さとう と すずき が消えた日
授業中、あくびをしながらぼぉーっとしていると、席がちらほら抜けている事に気が付いた。
「お、もうこんな時間か。今日はここまでとしよう。それじゃ、みんな予習と復習をちゃんとしておくように」
そういって数学の授業をいきなり切り上げる安藤だったが、いつの間にか授業の時間を二分ほど過ぎていた。
なにか、違和感を感じる。この違和感を吐き出さずにはいられなかった。
昼休み。
「山田、あそこの席って誰が座ってたっけ?」
「ん?誰って......んん誰だったか。ん?マジで誰だ?」
山田も心当たりはないらしく、空っぽの頭を抱えていた。
このクラスになって、もう半年になるというのに、なんでこんなことに気が付かなかったんだ。
「まっず!!なんじゃこりゃ!!」隣に座る山田がいきなり吠える。どうしたと言うのだ。
「なんだ、どうした!」
「このメロンパンぜんぜん甘くねぇんだよ」野球部の山田はいつも何かしら食っているが、こうして声を荒げることは珍しい。普段ならだいたいなんでもうまいと言って平らげる味音痴のこいつが。だからこそ珍しい。
「小麦と油の味しかしねぇ、まーじまずい。売店のおばちゃんに文句言ってくる」そういうと山田は教室を飛び出していった。
「おばちゃんに行ってもしょうがないと思うが」
しかし、だ。教室を見渡すかぎり、空いた席に違和感を覚えている人はいない。だが、この確かな違和感はなんなのだろうか。
「ねぇ、ちょっといい?」
「あ??」
ふり返ると、そこにいたのはクラスの高嶺の花である小鳥遊さんだった。
「えっと、どうしたの小鳥遊さん」なるべく声を上ずらせないように気を付けながら見上げると、爽やかに笑いかけながらこちらを見つめる小鳥遊さん。
(な、なんだ。俺になんのようが。まさか、小鳥遊さんもこの違和感に気が付いて、俺に相談しに来たんじゃ)期待が募る。
秘密の共有者ともなれば──と多くの妄想が一瞬にして広がった。
「えっと、ずっと気になってたんだけど、わざわざ言う必要もないかなって。でも、一応言っておこうと思って」神妙な面持ちで、小鳥遊さんは背中のほうへ指を差す。
「酸素の残量があと少しなんだけど、大丈夫なのかなって。ずっと心配してたんだ」小鳥遊さんは後ろの席で、クラス全体を見ることができる。だからこそ気が付いたのだろう。うなじにある酸素の残量を示すゲージに。
その一言にハッとして、腕にあるタッチパネルを操作すると確かに残りわずかになっていた。
「あ、確かに。あとで変えておかないと」
「うん。そうしたほうがいいよ。じゃ、それだけだから」そういって小鳥遊さんはいつも一緒にいる女子と一緒に、教室を出ていった。
「なんだよ」力が抜けたようにがっかりしていると。
「何残念がってんだ」
「うお!」
背後から意表をついて現れた山田のせいで腰をぬかす。
「お前、小鳥遊さんと何話してたんだよ」こちらをにらみつける坊主の山田。
「いや別に」
「言え!吐け!」
「いやだ!!」
べつに何も甘い思い出でもないのだが、この山田に小鳥遊さんとの二人だけの思い出を穢されまいと、俺は山田の尋問に黙秘を貫き通した。
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