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活劇と現実

「クゥ~」

砦から出てしばらく歩くと、クアルが鳴き、一気に大きくなる。


「乗せて行ってくれるのか」

俺は鳴き甘えるクアルの頭を撫でてからクアルに乗る。ミュアを自分の前に乗せると、クアルは一つ鳴いてから走り出した。


速い。ロックバードよりも速い気がする。

乗った事はないけど。

 

しかも魔物だけあり、体力は無限にあるのではないかと思うくらい走り続ける。


ミュアと風を感じながら、ふと砦での戦いを思い出していた。 

そして、自分に対する怒りと、力不足を噛み締める。

「強くなりたいな」 

小さく呟いた俺の言葉に、ミュアは首をかしげていた。


俺はそんなミュアの頭を撫でながら、クアルの疾走を楽しむ。


しばらく走ったところで、ミュアのお腹が、小さく鳴った。

俺は笑いながらクアルに止まるように言うと、その場で、夜営の準備を始める。


リンダがいたから、食べれずに腐りそうになっていた、ワイバーンの肉をこの機会に一気に調理してしまう。

熟成肉になりかけているので、しっかり火を通さないと危ない。


まあ、状態異常回復ポーションはまだまだあるし、回復魔法もあるから食べても死にはしないのだが。


大量に作った焼き肉を皆で食べ、その場で夜を明かす事にする。

疲れていたのかミュアは早々と寝ていた。

そんなミュアの寝顔を見ながら、ゆっくりと槍を振るう。

型は独学だが、ゆっくり槍を動かしながら絶対に留まらない動き方を確認して行く。


俺のスタミナ不足で、()()()しまった騎士を思い、無駄な動きを排除しいつまでもいつまでも動けるように。


魔力ビットを敵に見立て、10体の無作為に動く球を叩く作業を続ける。

明かりの魔法が自分に当たると最初から。


数時間動き続け、汗だくになるのだった。


――――――――――――――――――


「おはようございます」


ミュアが、俺の腕の中でもぞもぞと起き出す。


確か、寝る前は離れていた気がしたのだが、気がつけば簡易毛布ごと自分の横に来ていた。

「おはよう」 

俺も目一杯伸びをして、簡易毛布を空間収納に入れ、マップを確認する。


敵がいない事を確認してから、周りに張っていた絶対結界を解除する。


最近、意識しなくても寝る前に魔力ビットが周りを囲ってくれるため、見張りのいらない夜営ができる。


ちょっとしたズルだが、便利過ぎて交代で仮眠を取る夜営はもうできそうになかった。


再びクアルに乗り、数時間走ると、セイの村が見えて来た。

しかし。


何かおかしい。村に凄まじい違和感がある。


「マスター、おかしいです。精霊が沈みこんでます。まるで死人の街のようです」


ミュアが呟やく。その言葉に俺はうなずくと、村の様子を見るためにクアルから降り、村に行く事にした。


「おにいちゃ、おとさ、帰って来た?」 

村の入口で、あの女の子が座っていた。

「ンッ!」


俺はその子の顔を見て、言葉を失う。

目が死んでいた。

身体も、前に見た時より明らかに痩せている。


見れば、村を囲っている柵や、建物もいくつか壊れていた。


大人達も下を向いて、座り込んでいる人ばかりだった。


「おとさ、まだ帰れないのかなぁ」

女の子が、空中を見ながら呟く。


「帰って来たら、いっぱい遊んでもらうんだぁ」

女の子の首にロケットが2つ、かかっているのが見えた。

「こんなところにいたの?おうちに帰るわよ」


クスクスと笑う女の子に、母親らしい女の人が声をかける。


女の子は返事もせず、母親と家に帰って行く。 


「あの、すみません何かあったのですか?少し前に来た時よりも、その、その雰囲気があまりにも違いすぎるもので」


女の子を連れに来た母親の背中に思わず声をかける。

すると。

「あら、旅のお方ですか?お話なら、村長に聞いてください。私達は、お話する気分にはなりません。家は、あそこですから」


少し、怒った顔で一つの家を指さし、帰って行った。


「マスター、あの子、心が壊れてます。昔の私みたいに、何もかも諦めています」


ミュアが暗い顔になっていたので、とりあえず頭に手を添えてやる。


教えてもらった村長の家に行くと、家の前で一人の白髪の男性が座っていた。


「あのすみません」


俺が声をかけると、男性は顔を上げる。


その顔にも、絶望しか浮かんでいなかった。


「あの、この前来た時よりも雰囲気が暗いのですが、何かあったのですか?」


「ああ。旅の方か。お願いを聞いてくれるなら、お話しよう」

暗い声で返事をする男性。


「俺でやれる事なら、聞きますけど」


「ありがたい。王都に行って、セイの村が壊滅したと王様に伝えて欲しいのだよ。お願いできるかな?」


俺がうなずくと、男性はポツリ ポツリと話し始めた。

「全ては、儂らが悪いんじゃよ」


元々、セイの村はそんなに裕福な村ではなく、あまり収穫量も多くなかった。


しかし、砦の入口にある村として、大量の物資が往き来しており、その商人や兵士達の休憩場所として賑わいがあったらしい。

ところが、ある日から物資の往き来が全く無くなった。


しかも今年はいつにも増して、収穫が少なかった。

どうにもならなくなり、食べ物にも困るようになった村を救うために若者達は、盗賊をする事にした。


悲劇だったのは、何度か上手く行ってしまい、食べて行ける程度の収入も得られた事だった。

油断なのか、天罰なのか。

若者達が一ヶ月程度前から帰って来なくなり、その後、魔物に食べられた体の一部が見つかった。


食べ物は、誰かが置いて行ってくれていたので村人は飢え死にはしなくて済みそうだった。


そんな中。


「数日前か、魔物が30匹くらい来てな。食べ物と村人の大半を連れて行ってしまいおった。儂らは抵抗しなかったから、いや、抵抗できる者がおらんかったから逃げ出す事で何とか助かったが、ほとんどの村人が食べ物をとられるなど被害にあった」


この村は、終わりだ。

絶望の声でうつむく村長に、俺は何も声をかける事ができなかった。


村人がうつむいていたのは、流す涙が枯れたからなのだと気づいてしまったから。

そして、自分が殺した村人が、魔物に殺された事になっている事に安堵してしまった自分自身の醜さに。


この村を襲ったのは、砦から逃げ出した魔物の残りだったのかも知れない。

それは分からないが、あの大進攻の影響はあったのだろうと思う。


「儂らのために泣いてくれるなら、頼んだぞ」


村長は、うつむいたまま肩を震わせる。


俺は、お辞儀だけしてその場を離れたのだった。


「マスター?」 


複雑な顔をしていた俺に、控えめに声をかけて来るミュア。

俺はただ心配しなくてもいいとミュアに声をかけてあげる事しかできなかった。


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