海の悪魔
津波など、災害記述があります。
苦手な方は注意お願いします。
一応区切りを入れておきますので、苦手な方はそこまで飛ばしてください
ただひたすらに、来た道を走る。
クアルは俺の顔を見ると、先に走り出した。
木の間を蹴り通りながら、クアルは、走りやすい道を見つけてくれる。
川から溢れた水は道を全て覆い隠しているが、クアルが道を教えてくれるため、なんとか走れる。
「間違いない。頼む。頼む」
ダイクはただ呟きながら走る。
俺もなんとなく分かる。
これは津波だ。
海の側に生きる上で、地震より怖い自然災害。
ぬかるみ、足がおぼつかないが、必死に走る。
ダイクは、声も出さなくなっていた。
かなり早いペースで走っているのに、ミュアがついて来れるのは、ステータスのお陰なのかも知れない。
そして、必死に走って林を抜けた高台から見えた景色は、一面水だった。
船も、家も何もなかった。
呆然とたたずんでいると、叫び声が聞こえて来た。
俺たちが出た小高い丘に村から来れる道の真ん中で、アヤさんが泣いていた。
いや、叫んでいた。
男の子がアヤさんを抱きしめている。
近くには、他の村人も数人いたが、みんな、呆然と海を、水にのまれた村を見ていた。
ダイクは、慌ててアヤさんの方へ走って行き、しばらく抱きしめた後、アヤさんに何かを告げられ、突然叫ぶ。
「馬鹿やろうっ!俺たちが何をしたんだよっ!何でだよっ!勝手に連れて来やがった癖に!馬鹿やろうっがっ!」
泣き崩れていくダイク。
よく見るとダイクの家族が一人いない。
女の子は?ダイクの長女は?
マップで調べても反応はない。
海に呑まれた。
俺が絶望の中、そう思った時。突然、海から巨大な蛇のような竜が顔を出し、空中に跳ね再び海に消えて行った。
――――――――――――――――――――――
「海の王だ。あいつが原因だ」
巨大な海竜を見て、生き延びた村の一人が呟く。
それを聞いた瞬間。俺は海に飛びこんでいた。
自分の中で沸き起こる絶望に。怒りに突き動かされるように。
魔力ビットが、俺の周りに空気の幕を作り、簡易の酸素マスクを作る。
泥だらけで視界が悪い。
空気をかぶったまま、辺りを見回す。
そんな中、泥水の中、竜のしっぽが見えた。
「逃がすかよっ!」
俺はそう言いながら魔法を放つ。
しかし、水のなかで、光はまっすぐ飛ばずに逸れた。
風魔法も竜に到達する前に消滅する。
「くそっ!やりにくいっ!」
思わず愚痴が出る。
泥水の最悪の視界の中、いきなり背中に激しい衝撃を受けた。
水に流され、竜を見失う。
魔力ビットが水流に流され、消滅するのが分かる。
木材にも当たったのか、激しい痛みを耐えながら、体を整える。
ステータスのお陰か、痛みはあるが、HPは減っていない。
しかし、竜は完全に見失ってしまった。
しばらく水の中を探すが竜は見当たらない。
マップの上ではマーカはあるのだが、凄まじい速さで海の沖へ逃げて行く所だった。
どうやっても追いかけれる限界の先へ逃げるマーカーを見て、俺はとりあえず、水魔法で浮上しミュア達がいる高台まで戻る。
「マスター?」
心配そうに俺の顔を覗き込むミュア。
俺は首を振るだけしかできなかった。
ミュアもうつむく。
大地に拳を叩きつけるダイク。
アヤさんもダイクにすがり付いている。
俺は、そんな二人を見ながら、何もできない自分がなさけなかった。
ただ。
あの竜だけは仕留める。と心に誓う。
竜を倒した所で、ダイク達の悲しみは癒えないし、帰って来ない人はいっぱいいる。
自己満足。
そう言われても仕方ない。
「でも、絶対許さない」
俺は小さく拳を握り自分に誓う。
―――――――――――――――
そのまま、夜を迎え朝が来る。
水が引いた後、全ての家は流され無くなっていた。
無言で、瓦礫を片付けたダイクは自分の家があった場所に十字架を突き刺す。
「助けられなくて、済まない」
泣きつかれて、表情が無くなった顔で十字架を見るダイク。
アヤさんも、十字架の前にただ座り込む。
すると。男の子がダイクと、十字架を見ながら突然叫ぶ。
「姉ちゃんっ!俺、強くなるよっ!姉ちゃんが安心できるようにっ!生まれて来る赤ちゃんも守って行くからっ!」
ダイクとアヤさんがびっくりしていると。
「だって、シュン兄ちゃんみたいに、飛び込めたら、助けれたかも知れないからっ!今度は、みんな、みんな俺が守るからっ!」
その言葉に。
ダイクは笑う。アヤさんも笑って、男の子の顔をはさむ。
「そうだったな。初めからこの世界は最悪だったんだよ。だから、守ると。家族は。お前は守ると。誓ったんだったな。全く息子に先に言われちまったな」
ダイクはアヤさんを見ながら、顔を引き締める。
「呆けている場合じゃないな。リカに笑われちまう」
「ですね。あの子のためにも。私達は精一杯生きないと」
手をつないで立っている二人を見ていると、ミュアが久しぶりにくっついて来た。
「マスター。マスターは私が守ります」
ミュアが抱きついて来る。
俺は、ミュアをしっかりと抱き寄せる。
「ミュアは絶対守るよ。何があっても」
俺は呟くように、しかしはっきりと口にする。
ミュアの温もりを感じながら、俺は拳を握り締める。
強くなりたい。
出会った人を、出会ったささやかな幸せを守れるくらいに。
何十億の敵の前に、目の前の人を守りきれる強さを。
自分の中で決意を新たにしていると、ダイクが俺を見て苦笑いする。
「済まない、ゴブリン退治もしてもらったんだが、全部流れちまった。報酬なんだが、、、」
俺には、そんなダイクを見て、思わず笑うしかできなかった。
pv(アクセス数)9000 超えましたっ!
拙い文ですが、本当に、本当に読んでくださり、ありがとうございますっ。
みなさんに見ていだだけるだけで、幸せます。
頑張るっ




