赤い魚と透明な私
私がこの町に引っ越してきて3ヶ月が経った。一部屋6畳の少しボロく時々家鳴りがする小さいマンションに住んでいる。このマンションの部屋は少し特殊な現象が起きる。それは雨の時にだけ部屋の中に不透明な魚が現れる。初めてこの現象に出会ったときは驚いたものだ、なんせこの部屋を借りるときの説明に何一つ魚のことが言われなかったからだ。だが案外楽しいものだ。それこそ私はさまざまな実験をしてみた。魚は何かを食べるのかや触れられるのか……数えたらキリがない、その中でも私が面白いと思った出来事があった。たまたま見つけたことなのだが、魚たちに色がある液体を与えるとその色に変わるのだ。この3ヶ月で魚と遊ぶのが楽しみであり、趣味になり始めていた。最近の私のルーティンと言ったら夜部屋の明かりを消し、酒を飲みながら魚と戯れるそうしているだけでも心が安らぐような感覚になる。今の私にとってはとてもありがたいことだ。
雨の日が続く梅雨の時期、仕事で上司からのパワハラやセクハラで溜まったストレスを酒と魚に癒してもらう。そんなギリギリの生活をしている。もし梅雨が明け雨が降らなくなればどうなるんだろうと小さな恐怖が少しずつ少しずつ体を支配していくそんな感覚が最近は感じ始めた。
梅雨の時期には珍しく今日は晴天だ。魚がいない…もし上司から何か言われたらどこで発散すればいいんだろうか、、、私はいつの間にか魚に依存していた。梅雨が明ければ雨はあまり降らなくなる、このままではダメだとわかっているのに体が脳が魚を欲する。そんな苦しいことを考えているうちに会社に行かなければならない時間だ。行きたくない……行きたくない…そんな言葉が頭ので繰り返し叫んでいる。だが行くしかない大人なのだから仕事があるのだから、行かなければ会社に迷惑をかけてしまう。そんなネガティブなことを考えているといつの間にか会社に着いていた。
「終わった」
気がつけばそんな言葉が口から漏れ出していた。案の定上司から色々なことを言われ、セクハラをされ体も心もボロボロだった、だが雨は降っていない家に帰ったとしても魚がいない……辛い…疲れた……魚がいないだけでこうなるのだ、こんなに依存していたのかともう一度実感する。そして頭に一つこんな言葉が思い浮かんだ『死のう』わかっている、そんなことはダメだ、私よりも辛く悲しい思いをしている人がこの世には何万といるのだこんなことで死のうと思ってしまったらダメだと、でもたった1日魚がいないだけでこんなふうになる、じゃあ梅雨が明ければ?雨が降らない日が続けば?……どうせ死にたくなる。早いか遅いかの問題だ。なら早く楽になる方がいいだろう。
家に着き扉を開け靴のままキッチンへと向かう。私は片手に包丁を持ちそれを思いっきり____
雨が降り始めた。不透明な魚たちが現れる。魚たちが私の元へと向かってきた。魚は私の色を奪っていく様に鮮やかな赤色へと変わっていく、魚はその鮮やかな赤色を見せつけるようにゆっくりとそして堂々と泳いでいった。私は魚を見て消えていく意識の中、あぁ綺麗だなとそんな呑気なことを考えていた。




