとは、」九条が教官の目を見た。互いに視線を合わせてしばし。そして、同時に笑みを交わした。「って感じですよね」

「全くだ。おそらく、相手役がお前だったのが良かったんだろうな。舞台上の昂揚も相まって、自分の中の意気を引っ張りあげられと言ったところか」

――どうしたっ! これでおしまいかっ!

 実習生同士の舞台が幕を開けていた。

 そこには、先ほどの舞台の始まりに迷いの中で演技をしていた『魔王』は居ない。

「彼の前途はかなり、茨の道になるとは思いますけど、頑張って欲しいですね」

 そう口にした、九条の目には先ほどの笑顔と打って変わってわずかばかり憂いが窺える。

「ふむ。まぁ、魔王は特進クラスがほとんどだからな。目指すべき道としてはむしろ『勇者』よりも遥かに厳しいかもしれないな」

 教官の顔にも同様の難しい表情が浮かんでいた。

 教官と九条の顔が舞台から漏れる虹色の光に照らされる。『魔王』が野望を託す支配の光を、果して能見(のうみ)は掌中に収める事が出来るのだろうか。

 九条は腰に挿した鞘を抜き放ち、更に白銀の刃を手にした。切っ先を舞台上に定める。

 そこには再び『勇者』が表れていた。 

「彼が、もしも、『魔王』として頂きに立つと言うのならば、僕の討つべき存在ですよ」

『勇者』の笑み。

 その笑みに宿るのは果して。

 自らの信じる正義に一滴の疑いも無い潔癖か。

 溢れる力で何者をも討ち、砕くと言う絶対の自信か。

 それとも、それらをぶつけるにふさわしい宿敵を見つけた、孤高の英傑に与えられた充足だろうか。

 九条から正義が滾っていた。

 そして、今、それに相対するかもしれない闇が。育てば強大にして巨大な悪になり得るには似合わぬほど、小さく儚い未来の芽が、虹色に照らされていた。

 この第九話をエピローグとして、この物語は幕を閉じさせて頂きます。


 お楽しみいただけましたでしょうか。最後までお付き合いいただきありがとうございました。


 制作秘話と言う感じでもないですが、作品に関しての思いなどは活動報告に場を変えてさせていただきます。

 

 興味のある方は、あわせてそちらもご覧いただければと思いますのでよろしくお願いします。


 それでは、また、別の作品の後書きでお会い出来れば。

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