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ラジオ体操

作者: 浦田茗子


 6:00、めざまし時計とお母さんに起こされる。私と弟のけんたは、Tシャツと短パンに着がえて、ラジオ体操のカードを首からさげた。ビーサンをつっかけて、そうっと玄関を出る。

 夏の朝は涼しい。あくびをしていると、はす向かいの家から、たけるくんと妹のもえちゃんが出てきた。


 たけるくんともえちゃん、私とけんた、みんなで地区の広場へ歩いていく。眠気はさめて、今日も楽しい一日が始まる予感がする。

 住宅を出て、“みどりのトンネル”を抜けていく。“みどりのトンネル”は、道路のまわりが市の指定保護林になっているところだ。緑の合間からきらきら光がもれて、朝の鳥たちが楽しげにさえずっている。私たちは、いっしょに観に行く約束のアニメ映画や、学校のプールの話をしながら、歩いていく。

 広場まで、ちょっと近道。道の突き当たりに、低く壊れたブロック塀がある。そこをまたいで越えると砂利の駐車場で、駐車場をつっきれば、広場はすぐそこだ。


 6:30、広場につくと、一つ上の足が速いあの人や、となりのクラスのあの子、それに知らない大人や子どもがいる。私たちは、広場の入り口で係の人にラジオ体操カードを見せて、今日の日付の欄にハンコを押してもらう。それはなんの変哲もない名字のハンコなのだけれど、カードの一つ一つの欄がうまっていくのが、なんだか嬉しい。


 ターラーララッ ターラーラッ、ターラーララッ ターラーラッ……

 “ラジオ体操第一”の前奏から、アナウンスとともに背伸びの運動。腕を回すのがちょっと楽しくて、胸を反らすのがちょっと恥ずかしい。身体の筋が伸びていくのがわかって、清々しい。

 “ラジオ体操第二”は筋肉ムキムキみたいでまた恥ずかしくって、まわりを伺いながらひかえめに。

 最後の深呼吸で、長い夏休みのわくわくを、たっぷり吸い込む。


 帰り道は違うルートで。近道の駐車場を通り抜けて、珈琲豆のお店の前を通り過ぎる。それから、秋にはからすうりがなる林の横を通り、向かいの大きな林の中に入っていくと、セミが鳴き始めていた。


「カブトがいるか。この木はミツが出るんだ」

 たけるくんがそう言って、目の前の幹を勢いよく蹴った。ビーサンの裏で、木の根っこと土が動いた後、上からばらばらと虫が落ちてきた。

 私ともえちゃん、それからけんたが、きゃいきゃい言って、みんなで足元を見る。カブトがいたら、もうけもの。大体は、小ぶりのクワガタかカナブンだ。たけるくんとけんたが虫をつまんで、みんなで家に帰っていく。


 7:20、玄関ドアを開けてリビングへ。お父さんは新聞から顔をのぞかせ、お母さんは食パンにジャムを塗りながら、

「おかえり」

と迎えてくれる。

 今日も暑くなるでしょう――、テレビの朝の天気予報が、そう告げていた。


2021年6月21日 改訂

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