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最愛を求めて。

次の日、シュン君は朝早くから砦を出て行った。

一応、私の部屋は砦の出入口と、砦の見張り台が良く見える高台にしてある。

わずかな指揮に対する時間のロスが砦内の全ての兵士の命を危険にさらしかねない。

その思いからだったのだが。


「ん。バル?どうした?」


窓から、シュン君を見送っていると、

一緒に寝ていた、リンダが起き上がる。

彼女の筋肉質の身体には、無駄は全く無い。

むしろ、私の方が貧弱に見えてしまうくらいだ。


「シュン君が王都に行ったみたいでね」


私は、誰に言うでもなく独り言のように呟く。


彼は自分でも気がついていないようだったのだが、青い髪の女の人をじっと見ていたり、小さい背丈の女の子をじっと見ていたりしていた。


明らかに、ミュアさんを探している。

見ていたこちらが切なくなるほどに。


「早くミュアさんと再会できるといいね。私に出来るのはここまでだが、祈っているよ」


私がその背中を追っていると。


「シュンが!?まだ、保護壁の作成は終わっていないのにっ!シュンがいないと、大変になるじゃないかっ!重石の作成は時間がかかりすぎて、さらに大変になったのにっ!」


リンダが騒ぎだす。

シュン君は、昨日1日で街を守る保護壁を5分の1作ってしまった。

さらに、魔法で密度を上げ強度が高くなった重石の作り方を教えてくれていた。

それを使った壁は今までとは比べ物にならないほどに頑強で。


それで全ての壁を作り直す事になっていた。


別の窓を見ると、朝早くから兵士ではない人たちが石や、木を運んでいるのが見える。


解体したセイの村の村人達だ。

面倒を見てくれと言われたために、街作りを手伝ってもらっている。

畑も作り始め、形にはなりはじめている。

元村人達は、絶対に奴隷として扱わないように徹底して通達をしているが、まだまだ万全ではない。


「バルっ!シュンにすぐ戻って来るように、手紙を出してくれっ!頼むっ!シュンがいないと仕事が進まない んっ!」


まだ騒いでいる、リンダ。

私は、ため息を吐くとうるさい彼女の口を自分の口でふさぐ。


リンダの抵抗がなくなり、抱きつかれる。

また搾り取られるな。


確実にセイの村より豊富な物質、広い畑と、頑強な壁。要塞都市化していく砦に仕事量は増えて行くのだが、とりあえず。


昼すぎまで、バル隊長は動けなくなるのだった。


――――――――――――――


俺は、無心にクアルを走らせる。


少し余裕が出ているのかも知れない。ミュアに会える希望に。

そう思い込む。


大陸横断を行った時のような無茶な移動はせず、できるだけ夜は休むようにしていた。


しかし、眠れない。

結局、夜中に起き出して、槍を振るう。

良く寝ているクアルの横で、槍を縦に横に振るいながら、自分の焦る心を沈める。


大丈夫。きっと大丈夫。


そう言い聞かせながら、槍の練習を行う。

空が白み始めるまで槍を振るい、クアルが起きると食事にして再びクアルに乗り、走り出す。


一週間程度、5日くらいで、王都にやっと到着できた。


王都に着くなり、俺は城に向かって走る。

その途中で、ダルワンがいた。


「を、シュンじゃないか。どうしたんだ?」


酒臭い息を吐きながら、声をかけて来るダルワン。


「王に用事があるんだ」


俺が不機嫌そうに、ダルワンをにらみながら言うと、ダルワンは真剣な顔になる。


「何があった?言ってみろ」


その瞬間。俺は身体が動かなくなる。

Aランクの殺気。

ダルワンの本気の殺気を知る。

一気に身体が震えだす。


俺は、ポツリポツリと、トウの街で起きた事から、今までを話す。


じっと聞いていたダルワンは、俺の肩に腕を回し、歩き出した。

「手紙があるからと言って、王に謁見なんぞ、そうそうできる訳がないだろう。とりあえず、ついて来い。ギルマスに話しを通すぞ。その方が早い。シュリフの耳にも入りやすいからな」


そう言いながら、ギルドへと歩き出す。


ギルドに着くなり、ダルワンは受け付けで何か話しをし、俺に手招きをして奥に入って行く。


他の冒険者達がざわざわと話し始める。

ダルワンが真剣な顔をしているだけで、大きな事が起きたのではないかと騒いでいるのだった。




「ちょうど良かったね」

俺がギルドマスターの部屋に入ると突然、話しかけて来るギルドマスター。


「王からの、特別依頼だ。『ホクの町の鉱山に魔物が溢れている。それを討伐してくれたら、報酬は何でも渡そう』だそうだよ」


混乱している俺に、笑いかけるギルドマスター。


「意外。そんな顔をしているね。君は、危険等級Bから、Aに上がったんだよ。トウの街のシーサーペントを一撃。そんな報告が上がってね。だから、君には、監視が結構ついているんだよ。トウの街の件や、セイの砦の事も報告に上がっているよ」


俺にとっては初耳の話しだった。

だが、それよりも大事な話しがある。

「報酬は、エルフの森に入る証でも良いんだろ?」


少しイライラしながら、俺はギルドマスターをにらむ。


「あれは、国宝だからね。私では返事ができないな」


ギルドマスターは困った顔をするが、突然何もない場所から声が聞こえた。


「手紙があるのなら、渡しましょうか?」


俺がその声がした方を見ると、ナンの村でオーク退治を一緒にしたカラさんが立っていた。


俺たち以外は、誰もいなかったはずだったのだが。

「真剣にお話をされていましたので、私が入って来ても気がついていませんでしたよ?」


ふふっと笑うカラさん。


「ギルドマスターとお話をした後、次のナンの村の巡業について、シュリフ将軍様とお話をしなければならないので、ついでにお渡し致しますよ。普通では、お城には入れませんからね」


笑うカラさんに、俺は恥ずかしくなる。


そりゃそうだ。勇者でもない一般人の俺が、城に自由に入れる訳がなかった。


俺には、カラさんに手紙を託すしか方法はなかった。


「確かに預かりましたわ。明日までには、シュリフ将軍の返答を聞きして、シュン様にお知らせします」


カラさんは、そういうと、深々と頭を下げるのだった。


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