直感だよ
次の日の朝。早速、最低な一言が俺の耳に届いた。
「何?ジロジロ見て・・・。私の事、好きになってくれたの?」
「ぶっ。ゲホッ。ゴホッ」
俺は飲んでいた牛乳を吹き出してしまった。
あーあ。勿体無い。
って、そうじゃねぇっつの。
「何言ってんだ?お前」
「あれ?違うんだ。なんだ、残念」
「残念、じゃねーよ。馬鹿以外の何者でも、無いだろ」
「え?そうなの?これでも、小学校の頃は頭は良かったんだよ?」
「いや、そういう馬鹿じゃねーよ。お前、つくづく嫌な奴」
「あ~あ。なかなか、好きになってもらえないかぁ~」
「ま、当分は無理だな。もしかしたら、一生無理かも。お前のその状態が治らない限りはな」
あいつは言葉を詰まらせた。そんなのには気にもせず、黙々と飯を食った。
長い沈黙。
っやく、空気悪ぃな。ま、俺がそうしたんだけどね。大体、この飯最悪だし、あいつも最悪だし。
最悪だらけで気分が悪くなってたから、いつか爆発させなきゃ、体に悪いだろ?
「ふむ。でも、私、キスぐらいは出来るよ?」
「ぶぶっ!!ゴホッ!」
唐突にそんな事を言うもんだから、また牛乳を吹き出してしまった。
「あーあ。もったいないじゃんさっきから」
誰のせいだっつの!何、訳の分かんねえ事ぬかしてやがる!!
「何なんだよ、急に」
「でも、出来る事は出来るでしょ?」
「ね」って笑いかけながら、あいつは言った。
ズキン、と胸が痛んだ。
こんな最低野郎に笑いかけんなよ。
あんな事言われたのに。
「よく・・・笑っていられるよな。俺の気を引こうってか?」
何気なく、酷い事を口走っていた。
「別に?貴方はそういう人なんでしょう?上手く人を褒める事が出来ないんだよね?」
その言葉に頭に血がのぼったのが分かった。
「お前さ、つくづくムカつくよ。俺の何を知って、言ってるんだよ?それ」
人の事を勝手に分析するな。俺は誰よりも、貴方の事を分かってるっていう奴が本当に嫌いだ。さっきの胸が痛んだってのは訂正。逆に今、こいつのせいで頭の方が痛い。
「うーん。私もよく、分からないな。だってこれから、貴方の事を分かっていくと思うから」
分かっていく、ね。いつまで経っても、分からないよ。お前は。この世界に俺の事を分かる奴なんて、いない。
「分かろうとしても、無駄だよ。あんたに俺の事は一生、分からないし・・・」
そこで、言葉が途切れた。
「分からないし?」
あいつはそう繰り返して、続きを聞いてきた。
「あんたと俺は、分かり合えない」
なんか疲れた、って言って寝ようとした。
「この世界に誰とも、分かり合えないってことは無いよ」
目を見開く。
「なんで?」
思わず、聞いてしまった。別にそんな事ほっとけばいいのに。
聞き流しときゃ、良いのに。
でも、それでも、聞きたかった。
「なんでって・・・。うーん。何でだろうね?」
「はあ?」
情けない声を出してしまった。馬鹿みたい無声だった。
いや、でもさ。断定出来るってことは、分かってるって事だろ?その理由が。
何でだろうね、っておかしいだろ。
あーっ!もう!さっきから何だよ!俺がキレたのが馬鹿みてえ・・・。
「だって、分かんないよ。そんな事。えっとね、こういうの何て言うんだっけ?えーっと
・・・」
しばらく、考え込んでいた。
「あっ。直感だ。そうそう、直感」
「ぶっ。なんだ、それ」
笑ってしまった俺の顔を見て、あいつも笑った。
「へえ。そんな風に笑うんだね」
慌てて、笑うのを止めてあいつを睨んだ。
「べ、別に笑ったんじゃねぇよ。あんたをあざ笑ってやっただけだ」
「結局、笑ったんじゃない」
クスクス、と笑われて俺は顔から、火が出るようだった。
「ちぎゃうよ」
うわ、最悪。噛んだよ、俺。
「あはははっ。今、噛んだよ。可愛い」
うかーっ。やばい。マジ、恥ずかしい。笑われるし。
でも、なんか楽しいな。
なんで、そう思ったのか、不思議だった。
しかも、そんな事を思った自分に戸惑った。
初めてだったから。こんな事を思わせてくれる人は。
なんだろう。こいつはある意味、神様なのかもしれない。
こうして、こんなに人と話した事は無い。もちろん、焦って噛んだりするなんて事も無かった。
ま、人間だよな。神様っていうのは訂正。
けど、この時から、ほんの少し、こいつの事が気になり始めたのは本当の事。




