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カミアイ  作者: miora
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仲間だね

愛なんてものは信じない。

そして、神様も信じない。

俺はこうして生きてきた。愛なんてものは信じず、ただただ一人だけでずっと・・・。

神様も、同じだ。そんな物は存在しない。

弱い人間が、そう言う物に縋り寄っているだけだ。

なんで、この世に人間なんて言うモノが存在したのだろう?

動物の方がよっぽど利口だ。余計な事は言わないし、面倒臭い事だってしない。

一体、人間にどんな価値があると言うのだろう。

いま、俺が何で生きているのかも、分からない。

いつから、こうなったのか。まあ、そんな事はどうでもいいけど。思い出したって、何のいい事もない。

ため息をついて、学校に向かいながら歩き出す。

今日もいつもの一日が始まる。

「危ないっ!!」

車のキキーッという音が聞こえて、目の前が真っ暗になった。

最後に見えた、十二月の冬の空。

寂しそうな空が最後に見えて、目の前が暗くなった。

今日も、いつもの一日が始まると思っていた。


―真っ暗な闇。

ここは何処だろう。

何も見えない、方向さえも分からない所。

「透・・・。透・・・」

誰だ。俺の名前を呼んでいるのは。

「透!」

ふっと、光が見えて次に母さんが見えた。その次に父さん。

「かあ・・・さ・・ん。と・・さ・・・・ん」

「ああ。透。良かった・・。生きていて」

ああ・・・。そっか。事故に遭ったんだ。んで、助かったんだ・・・。

「全く。心配させんな。馬鹿坊主!」

「やめて。あなた・・・。助かっただけでも良かったじゃない。」

「いい訳があるか。入院だってするんだぞ。その金はどうするんだ!!」

ケッと言いながら、父さんは病室を去って行った。そんな父さんを横目で見ながら、母さんは言った。

「透。あなた足が骨折して、他の傷も酷いらしいの。しばらくは入院って、医師から。」

ああ。それで父さんは怒っていたのか。

「あ、そう」

俺はそっけなく答えた。悲しそうな顔で、にこり、と笑いながら、

「じゃあ、母さんはこれで、帰るから。着替えは看護師さんに預けてあるから」

「うん。じゃあ」

そう言って、母さんも病室を去って行った。

助からなきゃ、良かったのに・・・。

そう思いながら、窓の外に立っている、葉っぱの無い大きな木を見ていた。

あまりにもさびしい木。

「あなたもここに入院するの?」

突然、声がして、振り返った。

その声はりん、と鈴が鳴るような綺麗な声だった。

「私は森本麗子。同じ、病室仲間としてよろしくね。」

そいつは、にこっと笑って言った。

長く、さらさらで黒い髪。瞳は大きく、顔も細く誰もが惚れてしまいそうな、美人だった。

だけど、臭い女だ。そう思った。

ただ、話し相手がほしいだけなんだろ。寂しいからって、俺を巻き込んでほしくない。

「俺に何の用?今、誰とも話したくないんだけど」

そう俺は言った。

「そう。ごめんね。いきなり、そんな事言われても失礼だよね。病室仲間なんて。事故に遭ったのに・・・」

「助かんなくて、良かったのに・・・。このまま死ねたら、良かったのに」

俺は小さな声で、つぶやいた。

「どうして?」

あいつは笑って、聞いてきた。

思わず、馬鹿かって言いそうになった。普通なら、怒るだろ。命は大事だって。

でも、同時にこいつは違うって思った。今まで、会って来た奴とは違うって。

どこかが、どこかが違う気がしたんだ。まあ、そんなの気のせいかもしれないけど。

「お前には関係ないだろ」

俺はそう言って、また窓の外の木を見た。

「その木ね、桜の木なのよ」

俺は思わず、そいつを見た。

「ふーん」

興味無さそうに、俺は言った。

風が吹いているのか、窓がカタカタと鳴った。

「私ね、ここに小一の頃から、入院してるから、この木の事をよく、知っているんだ」

「え?」

俺は聞き返してしまった。

「私、小さい頃から心臓があまり良くなかったの。でも、まだ昔は走れたから、そんなに悪くなかったのかな。突然、症状が出たのは小学校五年生のマラソンしていた時。いきなり息が苦しくなって。そしたら、入院になっちゃった」

「なんで、笑っていられるんだよ」

俺は気付いたら、そう言ってた。

そんな重い病気を持っていて、なんで平気な顔してるんだ、と思ったから。

「悲しんだって、どうにもならないでしょ?泣いていたってこの病気は治る訳じゃないし。

だから、笑った方がマシかなって」

そして、そいつはあの大きな木を見た。

「今はこんなに寂しい木だけどね。春になったら、いっぱいの花が咲いて、きれいになるのよ。私、毎年それが楽しみなの。今年は見られるけど、来年は見られるか、どうか」

「それって・・・死ぬってことか?」

思わず、聞いてしまった。

「さあ?どうだろうね?」

笑って言っていたけど、瞳は悲しそうに木を見つめていた。

思わず俺は同情してしまった。

こんな事は初めてだった。だから、自分でもびっくりした。

俺はそんな戸惑いも抱えながら、ただずっとあの木を眺めていた。


「おはよう」

あいつは笑って、俺に言った。

うざい。人のベッド入ってきてるし。

昨日の同情は何処へ行ったのか。

もの凄く、こいつがうざく感じた。

「そこ、邪魔。起きられないんだけど。つかさ、人のベッドに入るって、何?お前、そういうヤラシイ事考えてるんだ?」

「え?そんな事・・・」

「ま、どうでも良いけどね。そんな事してるから、友達いないんじゃないの?」

「んー・・・。一応、いるんだけど。たまにしか来ないの」

ふん。本当はいない癖に。何、強がってんだよ、ばーか。

「じゃあ、もしかしたらさぁ、そのお友達、

愛想が尽きて、嫌になったんじゃないの?お前が」

「そうなのかな?じゃあ、あなたが友達になってくれる?」

「は?」

「良いじゃない。同じ、病室仲間なんだし」

「・・・・」

「ね?良いアイディアでしょ?」

「ぶっ。おいおい。お前と一緒にするなよ。

俺はお前と違って、体が丈夫だし、好きなことが出来るんだ。俺のどこが同じなんだよ?笑わすな」

いい加減にしろよ。お前の事情に俺を巻き込むなよ。

「同情で友達作ろうって奴、俺、一番嫌いなんだよね」

だからさ、さっさと俺を嫌いになれよ。

「同情じゃないって分かったら、友達になってくれる?」

「あ?何言って・・・」

何言い出すんだよ。馬鹿か。さっさと嫌いになれよ。イライラしてくるんだよ。

「じゃ、決まりね」

「何勝手に決めて・・・」

「じゃあ、私、散歩してくるね」

そう言って、あいつは病室を出た。しかも、ルンルン気分で。

腹が立つ。多分っていうか、絶対、俺の嫌いな人種だわ、あいつ。

なんなんだよ。ああいう、物分かりの無さが本当に腹が立つ。

「くそっ」

あまりにも、腹が立ちすぎて、壁をドン、と叩いてしまった。

手がいてぇ・・・。

それも、これもあいつのせいだ。何もかもが上手くいかない。何なんだ、あいつは。純情そうな顔しやがって。絶対、何か企んでるな。

俺のイライラしてる所見て、楽しもうっていう魂胆か?

ったく、最低な入院生活になりそうだな。

そう思いながら俺はベッドへ寝っ転がった―。


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