救国の魔法使い、転生したら男の娘
私は最後の力を振り絞り魔王に向かって魔法を打ち込む。魔王の胸に氷の矢が突き刺さりゆっくり倒れながらこちらに向かって来て必死の形相で私を抱きしめる。もうすぐ死ぬのだろう、魔王の力によって支えられていた城も崩壊して行く。
どうやら魔王は私を道連れにしたいらしい。
そんな状況だが私の頭の中に勇者達の顔が浮かび上がりつい微笑んでしまう。彼らははっきり言って魔王には到底立ち向かえる力など無かったが、私のサポートによりぎりぎり何とか少年と言ってもいいくらいまでには悪意の蔓延る大地を踏破し魔王城まで辿り着けた。
今頃勇者達は崩壊する魔王城を後に国に帰る準備をしているはずだ。
私無しでも何とか帰れるほどには鍛え上げたので心配はしていない。あの幼かった勇者達は長い旅と魔王城での激しい戦いで逞しい青年へと大きく成長したのだ。
もう私にとって守備範囲を越えた。
いつ頃だろう『もう半ズボン履かせるのやめて下さい』とか小生意気な事を言い出す様になったのは。
寂しいものだ。
まあいい、これで当分他の魔王も今回の勇者達の活躍を知れば自重するだろう。
私は己の死と同時に発動する転生魔法陣を体に刻んでいる。
「一緒に地獄に行こうじゃないか」
男にしては綺麗な顔を歪ませて魔王が微笑む。
「さよなら、魔王様」
私は倒れて来る巨大な石壁を眺めながら微笑んだ。
何か手違いがあった事に気づいたのは自分が何者であったか記憶が戻った5歳の時だ。記憶を取り戻したのは良かったのだがメイドに体を拭われている時あってはならないものが股間にあることに戦慄した。
転生して5年、母親から寝物語で勇者達の活躍を何度も聞かされ『救国の魔女』の最後に何度も涙した。
自らを犠牲にし勇者達を最後の最後まで支え魔王と共に死んだ物語は美談として語り継がれ記憶を取り戻した私の中にもしっかり刻まれている。
ああ!だから母は英雄譚ばかり話してくれていたのか。
美少女メイドに身体中洗われている時、僅かに感じる魔王の気配が刺激となったのか転生した体についに私の記憶を呼び覚ました。私は美少女メイドの手を振り払い全裸のままニヤリと笑う美少女メイドと対峙する。
「貴様・・・魔王!」
「久しぶりだな美魔女フローリア、おっと失礼今はニクラス、いやいやアレイシア公爵令嬢であったか」
「何故貴様が!」
転生した世界で奴は遂に私を見つけ出し変装しこの家に入り込み決着をつけに来たのか!。
「貴様が刻んで置いた転生魔法陣を転写させてもらったのさ」
「パクったのか」
「ああ、だがな・・・まさかこんな事になるとは我も思わなかった」
美少女メイドは勢いよく服を脱ぎそれを床に叩きつける。僅かに胸の膨らみがふたつあり、元の魔王であればあったであろうものが股間に無かった。
まあそうなるだろうな。
「責任取れやあ!このおマヌケ美魔女があ!!」
そんな事はどうでもよかった。
所詮勝手に私の転生魔法陣をパクった魔王が悪いのだ。問題は双子の姉を溺愛する私の父シェンカー公爵家当主ミッシェル。
アレイシアと呼ばれる姉は美しくはあるが非常に病弱だった。しかも心が優しく他愛的すぎてとても世の中を渡れるとは誰も思っていない。となると箱入り娘になるのは必然。
だが既に王太子と許嫁、再来年からは王太子妃として教育を受ける為に学校に通う事になっている。
今の私にとっては魔王以上に厄介な敵が父だった。私はどうやら追放された事になっているらしいのだ、父が溺愛する姉の為に。
元魔王のメイドに髪を整えられ制服を着させられる。
記憶が戻って2年、とうとう姉のアレイシアの身代わりとなって魔法学院に通う事になった。
鏡に写る絶世の美少女に仕立てあげられた私。
涙がツーっと流れる。
「さすがアレイシア様、お美しいですわ」
ニヤリと笑う美少女メイドの元魔王。
美少年に転生してしまったまでは許そう、それはミスした自分のせいなのだから。儚くも優しく美しい姉も大好きだ。女装も別に違和感は無い、元々女だったのだから。だが父が溺愛する姉の身代わりにこれから10年何故学院に通わなければならないのだ。
美少年達に惹きつけられる私の心、美少女の色香に反応してしまう私の身体を挑発する元魔王と美少女達。
私は魔王の言っていた通り地獄に来てしまった様だ。
気がつけば私は魔法学院だけでなく国中で美少年を侍らす魔性の公爵家令嬢(男の娘)となっていた。