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瞳の色だけで選ばれた花嫁だと思っていましたが、龍人公爵に溺愛されているようです  作者: 蒼乃つむぎ


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4/6

愛を感じる要素、ゼロです

「夕食は必ず奥様とお取りください」

帰宅するなり告げられた言葉に、セオドリックは眉をひそめた。

「奥様を軽んじる者が出始めています」

その瞬間、セオドリックの表情が険しくなる。


「使用人の管理はお前の仕事ではないのか」

室内の空気がわずかに張り詰めた。

しかし、オスカーは一歩も引かない。


「もちろん厳重注意はしております。ですが、屋敷全体の空気まではどうにもなりません」

「どういう意味だ」


「旦那様が奥様を愛していない――そう考える者が増えているのです」


「馬鹿なことを」

即座に否定する。

龍人の伴侶は生涯ただ一人。

龍人である自分が、伴侶を蔑ろにするはずがない。


だが、そこでセオドリックは小さく眉をひそめた。

オスカーは優秀な家令だ。

必要な進言はするが、主人の私生活に踏み込みすぎることはない。

感情論より事実を優先する男でもある。


それなのに今日のオスカーは妙だった。

まるで主人を責めるような口ぶりで、どこか苛立っているように見える。

(何をそんなに怒っている……?)

疑問を抱きながらも、セオドリックは話の続きを促した。


「お二人はまだ初夜を迎えておりません」

「龍人では相手の気持ちが整うまで待つことは珍しくない」

「それは『龍人同士なら』の話ですよね」

「……何が言いたい」

オスカーは小さくため息をついた。


「龍人の公爵と、人間の令嬢。しかも和平の証として結ばれたお二人です」

そこで言葉を切る。


「そんな夫婦が初夜を迎えないなど、誰も思いません」

「……」


「奥様を思うなら、何が何でも初夜を済ませるべきだったと考える者すらおります」

「なっ……」

思わず言葉に詰まる。


「旦那様が奥様を気遣った結果だと理解する者は少数派です。大半は――」

オスカーは容赦なく告げた。


「愛せないから抱かなかった、と解釈します」


「まさか……」

「さらに言えば、婚礼の翌日に登城する龍人など存在しません」


「皇帝陛下に呼び出されたのだ。仕方あるまい」

「本当に婚礼の翌朝でなければならなかったのでしょうか?」

「それは……」

セオドリックの口が止まる。


皇帝は確かに呼び出した。


だが、

――都合の良い朝で構わない。

そう言っていた。


つまり今日である必要はなかった。

むしろ、今日以外のつもりだった。


「花嫁を置いて仕事へ向かう旦那様を見て、使用人たちが何を考えるか」

オスカーは畳みかける。

「答えは単純です」

そして、にっこりと微笑む。

「愛を感じる要素が、一つもありません」


「……」

ギタギタに論破されたセオドリックは、完全に沈黙した。

そんな主を見て、オスカーは満足そうに頷く。


「そこで!」

「……何だ」

「旦那様が奥様を大切にしていると、皆に示すのです」


「どう示す?」

「まずは食事をご一緒に」

「ふむ」


「奥様も、旦那様が食堂にいらっしゃらないことを寂しく思われていたようですし」


その言葉に、昨夜のことが脳裏をよぎる。

寝室で感じ取ったクラリッサの緊張と、わずかな恐怖。

だからこそ、自分なりに『待つ』と伝えた。

寝室も別にした。

彼女にとって自分は、ほとんど初対面の男なのだから。

朝も起こさないよう静かに屋敷を出た。


だが――

(せめて書き置きくらい残すべきだったか……)

善かれと思った行動が、結果として彼女の立場を悪くしていた。


その事実が胸に刺さる。

「夕食からでも、遅くはないか……」

珍しく弱気な声だった。


「まだ間に合います」

オスカーは即答した。


その声音は先ほどまでより幾分柔らかい。

クラリッサが屋敷へ来て、まだ一日。

それでもオスカーは気付いていた。


慣れない異国の地へ嫁いできたにもかかわらず、使用人一人ひとりに丁寧に礼を述べること。

不安を隠しながらも、気丈に振る舞おうとしていること。


気付けば応援したくなっていた。

だからこそ腹が立つ。

主人は主人なりに気を遣っている。

それは理解している。


だが、その気遣いがことごとく裏目に出ているのだ。

(奥様は良い方なのですから、もっと大切にしてください)

心の中だけでそう呟く。


「しっかり反省して、奥様に優しく接してください」

「優しく、か」


すると、待っていましたと言わんばかりにオスカーが一冊の本を差し出した。

「こちらをどうぞ」


セオドリックは表紙を見る。


『冷徹公爵に執着される悪役令嬢です』


「……」


しばしの沈黙。

「奥様の愛読書です。読んで会話を盛り上げましょう!」


「それは私が読んでも問題のない本なのか?」


真顔で問い返す主人に、オスカーは満面の笑みを浮かべた。

麗しい容姿の公爵が、そのタイトルの本を真剣な表情で読んでいる姿を想像する。


少しだけ気分が晴れた。

そんな自分に気付きながら、オスカーは優雅に一礼したのだった。

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