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本当の相棒

「何であんなこと(キス)なんかしたんだ?」

ミュアが落ち着いたから、聞いてみたら、

「わかりません。けど、マスターが震えていたから、何かしたいと。マスターの辛さを奪いたいと思ったらしていました。あの私、怒られるのでしょうか?」

「大丈夫だ。というか、本当にありがとう」

俺はミュアの頭を撫でる。ミュアには、本当に助けられた。あのままだと、全滅していた可能性もあった。


「けど、どうされたのですか?今まで魔物退治ではこんな事はなかったと思うのですが」


ミュアがじっとこっちを見る。その目は、俺へ心配が出ていた。

だから、あきらめて、俺は昔の事をミュアに話す事にする。


小さい時の事を覚えていない事。パーティーを組んでいた冒険者を置いて逃げてしまった事。一緒にいた二人の仲間が深い傷を負った事。炎を見るとぞわぞわして、動けなくなる事。人間の死体を見ても動けなくなる事。


「ひぐっ、ひぐっ、本当に苦労したのだなっ。つらい日々だったのだなっ」


全てを話すと、ついでに聞いていたリンダがひどい顔で泣いていた。


ミュアはすっ と俺の頭を抱え、自分の胸に押し付ける。


「マスターも辛かったのですね。でもミュアはマスターがいてくれれば、それだけでいいのです。だから、辛かったらミュアにぶつけてください。私にマスターの痛みを全てください」


私は、いらない子だから。


そう聞こえた気がした。


俺は、何も言えずミュアの胸で涙を流すのだった。


―――――――――――――――


「で、なっ!私が助けてやった奴が、今は砦の総括をやっているんだっ!すごいだろう!」


いろいろあって、今日はあまり進めなかったが、夜営をしている最中も歩いている間もリンダがずっと話しかけてきていた。


ミュアはいつもと変わらないが、ぴったりくっつくと言うよりは、寄り添うと言った感じに変わっていた。

だが、前よりもミュアの気持ちが良く分かる気がする。

満たされていると言うか、そばに居れて幸せといった気持ち。

ふとミュアを見ると、上目遣いでこちらを見て来る。

うん。可愛い。

思わず、また頭を撫でる。


ご飯を空間収納から出し、今日は、レッドカウの肉を大量に入れる。

神戸牛並みに旨いこの肉なんだが、そろそろ賞味期限いっぱいだと思う。


異空間収納の中の賞味期限を知りたくて、入れっぱなしにしていた肉の串刺しは、一年で駄目になった。かなり痛みが速い物が一年保つ。

けど、肉類は早めにローテーションをかけるようにしていた。

ちなみに、魔力ビットは俺が指定した魔物を倒すと空間収納に勝手に入れてくれる。


今指定しているのは、レッドカウと、ビックラビット、一角猪だった。


一角猪はイノシシに角があるのだが、肉が、火を通すとびっくりするくらい柔らかくなり、味がついているかと思うくらい旨味が強い。

ただ、煮ると固くなりすぎるため、ステーキ専用だった。ちなみに、Dランク指定。パーティー推奨のちょっと危険な魔物である。


火の前に俺が座ると、いつもの通りミュアが俺の足に収まる。


あの告白の後、ミュアを抱えていると、焚き火の火を見てもぞわぞわしていなかった事に気がついた。


リンダは、肉を、大量にがっつくのに忙しくなり、会話がなくなる。


ミュアの頭を眺めながら、俺も食事にするのだった。  


―――――――――――――――――――


そんな事件があって数日後、やっとセイの村に着いた。

ここから砦までが気が遠くなるくらい遠い。


とりあえず、仕入れていける物がないか売り物を聞いたら、ほとんどなかった。

そう。村に食べ物や、物資があまりにもなかったのだ。


今年は、まれに見る不作で、その上いつもなら砦へ行くはずの商隊も来ず、今は子供ですら売り物にする家が出るくらい食べ物に困っているのだと言われた。


王都ではそんな話しは一切聞かなかった。

男たちは、王都に村の現状を伝えに行っているらしく、残っている男の数は圧倒的に少ない。


確かに、最近魔物の大進攻や、ワイバーン事件で商人の数は減っているが、王都周辺の村を見捨てるほどでは無いはずなのだが。


そんな事を思っていると、小さい女の子が俺のローブの裾を引っ張っていた。


「お兄ちゃんっ!お父さん見なかった?お父さんね、王都に行ってね、もう帰って来る頃なのっ!」


元気に叫ぶ女の子。

「見て無いけど、みんなで一緒に行ったのかい?」


リンダが女の子に声をかけると、一生懸命返事をする女の子。


「えっとね、タイ君のお父さんと、アラちゃんのお兄ちゃんとか、一杯行ったのっ!お父さんね、これ持ってるんだっ!ハミとお揃いなのっ!」


女の子が持っているのは、首にかけるタイプのロケット。

この世界は、写真は無いけど奮発すれば、魔法記録として静止画が保存できる。

 ロケットは普通に流通している魔法媒体なのだが。

そのロケットは、なんか見たことがある。


「おや、それは私達におそい、、、」

リンダが発した言葉で、俺は思いだし、すぐにリンダの口をふさぐ。


「思いだしたよ。ちょっと用事があるから、少し遅くなるって、馬車の周りで言っていたよ」


俺は、とっさに嘘をつき。何か言いたげなリンダを引きずってその場を、いや、村を離れた。

「じゃあ、お兄さん達は忙しいから行くね」


そう言い残して。


――――――――――

「残酷な嘘をつかなくても良いだろうに」


再び野宿となり、ミュアと火を眺めていた時に、リンダが話しかけて来る。


「じゃあ、何か?お前の父親は野党になっていたから、俺たちが返り討ちにして殺したと言うかつもりか?」


「それが真実なら、それを伝えるべきだ」


リンダが語尾を強く反論する。


「だがな。きちんと馬車はあった。馬車の中にも、ぐちゃぐちゃなった荷物があった。もし、あれが、村を救うためにかき集めた荷物だったら」


俺は火をつつきながら、呟くように言う。


「そんなのは関係無いっ!人を襲って物を盗るなど、絶対に許せん行為だっ!」


力一杯怒るリンダに俺は羨ましさすら感じる。


長年の経験と記憶から、本当に飢えたらどうなるのか、そして守るべき物がある者の覚悟がどんな物なのか、分かってしまう。


ミュアを空いている手で引き寄せながら、俺はうっすらと笑う。

「リンダは、綺麗だな」

「な、何を突然言うのだっ!もういいっ!シュンは分からんっ!」


リンダは、少し顔を赤らめながら、横になる。


しばらくして、心地良いいびきが聞こえはじめた。

ミュアを抱き寄せながら、火をつついていると、突然ミュアに頭を抱き抱えられる。


「マスター、仕方ないのです。私たちも素直に殺されるわけにはいかないのですから。だから、自分を責めないでください。泣かないでください」


ミュアの小さい体に包まれながら、自分が泣いている事に気がついた。火の形すらわからない程に。


俺は、あの子に何をしてあげられるのだろうか。

ミュアの体に寄りかかりながら、俺は嗚咽を漏らす。


ゆっくりとミュアは俺の頭を撫でる。


何が原因だったのかは分からない。

しかし、荷物が駄目になり、村に帰っても地獄が待っているだけなら、野党となってでも食べ物を持って帰ると覚悟を決めたのだろう。


誰が悪いか、それは誰にも分からない。

けど、俺はミュアの小さい体に埋もれるように、泣き続けたのだった。


次の日、セイの村の隅に、一年は過ごせそうな塩と、大量の魔物の死体、水の入った樽が置かれている事に村の一人が気がついた。

彼は、その場にうずくまり、神に感謝をし続けたのだった。





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