帰還と正論
俺は、クアルに乗り、王都に帰っていた。
本当にクアルは速い。
歩いて、一ヶ月以上かかった道のりが、一週間程度で帰る事が出来た。
バル隊長にとって、リンダは本当に砦に帰って来て欲しく無い奴だったのだろう。
荷物を持って歩いて来いなど、嫌がらせ以外の何者でもない。
まあ、最後は仲良さそうに過ごしていたから、大丈夫だとは思うが。
帰る途中ですれ違うように移動する騎士達の部隊もマップで確認できた。
多分、西の砦に行く部隊なのだろう。
死んでしまった騎士達を思い少し険しい顔になる。
ミュアが軽く俺の腕を握る。
そうだよな。俺にも今は心配してくれる人がいるんだ。
俺は、自分の頭を振るとミュアの頭を撫でて心配ないと告げる。
ミュアは、笑顔で返してくれる。
王都に入り、とりあえず依頼結果の報告のためにギルドの扉を開ける。
すると。
「シュン君!お帰りなさいっ!心配してたのよっ!」
ギルドのお姉さんが、俺の顔を見るなり大声で叫ぶ。
ミュアがあわてて俺にしがみついていた。
俺がぽかんとしていると、いきなり酒臭い男にヘッドロックをかけられた。
「よぉ。荒稼ぎ人。おごってくれや」
「ダルワン、いい年なんだから、酒やめたらどうだ?」
「けっ!これは、俺の血なんだよっ」
「ドワーフみたいな事言うなよなっ!」
そのまま、ボソッとダルワンは呟く。
「セイの村が魔物のせいで壊滅したらしい。今、その話しで持ちきりだ。お前に聞いて来る奴は多いだろうが、余計な事喋るなよ。お前、危険等級Bに上がってるらしいぞ」
なんで、ダルワンがそんな機密を知っているのか、本当に問いただしたくなるが、聞くと触れてはいけない闇を見てしまう気がする。
俺は、小さくお礼をいうと、ダルワンの懐に金貨を入れてやる。
「けっ。新人に恵んでもらうなんざ、俺も落ちたもんだ」
悪態をつきながら、ダルワンは手を振ってギルドから出て行く。
「相変わらずの、飲んだくれだよな」
周りの冒険者も笑っていた。
「シュン君、何があったのかギルドマスターが聞きたいだって。ついて来てもらっていいかな?」
俺は、とりあえずうなずくしかなかった。
「で、砦で、大進攻があったと」
ギルドマスターは、かなり体格のいいおっさんだったが、椅子が小さいのか、小さく肩を丸めて座っている姿は可愛かった。
とりあえず、ギルドマスターには、リンダの依頼から砦の大進攻まで説明する。
「それで、この報酬額か。納得行ったよ。帰って来なかった事も含めてね」
ギルドマスターは、ため息を一つつく。
「ギルドマスター、一つ聞きたいのですが?」
「なんだね?」
「セイの村が魔物で壊滅と聞きました。しかし、俺が行った時は魔物の襲撃はありましたが、まだ村はありました」
俺が真剣に話す顔を見て、ギルドマスターは呟くように口を開く。
「奪った者は、いつか奪われるのだよ。それがいかなる理由であってもね。奪う者の拠点の壊滅は必須だよ」
その言葉に、俺は一瞬で理解してしまった。
こいつら、やりやがった!
あの騎士の部隊はセイの村の制圧部隊だったんだ。
怒りに席を力一杯立つ俺に。
「盗賊一家に優しくできるほど世界は甘くないよ。盗賊は、その場で、討伐か奴隷落ちが通常だ」
穏やかに話すギルドマスター。
俺の震える手の袖をミュアがしっかりと握っていた。
どこかで分かっている。
盗賊に殺された商人の馬車なんて何回も見ている。
許される事じゃあない。
けど。あの子がいるんだ。
無邪気に盗賊をやっているとは知らずに、父親の帰りを待っていたあの子が。
俺はどうしようもない感情を抱えながら再び座り込む。
「今回は、軍が秘密裏に処理している。国の管理下の村が、村ぐるみで盗賊行為なんて、恥だからね。君も、軍に追われたくなかったら、口を閉じるのが最善だよ」
「そして、これが報酬だ」
大金貨一枚と金貨10枚がトレーに乗り出てくる。
その後で、白金貨2枚が振り込まれるらしい。
武器代として。
ギルドマスターからは、そう告げられた。
どうせ口止めだろ。
俺は、イライラしたままお金をつかみ、ギルドマスターの部屋を出る。
「相変わらず、可愛いですわね。けど、何かしでかすようなら、消しますからそのつもりで。あまり情をかけると何かあった時、つらくなりますわよ。ギルドマスター」
カーテンの端、人など隠れるスペースもないところに、女性が立っていた。
「王都が誇る、暗部がつきまとうとはね。シュン君もすごくなったものだ」
ギルドマスターは、ため息を吐く。
「ギルドマスターも、彼と二人で密会などあまりなさらないように。これは、親告ですわ」
「ああ、忠告としてありがたく受け取ろう」
ギルドマスターが言い終わる前に、女性は姿を消す。
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「あ、お帰りなさい」
ギルドの受付ルームに戻ると、お姉さんが笑顔で迎えてくれる。
「何の話しか聞きたいけど、聞いたらダメな話しだった?」
「ああ。ダメな話だ」
「あら。残念。それはそうと、ちょっと気になる依頼があるの」
さすが受け付けのプロと言ったところかな。聞いたら危ないと感じるとすぐに引き下がってくれる。
「気になる依頼?」
「そう。ただの調査依頼なんだけど、前に、シュン君に行ってもらった酪農地があったでしょ?あそこからの納品も、手紙の返事もさらには、配達員まで帰らないらしいの。それで、調査依頼なんだけど」
あの人の良い親子が、そんな事をするとは思えない。
「分かった、調べて来てみる」
「ありがとうね。セイの村の件もあって急いで調べて欲しいみたいでね。依頼料も安いから、誰も受けてくれないのよ」
確かに、依頼の紙には、銀貨3枚となっていた。
3千円で命まで掛けて調べに行く気にはならないよな。
俺は、苦笑いしながら、依頼受領のサインをするのだった。




