幕間 暗躍する者 踊る者
「東に行ったな」
「仕掛けた癖に。何をやる気なの?」
学生服を来た青年が、ゴスロリ服の少女と、王都の上空にいた。
近くまで来ていた、グリフォンが学生服の青年の手の一振で、真っ二つになる。
「俺の願いのためだよ。あいつにも糧になってもらわないとな」
「ろくな死にかたしないわよ?」
「もう、死んでいるようなものだ。世界が私をこうさせたのだからな」
『明星の』少女は肩をすくめる。
「まあ、いいわ。私はあなたについて行くだけだから。たとえ、地獄の底であってもね」
「すまないな」
苦笑いをする青年の首に手を回し、笑う。
「もう一人のお坊ちゃんはどうなの?」
「スキルは全く使えん。未来視でもないと使えんスキルだ」
ため息を吐く『皇の』青年。
『明星の』少女は笑いながらささやく。
「じゃあ、退場してもらう?」
「まだ、利用価値はある。もう少しかき回してやりたいからな。ちっぽけな人間が行う、ささやかな、世界への抵抗だ」
二人は、ただ足元の街で動く人を眺め続けていた。
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「難しいかい?」
「ええ。ロアさん。刀に魔力を通そうとすると、どうしても折れてしまいます」
「シュン君は、簡単に作ったみたいだけど、本当にあの人は規格外だよね」
「学生大会では勝ったらしいじゃないですか?」
「あの頃のシュン君は、まだ力がなかったからね。今だと絶対勝てないよ」
ナンの宿の一室で、ロアは女性と話していた。
目の前には折れた刀が置いてある。
この村に来て、オーク退治をしていた冒険者が持っていた剣が凄まじく高性能である事に気がつき、似た武器を作ろうとしていたのだが、全く似た物すらできなかった。
「強度の問題なのかな?」
ロアが折れた剣を見ながら呟くと。
「ロアっ!また女と話しているのっ!」
突然扉が開き、入って来たのは、白い髪のまだ幼さの残る女性だった。
「レイア、誤解だよっ!」
慌てるロア。
ずんずんと近付き、ロアのすぐ前で、レイアはロアにかみつく。
「だいたい、村の女の子とすぐ仲良くなるんだからっ!兵士も何人か落としているでしょっ!」
「いや、ただ話していただけだから。レイアは僕のお嫁さんでしょ?」
「だから、あなたを監視しないといけないでしょっ!」
レイアが怒っていると、金髪のふわふわした髪型の女性が入って来る。右目には、眼帯をしている。
「あ、ライナっ!聞いてよっ!ロアがねっ!」
「レイア、大丈夫よっ。ロアさんは、私達を裏切ったりしないから。ね?ロアさん?」
「も、もちろんだよ」
汗を流しながら返答するロア。
ライナもレイアもこの一年で、大人っぽくなっていた。
二人とも、誰もが振り向く美女である。
二人に問い詰められ、冷や汗を流していた時、激しく木を叩く音が響いた。
警戒の合図だ。
全員で外に出ると、棍棒持ちのオークが2匹も村の近くまで来ているのが見えた。
「陣形っ!」
ロアは叫び、魔力ビットを打ち出す。
魔力ビットの魔法でオークを足止めしている間に、囲うように陣形を整える兵士。
ロアは、先陣をきり、騎士長仕込みの剣技でオークをめった切りにするが、オークの全く力は衰えず、その一振で数人が吹き飛ばされる。
怯まずに一斉に兵士が切りつけるも、最初のロアがつけた傷から次々と治って行く。
「タフすぎだろっ!」
「分かりきった事言うなっ!切れ斬れっ!」
兵士たちが騒ぐ。
再びオークが棍棒を振り上げた時。
「水よっ!全てを凍てつかせ、彼の者を封じよっ!」
可愛い声と共に、オークに氷のつぶてが襲いかかる。
棍棒が振り下ろせず、棍棒が空中で音を発てて割れる。
「リバースっ!」
時間差無しで、二発目が飛んで行く。
オークの体を凍りつかせた瞬間。
「だぁっ!」
白い髪に拳に宿した赤い火を照り返しながら、レイアはオークの懐に飛び込んでいた。炎の拳をオークの顔に叩き込む。
「隊長の奥方達だっ!行けるぞっ!」
傷が治り出したオークの首を斬るロア。
魔力ビットの魔法がもう一度オークの足止めを行い。
「はあぁっ!」
全力の炎を首の傷に叩き込むレイア。
ブスブスと煙を上げて、オークは倒れる。
勝ちどきを上げる兵士をよそに、ロア達は、もう一体に目標を定め走り出すのだった。
オークの砦に近づく事はまだまだ無理だった。
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「王よ。ナンの村に増援を送った方が良いのではないのでしょうか?」
「無理だ。北の炭鉱の話しは知っておろう。ナンのオークをたとえ討伐できなくとも、王都を失うわけにはいかんのだ。それより、先にお前の婿どのにもう少し頑張ってもらうように、言わねばなるまい?周辺の調査はどうなっている?」
「ホクの炭鉱は、まだ溢れてはいませんが、魔物の数は増えていると思われます。蒼碧騎士団が行っていますが全く奥まで入れていません。セイの砦は落ち着いていますが、出産にて、兵士の2%が動けません。増援要請も出ています」
「と言う事だ。シュリフ。そちの虎の子である白銀騎士団も出してもらう事態になりそうなのだ。今は、王都警護に全力を注ぎ、周りの状況を注視する。以上だ」
王達が退出すると、一人残ったシュリフは壁を叩く。
「ナンの村が落ちたら、どうにもならなくなることすら分からんのかっ!」
シュリフの怒りは、静かに燃えていた。




