思惑と絶望
私は走っていた。
マスターに、行きましょうと声をかけて、マスターは走り出した。私も必死に走った。
マスターはまた震えていた。多分、悩んでいたのかも知れない。
ただ自分の恨みを晴らすだけの戦いに。
けど、私はちょっと笑う。
私の一言でマスターは走り出した。それがマスターの思いだと思う。 だから私は笑える。
マスターが後悔しないのなら。
本気で走って行ったマスターに追い付く事なんて出来ないけど、私も必死に走る。
マスターを追いかけていた時。
唐突に、周りから音が消えた。
私は立ち止まる。
その私の前に空中から男の人が降りて来た。
「さて、はじめましてかな?君は僕に何をもたらしてくれるのかな?『神に愛された子』」
男の人が優しい口調で、話し掛けて来るけど、私は怖くて動けない。
「今までは殺してから、いただいていたんだけど、この前、無理やり奪い取れるスキルを身につけてね。お嬢さん。良かったね」
私は男の人が何を言っているか分からなかったけど。
ただこれだけは分かる。
この人は、危ない。私とは、何かが全く違う。
マスターにも感じる事もあるけど、この人は。
「さて。いただくね」
ビリッと全身に痛みが走り。
「いやぁぁぁぁ!!!!!」
私は叫ぶ。
皮膚を一枚一枚剥ぎ取られるような激痛なんて言葉も生易しい痛み。
ざらざらと身体中を撫で回される不快感。
絶対に近づいて欲しくない嫌悪感。
「やめてぇぇぇ!!!!!!!!!」
力一杯叫ぶ。
何かがごっそり私から抜け出て行ったのを感じる。
私はその場に倒れる。
「絶対不幸なんてスキルがあるんだね。これが神のスキルか。さすがにこれは取れない見たいだね。それ以外は、『迅速』と、『随時解呪』か。お嬢さんは、あいつから離れるべきじゃなかったね。これはあいつが作ったスキルかな?作成者の側にいないと効果が発揮されない制約付き見たいだね。まあ、ただのゴミスキルかな」
何を言っているのかは分からなかったけど。
私には世界でたった一つのモノを取られたのが分かった。
「返せっ!マスターの私だけの、宝物をっ!」
私は男に向かって走り出す。
「ごめんね。君と遊んでいる時間はないみたいだね」
男が、笑うと。
私は弾き飛ばされていた。
足が変な方向に曲がっている。
「じゃあね。この世界の代弁者さん」
男が再び飛び上がり、消えて行く。
再び街の音が戻って来る。
「マスターの所に行かないと」
私は折れた足を引きずり歩き始める。
ヒールをかけて見るけど、発動しない。
数歩歩いて、私は倒れる。
這ってでもマスターの所へ。
そう思っていると、目の前に細身の男が立った。
私は顔を上げて見つめる。
「忌まわしき者め。何を這いつくばっているのだ。我々の品格まで疑われるではないか。まあ、所詮はハーフか。顔はいいな。
ここに這いつくばっている姿を長々と晒す訳にもいかん。
私たちの森に返してやるから喜べ」
男は一人で話すと、精霊語で何かを唱える。
『エルフの同胞として、傷つき、倒れた彼のモノを安全に隔離せん。我に隠れ家を与えよ!聖域の馬車』
「マ、ス、ター!」
私は、光の手に包まれながら、意識がなくなって行くのを感じていた。
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いない。
俺は街の中を探し回っていた。
俺の半分。人にぶつかり、壁に擦れても、構わず走る。探す。
息が切れる。
もう一セル(2時間)は走っている。
マップ内にも彼女の反応はない。ぽっかりと空いた心はずっと寂しさを訴えて来る。
人が邪魔だ。いっそのこと消してやるか。
そう思った時。
目の前に、ゴスロリ服の少女が立っていた。
俺はこんなところには居ないはずの少女を見て、思わず足を止める。
「探し物かしら?いや、探し人?」
うっすらと笑う顔には、妖艶さが漂う。
何回か、遠くから見た事はある。
だが、話しをするのは初めてだ。
「その顔は、私を知っているのね。はじめまして。『暴緑の』シュン君。私は、『明星の』と呼ばれているわ」
ゴスロリのスカートの裾をつまみ、カーテシーを行う、『明星の』
「何で、4sのあなたが、俺を知っているのかは分かりませんが、今は、忙しいので失礼します」
俺は、彼女との会話より、ミュアを探す事を優先する。
「多分、あなたの想い人は、エルフの里よ」
横を通りすぎる時に、『明星の』彼女が囁く。
俺は、思わず足を止め後ろを振り返るとすでに誰も居ない。
「『聖域の馬車』調べてご覧なさい」
その囁きだけが俺の耳に残っていた。
俺は、データベースですぐに調べる。
『聖域の馬車』
エルフの王族のみ使える転移魔法。
傷ついたエルフ族や、王族をエルフの里にあるマザーツリーの下に転移する。転移できるのは、エルフ族のみ。
俺は、地面を殴る。
力一杯へこんだ地面を無視し、なぜ彼女を置いて走ったのか後悔していた。
地面が湿っているのは、雨のせいでは無いはず。
転移魔法。
そんなモノがあることすら知らなかった。
自分のせいだ。
自分が知ろうとしなかったから。
俺はもう一度、地面を殴ると立ち上がる。
エルフの里。マップでは、セイの砦から、かなり南になっている。
行くしかない。
俺は、拳を握りしめて歩き出すのだった。
―――――――――――――――
「気まぐれかい?」
トウの街の外れに、学生服を着た少年と、ゴスロリ服の少女が立っていた。
「必死だったから。助けてあげたくなったのよ」
笑う少女の腰を引き寄せる青年。
青年の足元では、クアルがじゃれていた。
「しかし、あのシュンという奴は本当に興味深い。スキル強奪が全てミスとはね」
「あら。神スキルの嵐なのかしらね?」
「本当に興味深いよ。何を隠しているんだろうね。彼は」
「けど」
青年は少女の口唇を奪う。
「彼が、世界を滅ぼしてくれても、全然僕は構わないよ。僕の願いは一つだけだ」
青年の言葉に、少女はそっと青年に寄り添う。
海風が、激しく吹いた時。
二人の姿はその場から消えるように無くなっていた。
クアルは突然居なくなった事を悲しむように、切なくその場で鳴いていたのだった。
前回の前書きで書いたのですが、本当に忙しく更新が週一になってしまいそうです。
みなさんに飽きられ無いように、がんばって書きますので、石とか投げないで、お待ちいただけたらと思います。(≧(エ)≦ )
あと、1万アクセス超えましたっ!本当にありがとうございますっ!




