第6話 牛若の疑問
牛若が6歳の頃、常盤は女の子を出産した。父は清盛、母は常盤、つまり牛若の異父妹であった。その子は能子と名づけられ、時子の弟の時忠夫婦に引き取られた。
生まれてすぐに我が子を引き離された常盤ににとって、こんなにさびしく、悲しいことはなかった。常盤は牛若の手をギュッと握った。
(母上?)
牛若が自分から離れないように・・・。
夕方、清盛は常盤の住む館へと足を運んでいた。そこで清盛は木に引っ掛かっている竹とんぼを見つけた。
「これは・・・」
「それは、前に牛若が清盛様にもらった竹とんぼです。高いところに引っ掛かってしまいまして・・・」
「そうか・・・ところで常盤」
「はい?」
「そろそろ牛若も手放してもらうぞ」
突然の宣告に言葉を失う常盤。そして清盛は大蔵卿の一条長成の元に嫁ぐよう告げる。それ自体は受け入れる常盤だったが、牛若だけはもう少し手元に置きたいと清盛に必死に懇願する。清盛は常盤に肩身の狭い思いをさせたことを謝り、牛若をもう少しだけ手元に置くことを許した。
一条長成邸―
「さあさあ、座られよ」
「常盤にございます、こちらは子の牛若にございます」
「おお、牛若殿か!?」
「・・・・・・・」
この時牛若はいろいろなことに疑問を抱いていた。なぜ平家の館を離れ、母は父(清盛)の元を去り、新たな夫を迎えたのか。人の良い公卿の長成に迎えられた常盤は、今後は長成を父と思うように諭し、平家の人間との付き合いを止めるよう牛若にきつく言い渡す。
その夜のことであった。清盛は一人、寝床に横たわり眠ろうとしていた。しかし何かに気づき、家人も呼ばずに一人、身構える。
(なんだ?それにこの感じ、どこかで・・・)
辺りはシーンと静まりかえっていた。少しでも足音がすれば気付くほどの静けさだった。そして次の瞬間、清盛はそばに置いてあった刀を抜き、それに自らの『火の力』を纏わせ、何もない空間を切り裂いた。
するとその空間が切り裂かれ、そこに体にはローブ、顔には仮面をかけた謎の人物が立っていた。
「ほう・・見破ったか」
「何者じゃ貴様、このオレを平清盛と知ったうえでの物言いか?」
「もちろん、そなたが私の作りし幻を見極めれるかためしたのだ」
「幻?『霧の力』か!?」
「左様、私は京妖怪・鞍馬天狗四天王の一人、白虎」
「妖だと?ふざけるのもいいかげんにしたらどうだ?」
「信じる信じないはそなたの勝手、だが私からは逃げられん!!」
男が指をパチンと鳴らした瞬間、辺りが闇に包まれていく。霧の力が幻を作り、清盛を幻覚空間へと連れ出した。