沈黙はイエス。
「授業をサボるのはやめましょう」
「はぁ?」
何かと思えばまたコイツ。
同じクラスの安西友美。
放課後になるといつもいつも、俺がサボる時に使っている空き教室に来ては説教ばかりしてくる。お節介で、典型的な学級委員タイプ。
見た目はそう悪くはねぇが、なんせ口やかましい。不良は嫌いだの恥ずかしいだの馬鹿だのと、暴言まで吐かれる始末。日に日にエスカレートしていってる気がするのは、気のせいだろうか。
「そんなに格好つけちゃって。卒業できませんよ」
「うるせぇなぁ。てめーに関係ねぇだろ」
「関係あります。きみがサボることでクラスの士気が下がるんです」
クラスの士気? そんなもんあってたまるか。
俺は目の前の女をにらみつけた。もともとないもんを俺のせいにしてんじゃねーよ。
大体いつからこの女は馴れ馴れしく話しかけてくるようになったのだろう。そう前でもない気がするがよく思い出せない。
「人の話を聞いてますか」
ぐい、と一歩近付いてきた。
そして机の上に乗せた俺の両足を見て、嫌みったらしく溜め息を吐く。
「なんだよ」
「机は足を乗せるものではありません」
「何だよお前。委員長みたいなこと言いやがって」
「委員長ですから」
あれ、そうだっけか? なんて思いながら頭を掻いた。
仁王立ちで俺を見下ろしてくる女なんてそうはいないが、そうかなるほど、本当に学級委員、それも長だったのか。
「明日はサボっちゃ駄目ですよ」
「大変だな、お前も」
「私だって早く帰りたいんですからね」
「頼んでねーのに、来るからだろ」
「きみが授業に出ないからでしょう。迷惑してるんです。ほんっときみって我が儘で、典型的な自己中ですよね!」
さすがに今のはムカついた。殴れないから余計に腹が立つ。
俺は机の上から足を下ろして立ち上がる。
「どこ行くんですか!」
「知らねー。俺帰る」
すかさず追ってくる委員長。
「ちょっと待ちなさい! まだ話は終わってないですよ!」
「毎日毎日こんな時間もったいねーだろ。何だお前俺のこと好きなんじゃね?」
「……」
「……」
沈黙はイエス。
(……まじかよ)