魔物だけの鉱山
野営をしながら、数日経った。
傷ついた兵士達が回復し、兵士達の再編が終わり、やっと俺たちは再び鉱山に入れる事になった。
それまでは、鉱山は俺の絶対結界で封鎖していた。
俺的には、勝手に入り、依頼を進めたかったのだが、残念ながら、サラに徹底的に拒否されてしまった。
もし、自分達が鉱山の中に入っている間に魔物が鉱山から溢れ出る事があれば、村の人間は全滅してしまう。
サラが必死に止めて来る姿を見ていたら、むりやり行く事は出来なかった。
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「はあっ!」
サラの一撃で、黒ネズミが吹き飛ぶ。
「よっ。とっ」
リンが洞窟の壁を蹴り、ムカデの上に飛び、ナイフを投げる。
ナイフには、白い紐がついていて、その紐を弾くと、ムカデに刺さったナイフ自体が高振動をし始め、ムカデの殻が一部弾ける。
「う〜ん。シュン君の愛が重たいっ」
ナイフを回収しながら、笑うリン。
「ムンっ!」
ガンが、力いっぱい斧を振り下ろすと、黒い巨大ミミズがちぎれ飛ぶ。
その飛んで来たかけらを口でキャッチし、食べ始める亀。
「こんな浅い場所にまで上がって来ているのかっ!」
ロックゴーレム。
ミミズのかけらを食べ尽くした亀は口を開ける。
岩の塊が生まれ、3人に向かって飛んで来る。
しかし。
「シュン君の愛があれば怖くないよっ!」
鱗に覆われた装備をしているリンが岩玉を蹴ると、岩の塊は天井にぶつかり消滅する。
「愛かどうかは、知らないがっ!シュン殿には本当に感謝しかないっ!」
サラの瞬撃が決まり、5撃の線が|、五芒星を描き、ロックゴーレムの甲羅を弾き飛ばす。
叫ぶように、口を開くロックゴーレムの口にガンは両刃斧を打ち込むと、ロックゴーレムは頭を2つに引き裂かれ、絶命する。
サラの装備は、サーペントアーマー。
シーサーペントの鱗から創られたライトアーマーで、鱗の性質から、
全魔法攻撃軽減、打撃衝撃軽減あり。
防御力は折り紙付き。
武器は、ワイバーンの翼の骨から創られた、ソードレイピア。
軽さと硬さが両立していて、瞬撃を5連撃にする特殊付与付き。
貫通属性付きで、ロックゴーレムの甲羅すら、切り裂いてしまえる。
サラは、一度剣を振るう。
「こんな、王国秘宝級の装備、もらって良かったのだろうか?」
複雑な顔をするサラにリンが、カラカラと笑う。
「いいんじゃない?私なんて、神級認定されそうな装備だよ?」
リンが手の鱗を触りながら笑う。
シーサーペントの鱗から創られた、両手手甲と、レギンスアーマー。ブーツは、ほぼワイバーン製。
手甲はひたすら頑丈で、ロックゴーレムの尻尾すら受け止めれる。
レギンスアーマーは、サラの装備と同じく、全魔法攻撃軽減。打撃衝撃軽減。
だから、ロックゴーレムの岩球を蹴り落としても、傷一つない。
ブーツは、ひたすら軽く、加速付与と、軽業が付与されていて、短い距離なら、壁を走ると言う、冗談みたいな事が出来る。
壁を蹴りながら行う、パルクールもお手の物だ。
武器は、シーサーペントの牙から創られた、短刀が一本。
ワイバーンの爪と、ワイバーンの神経から創られた、超振動破砕が可能な、紐付き短剣が二本。
短刀は、魔力を通すと、水魔法が使え飲水を作る事も出来る。
短剣の紐はそんなに長くはないが、魔力を通すと、少しは伸び縮みする。
ガンは、サーペントから創られた、全身鱗のフルアーマー。
頭と、盾は、ロックゴーレムの頭と、甲羅を加工したもの。
そして、斧は、ワイバーンの尻尾を使った物。
ガンの装備は、ただただ頑強にしてあり、中の人間がひき潰される衝撃を受けても、装備は無事に済む可能性が高い。
ロックゴーレムの甲羅には、斬撃軽減が付いていたのにはびっくりしたが。
「それにしても、先を見て来ると言って、置いて行かれるとはな」
「こんな装備までくれたんだから、早く合流しなきゃ。せめて、身体くらいもらってくれないと、払えないよ。こんな凄い装備の代金なんて」
リンがくるっとその場で回る。
ゆっくりと頷くガン。
3人は、全く危険を感じる事無く鉱山を進んで行くのだった。
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「なんで、本物の竜がいるんだよっ!」
俺は先行して、魔物狩りをしていたが、突然奥から、道の壁を壊して現れた大亀と戦っていた。
地竜。
データベースさんは、とんでも無い答えを返して来る。
今まで、戦って来た竜は、格下と言ってもいい竜達だった。
蛇竜やら、翼竜やら。
竜ではあるから、普通では倒せない強敵ではあるのだが、アイツらと本物の竜は違う。
今。
俺は、地竜の放つ衝撃波に、絶対結界ごと吹き飛ばされていた。
絶対結界は壊れ無い。
しかし、魔力ビットを起点にしているため、絶対結界を移動させる事が出来る。
それが便利過ぎて、忘れていた。
〈無茶苦茶な力がかかると、魔力ビットごと吹き飛ばされる〉
もう一枚、地面に固定型して、絶対結界を出し、自分の体制を整える。
魔力ビットを出し光の光線を出すが、ワイバーンを一撃で仕留めた攻撃でも、全く傷一つつかない。
〘玄武〙
昔の中国にいたとされる、神獣を思い出す。
地竜の攻撃は鉱山内を震わせ、さらに凄まじい風力で吹き飛ばされそうになる。
間の悪い黒ネズミが衝撃に巻き込まれ、自分の横を飛んで行き壁のシミになった。
まともに喰らえば、あんな風に何も残らず、壁に塗られるだけだ。
俺は、情けなくも絶対結界に隠れながら耐える。
「本物の竜なんて、倒せる訳無いだろうが」
俺はうっすらと笑いながら地竜を見ていた。
すると地竜は、突然動きを止めた。その場で、地面に自分の足をめり込ませる。
亀が口をいっぱいに開く。
「さらに、龍吐息かよっ!」
一瞬で、俺の叫びも視界も真っ青に染まる。
一瞬の後、あまりの熱量にふらふらになりながら、かろうじて俺は立っていた。
「周りに撒き散らされた熱は、そりゃ残るよなぁ」
一気にサウナを超える温度になった炭鉱の中で、汗を滝のように流しながら、俺は、呟く。
ラノベの嘘つきがっ。
華麗に、龍吐息を防ぐなんて、出来るかっ!
こんなの、ワイバーンの皮をなめして作った、このローブじゃなかったら、今頃、蒸し焼きになってるわ。
汗で、目も開けていられない。
片眼をかろうじて開けると、俺は力いっぱい地面を蹴る。
天井はそんなに高くない。
亀の上に飛び上がるのは無理。
なら。
「下ならどうだっ!」
俺は、龍吐息後で、動きが止まっている亀の下に潜り込み、全力で、魔法を亀の首に叩き込んだ。
メキッ と音がするまで、風魔法やら、氷魔法を叩き込む。
俺が、ニヤリと笑うと、突然亀が吠えた。(亀が吠えた事にも驚いたが)
そのまま、亀が、地面に沈み込み始めた。(もっと驚いた)
慌てて、自分の身体の下で、風魔法を炸裂させて、爆風で、身体よりも太い亀の首の下から逃げる。
亀はそのまま、地面の中に、沈み込み消えて行った。
「逃げるのかよ」
俺は、呟きながら、回復魔法を自分にかける。
このワイバーンのローブには、熱耐性と、魔法耐性が付いている。
正直、燃え盛る炎の中で寝れるくらい優秀な装備なのだが。
「熱すぎだろ」
結局、あまりの熱さに、水魔法やら、氷魔法やら使っていたら、3人がこちらに来るのが見えた。
その姿を見ながら、何故か、俺は安心して、少し目を閉じる事にする。
莫大な魔力を回復させるために。




