悲しみの螺旋
僕たちが帰った後。
「おい、カイル。そのお前の肩に担がれてるやつは、何だ?見た事も無い魔物なんだが?」
門兵が、カイルの肩に乗っているゴブリンアサシンを見て、声をかけて来る。
「ああ。こいつは、、、ゴブリン、、アサシンだ」
カイルの声が低い。
ボロボロに、ズタズタに切り裂かれた魔物は、どうみても原型をとどめていない。
「はあ!ゴブリンアサシンだと!?」
門兵は、大声を上げると、慌ててどこかへ走り出す。
「ちょっ、ちょっと待っとけ!」
普段、優しい口調の門兵が、慌てているのが僕の目からみても凄く良く分かった。
「とりあえず、それを持って、入ってくれ!」
戻ってきた門兵は、息をきらしたままだった。
僕たちが入った時、町は、大騒ぎの真っただ中になっていた。
僕たちが、ゴブリンアサシンを持って帰ったから。
ゴブリンアサシンは、その存在そのものが、特A指定されるもので、見つけ次第にBランク以上の冒険者が、すぐに討伐に行き、低ランク冒険者は、近くで狩りをしてはいけないという、封鎖処置まで行われるくらいの、危険な魔物だったのだ。
カイルが、なんでアサシンがいるんだよと叫んだ理由が分かった気がした。
よく考えたら、確かに、僕のマップスキルにも引っ掛からない魔物なんて、普通なら見つけようもないし、あんな透明なままで攻撃されたら絶対死者が出る。
僕以外が最初に狙われていたら、僕に絶対結界のスキルがなかったら、誰かが死んでいた可能性しかなかったのだから。
しかも、死んだら終わり。
回復魔法を孤児院でいっぱい施してきたから知っているけど、蘇生の魔法は存在しない。
死んだら、悲しい目をする人が増えるだけなのだ。
それはとにかく、ゴブリンアサシンの討伐部位を見た町の中は、大騒ぎで。
特に、冒険者ギルドの中では、あいつが悪いとか、お前が悪いとか怒鳴り合い、最後は意味も分からず叫ぶ声しか聞こえなくなってしまった。
良く聞くと、ゴブリンの巣の発見情報を受けて、調査依頼を出していたらしい。
そこで、上級の冒険者がその依頼を受けて、調査に向かったらしいのだが、何も見つからなかったため、見間違いとして報告されていたみたいで。
その情報をしっかり調査していなかったとして、依頼を受けた冒険者たちが怒られていた。
けど、結局はアサシンゴブリンを見つける事は不可能という事で落ち着いてしまっていたけれど。
さらに今回、アサシン討伐の功績で、炎の楔の3人に再びランクアップの話をされていたけれど、3人とも即答で断っていた。
まだ、ゴブリンアサシンがいるかも知れない。ゴブリンの巣が本当にあるかも知れないと言う理由で、町は瞬く間に厳戒態勢になってしまった。
ゴブリンシューターまでいるかも知れないという話まで出てしまい、僕たち<炎の楔>も何かあったら、協力をお願いしたいと頭を下げられてしまった。
結局、遠くに行く依頼は控えて欲しいとお願いされて、町の周りで、魔物ウサギ狩りを行うくらいしかやることがなくなってしまったのだった。
「シンは、冒険者学校とか、興味ないかい?」
外で、数匹魔物を狩った後、町に戻ってご飯を皆で食べていたら唐突にキシュアさんに尋ねられる。
「うん、あんまり。気にした事無いかな。」
「まだ、学校に行くとか考えた事は無いかな?でもね、冒険者になりたいなら、行くといいよ。いろいろと助かるからね。あっちの剣術馬鹿は、行かなくて大変だったみたいだから。」
「ふざけんな。俺はこれ一本で渡り歩いて来たんだよっ。学校とか、柄じゃねぇ」
カイルを指さすと、カイルはむくれながら、キシュアさんに言い返していた。
「まあ、剣術馬鹿だから、仕方ないわよねぇ」
「レイアもかよっ。味方がいねぇ」
頭を抱えるカイル。
僕はそんなカイルを見て笑っていた。
そんな時。突然町に、木を叩く音が響き渡った。
「緊急招集の合図じゃない。何かあったのかしら?」
レイアお姉さんの呟きに、僕はスキルを発動してみる。
「町の中央広場に皆集まっているみたい」
「行って見るか」
カイルの一言で、僕たちは広場に行ってみることになった。
「緊急事態であるっ!」
僕たちが、広場に行くと、黄色い鎧を着こんだ兵士が並んでいた。
その少し上、一段高い場所で、黄色に少し青い線が入っている鎧を着たおじさんが叫んでいた。
「防衛兵団とは、この町じゃあ珍しいな」
カイルの呟きに、おじさんがさらに叫ぶ。
「先日、徹底的な調査を行ったところ、この町の近くの森にある洞窟の中に、ゴブリンの巣を発見したっ!先日、ゴブリンアサシンが発見されたのは、記憶に新しい事実であるっ!よって、今回発見されたゴブリンの巣は、かなりの規模である事が予測されるっ!ついては、2週間後っ!大規模討伐を行う予定であるっ!冒険者、戦える者の参加を節に願うっ!今回の討伐には、蒼碧騎士団も参加していただけるっ!皆の協力をお願いするものであるっ!受付はギルドにて行って欲しいっ!」
おじさんの演説が終わると一斉に拍手がおきる。
「はあ。強制依頼かよ。やる気にならないんだよな~。依頼料安すぎだからなあ」
「きっかけは私たちなんだから、仕方ないじゃない。ほら行くわよ」
ぼやくカイルを、ひっぱるレイア。キシュアも肩をすくめると、ギルドへと移動をはじめていた。
「やっぱり気が乗らねぇなぁ」
カイルはそうぼやきながら、ギルドから出てきた。
ゴブリンアサシンの討伐報酬で、目標額よりはるかに多く稼げたのに、カイルの不機嫌は治らない。
「まあ、今回来てくれるはずの騎士団もまだ着いてないし、冒険者レベルの高いパーティーもいないし、心配事しかないけど、私たちのやれる事をやれるだけ、行うしかないんじゃないかしら?」
レイアもそう言いながら、あまり表情は明るくない。
ギルドに、ゴブリンの巣というか、根城になっている洞窟の入り口の場所を発見したという報告は確かにあった。しかしギルドに問い詰めると、偵察依頼に出た全パーティーが行方不明になっていることが判明したのだ。
ゴブリンの巣の規模も不明、場所は報告があったが、敵の数も不明。入り口が数ヶ所あるのかも不明。
心配しかない。
僕の地図は、地下は表示されないみたいで、敵が集まっているような、場所は見あたらない。
「いないと思うが、ゴブリンマスターがいました。とかはやめてくれよ」
カイルがあまりにもお粗末な調査結果に頭を抱える。
「ゴブリンシューターもね」
「そんなのいたら、この町なんか無くなってるよ」
レイアさんも、キシュアさんもあきれた表情をしていた。
「これで、討伐軍を出そうって言うんだからなぁ、やっぱり兵士連中は、魔物を甘く見すぎだ」
カイルはギルドを出てからも、ずっとぶつぶつと文句を言い続けている。
まあ、今の情報だと死にに行けと言われてるみたいなのは、僕でもわかる。
「けど、調査待ちしててもこれ以上は無理でしょ?多分、ゴブリンレンジャーくらいはいるよ。アサシンがいたんだし」
「足止めトラップか~。あれ腹立つんだよなぁ」
カイルは、うんざりした表情で空を見る。
「まあ、今やれる事は」
「回復ポーションを買い漁る事ね」
レイアの一言で、結局今日は解散となったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「なあ」
宿で、カイルは隣にいる恋人に話しかける。
「何?まあ、言いたい事はわかるけど、私はもう手続き終わらしたわよ」
「早いなっ!」
「だって、もうあの子は私たちの弟みたいなものでしょう?迷う事がおかしいのよ」
「だな。着いてきてくれると楽しいんだがなぁ」
「それは、あの子次第。私たちは、できる限りあの子を見ててあげなきゃ」
レイアは愛しの恋人の頭をそっと抱える。
「とりあえずは」
「せっかちね」
ベッド上の二人はゆったりと夜を過ごすのだった。
ーーーーーーーーー
「まだ、吹っ切れないな」
キシュアは、首のお守りを見ながら、呟く。
「シンは強くなったよ。多分、Eランク冒険者としてやって行けるくらいに。多分、僕たちが教えてあげれる事はなくなったんじゃないかな? ねぇ、アリン。もし、そっちに僕が行く事があったら、良いよね?」
キラリと月明かりを反射するお守り。
「ありがとう。とりあえず、もう少し頑張ってみるよ」
寂しくキシュアの独り言は闇に消えて行くのだった。。
9.6 少し変更しました。
ゴブリン種類
ゴブリン こん棒持ちゴブリン
ゴブリンスカウト ソード持ちゴブリン
ゴブリンローグ 回避率アップ ゴブリン
ゴブリンアサシン 影隠れ使用。影隠れからの一撃必殺あり。
ゴブリンマスター 影分身使用。ゴブリンの王。
ゴブリンアーチャー 弓使いゴブリン。
ゴブリンレンジャー トラップを使う弓ゴブリン。
ゴブリンアーチェリー 遠距離特化ゴブリン。
ゴブリンシューター 超遠距離、乱れ打ちを使う、
遠近対応ゴブリン
読んでくださりありがとうございます。