作戦前日
「今回は、電撃戦で行く」
なんとか立ち直った、バル隊長は、周りを見回しながら、話し始める。
「俺の部隊が、こちらに残ってはいるが、30人程度しかいない。さらに、サラフィの昔の部下達に声はかけているが、今、20人程度。後は、城にほとんどいるために、話しがしづらい状況だ」
サラは、バルの話しで、息を飲む。
「まだ、付いて来てくれるのだろうか?皆を捨てた私に」
「話しをしたほとんどの兵士は、サラフィが立ち上がるのを待っていたそうだよ。いい兵士達だね」
バルは、笑いながら、サラを見ると、サラは涙ぐんでいた。
「それよりも、王都に着いてから数日しか経っていないのに、兵士の場所や、自分の部隊に連絡したりとそこまで調べられる、バル隊長さんが怖くなりますね」
ロアがつぶやくも、笑ってごまかすバル隊長。
絶対呼ばれる前に、このクーデターの話しを知っていて根回しをしていたに違いない笑みだった。
「つまり、ここにいる11人と、50人の兵士で、城の警備隊、400人を相手にする事になる。倍以上の戦力だ。まともに当たると、アル君が捕まり私達は負ける」
「だからこその電撃戦か」
ギルドマスターがつぶやく。
「兵士達には、もう暗部から連絡してもらうようにしてある。決行は、明日の夜」
早っ!
思わず心の中で、叫ぶ。だけど、助かる。
リンの推しが強くて、もう少しで、落ちてしまいそうだったし。
何よりも、ミュアを待たせ過ぎている。
最近、ミュアを感じられない時が増えている。
何かが起きているのは確かなのだから、早くエルフの里に行きたかった。
「部隊は、3つに分ける。アル君と、ギルドマスター、ヒウマ君、ニャンさんが、本陣。私は、制圧部隊長として、兵士30人、ロア君、レイラ、ライナも付いて来て欲しい。最後に、陽動達として、サラフィ君、兵士20人、リンさん、シュン君、ダルワンさんで行く。後で、本陣の守りには暗部の方々も来てくれるらしいが、彼らは、王の守護が本分だ。期待しないでほしい」
再び、一息入れると、城の地図を出すバル隊長。
「みんなも知っているように、城の後ろは平原ですぐに王族が逃げられるようになっている。だが。逃げやすいという事は、進入しやすいという事だ。こちらを、サラフィ隊で進入する」
「私達は、街側の正門で、騒ぐ。シュリフ将軍の断罪を求めてな」
「ヒウマ君と、にゃんさんは、獣化騎乗していてほしい。君達の姿は、十分こちらの本気を伝えられるからね」
「初動は以上。後は中に入ってから、臨機応変に行くしかない。目標は、クソ親父の首と、王家の奪還だよ。各自準備よろしく」
その一言で、ギルドから出ていくメンバー。
俺も出ようとすると、レイアに声をかけられた。
「あの、シュン、すまない」
うつむいて、話すレイア。
かなり、今まで辛かったのだろう。奇麗な赤色の髪が真っ白になっている。
「いや、悪いのは、俺だ。いつも、いつも。油断してしまい、助けられない」
俺は、拳を握る。
「いや、そっちじゃなくて、いや、そうなんだけど」
慌てながら、何が言いたいのか、わからなくなるレイア
「そういえば、ロア先輩と、婚約したんだって?」
「うん。その事もあって、話しておかないと行けないと思って」
「その。勝手にいなくなって、ごめん。ライナにも話しをさせたいんだけど、あの子、父親の事でいっぱいだから」
相変わらず、世話人の役目を引き受けているらしい。
ただ、少しありがたくも感じてしまう。
ライナの眼帯を見ると、罪の意識に押しつぶされそうになる。
「気にしてないから、大丈夫。俺こそ、何もできなくてごめん」
俺が謝ると、複雑な顔をするレイア。
すると。
「シュン君っ!いた〜っ!いつまでも来ないから、心配したよっ!」
リンが来て、俺の腕を掴む。
「あの、その人は?」
「私?シュン君の婚約者っ!結婚するんだからっ!」
「違うだろっ!」
唐突な発言に思わず突っ込む。
「え〜、あんな事や、こんな事しといて、悪い人っ」
「何もして無いだろうがっ」
二人で、漫才みたいな会話をしていると、レイアは、笑いだし。
「うん。良かった。シュン君、明日、頑張ろうねっ!」
そう言い残して、レイアは部屋を出て行く。
「昔の女でしょ?シュン君は、絶対あげないからっ」
その後ろ姿に、舌を出すリン。
俺は、ため息を吐きながら、リンに連れられて、街に出る。
まだ夕方ではあるが、活気にあふれていた。
まだ、売れ残りがある屋台が必死に声掛けを行い、急ぎ足で商人達は通り過ぎて行く。
あちこちで、話しをしている街人達。
今さっき話したクーデターの話しが嘘のように思う。
しかし。
ちらほらと、明らかな完全武装の兵士が、殺気をまといながら歩いている。
日常に紛れる、明らかな違和感。
「やっぱり、始まったんだな」
とつぶやくと。
「シュン君っ!付き合ってねっ!美味しいフルーツのお店見つけたんだっ。おごってくれると嬉しいなぁ」
いきなり、リンに再び引っ張られる。
俺は、ぎこちなく笑いながら、無理矢理なデートに引っ張り出されるのだった。




