4章 ー03
以前、麦の収穫が減少した時にここを去る領民はたくさんいたけど、王都から近いお陰で商人の多くは残ってくれた。
ガイヤの両親もそうだけど、だいたいの人と顔見知りだと言える。
今から行く園芸屋さんの店主のダンさんも勿論、知っている。
「ダンさん、こんにちは」
「おー、リリア様、久しいねぇ」
ダンさんはもう70歳を過ぎていて、好好爺代表と言っても良いような、人当たりのいい顔をしている。
「"様"は付けなくて良いって言ってるのに」
「いやぁ、今じゃここの英雄じゃないか」
英雄……。
「オスカー様もそうだけど、リリア様だって毎日のように麦畑に顔をだして、草むしりも一緒にして、ずっと頑張ってきただろ?"様"付けんかったら罰当たるわい」
ダンさん…。
「有り難う」
にっこりと、明るい笑顔をダンさんに向ける。
しんみりしてはいけない。
いつだって笑顔でいることも貴族の務めだってお父様は言ってたわ。
「でも、我が領地が廃れなかったのは、こうやって領地に残ってくれダンさん達がいたからだわ」
「相変わらず、しっかりしてるね。今日は久しぶりに散歩かい?」
「いいえ、睡蓮鉢を見に来たんだけど…」
底に穴のあいた鉢は見当たるけど、睡蓮鉢のような物は一見、見当たらない。
「すまんが、ここら辺の家で育てる人はいないから置いてないんだ」
「そうなのね」
確かに家先で中々見ないわね。
「王都にならあるかも知れんぞ。ほら、たくさん陶器を積んでいる店があっただろ?」
後ろにいるヴァイセンを見ると、頷いている。
「ダンさん、有り難う。行ってみるわ。あと、赤玉土を頂けるかしら。ヴァイセンももう歳だから1キロで良いわ」
「お嬢様」
ヴァイセンが嫌~な顔をしている。
「ははは」
ダンさんが笑いながらヴァイセンに赤玉土の入った紙袋を渡した。
お金を払って、ダンさんのお店を後にする。
ダンさんから教えてもらったお店まで近いらしいので、歩いて行く事にした。
「あら?」
道中にガイヤのお店のがあるんだけど、そこにスズの姿が見えたような…。




