無数の魔物
俺たちは、順調に探索をしていた。
時々、兵士達の近くに行ってしまうと、邪魔だ。とか、覚悟もない素人がなどと言われたが、抜け道を使い、かなり奥まで進んでいた。
そんな時。
「ねぇ。あれ、何?」
とリンが前方を指差す。
マップは、道が全て赤いため、全く当てにならない。
リンが指し示した方向は暗くて良く見えない。しばらく、じっと見ていると。
「逃げるぞっ!」
サラが突然叫ぶ。
ガンも、盾のみ構え叫ぶ。
「行けっ!走れっ!」
俺も普通なら逃げ出す光景にあ然となっていた。
現れたのは、道いっぱいの、ネズミと、コウモリ。
「モンスターが溢れる罠なんて、結構あるけど、この数は無理っ!」
リンが叫ぶ。
多分、100匹以上。
こんな狭い場所で。
普通なら死しかない。
《普通》なら。
俺は、壁になり、敵の足止めをする気の、ガンの前に出ると、スッと槍を構える。
魔力ビットを槍の周りに円形にまとわせる。
絶対結界を張り、盾にする。
「おい!何してるんだっ!逃げるぞっ!」
叫ぶサラがうるさい。
これだけ狭ければ、横からの攻撃は心配しなくていい。
目の前の敵だけ考えればいいなら余裕だ。
コウモリの魔物を近くまで引き寄せて。
俺は、心の中でトリガーを引いた。
魔力ビットが回転しながら、全ての魔力ビットが氷の矢を打ち始める。
螺旋を描きながら無数に飛んで行く氷。
〈思いつきでやって見た〉
アイシクルガトリング。
はっきり言って、昔にいた世界の弾丸兵器より、発射数は多い自信がある。
コウモリの魔物が落下し、ネズミに当たり、冷たさに逃げ出そうとする、ネズミの魔物達。
しかし、後ろからも来ているため、逃げれない。
コウモリは避けようとするけど、狭い空間で逃げれるはずもない。
避ける事も出来ず、絶対結界にぶつかり動きが止まれば、氷の弾丸に貫かれる。
アサルトライフルが作れないのなら、魔法でやればいい。
ガトリングガンがないなら、魔法で再現してやればいい。
なんだかんだで、俺のMPは、1万を超えている。
常に、魔力ビットは常時展開しているから。勝手に周りの魔物を倒してくれる魔力ビットのおかげで、最近は、EPが貯まり続けている。
砦の時のように、魔力切れで、苦しい思いはしたく無かったから、今は、MPに極振りしているのだが。
それが今、役に経っていた。
しかし、現実にはガリガリと容赦無く、MPが無くなって行く。
結局、全ての魔物を倒した時、俺の魔力は、3000以上消費していた。
「しんどいっ!」
全てを倒した後、俺はその場に座り込む。
「「「ありえないっ!ねぇっ!」」」
魔物を殲滅した後で、俺を見ながら、3人が同時に叫けぶ。
100体以上の魔物と一緒に、前方の道は、見事にカチカチに凍りついていたのだった。
呆然としている3人を見て、少しニヤける。
これくらいなら、余裕。
そう言いたかったが。
そうはいかなかった。
「嘘っ!まだ来るっ!」
リンの絶望の声が響く。
凍りついた仲間を踏みつけながら、さらに道を埋め尽くす数の魔物が現れる。
今度は、ヘビのような魔物に、ムカデのような魔物。
その姿を見た瞬間、リンは力いっぱい叫ぶ。
「だめなのっ!足が無いのと、足がいっぱいなの両方だめなのっ!!」
突然、その場にうずくまるリン。
「ここまでかっ」
絶望の顔で、前を見るサラ。
しかし、俺は余裕だった。
なぜなら。
魔物達は、凍りついた部分を通りながら、ゆっくりの動きになって行くからだった。
この世界のムカデや、ヘビ型の魔物も、暑さ、寒さに弱い。
魔力ビットの攻撃を散発するだけで、死んでいく魔物。
少し余裕というか、暇があるので、うずくまる小さい塊を見る。
涙目のリンがあまりにもかわいいから、思わずじっと見てしまう。
「あたしを見るなぁ!後で、しばくっ!」
うずくまり、震えながら、怒る器用なリン。
ガンも、サラも、ため息を強く吐き、武器を下ろす。
落ち着いたと思った時。
生き残っていた、ヘビがリンに向かって跳んで来た。
慌てて絶対結界を張る。
しかし、俺の結界が精製される前に。
「はあっ!」
サラの掛け声とともに、空中で、切り刻まれるヘビ。
かろうじて見えたのは、斬り上げながら、すぐ切り下げ、突き上げる3連撃。
それが2発。計6連撃。
《瞬斬》
普通ならまず取得出来ない、レアなスキル。
「はあっ、はぁっ!」
サラの息が粗い。
人間離れした動きを、スキルでむりやり行うのだから、体にかかる負担は、相当だと思う。
「サラぁ。ありがと〜。助かった〜」
涙を浮かべながら、リンが笑う。
リンの足元が濡れているのは、見ないふりをしたほうがいいのだろう。
ガンは、自分の武器を肩に担ぎながら、肩をすくめる。
俺は、その姿を見ながら大人の対応というやつを見た気がしていた。
「誰かに言ったら、コロス。言わなくても、コロス」
さっきから、リンが、俺の後ろでぶつぶつと呪いのようにつぶやいていた。
濡れてしまったレギンスは、俺が魔法で、乾かし、匂いも消しておいた。
鉱山の中で、近づいて歩かないと行けない以上は、きつい匂いは、死活問題である。
ただ、別の意味で、今にも後ろから刺されそうではあるが。
「それはそうと、今更な質問いいか?この魔物だらけの鉱山に何かあるのか?リンみたいなハンターが来るような何かが」
歩きながら、俺が聞くと、サラが胸を張る。
「それは、決まっているっ!もちろんっ。ちょ、、」
「あ、当たり前じゃないっ!一番奥に到達した時に、魔物が溢れだしたのなら、そこに、魔物達が守るくらいのお宝があるに決まっているでしょっ」
リンがサラの言葉を遮ってしゃべる。
「へぇ。一番奥から魔物が湧いたのか」
俺が、納得していると、リンが睨む。
「そんな事も知らないで、入って来たの?」
何も教えてくれなかったのだから、仕方無いだろう。と思っていると、サラが一人でうなずいていた。
「あれは、昔から、大事な話しを、してくれた事が無いからな。きっと、行って来いの一言だけだったのではないか?」
サラの言葉に、その言葉すら無く、勝手にしろみたいな反応だったのだが。
と思っていると、ガンが突然叫ぶ。
「来るぞっ!」
その言葉に、再び武器を構える。
「また?敵多すぎでしょっ!」
リンのボヤキに、心から同意する。
力いっぱい、無言で振り下ろされるガンの両刃斧。
しかし、その地響きまでしそうな一撃を弾き返したのは、亀のような魔物だった。
「ストーンゴーレムっ!」
リンの叫びに。
俺は、一つ、思い込みの価値観が崩れる音を聴いていた。




