反撃の時
呆然とゲートを見ていると。
俺を呼ぶ声と一緒に、リンが跳んで来た。
慌てて、リンを抱きとめる。
「ぼーっとしてたら、死んじゃうよっ!」
リンのその一声で、俺は改めて周りを見る。
すでに、俺達は魔物に囲まれていた。
良く見たら、リンの服も一部がボロボロになっている。
自分達も危ないのに、リンは無茶をして、俺のところまで来たのが良く分かる。
「ごめん」
俺は、小さく謝ると、リンに回復魔法をかけ、改めて、自分の武器を握りしめる。
サラも。リンも。ガンも。
死なせないっ!
心に決めると、槍斧を一回振る。
自分の周りの魔物達が一瞬遅れて、吹き飛ぶ。
「リンっ!シュンっ!とりあえず、一回退くぞっ!」
サラの号令が聞こえる。
魔物がこれだけいるのに、サラの声は良く聞こえる。
サラの大将としての器を感じていると。
「逃げるよっ!」
リンが、魔物の背中を足場にして跳んで行く。
軽業のスキル付与があるとはいえ、本当に軽々と跳んで行く、リンを笑顔で見ていると。
ふっと、データベースさんが小さいアラームを鳴らす。
慌てていない周りを見ると、ゲートから身体を半分しか出していない、今出てきたばかりのロックゴーレムが、リンを狙って、口を開けていた。
ロックゴーレムの岩砲弾。
俺はとっさに魔力ビットを飛ばし、絶対結界をロックゴーレムの前に張る。
ギリギリのタイミングで、結界に阻まれ、消失する岩砲弾。
ほっとため息を吐きながら、俺は結界を解除する。
その時。違和感があった。
ごくわずか。
俺の結界が触れていたゲートのごくわずかの部分が、消えていた。
近くによって来た魔物を、薙ぎ払い、もう一度思わず二度見する。
確かに。ごくわずかに、ゲートが削れていた。
「はははは」
俺は、思わず笑う。
理由なんかいらない。分からない。
だけど、ゲートは壊せる。
「何をしているっ!シュンっ!撤退だっ!」
「ゲートの破壊方法が分かったっ!3人は一回下がって体制を整えてくれっ!」
俺は、叫び返しながら、走り出す。
広範囲、ガトリング式魔法一斉射で、自分の視界の道を作りながら、魔力ビット数個をゲートに密接させ。
「絶対結界っ」
俺がつぶやいた瞬間。
ゲートの一辺が消滅した。
周りに凄まじい魔力を撒き散らしながら、崩壊していくゲート。
近くにいた、魔物の色が変わる。
「なんか、ヤバそうだけど、やれる」
俺は、薄く笑う。
敵が強くなるのは、しょうがないし、どうでもいい。
無数の敵と戦い続ける方が面倒だ。
俺が二枚目のゲートに目標を定めながら、周りの敵を薙ぎ払っていると、3人が帰って来た。
「帰ったよ〜って、アイアンゴーレムやら、アーマーセンティピードがいるじゃんっ!なんで、アシダカまでいるのよ〜」
リンの悲鳴のような叫び声が聞こえる。両肩を抱えて、震えていた。
魔力を浴びて、ロックゴーレムは、さらに硬いアイアンゴーレムになっているし、大ムカデは、鎧を着たかのような硬さの、アーマーセンティピードに。
さらに、他のゲートから、ゲジゲジの巨大版が出て来ていた。
ムカデの上位魔物で、無茶苦茶足が早い。
しかも、壁も、何のその。天井も動けるし、ジャンプ力もある。
本物のゲジゲジ。
ただし、デカさが。
今は、アシダカ、巨大ゲジゲジは、バリボリと子供くらいの大きさの黒ネズミを捕まえて食べていた。
「私、あれの相手は、無理っ!ムカデよりも、無理だからっ」
必死にアピールしているリン。
そのアシダカが、リンを見た気がした。
ヒッと情けない声を上げるリン。
サラは、肩をすくめると、アシダカを睨む。
「白銀騎士団、精鋭防衛隊、部隊長サラ。この剣技や推して知るべし」
いきなり、弾丸のように、魔物の中に飛び入って行った。
「俺たちの仕事場だっ!返してもらうぞっ!」
地面に斧をたたきつけムカデを、真っ二つにするガン。
俺は、アーマーセンティピードの毒を跳ね上げたネズミで受け止めて、
一撃で、頭を殴り潰す。
その俺のすぐ横をアシダカの足が掠める。
おいっ!早すぎるだろっ。
今、見えなかったぞ。
頭を潰したアーマーセンティピードをかっさらい、頭からバリボリと食べ始めるアシダカ。
捕まったら、一瞬で食べられる。
だが、食べている間は、こちらから殴らない限り動かない。
その特性を確認してから、俺は二枚目のゲートを破壊する。
絶対結界を、破壊用として使うなんてと思っていたが、分かればやりやすい。
結界を張る時、普通なら障害物を貫通するなんて絶対に出来ない。
しかし、絶対結界は、障害物を貫通して、結界を張るようだ。
そういえば、地下に潜って狩りをしてた時、地面を掘り起こして攻撃してくる奴はいなかったな。
そんな事を思い出していると、再び魔力が満ちる。
アシダカが少し大きくなり、アイアンゴーレムが数体銀色になる。
「シュン殿っ!ゲートの破壊は、やめて、進化した魔物の処理をお願いしたいっ!」
「スチールゴーレムなんて、傷一つつけられないからっ!」
リンのお願いも聞こえるが、リンの短剣は、硬ければ硬いほど弾けやすいのだが。
そんな事を思いながら、スチールゴーレムになったロックゴーレムを槍斧で殴る。
もう、金属でしかない亀の身体が、火花を上げる。
「やっぱり硬いな」
俺は呟きながら、もう一回殴る。
再び火花が散る。
スチームゴーレムが、口を開け青い火が見えた時。
「やって見ようかな」
俺はふと思いつき。
その、亀の口の中で、絶対結界を張った。
一撃。
金属のような頭が、吹き飛んだ。




