幕間 ロア 2
僕は、王の間に呼び出されていた。
荘厳な謁見室の中で、王は鮮やかな赤のマントを身にまとい、王の玉座に座っている。
金色の髪が本当に神様のように光って見える。
「わざわざ来てもらってすまないな。ロアよ」
王が穏やかに口を開く。
ライナと婚約してから、シュリフ家の人間になった。自分も貴族の末端の生まれではあったけど、遥か昔から騎士団長を務めるシュリフ家とは家の格が違う。
侯爵と、騎士伯くらい違う。
そして、シュリフ家に入ると知ると、親は両手を上げて喜んだ。
そして今。
何故か、王との直接謁見を行っていた。
「いえ、身に余る光栄にございます」
頭を下げたまま、答える僕。
「次の、騎士団の顔となる婿を見たかったのが本音ではあるのだがな、ちと困った事が起きた。余のお願いを聞いてくれぬか?」
「何なりと」
「南に、ナンと言う村があるのだが、前にオークの群れが発生した。その時は、冒険者が退治してくれたのだがな。最近、再び群れになっていると報告が上がっておる。オークには、今までもいくつもの村が焼かれていてな。置いておける状況ではない。そこでだ、婿どのに出陣してナンの警護と、討伐を行ってくれぬか?」
「喜んで」
「そうか。行ってくれるか!さすが、シュリフ殿の目にかなった若者よ。部隊の使用も許す。ぜひ、ナンを救ってくれっ!」
僕は、国王直々のお願いに、頭を下げて従う事になった。
このフラグはさすがに折れないし、強制フラグみたいな気もする。
結局、蒼碧騎士団の一部隊を連れて、街中をパレードしながら、出陣する事になってしまった。
ロックバードに一緒に乗ったライナと、横に別のロックバードに乗ったレイアを連れて。
金ぴか装備でなかった事だけが、僕の中で救いだった。
「ロア様、もう少し派手な鎧でも良かったのでは無いですかな?」
商人のバングが話しかけて来る。
奴隷から、ナイフまで。
取り扱わない商品は無いと言う大商人だ。
元々、西の砦の物資の補給を引き受けていたらしいのだが、今回から僕の部隊の専属商人に任命されたらしい。
凄腕なのだろう。あまり作物が育たなかった中、あっさりと今回の遠征の物資を揃えて見せて、騎士団長の父上様を驚かせていた。
「大丈夫だよ。僕は、お飾りの御輿に成る気はないからね」
僕はバングに答えると、彼は笑っていた。
「初の大々的な出陣ですからな。私も舞い上がっておるようです。本当にロア様に会えて良かった」
気さくに話すバング。
以外と彼は戦闘もこなせるという器用さであった。
「ロア様の晴れ舞台ですから」
ライナが俺の前で笑う。
婚約して、まあシュン君には悪いけど、彼女達とは夫婦のようにさせてもらっている。
婚前でも、結ばれて良いという風潮なのは、多分魔物により死ぬ確率が高過ぎるからなのだろうと思う。
むしろ、早く子供をと言った圧力すらある。
僕は、隻眼の聖女ライナと、白火のレイアの二人の妻を連れて、王都を出発したのだった。
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「行きましたか」
「うむ。新しい英雄の出立だ。いいパレードであった」
王と、シュリフ騎士団長が城のバルコニーからパレードを見学した後、二人は笑っていた。
「王よ。セイの村は、あれでよろしいのですか?」
「良い。いくら不作とは言え、盗賊や強奪まで行う村の面倒など見る気もせぬ。バングを解任したため、半年で無くなるであろうよ。後は、そちの愚息がまとめる西の砦に、城塞都市を形成すればよかろう」
「王のご厚意に感謝いたします。愚息より、未曾有の大進攻を食い止めたのは良いが、にぎやかになりそうだと手紙が来まして、私も頭を悩ませておりました」
「そちは優秀な子供ばかりで、家宝者よの。城塞都市作成の予算は、すでに打ち立てておる。物資移送の邪魔になるなら、セイの村は盗賊の村として搾取して構わぬ。取り急ぎ取りかかるがよかろう。すぐ、そちは孫に囲まれてしまうな」
「まだまだ、前線に出れますゆえに、爺とは呼ばせる気はありませぬ」
「ははは。気ばかり若いと、新しい世代に嫌われてしまうぞ」
気さくに笑いながら、王は自室に戻って行きシュリフ騎士団長もその後を追いかけるのだった。
その後、セイの村に討伐命令が下り、大きな話題になる事無く、こっそりとセイの村は地図から姿を消すのだった。
魔物による壊滅として文献には残っている。しかし、西の砦で、大量の奴隷が動員された時期でもあった。
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ナンのオーク退治は難航し、3年近くかかる事になる。
英雄騎士団記録には、英雄ロアの苦悩と、その妻の献身的な支えがあった事が記載されている。




