遭遇
「あ~頭が痛い」
顔を出した、ダイクの子ども達と、テンションが上がりまくったダイクにつられて、一緒に騒いでしまった。
どれくらい飲んだのか覚えていないけど、俺の空間収納に入れていた、アルコール高めの酒が2樽消えているから、そういう事なのだろう。
一緒にダイクのリビングで寝てしまったらしい。
子ども達も近くで寝ている。
「あら、おはようございます」
ダイクの奥さんであるアヤさんはもう起きて、簡単な海鮮スープを作ってくれていた。
笑顔でそのスープを出してくれる。
「マスター、おはようございます」
ミュアも笑顔で声をかけてくれる。
「ミュアさんて、若いのに、料理上手ですね。いっぱい手伝ってもらったんですよ」
「ミュア、全然できなかった。いっぱい教えてもらった」
楽しそうに二人で笑う姿を見ていると、なんとなくほんわかした気持ちになる。
スープを飲んで、ゆっくりしていると、ダイクが起きて来た。
「あ~頭痛い。飲みすぎたか。アヤ、その辺の水くれ」
「飲み過ぎです。海水でも飲んでなさい」
「まあ、そう言うなよ。頼むからさ~」
「だったら、水を取って来てくださいね。あ、な、た」
夫婦で仲良く、水を飲んでいるとダイクが俺の方を向いた。
「ああ、そういえば、滝壺の近くに俺の小屋があるから、ここにいる間はそこで寝たらいい。こっからなら歩いて一時間、いや、半コルくらいだから、まあ、大丈夫だろ?」
「そうね。この村の中で寝るよりは、よっぽど安全ね。ミュアさんのためにも」
二人にそう言われて、俺たちは、ダイクの二日酔いがおさまるのを待ってから、川を上る事になったのだった。
「さすがに、1コルも歩くと、休憩場所がほしくてな。とりあえず、建てた掘っ立て小屋なんだが、まあ、寝たりするには、何の問題もないからな」
ダイクは、そんな事を言いながら、先導してくれる。
村から、少し離れたところに川があるのだが、その先に滝壺があるらしく、そこなら水も取り放題だから、樽に入れて持って帰るとの事だった。
「いや、やっぱりマイナスイオンとか、大事じゃないか」
ダイクが必死に話しているが、なんとなくここに小屋を建てた理由の一つに思い当たる。
「アヤさんと喧嘩した時の避難所とかか?」
「そうそう。ん?違うからなっ!アヤとはラブラブだからなっ」
まあ、子どももいるし、そうなんだろうけど。
ダイクは、ひっきりなしに話し続けながら、歩き続ける。
そして、滝壺に着いた時、滝壺の周りで遊んでいる子供たちを見つけた。
魚釣りをしたり、泳いで遊んでいる。
いや、その子どもの一人がこっちを向いた時。
「ギャッギャッギッ!」
緑色の頭が叫ぶ。
「ゴブリンだっ!」
ダイクの叫び声と一緒に、3体のゴブリンがこっちに走って来る。
今になって、魔力ビットの展開を忘れていた事に気がつく。
俺もまだ酔いが覚めきっていないみたいだ。
魔力ビットを展開しながら、槍斧を取り出す。
俺の横を矢が走る。
ミュアが、俺の空間収納から素早く弓を取り出し、撃ち抜いたのだ。
[魂の盟約] このお陰で、ミュアは俺が展開しさえすれば勝手に空間収納を使う事ができるようになっている。
魔力もミュアと共有になっているため、[譲渡]を行うと二人とも全回復する超便利スキルと化していた。
あっさりと、ミュアの矢は、一体のゴブリンの頭を爆散させる。
俺も槍斧で、ゴブリンの一体を真っ二つにする。
ダイクは、ゴブリンの最後の一体を殴りとばしていた。
俺の魔力ビットがあっさりととどめをさす。
「グギャッ」
嫌な声を上げて息絶えるゴブリン。
俺は、マップを確認して目を疑った。
「まだ来るぞっ!ダイク、これを使えっ!」
マップ上では、10体程度の敵がこちらに近づいて来るのが見える。
ダイクに、銛のような槍を渡す。
槍斧を作る時にお試しで作ったもので、かなり頑丈な作りになっている。
「すまないっ!」
ダイクが叫ぶようにお礼を言うが気にせずに俺は追加できたゴブリンを切り裂く。
ミュアも、弓の端から出した風の爪でゴブリンを切り裂く。
あの弓は、近接戦闘も出来るからな。
ノーマルゴブリンくらいなら、相手にならない。
ふと、殺気を感じ、俺の魔法とミュアの矢が木々の間に吸い込まれ、
「ギャッ!」
声と共に、何かが落ちる音がした。
ゴブリンアーチャーまで来ていたらしい。
問題なく、襲って来たゴブリンを5匹目まで切り裂いた時、ゴブリン達がいきなり騒ぎだした。
ギャッギャッと言いながら、森の奥に消えて行く。
「なんだぁ?」
ダイクが呟いた時。
川が逆流してきた。
一気に水が上がり、滝にぶつかる。
水が川から溢れ、すぐ川に戻る。
「これは」
「水の精霊が怒ってます。何かが起きて、海の水がここまで上がって来てます」
ミュアの返答に、ダイクが叫ぶ。
「まさか、津波かっ!村は?大丈夫かっ?!」
俺はあわてて、マップを確認する。
緑の丸が無い。
いや、わずかにあるが、林の方にだけだった。
村のあたりには、一切のマーカが無くなっている。
「ヤバいかも知れない」
俺が呟くと、ダイクは、無言ですぐに走り出した。
来た道を。
俺もすぐに後を追う。
ミュアもすぐに走り出す。
ただひたすらに、村の人達が生きていることを願いながら。




