ぬいぐるみ
『命』の宿っていない者達は決して、
"動いてはならない"
それが。この世での、一般的な考えである。
何故?
と、その疑問に答えるのであれば。
世の理に反するから。
と、応える以外に無いだろう、、
殆んどのこの地球上の生き物には、必ず命があり。
命と密接な、心臓と言うものが付いていて。
からだには血液が通い。志向や意志がある。
それに沿うかの様に考え、行動し。
誰かとコミュニケーションをとったりする。
そして、時に傷付け合ったり助け合ったりも、、
心臓を他もので喩えるのならば、電池や電気。
風や熱と言った、自然的なものやそれらに該当するエネルギー。
又、人工的に作られた燃料等が該当するのだろうか。
それら動力源の事も、ここでは仮に"命"と位置付けしよう。
その命ある者以外。
動力源の無いモノは、"通常"身勝手には動かないのだ。
誰かが触れ、動かさない限りは。。
だからと言って、それら以外のモノに。
命が無いと言っている訳ではない。
何せここは八百万の神様方が居られる国だ。
全てのモノに。命があり。
その中には沢山の小さな神々がいらっしゃれる。
無論。この言葉や、この文章中にもだ。
難しい話は、、苦手だ。
噛み砕いて伝えるのであれば、
あくまで動くと言う動作に対して、
何等かのエネルギーが存在しない場合。
基本的には、動かないと言う話だ。
だから命が無いと言っている訳はない。
綺麗に咲いている花や、冷たく吹く風。
何処までも続く広い空や、今にも降り出しそうな暗い雲。
確かにそこには存在しているが、目視では見えない、
その後ろへと隠れている、暖かい太陽。
蛇口から出てくる透き通る水や、私の住んでいる家や。
今、正に道路で忙しいそうに走っている車や、
目の前の開いたままの扉にもきっと。それがあるのだろう、、
何せここは八百万の神様方が居られる国なのだから。
結局。話を通して何を言いたいのかと言うと。
私の大切にしていた親友のクマのぬいぐるみ。
産まれて間もない頃。
お母さんとお父さんに買って貰ったそれが。
『あの日。動いてしまったのだ』
現にそうだが。
私は小さな頃から。人付き合いが苦手だった。
今は医学が発達して、それらに準ずるものは全て。
その病名が付けられるのだろう、、
子供は、周りの大人を見て育つ。
その大人がやっている事は正しい事だと認識し。
何かに対し、基本的に怒られれば。
その事がイケない事だと、理解する。
しかし、大人も万能ではない。
皆平等に成長する訳もなく。
独自の経験や出来事。得てきた。過ごした時間により。
『大人』
として、歳をとる。
人間は、歳を重ねれば大人として扱われ。
例え、中身が"幼稚"であったとしても。
それは、立派な大人なのだ、、
私はその内面的な子供達を沢山観て来た。
内面的な子供達が一概に悪いと言う訳でもないが。
彼等は、大人としての立場や、権利を使い。
その内面的な子供達は、時と場合によっては、、
いや。私にとっては、酷く恐ろしく。
残酷な者に見えたのだ。
穢くて、歪んでいて。
それがどうしようもなく感じた。
そうやって、大人になるという事が。
こういう事なんだと自分なりに理解し、解釈した。
だから逃げた。
虐められない様に。
防衛の手段のひとつとして。
「今日は、何して遊ぼうかなぁ??
クマさんは私の大親友だからねっ?」
「ねぇ。?
そんな、クマさんと遊んでばかり居ないで。
お友達とかと、遊ばない??
恥ずかしいなら、お母さんからお願いしてみようか??」
「嫌!
私はクマさんと遊ぶの!!」
協調性。社交性。
それらから逃げていた私は。
お母さんとお父さんから、酷く心配されていた。
お母さん「あの子。ずっと人形としか遊ばないで。。
周りの子達は、皆と遊んで居るのに、、」
お父さん「誰と遊ぼうが良いじゃないか、、
まだ、小さいんだ。
嫌な事から逃げられる内は、沢山。逃げれば良いさ。」
お母さん「でも、、」
お父さん「まあ、、そんなに心配しても仕方がない。
もしあれなら、一度。
病院にでも、行くか??」
お母さん「、、そこまでじゃあ、ないんだけど。」
そんな2人の会話を、覆い被せるかの様にして。
私はクマさんとの遊びを続けた。
「クマさん。
今年は雪が降るかしら?
クマさんは、温かそうね??」
ふわふわの柔らかい。
大切な、大切な。私のクマのぬいぐるみ。
大親友でもあり。宝物だった、、
嫌な学校。
怒鳴り声や暴力。
大人は理解の出来ない子供達を叱った。
いつも学校から帰りたかった。
早く静かで大人しいクマさんと居たかった。
「ただいま、?
クマさん!!」
学校で。嫌な事があった。
でも家へ帰ると、クマさんが待っていた。
玄関に。
私はそれに気付いていた。
「今。手を洗って、着替えるから。
少し待っててね??
フフフフ」
それは、2人が留守の時にだけ見られた。
クマさんは、ひとりで動いていたのだ。
私は玄関には、1度も置いた事はないし。
お父さんもお母さんもそんな事はしない。
クマさんには、クマさんの居場所があった。
そこからは、動かさない。
だから私はそれに気付いていないフリをしていた。
だって、、
それに気付いてしまったら。
もう、一緒に居られなくなってしまう事を。
私は何処かで知っていた。
その日は、お母さんの帰りが妙に遅かった。
「お母さん、遅いね??」
私は夕方のアニメを見ていた。
昔は面白いアニメが沢山やっていた。
見すぎて、怒られる程に。。
クマさんはクマさんの椅子に座らせて、
一緒に。アニメを見ていた。
♪♪♪♪♪♪
アニメのエンディングが流れていた。
私はうとうととしていた。すると、
ドゴゴゴゴゴォオオ、、
下から響く様な音と共に。
激しい揺れが起きた。
「きゃあああぁあああ!!!」
私は驚きと恐怖で、クマさんに抱き付いた。
あんなに大きい揺れは、あの時が初めてだった。
ギシギシと家が鳴り、お皿が割れる音がした。
パリィン、、
「怖いよぉ、、
クマさん助けて!!」
それと同時に玄関を開ける音がした。
ガシャャン!!
次々と物が落ちる。
私を呼ぶ声がした。
お母さんだ。。
私は目の前は何も見えなかった。
怖くて顔を、クマさんに埋めていたから、、
お母さん「危ない!!!」
大きい声と共に。
目の前のクマさんは何処かへ行ってしまった。
「クマ、、さん??」
クマさんはまるで私の上に覆い被さる様になっていた。
私を呼ぶお母さんの声。
気付けば倒れて来た棚の下敷きになったが。
痛くはなかった。
お母さん「早くこっちに手を伸ばして!!」
私の腕を引っ張るお母さん。
クマさんは、痛そうに潰れていた。
強く抱き締められた腕は強くて。
少しだけ、苦しかった。
そのままお母さんは家の外に出た。
「クマさぁあああん!!!」
お母さん「新しいの、、買って、あげるからっ!」
私は泣いていた。クマさんが痛がっているが分かったから。
お母さんの身体は、私に伝わる程震えていた。
お母さん「良かっ、たぁ、、」
私はいつの間にか寝てしまった。
泣き疲れ、きっと安心したのだ。
あの日。
私は大切な親友と。お父さんを。
同時に亡くしてしまったのだった、、
あれ以来。私は世の中の普通を装おった。
お母さんにはなるべく心配をかけない様に、、
今では、私も。
世の中で言う、立派な大人だ。
正直。中身がどうかは分からない。
大きな地震の爪跡はとても大きく。
喪ったモノの空白も大きかった。
だが、時間は戻らない。
命日には、お母さんと一緒に。
必ず、お父さんの墓参りに行く。
お線香をあげ、手を合わせ。
お父さんと大親友のクマさんの事を想って。。
お母さんは、クマのぬいぐるみが動いた事を。
"お父さんが守ってくれた"
そう、言っている。
クマさんは私の昔の家と共に、燃えた。
わざわざ灰を漁り、それを確認する野暮さは無かった。
ひとつ確かな事は、私は。救われたのだ。
クマの、ぬいぐるみに。
私を救ったのは物を大切にした私に、恩返しとして。
八百万の小さな神様方が助けてくれたのか。
それとも、、
私を大切に育ててくれた。お父さんの魂だったのか。。
それを知るのはきっと。
私がこの世界から居なくなった時だろう、、
私は彼等が動く事を否定しない。
それが、私にとって。害の無い事ならば尚更。
例え、それがこの世の理に反していたとしても。。
誰にだって、ヒミツがあるのだから、、
ぬいぐるみが動いても不思議ではなし、変じゃない。