暗躍する者
「やれやれ。まさか、[希薄の]が仕留め損ねるとはね。なかなか面白い人物のようだ」
ベッドの中で、一人の男が呟く。
「あら。あなたみたいに、頂点の頂点にいても、やっぱり気になるの?あいつの事」
ベッドの中で、もぞもぞ動きながら、男に体をすり付ける女性。
「当たり前だ。とりあえず、接触させたが、かなり変わったスキル持ちだぞ。あいつは」
「私たちよりも?」
「可能性は高いな。あいつはスキル確認ができなくてな。スキル隠しみたいなスキルでも持っているんだろうが、どっちにしても普通の転生者では、[希薄の]刃からは逃げられないからな」
「ずいぶん買ってるのね。うらやましい」
「なんだ?妬いているのか?お前は、俺の物だろう?お前の光は俺の行く先を照らしてくれればいい」
キスをする二人。
「あいつのスキルを取れれば、さらに強くなれる。北の鉱山で、ストーンゴーレムが大量に出てきている。何かが起こり始める前兆だろう。だが知った事じゃない。スキルをコンプリートしてでも、何をしてでも俺は帰ってやる」
力強く、女性を抱きしめる男性。
「置いて行かないでね。[皇の]」
「当たり前だ。何度も言わすな。お前は俺の側で光り輝けばいい」
「嬉しい」
「お前のスキルも、もらえれば良かったんだがな」
男は心の中で、呟きながら、[明星の]女性を抱きしめるのだった。
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「シュリフ。南のオーク退治、時間がかかりすぎではないのか?」
マントを地につけ、シュリフは白髪を下げる。
「はっ。思っていたより、オークの数が多く、難航しているようです」
現地で、魔剣使いに会い、ロア殿がその剣を作ろうとして、あまり討伐が進んでいないのが本当のところなのだが、口が避けても言えない。
「西の報告では、南の数倍の戦力をあっさり退けたようなのにな」
「それは、兵士の数が圧倒的に違いますれば」
「まあ、良い。とりあえずは、南の平定を急ぐようにしろ。いいなシュリフ」
「はっ!」
一言だけ発しその場を立ち去る老騎士。
老騎士が立ち去った後、ふわりとゴスロリ服の女性が上から降りて来る。
そう、3階はありそうな高さから。
「[明星の]か。何の用だ?」
王が女性を上から下まで見る。
「[皇の]から、報告ですわ。北の鉱山で不穏な動きあり。西は大丈夫なのかしら?人手は回せないのでしょう?」
「いちいちお前たちは感に触る言い方をしおる。確かに、人手が足りん。今から南の平定を急がせるところだ」
「オーク退治は、なかなか骨よ。諦めて、別部隊を動かす事をすすめるわよ」
ふわりとスカートを揺らしながら、笑う女性。
にじみ出る色気に、王は目が離せなくなる。
「後ね、いやらしい目で見てくる男には、気遣いをしない主義なの。私は、[皇の]モノ。あなたみたいな、お山の大将がどうにかできる女じゃないのよ。忘れないでね」
女性は、ふわりと回ると、その場から飛び消える。
そして、王は女性の色気にあてられ、呆然とその場にしばらく立ちすくむのだった。
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「ロアめ。私の顔に泥を塗る気か」
シュリフ将軍は、怒りを抑える事なく、廊下を歩いていた。
王は、オーク退治を甘く見ている。
はっきり言って、初動を間違ったり、倒しきれなければ、以前の村のように、完全に壊滅してしまいかねない。
やるなら、徹底的に。
オーク退治の原則であった。
「だいたい、あの化け物が西にいたのだから、平定が早かったのは当たり前だ」
息子に出した手紙以上に砦から帰って来た手紙に、思わず震えてしまった自分を思い出す。
まさかの千匹切り。
4s以外成し遂げていないまさかの偉業。
しかし、それを聞いた時、シュリフは危機感を強く感じた。
管理できない者が凄まじい強さを誇る。
それは、シュリフの中で、危険度をAに上げていいとささやく事件だった。
「王は、全体が見えていない。このままでは国がつぶれるかもしれんぞ」
シュリフが歩いていると男に声をかけられる。
「[皇]どのか。王の悪口は、犯罪だぞ?」
「だが、事実だ。王は名王だとは思うが、他人の言う事は聞かない。暴走すれば、この国はどこまでも崩れるぞ」
「何が言いたい」
「王の代わりに国を動かせる人間がいたら、代わってもいいのではないかと思っただけの事だ。シュリフ殿」
「国家畏敬罪で叩き斬られたいのか?」
シュリフのその言葉に肩をすくめると、男は現れた時と同じように消えるのだった。
「国を動かす。か。確かに憧れる事ではあるが、私にできるのか?」
シュリフはぶつぶつと独り言をいいながら部屋に戻る。
怒りは治まっていた。
自分が王となる夢を考えながら。




