鉱山攻略
「んっ」
「ひやっ!シュン君っ!急に動かないでっ。くすぐったいよっ」
俺は、気絶していたらしい。そんな事を思いながら目を覚ましたのだが。
妙に顔が柔らかい。
ちょっと前にも覚えがある、温かく、やわらかい感覚。
目を開けると、少し大きめの柔らかい膨らみの中に僕の顔があった。
顔を上げると、笑っているリンの顔が見える。
「うわっ!」
俺は、慌てて離れようとすると、逆にリンに抱きしめられさらに、柔らかい谷間に吸い込まれてしまう。
「いいよ?」
リンの声に、一瞬で冷静になりすぐにリンから離れる。
「残念っ。でも、いつでも言ってね。私なら、すぐあげれるよっ」
大人の女性の笑みで、はしゃぐように俺を挑発するリン。
「いや、いいから」
俺は、普通に拒否する。というか、ここじゃ絶対に無理だし。
なにより、俺にはミュアがいるのだから。
はっさりと切り捨てた返答に、思わずその場に崩れるリン。
そんなリンを放置して、俺は、改めて周りを見る。
少しの間寝ようと思ったのは覚えているが。
何故か、座っているリンの胸元に埋もれるように寝ていたり、サラが少しだけ怖い顔をしていたりと、自分では良く解らない状況に混乱していると。
「深く考えたら、負けだ」
ガンが小さくつぶやく。
その言葉に、ひどく納得してしまう俺。
しかし、休んだからか身体は軽くなっていた。
「それは、そうと何があったんだ?凄まじい熱風が来たから、慌てて来て見れば、シュン殿が寝ていたのだが。しかも、この景色は」
サラが困った顔で聞いて来る。
周りを見ると、地竜がいた近くの床や壁は溶けて、奇麗な色と滑らかな曲線に変わっていた。
とんでも無い高熱だった証を見て、引きつり笑いが出てしまう。
良く生きていたな。俺。
俺は、とりあえず、地竜がいて、戦っていた事を伝えたが、3人ともに信じてはくれなかった。
世界の4竜、地竜、炎竜、空竜、海竜は、中国の4聖獣みたいな扱いだからな。
空想の化け物とされている。
けど、本当はこの世界に実在する竜なんだがな。
疑いの目しか向けて来ない3人の視線に、居心地の悪さを感じるのだった。
そんな視線にいたたまれなくなり、俺は、身体軽くほぐすと、地竜が出てきた先を見る。
地竜は、自分で掘ってこの道に出てきたのだが。その先から、無数の魔物の気配がする。
「この先が、この無限湧きの原因かも知れないな」
俺がつぶやくと、サラもその先を見る。
「なら、行くしか無いだろうな。普通なら、逃げ帰りたい気配なのだかが」
「なるようになるしかないんだから。行って見なけりや分からないもんねっ」
リンがにこやかに笑う。
こっそり俺の腕を抱え込みながら。
立ち直り早いな。さすが、ハンターか?
「原因が分かるのなら、行きたい。倒れて行った仲間のためにも」
ガンの呟きに、俺は軽く息を飲む。
この鉱山には、ガンみたいな討伐や護衛専門の人間は結構いたはずだよな。しかし、今は、ガンくらいしか見ていない。
何人死んだのか。
リンが、腕を押し付けて来る。
気がつくと、俺は震えるくらい拳を握りしめていた。
その力が少しぬける。
リンは、にこやかに笑っていた。
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「本当に、どれだけいるのっ!」
リンの叫びとともに、足が遅い、ロックゴーレムが弾け飛ぶ。
高周波振動で、すぐ弾ける場所を見つけてからは、ロックゴーレムは、本当の雑魚に変わっていた。
同時に2体が、リンの短剣で弾け飛ぶ。
黒ネズミは、サラの5連撃で、同時に2,3体吹き飛ぶし、ガンの一撃で、大ムカデは一発で頭を飛ばされる。
俺は、みんなの盾を作りながら、手当たり次第、倒していた。
亀の足を打ち抜き、ネズミをまとめて串刺しにする。
亀の頭を吹き飛ばしながら、目の前の光景にうんざりしていた。
そう。
地竜の作った道は、確かに原因に繋がっていた。
しかし、目の前に現れたのは、だだっ広い、地下神殿のような空間を埋め尽くす、魔物の群れだった。
地竜の間。
データベースさんは、そう教えてくれるけど、そんな事はどうでも良かった。
1万近い魔物がひしめいている空間の中、6箇所もある、紫色のカガミのようなゲートから、次々と魔物が湧き出ていたのだ。
今までは、黒いモヤが魔物を作ると思われていた。
だけど、このゲートの存在は。
黒いモヤが、このゲートと一緒であるなら。
魔物は、どこからか、転送されているという事実。
奇跡の大発見なのかも知れないけど、今はそんな事を考える暇も無い。
囲まれたら終わり。
その緊張感を感じながら、俺は魔力ビットを展開する。
魔力や、MPはさらに伸ばした。
HPも伸ばしている。
何故なら、データベースさんに検索をかけると、4竜が必ずどこかに出て来るようになったからだった。
4竜の力は恐ろしく、多分一撃を耐えきれ無い。
さっきの戦いで生き残れたのは、運が良かっただけで、空中に吹き飛ばされた状態で、竜吐息を受けたら、俺は、消滅していた。
なら、攻撃を耐えきれるHPにしたら、大丈夫なのではないかと思っただけだった。
しかし、そんな事はさておき、今目の前にいるのは無数の魔物。
サラも、リンも息が上がっていた。
すでに、ガンと3人だけで、300体は倒しているのに、補充がゲートから出て来るために、全く数が減っているように見えない。
「シュン殿っ!あの紫色の置物を頼むっ!出て来すぎて数が減らないっ!」
「お願いよっ!」
サラと、リンが叫ぶ。
二人とも、傷一つないが、動きがかなり遅くなっていて疲れているのが明らかに分かった。
俺は、一つ頷くと、魔力ビットを紫色に輝くゲートに向かわせ。
一気に魔力を開放する。
氷が、風が、岩のミサイルが、一斉に紫色のゲートを包み込む。
魔力ビットは、オールレンジ攻撃だから、近づく必要は無い。
つまり、この笑えてくる数の魔物をかき分けて進む必要は無いと言うこと。
やったと思い、したり顔をしていた俺は、一瞬で顔が強ばる。
ゲート前の魔物は全滅していた。
しかし。
紫色のゲートは、全くの無傷で、新しい魔物を吐き出していた。
その光景は、絶望しか生まない。
6枚のゲート。
明らかに魔物の数は増えている。
俺は、呆然とゲートを見る事しか出来なかった。




