5章 ー07
「いいえ、ちゃんと準備出来ていますわ。今飼っている水でならエサをやる必要ありませんし、風さえ強くなければ雨が降っても大丈夫です」
「強風時は室内に入れた方が良いのか?」
「ええ、鉢が倒れると駄目ですから、その方が良いです」
「よし、わかった。もう日が暮れてきているから急いで運ぶ準備をしよう。この子は大人しいが、どこかに繋いだ方が良いだろう」
「預からせて頂きます」
ヴァイセンがアルフレッド様から手綱を受けとる。
とりあえず、鉢の所に行きましょう。
……アルフレッド様、無言で付いてきているわ。
こうなったら私から言う……?
「……それだけ?」
彼の目を見て言う勇気がなく、足を止めずに聞く。
「ん?」
「ジハ国の第二王女様と……」
「美々《びび》姫がどうした?」
美々姫って言うんだ。
メグの入った鉢の所で足を止めて、意を決する。
「婚約されたのでしょう?」
振り返りながら私は言った。
「は?」
"は?"
王子様にあるまじき言葉じゃない?
「……」
アルフレッド様は凝視している私と目を合わせず、手の指で顎を撫でている。
何を考えてるのかしら?
まずいなとか?
アルフレッド様はゆっくりと、私と目を合わせる。
「つまり、リリアは美々姫と俺の婚約を聞いて、元気がなかったんだな」
そん筈ない……なんて、言えない。
本当は分かってた。
もやもやの正体。
私だけ特別な距離感だと思ったあの時から、普段の私の格好を見ても、こちらの事を考えてくれる人だと知って尚更……私はアルフレッド様に惹かれてる。
「リリア、おいで」
あぁ、嫌だな。
面倒だな。
社交界なんて大嫌いなのに。
でも……。
私は黙ってアルフレッド様の胸に身を寄せた。
アルフレッド様の鎧はひんやりと冷たいけど、彼が私の髪を指で梳く感覚は、とても心地良かった。




